魔法科高校のアンチテーゼさん   作:あすとらの

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3話目にして主人公勢登場。そしてオリキャラも登場。


小さな世界

翌日。渡辺摩利の気分はあまりよろしいとは言えない。書類仕事は既に学校生活の中で慣れたものだが、頭の中に不安の種となっているのは昨日の件だ。

 

流石に軽率過ぎたと、彼女は後悔した。人は失敗から学ぶ。彼女も今まさにそうしているところだ。当然、好奇心だけで模擬戦をやろうなどと提案したわけではない。簡単に言えば真由美のお手伝いだ。原理は分からないが、意図的にCADを破壊してみせた。しかもそれをやった彼は相手が上級生だろうが三巨頭だろうが十師族だろうが物怖じしない神経の持ち主。どうやら彼は真由美と旧知の仲らしいが、七草家、となるとそれは単に旧友と片付けれないような関係なのだろう。首輪を付けることが出来れば、反魔法戦力となる彼の行動にも制限を———

 

———いや待て、何故学校は彼の入学を許可した?

 

昨日のリピートではあるが、改めて思うのは魔法師の脅威が魔法科高校に在籍しているという矛盾だ。生徒達への啓発、とするにはあまりにもやり方がおざなりかつ危険だ。あの時は咄嗟の判断でCADを手放したから事なきを得たものの、もしそうでなければ指が吹き飛んでいたところだ。彼はあまりにも殺意が高過ぎる。

 

初めて会うタイプ。というより、あまりに複雑怪奇過ぎてどう接すればいいのか分からない。初対面にはまず当たり障りのない挨拶からとされているが、あれを見せられたあとでは挨拶の仕方さえ詰まってしまいそうだ。

 

「多重人格………?」

 

思わず声に出る。中々的を得た閃きなのではないか、と思うからこそだ。摩利が見たのは、彼の3つの側面。様々な方言をごちゃ混ぜにして使う陽気な面、一昔前の不良のような、口汚く礼節に欠けた面、そして支離滅裂なワードサラダをひたすら呪詛のように吐き出し続ける面。

 

端末に乖離性同一性障害を打ち込んで検索をする。文献も出典も様々だが、ほとんどの資料に見られる特徴は幼少期に強い精神的ストレスを受けているというものだった。やはりというか、入学前に提示される個人データの特記事項に一致する。

 

これの開示が認められるのも、何とも度し難いものだ。しかしこれも今更というか、何というか。摩利にとっては興が乗ったの一言に尽きるが、果たしてどこの誰のどんな力で漕ぎ着けたのか分かったものではないが、ありがたいとは思った。そして情報を余すことなく見尽くしたあとで、達成感は出なかったようだ。

普通過ぎる。あまりにも普通過ぎる。普通に中学に入って、普通に魔法塾に通って、普通に受験して、受かって、そして今日に至る。彼の異常性をまた真っ向から否定する材料が増えただけで、乖離が甚だしくなっただけだった。

 

「姐さん!姐さん!」

「その呼び方はやめろと………」

「それどころじゃない!すぐに来てください!」

 

声をかけられた摩利は端末を置いて応える。いつもはふざけ合いの意味も込めて姐さんと呼ぶ後輩が、まくし立てるようにして言葉を発する。それだけで尋常でないと察した摩利はすぐに椅子が倒れそうな勢いで立ち上がり急いだ。

 

「風紀委員だ!道を開けてくれ!」

 

野次馬の加減で、現場はすぐに判明した。1-Aの教室前の廊下。主に一科生の新入生が壁を作るようにして事態を見ているようだ。どうやってこの人の壁を撤去するかと思考を巡らせていると、ドアを乱暴に開閉する音や何か硬いものを殴打する音、人々の呻く声や叫ぶ声など何やら穏やかでない音が聞こえる。

 

「風紀委員だ!通してくれ!」

 

摩利の顔は広く知られているので、引き波のように人の壁が瓦解していくのにそう時間はかからなかった。

 

「これは………」

 

また一科生と二科生の間で一悶着あったのかと、少々スパンが短すぎやしないかと若干うんざりしながら駆け付けると、そこには彼女の知る前例にあまりない光景が広がっていた。4人ほどが廊下に芋虫のように転がっていて、頰に打撲痕がくっきりと浮かんでいる。肩章を見ると、一科生であることが分かる。

 

「辰巳は応援の要請と怪我人の救護を。私が教室に行く」

「了解。お気を付けて」

 

前例はほぼないとはいえゼロではない。そして彼女は風紀委員の長として指揮を執る。これの張本人は一科生4人を相手取って無力化する実力者だ。噂をすれば影が差すとは言うものの、どうか今回は先人の教えが誤りであることを願うばかりだ。自分の中で合図のようなものを決め、タイミングを合わせて教室の中に突入する。

 

「風紀委員だ!そこから動かないように!」

 

1-Aの教室は死屍累々………正確には死んでいないのだが、とにかく失神している生徒が床に転がっている。その全てには出血や打撲の痕跡が見られる。呻き声が聞こえなかったのは、そもそも意識が無かったからのようだ。

 

「これは………君、何があった?」

「その………二科生の方が訪ねてきて、私に用があると。そうしたらその、周囲の方々が少し穏やかでなくなり………」

「新入生総代の生徒だね?」

「はい。あ、改めまして、司波深雪と申します」

 

とにかく疑惑を確定させなければならないと、聞き込みを開始した。そして一人目に声をかけた彼女を摩利はよく覚えている。才媛というだけでなく、女性である摩利から見ても美しいと、何やら変な趣味に目覚めかけたその麗しい容貌で、初日で学校のアイドルになった生徒だ。彼もファンの1人だと思ったが、しかし、少しばかり違うようだ。

 

「どんな用事かな?」

「分かりません。その、用事があると聞いたあとにすぐだったので………」

「そうか………」

「申し訳ありません」

「いや、いいさ。その二科生は名乗っていたかな?」

「はい。楡井さん、という方です」

「ああ………そうか」

 

現実は非情である。彼女は存外冷静で、受け答えもはっきりしていて記憶も定着している。混乱の誤答というのはあまり期待出来そうにない。これもまた仕事と割り切りたいが、魔法科高校で魔法に関連しない喧嘩騒動を取り締まるというのも中々ない。

 

「そうだな、とりあえず私がその楡井君に話を聞こう」

「私も行きます。元々彼は私に用向きがあったそうなので」

「………危険な男だ。少なくとも今の彼は。仕掛けは分からないが魔法を行使しようとしたCADが無力化された。彼に魔法を行使するのもあまり推奨出来ない」

「会話は出来ます」

「そうなのか?」

「ええ。その、元々は口論だったのですが、その、彼らから楡井君のご家族を侮辱するような発言がありまして。それで爆発してしまわれたようで」

「そうだったか………」

 

少々やり過ぎ、というのも引っ込んだ。机や壁に人の体を激しく何度も打ち付けた痕跡があったので相当な怒りを爆発させたのだろうが、家族への侮辱は一科生二科生という差別の黙認とはまた別の話。相当暴れ回ったようだが、魔法師に対して物怖じせず、10倍近い人数差を盛り返した彼の危険度が増したと言うべきか、真に家族愛の強い心優しい人物と言うべきか。

 

「そうだ、彼は怒る前はどんな様子だった?」

「ほんの一瞬でしたが………普通、でした。礼儀正しい方でしたよ」

「そうか………」

 

分からない。まったく分からない。主に感情が分からない。ただの激情なのか、それともそういう人格なのか。似たような面をすでに覗かせているせいで、どうしても判断材料に欠ける。

 

(こんな悩み方をしたのは初めてだ………!)

 

まさか出会い頭に戦闘開始とはならない筈だが、感情を根拠にすることがまったくアテにならないことを昨日学んだばかりだ。

 

「とにかく、他の委員にも連絡して探そう。彼が戦意を失っていないとすると———」

「やっほー」

「ゔぇあっ!?」

 

無闇に近付くのは危険、と言った瞬間に背後から声が聞こえる。摩利は耳を押さえて後ずさり、深雪も突然の出来事に反射的に身震いする。

 

「摩利ちゃんぬ。それから司波さんも。どったの?」

「ハァ………君がしでかしたことへの対処だよ」

 

すぐ背後に立っていたのはやはりというか修平で、摩利も思い出したものだ。犯人は現場に戻ってくる。それは人間の潜在的な不安がそうさせるらしいが、彼の場合は違う気がする。笑っているのだから。この面は少しだけ出た。初めて邂逅した時、その中で、敵を知る、という意味の発言をした時だ。

 

「おやまぁ。そうだ、司波さん、ゴメンね。色々台無しにしちゃって」

「いえ。ご家族のことをあんな風に言われたら、私も怒ると思います」

「優しいこと」

「………楡井君、君のやったことは決して褒められたものではないが、事情を鑑みれば一科生にも一定の責任がある。放課後、生徒会室に来るように」

「あい、違うことなくしっかりと」

「こちらからは以上だ。司波との用事を済ませてくれ」

「あんがとあんがと」

 

長く一緒にいるのは危険かもしれない。しかし今の彼は無差別に襲うほど本能に支配されていない。今は敵がどう、という会話をした自分は離れるべきと判断し、この場を司波深雪に任せることとした。

 

「それで、その、楡井さん?私にどのようなご用向きで?」

「ああ、早速それ入っちゃう?別にいいけど、それよりあんた自覚あるんだね」

「………何の、です?」

「自分が人気者だってこと」

「それは………」

「別にそんなの後ろめたいことじゃない。いややっぱこの話はやめよう。用事ってのはさ、ズバリ———」

「深雪」

「ヴァイ!今日はセリフカットデーじゃないの」

 

最初にカットしたのは自分自身である、というのは棚に上げて。言うが早いか声の主は深雪に駆け寄ると、2人だけの世界に入っていくまではそう時間がかからなかった。

 

「大丈夫か?すぐに行ってやれなくてすまなかったな」

「いえ。お兄様にもご自身の事情があるのですから」

「いや、そういうわけにもいかない。怪我はないか?」

「はい。私は何ともありません」

「よかった。心配したぞ」

「そんな………私が負傷しても一分一厘たりともお兄様のせいではございません」

 

場所を選ばないというか、ここで会話を展開してしまった修平も言えたことではないのだが、もう少しこの事件現場にふさわしい会話ってもんがある。好奇の目は先ほどの悶着で十分刺さったので、あとは仲睦まじい2人に任せようと、良さげな雰囲気を出している2人に背を向ける。

 

「なあ」

「………何ぞ?」

 

しかし、それは許されそうにない。彼女がお兄様と敬愛する男子生徒の声で、多くを語らないものの止まれと言っているのは明らかだった。溜息を吐いて不幸を呪うと、彼の方に向き直る。鋭い目付きが特徴的な男子生徒で、傍目からすればそれだけで一触即発のように感じてしまう。

 

「深雪に用事があるんだよな?」

「今なくなった。だから逢瀬を楽しんでくんな」

「乗り込んでか?」

「あんた、話を聞いて物を言いなよ。さっき保健室に運ばれてった人でなしどもの頬骨を折ったことなら俺に非はない。それとも可愛い妹と会話したら誰彼構わず悪い虫かい?お兄様」

「これは問題行動だぞ」

「それは妹のクラスだからっていう贔屓目が入ってるな。教室に入ってから言葉を口にするまで、彼女から視線を外さなかった」

「お前………」

「何だよ、ここの生徒は人の家族をコケにするだけじゃ飽き足らないのか」

 

膠着状態になる。それは当然、修平が意図して自分に関する情報を曖昧にしているからでもあるのだが、お互いが表面上だけを捉えようとしかしないという点にも原因がある。結局、言葉以外に見るべきところがないのだから当然といえば当然なのだが、それもあってどちらに傾くともならない。

 

「そんなに心配なら温室栽培でもしてくんな」

「………もう一度聞くが用事はなんだ?」

「そんなものない」

 

そして膠着を無駄と判断して、吐き捨てるようにして、彼は去っていった。元々用事があったのは司波深雪の方で、それが失われたとなればここにいる理由はない。結局修平からしてみれば、単に馬鹿にされるだけされてそれに対して名誉による防衛によってエネルギーを消費しただけのこと。釣り合いが取れないというのも苛立ちを募らせるひとつの原因である。

 

「あいあい、2人の逢引に水を差して悪うござんした。妹さんに引っ付く悪い虫でさーせんしたねー」

 

彼は笑った。その表情にどういう意味があるのか、誰も知らない。

 

◆◆◆

 

昼休みのこと。生徒会室に向かう足取りは重い。しかし、向かうのは修平ではない。

 

「わ、私もなんですね………」

「ごめんなさいね、付き合わせて」

「構わないけど………そんなに力にはなれないかも」

「あの言葉で楡井君がお兄様のことを誤解したら一大事、なんてワガママに付き合ってもらってるんだもの」

「ううん………私も、あの場にいたけど何も出来なかったら、ああいう風に仲悪くなっちゃうのはやだなって」

 

1人は司波深雪。もう1人は、あの場にいた一科生の光井ほのか。目的は違うのだが、とにかくあの一悶着と逆の展開で、彼女達の方が修平に用事が出来た。しかしながらあまりにも手がかりが少な過ぎるので、放課後に来いと言っていた生徒会室に行くことになったというか、行くしかなかったというか、それ以外に探しようがないというか。

 

「………いるのかなあ、怖いなあ。すっごい怒ってたし、なんか達也君とも喧嘩別れっぽくなっちゃってたし」

「だからこそ誤解を解かなければ」

 

ほのかの方は見た目の通り小動物のようで、しかも騒動を始終に至るまでしっかりと目と頭に焼き付けた。そのせいで恐怖心を植え付けられ、『自分には何か出来る筈だ』といって勇み足で部屋の前まで来たはいいものの、いざ現場を前にするとあの光景がフラッシュバックしてすっかり縮こまってしまっている。方や放課後まで待つ、という手は深雪にはなかったらしく、名誉挽回汚名返上のチャンスに気合十分のようだ。しかしその気合が果たして空回りしないかどうか、ほのかは渦中の男楡井修平と対面する前に冷や冷やものだ。

 

「すみません。1年A組の司波と光井です。先ほどの件でお話がしたく」

「はーい、ちょっと待ってね」

 

心なしかノックの音も大きいような気もする。それに反応したのは生徒会長の真由美で、昼休みもまだまだ余裕があるせいか生徒会室に腰を落ち着けている。

 

「あ………ここにいらっしゃったんですね、楡井君」

「いらっしゃい。司波さんと、光井さんね。摩利から話は聞いたわ。何だか今年は荒れそうね」

「いえ、彼が怒るのも尤もだと思います」

「私も、見てることしか出来ませんでしたし………」

「うーん、それについて話をしてほしいけど、残念ながら本人は5分前からこの状況で」

 

彼は、パイプ椅子に深く座って、硬そうなテーブルに突っ伏して眠っていた。悪い意味で、まず目に入ったのが彼だった。なので2人も反応に困るし、どことなく真由美も歯切れが悪そうだ。すやすやと安らかな寝息を立てる彼は、つい先ほど同級生相手に暴れ回ったとは思えないほどに年相応だ。決して整っていないわけでない顔のせいで、何故か起こすことがはばかられるような、理不尽な罪悪感にも襲われる。そして、眠っている彼と同じくらい2人の目を引いたのは、彼が枕の代わりにしているものだ。

 

「クマのぬいぐるみ………?」

「可愛い………」

 

70cmほどの大きさの子熊で、それに頭を預けて眠っていた。先程まで悪鬼羅刹の如き暴れっぷりで大立ち回りを演じていた彼と同一人物とは思えない、案外可愛らしい趣味もあるものだと意外性に驚いていると、そんな2人に向かって真由美が言う。

 

「その子、生きてるわよ」

「………へっ?」

「生きてる?」

 

そしてまるでタイミングを見計らったように子熊が閉じていた目を開く。

 

「ブブ」

 

思わず悲鳴をあげそうになったのを、2人は抑えた。まだ未成熟な牙を見せてあくびをすると、二度寝をしようとまた目を閉じる。

 

「……………」

「……………」

 

開いた口は塞がったが、それでも唖然とするばかりで、10秒かそこら、訝しげに凝視して固まったままだった。一気に言いたいことが押し寄せたわけだが、しかし、理性的になった2人はまず最優先すべきを言うことにした。先に口を開いたのはほのかの方だった。

 

「ここって動物オッケーでしたっけ?」

「これは特例かしらね」

 

そうでなければ学校の生徒会室に子供の熊がいるわけないのだが。

 

「フゴー」

 

しかし視線に気付いたのか、再度目を開けた熊は息を荒らげる。警戒しているというより、観察していると言った方が正しい。動物的な直感をはたらかせているのか、大きな双眸で交互に見る。

 

「餌付けは出来ないわよ」

「え?」

「その子、全然他人に懐かないから。最近私もやっと触らせてくれるようになってね」

「警戒心が強いタイプなのかしら」

「意外………司波さんってこういうの苦手かと思った」

「可愛いじゃない」

「ブブブブブ」

 

ただし、まだ指が惜しいので手を差し出すような真似はしないが。可愛いと侮るなかれ、未発達とはいえ動物の牙と咬合力が合わされば、人間の指など小枝のように断ち切られてしまう。人間の頭など、決して軽いものではないが、それを体に乗せ続けてもまったく疲労を見せない。

 

「フゴォォォォ」

「ヴォイテク………ちょっち静かにしてくんな………」

「ブブ」

「お静かに!!」

「楡井君、お客さんよ」

「寝てたんだけど………」

 

彼は寝ぼけ眼をこする。熟睡していたようで、少しばかり瞼が腫れている。寝てたんだから黙って回れ右をしろよ、とばかりに非難の目を浴びせるが、客人が関係者と知るといくらか目付きや姿勢はマシになる。それでも露骨に不機嫌ではあるが。寝起きが悪いようだ。

 

「いいからお話して。で、ヴォイテクちゃんはこっち」

「ブブブブブ」

 

ヴォイテク、と呼ばれた子熊は真由美に抱き上げられる。鳴き声が大きくなった様子で、彼に枕にされていた時のような落ち着きがない。あまり他人に懐かない、というのは正しいようで、もがくような仕草を見せている。

 

「司波さん。あと野次馬………じゃない、1-Aの生徒さんか。どったの?俺に用事?」

「というより、貴方の用事が気になって」

「私は付き添いです」

「用事ね………ま、都合はいいけど」

「………?」

 

口ごもる彼を見て、存外彼は頑固なのかもしれないと思った。しかし彼はちらりと真由美の方を見ると、ばつが悪そうに顔をしかめる。

 

「こいつがいる前じゃなあ」

「うふふ、出て行ってあげないわよ」

「ちょっとは下級生に配慮しろや、生徒会長」

「貴方は別よ。しゅーへい君♪」

「うっせ。ヴォイテクのエサにされてろ」

「やだ、この子は優しいからそんなことしません」

「チッ………いい、話すけど」

 

彼の言葉にあるのは諦観と、それによる嘆きが含まれているようだった。最初からそこで張り合う気がなかった様子の修平は、テーブルに頬杖をつくという態度の悪さがありながらも、真っ直ぐ深雪の目を見て言った。

 

「友達をつくりたくって」

「ふふっ」

「へ?」

「お友達………ですか?」

「ああ。あと笑いやがったの聞こえてるからなこの魔法ボット女」

 

耐えられずに吹き出したのが真由美、素っ頓狂な声をあげたのがほのか、思わず聞き返してしまったのが深雪である。予想の斜め上をいった衝撃を、いくらか間の抜けた声で表したのが深雪とほのかで、同じように予想をしていなかったものの、彼らしさを感じて思わず笑ってしまったのが真由美。その反応をある程度予想していたようで、修平は羞恥で顔を歪ませた。

 

「俺はちょいと厄介な病気にかかっててね、友達の作り方も工夫せにゃならん。人気者のあんたに近寄ってくる奴らを観察して、で、選ぼうと思ったんだけど。どうやらそれも無理そうだ」

 

病気、という言葉を使われると、2人もそこを掘り下げる気にならない。やり方は深雪を隠れ蓑にするようなものではあるが、それが彼の言う工夫なのなら、実害が及ぶものでもなし、寧ろ友人が出来るというのなら利点もある。しかしあまりいいやり方でない自覚はあるようで、それも口ごもる原因なのかもしれない。

 

「ま、分からんでもないよ。司波さん美人だし、あの兄様がご執心なのも」

「その、あれは誤解なんです」

「いや別に、あれについては何とも思ってないけど」

「………そうなんですか?」

「うん。彼は知らなかっただけだ。しかも俺に事情を尋ねなかった。多分司波さんのことになると周りが見えなくなるタイプだ。俺から話を聞くために呼び止めたのは、どさくさに紛れて司波さんとの関係性を聞くためだ。じゃなきゃ、開口一番用事は何だ?なんて言わない。普通あそこの状況確認から始めるだろうさ」

 

閉口する。存外観察していた、というより観察されていた。畳み掛けるのはさっさと出て行けよという意思表示なのか、関係改善を望んでいるのか。修平の顔がしかめっ面から動かないせいでそこを2人は測りかねている。ほのかはまだ先入観が拭えていないようで、困惑したように目を泳がせる。

 

「てなわけで、シスコンお兄ちゃんの心配性だって割り切ってるよ」

「そうですか………」

「でさ、話めっちゃ変わるんだけどさ光井さん」

「私ですか?」

 

突然話題の標的にされたほのかは、声を上ずった声をあげた。思わず口から出た言葉のあとに『今はあまり持ってない』と言いそうになってしまったが押しとどまった。

 

「友達になってくんない?」

「え?」

 

素っ頓狂な声をあげること二度。朗らかに笑う修平と対照的に、ほのかはどこまでも驚嘆した。




オリキャラその1、子熊のヴォイテク。元ネタは知ってる人なら知ってる第二次大戦のあいつ。

そして………あれ………達也………あれ?
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