入学3日目。昨日は結局簡単な事情聴取だけで終わった。元々無理筋を無謀に通そうとした一科性の過失が大きいとしながらも、火に油を注ぐべきではなかったとして、二科生有利な両成敗、という形で決着した。傍目からすれば一科生と二科生の対立だったというだけに、深雪、ほのか、雫は居心地が悪いようでよそよそしかったのを思い出す。
そして3日目は、真由美から罰として授業へ出ることを命じられた日でもある。この際色々使って擬死でもしてやろうかと思った次第ではあるが、諦めることとした。理由は単純、これは捉えようによっては罰ではないからである。
彼女がそういった意図があるのかどうかは彼も掴みかねているところだが、実際これは情報を得るまたとないチャンスだ。主に彼のモチベーションを考えれば、このような機会は2度と訪れないと言ってもいい。意気揚々、とまではいかずとも、極端に沈むことなく教室まで歩みを進める。
「やっほー」
「修平………授業初日に休むなんて何事かと思ったぞ」
「それ言うの、1日ほど遅いよ達也ぁ」
茶化すようにして達也に言う。授業が有意義か無意味かはさておくとして、友達作りは有意義になる。教室には小競り合いの面々、レオとエリカと美月が固まって話をしていた。
「おっと、VIPのご登場だ」
「何だ、君らの間じゃ1ジョーク挟むルールでもあるのか?」
「あの熊ちゃんは一緒じゃないんだ」
「ヴォイテクは特例。教室ん中は駄目なんだよ」
「何で?噛みちぎるから?」
「か、噛みちぎる………?」
「当たらずとも、遠からず」
「怖っ………」
朝っぱらから何とも物騒な会話を繰り広げるのもルールというわけではない。彼は一科生や達也とのゴタゴタの時はいつも白色のカッターシャツを身につけていたが、今は白を基調とした長い丈の制服に身を包んでいる。
「制服の着心地はどうですか?」
「これ、作ってる奴はカッコいいと思って作ってんのかな?」
「あ、あはは………」
翻る丈のせいで絶妙に動きにくい上、余った布の部分が干渉して腕時計に手を伸ばすのに1秒以内の誤差が生じる。機能美という言葉があるが、今回その言葉は残念ながら適用されないようだ。この調子だと、投げ出すのも時間の問題かとばかりに、忙しなく細かく手足を動かしている。鞣す方法によっては着た感じが硬くなるらしいが、それ以前の着心地の問題である。勿論、肩の寂しい肩章も一緒に。
「でもよ、授業に出ないのも事情があんだろ?」
「別にどうってことない。今日限りだからな」
「それはそれで………何でだよ」
結局、今日が終わればそれっきり。騒動を人づてに聞いていても罰のことを知らないレオやエリカや美月には何ともおかしな話だ。しかし、罰の話をそれとなく聞いた達也が納得出来るかと言われればそれもまた違う。達也は穏便に事を済ませるため、そして能動的にあの騒動を仕掛けていない修平を案じて非を詫びたが、生徒会長は違う。生徒会長として暴力を仕掛けた者だけでなくそれに返した者も平等に罰するべきなわけで、実際そうなったが、事情を知らない者からすればあまりにも罰が軽い。明らかに両成敗とはなっていない。
「どこぞのちみっちゃいのがいなけりゃ、今頃家族と団欒してたんだがね」
それを知ってのことか、あるいは本当にそれを憂えているのか、修平は話の展開を変えようとする。気になるが、ここは口を噤むべきと判断した達也はそれに乗っかることにした。
「ヴォイテクのことか?」
「あとは犬と猫がいる」
「随分多いな………動物が好きなのか?」
「ま、好きだよ。俺は動物も家族に数えるタイプの人間だしね」
「そういうの、素敵だと思います」
「あんた結構ロマンチスト?」
「いやいや、違うよ馬鹿。ただそういう趣向ってだけだよ」
腕時計をしきりに気にするように話して笑う。
「そろそろ始業だ」
「ゲッ、もう?」
「転校生に群がるアレだな。どこの学校でもある」
授業は勝手に始まるらしい。これも一科生の優遇措置なのだが、魔法師が不足している。つまり魔法を教える教師も不足している。即戦力を即戦力のまま保っておくためには教師が不可欠だ。最早ここまで来ると、二科生の存在さえカメレオンしている気がしないでもないが、これもそういう制度と言われてしまえばそれまで。しかし利点もある。自由であること。
「じゃ、頑張ってくんな」
「いやいや………お前はよ?」
「いい質問だドイツの」
「誰がだ」
「俺はこういうことしたくてこの高校に来たんじゃない。逆に俺の手の内を明かさないで魔法を見るってのが目標だ。教師の見張りもないんだぜ?」
「不良だなお前」
「策士気取りと呼びなされ」
「気取りってお前………」
始業のベルにブザービードなど存在しない。レオは渋々授業の輪の中に入っていった。
授業風景は、やはり一科生のものと比べるといくらか見劣りすると言わざるを得ない。元々そうやって分けられたから仕方のないことではあるが。普通の魔法の行使は遅く、実戦向きとは言い難い。修平があまり言えた話ではないが。
「どうよ!」
「お前、こういうの苦手だろ。多分初動は防御に寄った受動的なものだ、どうだ?」
「すげえ!めっちゃ当たってる!」
「あの魔法であの速度だったら、硬化でそうするしかねーべ。お前みたいなガチムチが出来るったらな」
「ちょっとレオ!サボんな!」
「サボってねーよ。悪いな修平、観察、頑張れよ」
「嫌味じゃんか」
レオは人懐こいというか、コミュ力が高いというか。義理立てする性格らしい。修平があまり見ないタイプで、少し難易度が高い。そして彼も、本人がそう言ったように、目的は魔法師への登竜門こと魔法科高校のレベルを知るためである。
結果から言えば、収穫はそれほど多くない。そもそも期待していなかったというのもあるが、評価されるべき事項が限定的過ぎる。実技が重要視されるというのは間違いではなかったが、つまりそれは学校の設備という力を遺憾なく発揮すれば、という話に留まる。修平から見て、昨日尋常ならざる体捌きで瞬く間に一人無力化したレオやエリカは、その辺の量産型一科生より実戦での力は格段に上、学校の評価では計れない力があるというのも正しいようだ。
そして時は過ぎた。修平が授業風景に興味を削がれていると、案外早く終業となった。
「お前、本当に堂々とサボったな………」
「高みの見物決め込むのは中々愉快だったぜ」
「性格悪いわよアンタ」
「そりゃ是正せにゃな。皆さんこれからどうすんよ?」
「昼休みなので、お昼ご飯でしょうか」
「修平、お前はどうする?」
「迷惑じゃなけりゃご一緒するよ」
「迷惑なんて思わないさ。行こうか」
「あいよ」
何とも友達らしいことか。8人という大所帯だが、不思議と苦にはならなかった。それは昨日の一科生との騒動が心に強く残ったからだろう。元々無差別に魔法師を敵視しない彼と、選民的でない魔法師である皆とは意気投合するまでにそう時間はかからないだろう。その胸懐のほどまで共有出来るとは言わないが、友人というのに要素が存在する。そして彼らはその要素を満たしている。そしてこれから友人水入らず………
「あらぁ、偶然ね、修平君、達也君」
「会長。どうしたんです?」
………とはならなかった。達也はビジネススマイルを貼り付けて対応し、修平は露骨に顔を歪めて不機嫌さを前面に押し出す。他の面々は突然のビッグネームのご登場に狼狽を隠せていないようだ。
「あにしにきたっだ、トランスチビ」
「もう、そんな邪険にしないで頂戴な。今回は達也君も一緒に来てくれないかしら」
「いやお前偶然装えてねーじゃんか」
「行くの!?行かないの!?」
正当性をまず差し置くとして、屁理屈で足を掬われるかもという憂いは修平と対峙する時に常につきまとう。だからこそ、シンプルな力業ではあるがこうするのが有効だったりする。
「いや行くわ。これ以上新入生を餌食にさせないぞこの野郎」
それに対して修平も、あえてそれを受けることにした。いつものようにちょっとした言い合いを楽しまず、その有効な力業に頼るということは切羽詰まっているということだ。修平と真由美の関係は、ただ犬猿の仲とするにはやや複雑なもので、どれが是でどれが非かというのもまた複雑である。
「………何か誤解を招く言い方があったけど、皆さんも、ちょっとこの2人を借りていいかしら」
「え、ええ、全然………行こうぜ」
「じゃ、楽しんで………」
「お話、聞かせてくださいね」
見放された気分だ。暗澹たる思いで、彼は歩いた。
◆◆◆
「お肉とお魚とお精進、どれがいいですか?」
生徒会室は嫌いだ。作り笑いを貼り付けた役員が睨みを利かせているし、そのほとんどは彼にとって重大な障害だし、今も暗に『昼飯が終わるまでここから出さない』と言われてしまった。
「俺肉にしようかなー」
「自分は精進で」
「では私も、同じものを」
「修験者みてーだね………」
遠回しに苦言を呈するが、結局変わることは無かった。途中で深雪も合流し、新入生3人は生徒会室の席に着いた。
居心地の悪さの原因の一端は、ホスト席に座った真由美の隣、風紀委員長たる摩利の視線だ。最早隠す気が一切無くなったようで、穴が開くほど修平を見る。
(視線が痛い………)
これが慕情やそれに似た何かだったらもっと形容のやりようがあったのかもしれないが、そうではない。懐疑と、好奇心がそれぞれ半分ずつ。明らかに何かを探ろうとしている。ここで声をかけてやめさせることは容易だが、あえて彼はそれを無視した。あえて彼女だけに注意しないことで、似たような動きがないか全体の動きを掴むためだ。そして観察したところ、そのような動きは真由美以外に見られない。中条あずさが配膳し終え、新入生3人も食事を運び、
「ん〜、セルフサービス」
と、軽く皮肉を飛ばしたところで奇妙過ぎる会食が始まった。生徒会役員全員と風紀委員長が一堂に会するというのは中々威圧感溢れるが、唯一中条あずさは例外だ。
「クソ不味い」
「おい、修平………」
そして修平は最初から穏やかでいくらか静謐な場の空気を一言でぶち壊す。ハンバーグを掬って食べると、顔に出して不満を露わにする。
「いや俺だってレトルトに期待なんざしちゃいないよ?だけどさ、レトルトって人が食べるもんだべ?」
「お前、強心臓だな」
「ちょいと事情があってね。添加物は受け付けないんだ。心配しなさんな。俺は食べ物を粗末にしないタイプの人類だ」
「そうか………」
これだけで、主に修平と鈴音の間の亀裂が音を立てて更に深まった。あずさがそれを察知して表情に出しておろおろと狼狽え始め、真由美が何度かも分からないデジャヴに頭を抱え、司波兄妹が良からぬ空気を感じ取って視線を動かし始める頃も、摩利はひたすらに彼を分析した。
昨日から気になっていたが、彼は恐らく派閥によって人を分別しているようだ。友人である同級生、忌み嫌う生徒会役員とそれに近い上級生、愛すべき家族。多重人格という推論が正しければ、対人関係によって自在に人格を使い分けているとも推測出来る。フランクで、遊び慣れた青年のような人格と、こちらに噛み付きまくる不良のような人格。言葉を聞くに、それらが混ざっている。
(私達と司波が同じ場にいるとこうなるのか………?)
奇妙だが、原因はそうとしか考えられない。となると、彼は存外不器用なのかもしれない。本音を隠すというのは社会を歩く上で基礎かつ真髄だが、彼はあまりそれを出来ていないようだ。
「こんなんならHARも買わなくて正解だった。やっぱ自動化なんてするもんじゃないわな」
「HARが無い?それはまた珍しいな」
「便利を得るってことは、金を捨てるってことなんだな」
「深いですね」
「別に。お金がもったいないってだけだよ」
ホームオートメーションロボット。略してHAR。意味はそのまま、家の自動化を行うロボットの総称。前時代は丸いお掃除ロボットがどうこう、というだけのレベルだったのだが、今やその技術は家全体のスマート化にまで発展している。スマートキッチンに料理を任せ、スマートキーにセキュリティを任せる。便利というよりこれが一種の普通になりつつあるほど普及しているが、修平の家にはそれが無い。
「HARは一個のシステムで家中のロボットを制御してる。メインサーバーにハッキングされた瞬間、ダンボールハウスの百倍酷い家の出来上がりだねってことだ」
「そうなのか?」
「達也もコーディングの解析すれば分かる。マジであれ、どっかしらにワーム仕込んだら2分経たないでメインが死ぬから。全部落ちるから」
「お前まさか………」
「いやいや、あれは若気の至りって奴だよ。知識欲に勝てなかったんだ。俺は悪くない。なあ会長」
「えっ」
相変わらず手法がいやらしい。達也が何か良からぬ気配を察してそれを問おうとしていたところだが、彼のなすり付けは真由美に及んだ。何かしらあるだろう、と漠然とした危機感はあったものの、こういった形で巻き込まれるのは彼女も予想外だった。
彼が言った通り、HARのコードを解読しただけと言えばそれだけ。誰に迷惑をかけるでもない若気の至りではあるが、何故か彼は、自分で話題にしたこの件を何が何でも無罪にしたいように見えた。
「………そうね。便利さはそれが無くなる可能性を加味されていないという危険も孕んでいるでしょうね」
彼女も巻き込み事故は勘弁ということで、明確な発言は避けた。彼もそこまで会話が下手というわけではないが、今の会話に関してはどこか違和感があった。
(何かしら………?)
真由美も、修平との付き合いはそこそこ長い。だからこそ、ちょっとした違和感を感知出来る。このような現象は初めてだった。彼は揚げ足を取りたがるティーンエイジャーのように見えて、実は論理的に話したいことを展開するタイプである。だからこそ、不思議でならなかった。
(まさか突発的な切り替えで?)
更なる思考の海に沈もうとしていたところで、ハッと顔を上げる。
そうさせることが
「つーかさ、やっぱいつも愛しの妹の手料理なの?」
「茶化すな」
「茶化してなんかないさ。言い方の問題さね。で、どうなの?」
「そうだな。俺も深雪みたいな出来た妹がいて、兄として幸せだよ」
「仲睦まじいようで、羨ましい限りだね」
「………本当に言い方の問題か?」
「俺っていっつもこんな感じだからね」
しかし、今の修平はスタンダードに見えるが………
「お前はどうなんだ?修平」
「おっと………聞かれるのは予想してなかったな」
「私も気になるな。君は一人っ子気質のようだから」
「あんたもですかい、風紀委員長。まあ恥ずかしいことじゃないんだけどさ」
探るべきは今じゃない。友人もそう言っている。真由美は一旦それを心の隅に押しやり、単純にこの会食を楽しむことにした。今はあまりにも手がかりが少な過ぎる。そして彼の場合、その掴むべき手がかりは会話をすればある程度掴める。ある意味最も困難で、最も簡単である。
「そういう修平君だって、愛しのお姉ちゃんがいるじゃない」
「楡井君にお姉さんですか」
あずさは純粋に、この会話を繋げようとするために口にしたのだろう。しかし、真由美は揶揄うため、摩利は知的好奇心のため、司波兄妹は興味のため。煩悩が多過ぎる。
「おまっ、ちょ、真由美おまっ」
「へぇー、意外です。修平君、結構自由人ですし」
「そうだな。結構好きにやってるから、一人っ子かと思った」
「褒めてねーなそれ。姉ちゃんが馬鹿みたいに静かだから相対的に好き勝手やってるように見えるだけで、ちょっと若気の至りが過ぎた程度だって」
「若気の至りっていうのは、自分で言うことじゃないのよ」
「うっせ、ほっとけ」
「あの、やっぱり修平君の舌が肥えているのはお姉様の影響ですか?」
やけにこの話に深雪が食いつく。何が彼女をそうさせるのか、修平には手に取るように分かる。というのも、彼女は達也と違ってよく顔に出るタイプだ。話題が転換されるより前に修平の姉のことを聞き出そうと、前のめりになっているのが表情にも焦りとして出ている。
「それもあるかなあ。姉ちゃん、めっちゃ料理上手いし」
「やはりそうですか………」
「HARが無いのも?」
「ああ。セキュリティガバガバな上に人間より劣ってんだ、あんなのに金かける理由が分からんね」
「そういうものか」
人に恵まれているのだろう。達也はそう思った。彼は妥当な理由があれど、入学2日で暴力沙汰を起こすなど滅茶苦茶だが馬鹿じゃない。そんな修平の姉ともなれば、それを教えた人間と考えても中々の脅威である。
「そっ。だから深雪ちゃんもスキルを磨けば一石二鳥どころか三鳥くらいあるんだぜ?」
「ほぇ?」
そして、そんな達也と修平との話だとばかり思っていた深雪は突然振られて素っ頓狂な声を出す。
「別にいいじゃん。お兄様のために何か作ってあげたいってのも、立派な兄妹愛じゃないの」
「な、何故それを………」
「バレバレなんだな、これが」
修平は嗜虐的に笑う。彼から見て、司波兄妹はそこが似なかったのだろう。ひたすら能面のまま人と接する兄と、比較的感情表現が豊かな妹。兄は感情以外に欠けている、というわけではないが、それでも兄妹という関係は互いを映す鏡ではない、ということか。
「俺も
「そ、そういうものですか………」
「ま、達也がいるからサプライズは潰えたけどね」
「あ゛っ………」
「うわぁ、流石修平君は変なところでえげつない」
「黙ってろ会長。迷える仔羊を導いてやっただけだろうが」
「聞いて頂戴な司波さん。修平君ってば私といるといつもこういう感じなのよ。意地悪で無遠慮で、そのくせ致命的に女に嫌われるようなことはしないのよ。何て酷い男なのかしら」
「相対的に悪く見せようとすんのやめろ」
それなら会食に呼ぶな、名前も呼ぶな、と言いたいところだが、しかし。ここはぐっと堪えて言葉を呑み込んだ。
「そういえば、会長と楡井君は、仲がよろしいのですか?」
「そうよ」「全然」
これまでの様子を振り返ったあずさが、単なる話題の転換として問うと、そのようにして二人の口から同音でない言葉が出る。
「………うん?」
「テキトー言ってんじゃねーよ。妖精(笑)コラ」
「そんなこと言わないで。お姉様公認でしょう?私達」
「うっさい。妖精なら森ん中で大自然相手にさえずってろ」
「悲しいわ」
「哀れんでやろうか?」
「それもアリね」
「ナシに決まってんだろ馬鹿」
知らなかったとはいえ、もしや2人にとんでもない爆弾を投げ付けてしまったかと、あずさは慌てふためく。そして、とにかく何か言おうと絞り出したは悲しきかな、謝罪の言葉であった。それを言葉にしようとすると
「何言おうとしてんのか知らないけど、あんたは別に悪くない。悪いのはこの『三巨頭の巨頭じゃない方』だろうが」
「そうよあーちゃん。ちょっと修平君に教育が必要なだけなんだから」
「抜かせ、高級ゴミ箱女。俺に一回でも勝ったから言うこったな」
「あら、足元掬ってあげようかしら………」
いよいよ向かい合う2人がヒートアップして、椅子を弾き飛ばしながら立ち上がろうかという場面。修平のトラブルの相手が相手なだけに介入出来ずにいる司波兄妹と、混乱して声にならない声を上げるあずさ。となれば、介入するのは限られた。
「会長。お収めください。ここは上級生として譲歩を」
「楡井君も。熱を下げてくれないか。食事の最中だぞ。やるならここじゃない」
「………
「私が止めてあげてもよかったのよ、修平クン♪」
「何でお前はそんなに人をムカつかせるのが上手いんだろうな」
不完全燃焼のままだろう、修平にも言いたいことが山というほどあるだろうが、それでも最低限の秩序は保たれた。
「もういいだろ。用事も終わったし、帰るぞ俺は」
「昼休みはまだ終わってないけど?」
「休み時間ってのが休むためにあるのを知らないとは恐れ入ったね」
食器を片付け、後はそのまま。苦々しげに言葉を吐くと、修平は振り返ることもなくさっさと生徒会室を後にした。
「申し訳ありません、生徒会長」
「いーのいーの。昔っからあの子はあんな感じだったから。今更よ」
「そう言って頂けると幸いです。では自分達も、失礼します」
その場にいた友人代表として、達也が頭を下げる。真由美はそれを笑い飛ばし、それを受けて2人も退出した。
「ばぁぁ〜………」
「どうしたんだ?」
「めっちゃ怖かったぁ〜ん………リンちゃん、慰めて〜」
「少しは自重してください、会長。彼はすぐに手が出る危険な人物です」
「うーん、だってぇ〜、修平君だよぉ〜?」
「分かりません」
鈴音と摩利からすれば、怒っているという以上のことは何もなかった。しかし、真由美からすれば違う。
「もしあの時、2人きりだったらどうなってたか。想像すると怖いわ」
「………それは、どういう」
思い出すのも億劫とばかりに溜息をひとつ吐く。
「何をされるか分からないから怖い。正しくは、どんな理屈で何をされるか分からないからこそ、私は彼が怖い。摩利も分かる筈だわ」
思い出されるのは、彼の中で一層不気味さを醸し出していたあの模擬戦直前の彼。あの意味不明かつ論理不明なワードサラダが、頭にこびりついて離れなかった。
大体1ヶ月ぶり。遅れてしまって申し訳ありません。