魔法科高校のアンチテーゼさん   作:あすとらの

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ま さ か の 伏 線 だ け 回


ぼくのわんだーらんど

その日はあまり、目覚めがいいとは言えなかった。何せ就寝時間はいつも通りなのに、体に何かバグのようなものが起こってしまったのか午前四時に覚醒したのだから、おそろしく暇を持て余した。

 

「おいっす、みんな」

「おはようございます、修平君」

「おはよう柴田さん。いやあ今日も綺麗だね」

「あ、ありがとうございます………」

「何あんた、今度は美月なの?」

「前があったみたいに言うな」

 

動きにくいと制服の着用を一蹴してから、ずっと着慣れたグレーのパーカーを、場違いさなど感じないとばかりに平気な顔で教室に入った。

 

「綺麗な女性は素敵だけど、俺はしばらく色恋沙汰はいいかな」

「遊んでそうなのに、何か意外」

「おおい心外だぞエリカ氏。俺はこれでも清廉潔白な紳士でだな」

「あんた軽そうって誰かに言われたことない?」

「ないよドバカ。これでも俺は東洋のランスロットと呼ばれてだな」

「何それ、ちょっとカッコいい」

「不義の恋に溺れたということでは………?」

「うわ、やっぱカッコいくない」

 

いつも授業には出席しないが、友人との会話は友人らしくする。波長が合うのは相手を立てようとする柴田美月と、同じテンションを保っている千葉エリカや西城レオンハルト辺りだろうか。当然交友関係は広く浅くを保っているが、話しやすければ長引く、というのは実に高校生らしい。

 

「………でね、最近思うわけよ。自分を特別だと思うのが中二病って、別に中二じゃなくてもいいじゃん。思春期病でもいいわけじゃん」

「語呂がよかったんじゃねーの?」

「いやいや、案外名付けた奴がタブロイド思考だっただけかもしらん。だってさあ、いかにもなスラングじゃん」

 

とりとめのない会話ばかりしていると、滑り込むようにして達也が教室に入ってくる。どうやら相当走ったようで、魔法を使っていても疲れが顔に出ている。

 

「おはー、達也。珍しく遅れてたじゃんか」

「少し人と会っていてな」

「知り合い?」

「お前の知り合いだぞ、修平」

「俺ぇ?」

 

道でばったり会ったにしてはそこそこの時間が経っていると推察出来る。そうでなければ走るなんて事態にはならない。当然知り合いは学校外にもいるが、ここでひとつ疑問と猜疑が生まれる。

 

「なになに?何の話ー?」

「達也が俺の知り合いに会ったかもって………どんな人だった?」

「女の人だ。二十代前半くらい、前に話してたお姉様じゃないかと思ってな」

「修平ってお姉さんいたんだ」

「意外です。一人っ子気質ですし」

「生徒会の奴らと同じこと言われた………」

 

目を丸くするほど驚かれる事態に少しばかりショックに打ち震えながらも、ここでひとつの可能性が生まれる。あくまで可能性の話で、しかも今ある目下の魔法という脅威とはまったく関係ない、新たな脅威が生まれてしまうことになる。どうか予想が外れてくれと願うばかりだが。

 

「そいつ多分姉ちゃんじゃないよ」

「そうか?」

「俺のこと何か言ってた?というか何か言ってたから俺の知り合いって思ったんだろ?」

「ああ。お前を探してると言っていた」

「………それ以外に何か言ってた?」

「自分と修平は運命の赤い糸で繋がっていると」

「oh………」

 

しかし、現実は非情である。一人候補に挙がる人間がいるのだが、まさか()()なるとは予想していなかった。空いた口が塞がらない、を通り越して両手で顔を覆う。

 

「めっちゃショック受けてんだけど」

「当然お前のことは言っていないぞ」

「よぉぉしオッケー!ナイッスゥ!!」

 

かと思えば、狂喜とばかりに声を張り上げてガッツポーズをする。突然情緒不安定になった修平に若干引きつつも、それが何なのかに迫ろうとする。

 

「ただならぬ関係じゃん」

「腐れ縁、というやつでしょうか?」

「何か敵多そうだもん、あいつ」

「……………いや、まあ、はい」

 

決してエリカの言葉も間違ってはいないのだが。

 

とにかく難を逃れたわけではあるが、危機を脱したわけではない。達也が正常な警戒心をはたらかせてくれたおかげで突破出来た難局は一時的なものでしかない。

 

「よーし、聞きなさい君達。怪しい女に俺の住所とか聞かれても答えないように。達也、会った女の身体的特徴を」

「年齢は二十代前半、身長は俺や修平と同じくらい。そういえば、去っていく時に右脚を引きずるように歩いていた」

「ああ、間違いないわ。絶対あいつだわ。クソがッ、何でこんなとこにアタリつけたんだよ………」

「どういったご関係の方なんですか?」

「あー?うーん………」

 

歯切れが悪くなる。これは単に、子供の頃の諍いが続いただとか、そういう問題ではなさそうだということを察知した。

 

「うーん、まあ、因縁の敵みたいなもんだよ。死んだと思ってたけど、まさか生きてるなんて楡井さんびっくり」

「………とにかく、友人というわけではないんだな?」

 

みたいなもの、とまたも曖昧に語る修平だが、そこは上手く達也が、とにかくとして、と話をまとめた。

 

「ああ、それは間違いない。話しかけられても答えないように」

「一科生の教室で暴れ回ったあんたがそこまで警戒するってのも、何だかおかしなもんね」

「馬鹿、あれを魔法師なんてカラクリ屋と一緒にすんな。細かいことはまだ言えないけれども」

 

果たしてそうまで言わせる人物の正体とは一体何者か。ちょっとした恐怖と大きな好奇心が渦巻き始めると、更に遅れてレオが登場する。

 

「おっす」

「やっほー」

 

いつも二科生の中で定番の、集まっている面子。レオとエリカは賑やかし、美月は会話に入れたり入れなかったり、達也は静観、修平は茶々を入れるいつもの会話のパターン。そうなる筈だった。

 

「そういやさ、さっきすげー美人に会ったんだよ」

 

ピシリと、何かがひび割れるような。あくまでそういった雰囲気だが、そんな音が聞こえそうになり、場の雰囲気が冷え始める。

 

「………あれ?」

「レオ………お前それ、どんな奴だった?」

 

単に美女に会っただけ。それだけならばどれほどよかったことか。しかし修平は薄々感じているのだ、そう何度もご近所の美人がこの辺りを徘徊する奴ではないと。

 

「ああ、ちょっと訛りがあった。顔はアジア系だったから連合の人じゃねーかなって。あと、右脚を引きずって歩いてた。怪我してるんじゃねーの」

「……………」

「な、何だよ………」

 

重い沈黙。誰も何も言わない。正確にするならば、話す言葉が見つからない。やがて、沈黙を破ったのは誰の言葉でもなく、始業のチャイムだった。

 

「みんなはレオに言っといて。ちょっと一人にしてくれ………」

「あ、ああ………」

「どうしたんだ?修平の奴」

「ちょっとワケありなのよ。あのね———」

 

◆◆◆

 

暗澹たる思いである。苛立つのではなく、ただただ心が沈んでいく。八つ当たりする気力もなく、憂鬱なばかり。窓を見ると、通行人がただ何をするでも歩いているだけ。しかし確かにいたのだ。あの女が。

 

「あれ………楡井君?」

「光井さんじゃないの。どったの、光井さんもサボり?」

 

廊下でバッタリと、光井ほのかと遭遇する。少しばかりの馴れ合いとばかりにそう茶化す。

 

「ち、違う違う!違います!その、ちょっと保健室に。何だか気分が悪くて」

 

それに過剰に反応してしまうのは、ほのかが真面目故だろう。当然いつもと比べて会話のトーンが落ちていることも、若干顔が青ざめていることもすでに分かっていたが。

 

「あっそう?ちょっと話し相手がほしくてさ。ついてってもいい?」

「いいけど………授業、出なくていいの?」

「ああ、いいのいいの。そもそも俺、魔法師になんてなりたくないし」

「………へー」

「そういう顔しちゃう〜?」

 

それでも症状が軽いようなので、暇潰し。もとい互いの時間の有効活用として雑談でもと誘うと、渋々ながら了承する。

 

「でさあ、どう思う?頭痛が痛いって確かにおかしいけど、別にそこまで突っかかるほどでもないじゃん。いや使い方は間違ってるかもしらんけど」

「いやあ、どうだろ………」

「危険が危ないみたいなこともあるし。あ、ベッド使う?」

「ううん。座るくらいで大丈夫。そんなに酷いものでもないから」

「………やっぱサボりたかった?」

「………ちょっとね。ほんのちょっとだよ?」

 

その後もなんてことのない話をひたすら続けた。どちらがイニシアチブを取るとか、そういったことではなく、ただ学生らしく、日常の出来事を面白おかしくふざけたようにああいうことがあっただとかという他愛のない話を交わした。

 

「そういえば、ヴォイテクちゃんとか猫ちゃんとかは?」

「来てない。多分気が乗らないんだろうね。ああなったらあいつらは長い」

「不思議だね………」

「ま、戦いの要だから何かあったら問答無用で呼び出すんだけどね」

「そうなんだ………そういえば、魔法で戦わないんだよね。気になるな」

「はっは。トップシークレット、トップシークレット。いっくら光井さんが超絶美人でも教えるわけにはいかんなあ」

 

口調こそふざけているが、そこには揺らがない絶対的な意思が存在する。

 

「………お、どったの?」

「いえ………」

 

突然、ほのかの体調が目に見えて悪くなる。呼吸が乱れ、胸を押さえて苦しそうに息をする。まさかそんな、潜伏期がある重病なのかと事の重大さを受け止めた修平だったが、すぐにその原因が病でないことに気付く。

 

「光井さんって緊張しいなんだね」

「ごめんね………」

「いや、全然気にしてないけど。何?俺なんかやらかしちゃった?」

「ううん、そうじゃないの。そういうのじゃなくて。その………」

「落ち着きなよ。別にそれやったら死にますみたいなのじゃなけりゃ、大体どうにかなるから」

「……………」

 

何か、彼女の中でキッカケがあったのだ。勇気を振り絞って何かをしようという、そのトリガーが。ほのかは大きく深呼吸をして、修平目を真っ直ぐ見る。

 

「力を見せたくないというのは、()()修平君の本意なんですかっ」

 

時間が止まったような静寂が支配する。歯を食いしばってそれに耐えるほのかと、目を泳がせる修平。修平のその様子は怒っているというより、戸惑っているように見える。そんな彼の表情の変化を見て一喜一憂するような様子で、ほのかはひたすら耐えている。

 

「どうして、聞きたいのかな?」

「私が、そうするべきだと思ったからです。貴方のことを何も知らないけど、だからこそ知りたい。誰でもない私と貴方のために。友達になりたいんです」

「………そっか」

 

この瞬間、修平が最も恐れたのは彼女が七草真由美に毒されてしまっていること。だが、そう断ずることが出来ない。人の心など読めるようなものではない。故に絶対が存在しないというのに、その言葉が嘘あると言えなかった。

 

「………ダメ、かなあ」

「別に、そんなことはないさ。俺も光井さんと友達になりたいよ」

「あ、ありがとうございます………」

 

修平には理解し難いが、どうやら彼女にとってそれを聞くというのは凄まじい緊張を呼び起こすらしい。気弱な少女が背伸びしているだけ、と言うにはあまりに準備されているのだが。

 

「まったく、嘘はいかんなあ光井くぅん」

「ご、ゴメン………」

「優等生らしくないぞ。何だってこんなことする?」

「友達になりたいっていうのは本当なの」

 

顔色が悪いのは緊張が酷かったから。それに起因する体調不良も、あることにはあったのだろう。しかしそれ以外は嘘八百。もしもあの時修平が話し相手が欲しいなどと言わなかったら。そもそも修平が廊下をうろつくなんてこともなかったら。そういうリスクを加味しない、何とも未熟で子供らしいほのかの弄した策である。

 

「これは()()()()()()()()()だけどさ。光井さんが俺の左半身を見たとしよう。そうすると光井さんは俺を見たって言う。俺の右半身がどうなってるか知らないのに」

「へえ………へえ?」

 

要領を得たような、そうでないような。思考を深めては壁にぶち当たり首をかしげるほのかには荷が重いと、話題を変える。

 

「で、本当にそれだけ?そーんな、俺の素性聞くためにここまでやったわけなかろうて」

「あう………」

 

そこまで見破られているのなら、嘘を重ねるのも無理だろうと、ほのかは口を開く。

 

「達也君にはもう聞いた?右脚を引きずった女の人の話」

「ああ………それ絡みか………」

 

ここに来て、まさかの不意打ちがクリーンヒット。一瞬心臓が早鐘を打った。

 

「あの人に話しかけられたんだけど、何だか、おかしいの」

「あいつは結構おかしいけど、どうした?」

「臨戦態勢というか、こう、上手く言えないけど、油断してないって言うのかな。やっぱり魔法師によくない感情があるのかなって」

「……………そう」

 

その挙動に、修平は大いに思い当たるところがあった。

 

「武装してるな、そいつ」

「え゛っ」

「あのキチガイに何かされてないかい?」

「い、いや、全然、触れられてもないよ。うん………大丈夫」

「そっか、ならよかった」

 

明らかに、その女は警戒している姿勢を見せている。それが周りに降りかからなければそれでいいが、経験者たる修平からすれば、そう簡単に終わらないような気もする。

 

「二科生のみんなには警告したけど、一科生はまだだったんだ。悪いんだけど光井さん、教室に戻ったら北山さんと深雪ちゃんに伝えてくれない?」

「うん。近寄らない方がいいよね?武器持ってるんだもんね」

「しつこいようだったら全力で逃げるか、俺に言ってほしい。どっちかで対処出来る」

「分かった」

 

その後もしばらく、なんてことのない雑談を続ける。修平の言いたいことが言い終わったタイミングを上手く見計らって、ほのかは教室に戻っていった。あんまりサボり過ぎるのもよくないよ、と付け加えて保健室から出ていったが、余計なお世話だと言いそびれた。

 

(思ったより見つかるのが早い………)

 

さて、先程の好青年のような笑顔はなりを潜め。今はもうどうやってこの事態を収束させるか、持てる策を講じる顔は間違っても爽やかな顔とは言えない。

 

◆◆◆

 

その日の魔法科高校は、いつもと違う活気に溢れていた。そして、活気の裏でトラブルもあり、風紀委員大活躍となる。それもこれも、新入生勧誘期間のせいだ。本来は事務室に預けるべきCADは魔法のデモンストレーションということで、申請次第で携行と使用が許可される。

毎年何かやらかすなら対策しろよとは思うが、八月には魔法科高校の一大イベントがあり、そのために前途有望な魔法師を獲得したいというのが各クラブの思惑である。第一高校はイベントでの優勝回数が最も多いため、今更下手な成績を残せないという焦りもあり、荒れるらしい。それはそれは風紀委員が疲労に喘ぐくらいには。学校も学校で成績のためにこの大荒れ模様の新入生勧誘期間を黙認してしまっているらしく、手のつけようがないのが現状である。というわけで。

 

「力を貸してくれないだろうか」

「すっげー嫌なんだけど」

 

摩利が頭を下げるなど、凄まじい一大事である。それを察した修平も、一体口から何が飛び出すかと思えばこれだ。

 

「そのための仕事で、そのための風紀委員だろうが。なぁに甘ったれてんだ」

「むう、そうは言ってもな。人手が足りないんだ。いくら実力者であれど体はひとつ、信頼出来る協力者が必要なんだよ」

「一科生から引っ張れよ」

「そういうわけにもいかない。悲しいことだが、皆が皆正義と風紀のためにこの腕章をつけているとは限らないんだ」

「そりゃまた。分かっちゃいたけども。で、何で俺?」

 

それは、意識の差ではなく、決定的な意識の隙間にあるもの。正義感の隙間に存在する優越感。それがいつ増幅させられ、風紀委員会という皮を被ったレイシストになるのか。それもまた人間の恐ろしさである。だからこそ、必要なのだ。

 

「差別に無頓着な実力者。それでいてどうしてこいつを協力者にしたんだと意外がられて、生徒会長と私的な繋がりまであって、魔法を使わない戦法を持つような人間が必要だ」

「後半全部俺じゃねえか」

「というわけで、どうにかお願いできないだろうか」

「断る。と、言いたいが、巻き込まれて揉まれるのも嫌なんだ。取り締まれるならそっち側に行きたい」

「そうか。ありがとう、助かる」

 

勧誘に巻き込まれるかもしれないという意味で、司波深雪は特大の爆弾である。それを遠ざけるどころか、自らの意思で鎮圧出来るという意味では風紀委員会の手伝いというのは願っても無い相談だった。ここはいつもに反し、摩利の話に乗るのが得策であると察した。

 

「俺は一人でやらせてもらった方がやりやすいんだが、そういうわけにもいかないんだろうな」

「まあ、な。中条あずさが君とペアを組む」

「中条………」

「本人は役不足だと言っていたが、実際フリーで、かつ君と円滑なコミュニケーションが取れるのが彼女しかいなかったからな」

「………って誰だっけ」

「おい」

「いや待て、思い出した。あのチビくらいチビなチビだ」

 

前途多難ではあるが、しかし。摩利は大きな全力を獲得した。摩利自身も、これが修平にとって悪い話でなく、彼が乗るであろうことは予想していたので特に驚きもしなかった。

 

「まあいい。期間中はよろしく頼むぞ。くれぐれも職務以外で実力行使をしないように」

「そうだな。一科生の馬鹿どもに言っておいてくれ。俺がそんなことしないで済むように、余計なこと言うなって」

「はあ………本当に頼むぞ」

「心配するな。自己防衛以外はしないから」

 

一向に不安が拭えない。それもその筈、ここまで念入りに但し書きをされれば拭えるどころか募るばかりになる。

 

「本当だろうな?」

「知ってるだろうけど、俺は嘘を吐かない」

 

生徒会室での、副会長との一悶着が頭をよぎる。

 

「それを身をもって知るのか、そうでないのか。全ては一科生次第だ」

「………今は君を信じよう」

「まったく、俺を風紀委員本部に呼ばない理由は大体分かるがね。その辺の廊下でしていい会話じゃねえだろ」

 

風紀委員と書かれた腕章と、掌サイズのビデオレコーダーを摩利から預かると、そう軽く悪態をついてその場を去っていった。

 

「………もういいぞ」

「本当?本当に本当?」

「疑り深いな。もう彼は行った」

 

修平が見えなくなった辺りで摩利が声をあげると、二人が会話していた場所のすぐ近くにある空き教室から真由美がひょこっと顔を出す。狼狽えるように、あるいは怯えるように首を忙しく動かして周囲を何度も見ると、納得した頃にようやく教室から出た。

 

「いやあ〜、ありがとね、摩利」

「まったくヒヤヒヤしたぞ。彼が存外冷静で助かった」

「大丈夫よお、修平君だって四六時中殺気立ってるわけじゃないんだから」

「だったら私じゃなくてもよかったんじゃないか?」

「だって、私は魔法が使えなかったらただのか弱い女の子だもん」

「だもんじゃない。言っておくが、私は彼と知り合ってまだ1ヶ月と経っていないんだぞ」

 

つまり全ては七草真由美の主導だったわけで、結果的に彼はそれに乗ったことになる。

 

真由美がこのような茶番を仕込んだ理由はいくつかあるが、最も大きな要素は連携について。風紀委員会といえば魔法を取り締まる。つまりその段階で荒事が起こるのだ。その際に戦い慣れしていればいるほど、連携が出来ていればいるほどいいのだが、しかし。既に正規の風紀委員新入生枠は、1-A生徒の森崎駿と1-E生徒の司波達也で埋まった。ここで問題。彼はおそらくどちらとも相性が悪い。

 

1-Aの森崎駿は言わずもがな、一科生と二科生の制度に忠実で差別を悪しきとしていない。これでは連携どころか、有事の際にどさくさに紛れて修平に背中を撃たれる未来が目に見えている。

 

司波達也はどうか。彼と組む場合問題となるのは、どちらが相手を制御するのか。修平が戦局を見極めるのか、あるいは逆か。そこに大きな疑問が残る。だからこそ上級生と組ませた。

 

「だが自己主張の乏しい中条に果たして務まるのか?」

「大丈夫。別にあーちゃんに限らず、修平君が本気出したら私達、時間稼ぎくらいしか出来ないもん」

「それは大丈夫、なのか………?」

 

どんな実力があろうとも、それが魔法という範疇を超えなければ、それは修平にとって時間稼ぎでしかない。そういう意味で、あずさも摩利も真由美も平等なのである。その中で最も警戒されていない人間を消去法で選んだ結果そうなったというだけのこと。

 

「そうだ。司波達也はどうなっている?彼の強さも凄まじい。放置も出来ない人材じゃないか」

 

とにかく、信用すると言ったのだ。彼が自己防衛しかしないと言えば、それを信じる。自己主張に乏しいながらも人畜無害なあずさを悪いようにはしないだろう。

そして話題は次なるものへ。というより、修平という異端児の対応に追われたせいで出来なかった話にその場で移る。

 

「司波達也君は、二科生でありながらはんぞー君を完封した実力があるわ。彼も遊ばせておくのは勿体ないくらいに強いし聡明だけど、どうしても目に見える脅威に目がいっちゃってね」

「本当に勿体ないな。理論の点数は前代未聞、模擬戦でもあれだけの実力を見せつけたんだ」

「そうなのよねえ。でも、修平君に対応出来るのは私くらいだもの。本当は司波君も、一科生二科生に縛られない強さがあるのに」

 

司波達也。彼もまた、一科生二科生という制度を嘲笑うように現れた新星である。字引のような魔法理論や魔工の知識に加え、とても素人とは思えない体捌きや、予想を裏切る魔法の応用によって卓越した戦闘能力を見せた。彼もまた真由美の目に留まった大型新人であり、だからこそ風紀委員に入れるという形で規則をくぐり抜け自分に出来る平等を実行したのだが。

 

「と言っても、謎が多くて………」

「そうだな。何をどう、考察すればいいのやら………」

「とりあえず、すっごく強い?あとはエンジニアとしても優れてるから、魔工学の道にも?」

「うーん………」

「うーん………」

 

優れていることに疑いようはない。疑いようはないのだが、いかんせん情報に乏しい才能より、情報過多な脅威の方にどうしても注目してしまうというものである。

 

「要観察、ということかしら」

「それ以上言えないな………」

 

三年生二人は、ある下級生達について頭を悩ませるばかりだった。




達也君の見せ場が減る理由がコレ。
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