大淀は高校時代に同じクラスだった、萌子ちゃんに似ている。先生に敬語を使わない生徒として悪い意味で目立っていた。黒い眼鏡に髪はショートカット。それに毎日真っ赤なカチューシャをつけていていた。
本人いわく、大人に敬語を使うと自分がナメられるから使いたくないそうだ。そんな彼女に俺は惚れていた。高校時代の最初で最後の初恋だったんだ。
顔は違うが、話し方、声が彼女に似ていた大淀に親近感がわき、あの頃と同じように接していた。・・・未練だな。
明石を追って会場を出ると目の前に大きなプールがあった。何人かの艦娘が水上に浮かんでいる的に何かを撃ち込んでいる。射撃訓練、みたいなものだろうか。
「おっほん!!」
突然の咳払いに驚き、振り向くと出口の引き戸に背中を預け腕を組んでニヤリと笑う明石がいた。お前、ちゃんと待っててくれたのな。すると背中を引き戸から離し、俺の正面に立つ。しばらく間が空いたあと俺に手を差し出し得意そうに言った。
「お前とは、なんか長い付き合いになりそうだ。そんな気がする。だからよろしく頼む。」
俺は素早く明石の手を握るとおもいっきり力を入れた。
「いだだだだだだっ!!い、痛いですっ!!止めてくださぁいっ!」
ギリギリギリギリ。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!つっ、爪が、爪が食い込んでますっ!!」
「お前ともなんか長い付き合いになると思うがまぁ、なんかその、うん。よろしく」
「雑っ!!」
その後、涙目+膨れっ面の明石が無言で俺を先導してくれた。途中至るところで艦娘に話しかけられたが笑って誤魔化した。一人一人相手にしているとキリがないからな。会場からしばらく歩くと大きな建物が見えてきた。
「着きましたよ。ここが私達の鎮守府です。」
「すんごいね。」
それしか言葉が出なかった。全体が煉瓦におおわれており、窓がこれでもかというほど並んでいる。横幅も長くまるで漫画にありそうな感じの建物だ。平民の俺にはとてもじゃないけどそれぐらいしか表現出来ない。
「あと少しです。はぐれないでくださいね。」
明石にただひらすらついていく。階段を何回か登り、廊下を進む。そしてやっと明石は一つのドアの前で立ち止まりドアノブを引く。相談室って書いてあった。
「ここで座って待っててください。準備して来ますので。」
通された部屋には2つのソファーの間にテーブルが置かれているだけのとてもシンプルな部屋だった。例えるなら学校によくある応接室だ。とりあえず片方のソファーに座る。疲れた。こんなに疲れたのは中学の合唱コンクール以来だ。
トントン。ガチャ。
「失礼します。」
「失礼します。」
明石の後に大淀も入ってきた。二人は俺の前のソファーに腰掛ける。気まずい。
「それでは改めてお話致します。提督、いえ山田孝夫さん。あなたが何故ここに連れてこられたのかを。」
大淀が先ほど会ったとは違う真面目な顔で口を開いた。
連れてこられた?コイツらは俺がこの世界の人間ではない事を知っているのか?それに俺の本名まで・・・。鼓動が早くなり、背筋がゾッとする。いままで溜め込んでいた不安が一気に溢れだした。額に汗が流れる。
大淀と明石は真面目な顔で俺を見つめている。とても不気味だ。部屋中が静寂に包まれる・・・。
すると明石がポケットからなにやら大きなものを取り出した。ヘルメットだ。・・・・・・ヘルメット?視線をヘルメットから大淀と明石に変えると彼女たちはさっきの真面目な顔を一変させて穏やかに笑っていた。そして口を揃えてこう言った。
「「VRで」」
「VRでっ!?」
山田孝夫の声は鎮守府中に響いたという。