部屋から出た山田はふと廊下の窓から外を眺める。朝、大勢の艦娘と会合を行った会場、途中見かけた大型プール、オリンピックでも開けるんじゃないかという程のグラウンド。何もかもスケールがデカイ。人類の大半は木星に行ったとは聞いたがそれの影響もあるのだろうか。人がいなくなったから勝手に敷地増やしました。みたいな?まさかな・・・。
「お待たせしました、提督。」
山田がつまらない事を考えていると大淀が声を掛けてきた。
「あぁ、いやいや全然待ってないから大丈夫だよ。」
山田の言葉に少し顔をホッとさせると大淀はすぐ真面目な顔になり言葉を続ける。
「お気遣いありがとうございます。それではまず、この施設について説明させていただきます。」
敬語は使わなくていいと前に勢いで言っちゃったけど、やっぱりタメ口なんか使わないよな。常識的に考えて。素の口調がなんかギャルっぽかったし中身は結構、サバサバしてたりするのだろうか。やはり少しあの子に似ている気がする。
「ここは茨城県の北部にある町、田尻町の土地を日本海軍が買い取り、深海棲艦から市民を守るために造られた建物です。正式名称は日本海軍茨城北東支部田尻鎮守府、少し長いですが田尻鎮守府と覚えてもらえは大丈夫です。」
「ここ茨城だったの?建物もでかいからてっきり、もっと都会のほうかと思ってたのに。」
「ふふっ、大本営、つまり日本海軍本部がある東京都はこの鎮守府の倍以上あるんですよ?」
「ここの倍っ!?」
ここの鎮守府だけでも十分大きいと感じるのに、これの倍って・・・・・・。さすが都会、金使いが荒いわ。
「続いて、この建物内の説明をさせてもらいます。今私達がいる階は最上階の5階になります。この階では主に作戦のミーティング、緊急時の為の避難場所に使われる多目的ホールがあります。しかし使われることは滅多にありません。他にはさっき私達がいた相談室、物置部屋があります。」
相談室から目と鼻の先に多目的ホールはあった。大淀がドアを開けて中を見せてくれる。映画館の様な巨大スクリーンが部屋の奥に付いており、床がすべて畳になっている。床に座るタイプか。すごくいい。い草の匂いが部屋いっぱいに広がってじいちゃんの家を思い出す。今すぐ俺も畳の上でゴロゴロしたい。そう思って中に入り横になろうとした時。
「あれぇー?提督じゃーん。どうしたのー?こんなところでー?」
「はうっ!」
突然呼ばれビックリした山田は思わず声が出た。
「あははー、提督ビビりすぎー。だから駆逐艦にナメられるんだよー?」
山田が右に視線を移すと二つ折りにした座布団を枕がわりにして仰向けの状態になりながら顔をこちら側に向けている女の人がいた。
「やっぱりここにいましたか、北上さん。いつも言っているでしょう、ここは寝る所にではないと。」
大淀があきれた様子で北上に注意をする。
「いいじゃーん。あたしここで昼寝するのが唯一の楽しみなんだもーん。」
目を擦りながらゆっくりと上体を起こしていく北上。
「大淀もたまにはここで寝てみたらー?気持ちいいよー?」
「寝ません。今私は提督にこの鎮守府の案内をしているんです。あなたみたいに寝てばかりでは業務に支障をきたしてしまいます。」
「んー。つまり提督とデートしてたのー?いいねぇ、妬けるねぇ。」
北上は煽るように大淀に笑いかける。
「でっ、デートだなんて、違います!私はただ案内をしていただけで・・・そんな・・・って、提督なに寝てるんですかっ!」
山田は北上から借りた座布団を頭に敷き大の字で横になっていた。
「えーわー。これえーわー。気持ちいいーわー。最高やー。」
「でしょー?話がわかるねぇー。さすが提督ー。よっ、いい男!」
「よせやい、照れるべ。」
すっかり意気投合している山田と北上。
「もうっ!提督っ!次っ!行きますよ!」
顔を膨らまして山田の腕を引っ張る大淀の肩に何かがピョンと飛び乗った。
「あら?妖精さんが・・・。」
「妖精!?」ガバッ!
「うわっ!」
大淀の妖精という単語にいち早く反応し山田が勢いよく起きた。あまりの速さに隣にいた北上が驚いている。山田は大淀の肩で動いている生き物をマジマジと見る。大きさは手のひらに収まりそうなくらい小さく、ヘルメットとつなぎまを着ている。身振り手振りで一生懸命大淀に何か伝えようとしているようだ。可愛い。これが妖精さんか。そうだよな。これが妖精・・・。あれ?俺ここに来る前に妖精にあったような気が・・・痛っ!急に頭が。
「・・・・そう。ありがとう。」
妖精から何かを聞いたらしい大淀が胸ポケットから何かを取り出し、妖精にあげていた。スルメだ。自分の体より大きいスルメを受けとると嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。可愛い。
「提督、妖精さん達が4階に男性用トイレを設置してくれたそうなです。さっそく見に行きましょう。」
「ありがとう!!妖精さんっ!ありがとう!!」
自分より大きなものに土下座をされる。妖精さんは今どんな気持ちだろうか。
大淀の肩から降りると妖精さんは山田の耳に近づいてきた。
「ナニ、オレラニトッチャコンナノアサメシマエヨ。アンチャンモタイヘンダナ。コレカライロイロトアルダロウガ、ナニカアッタラオレラヲタヨレ。」
何この妖精。メッチャイケメンじゃねぇか、見た目に似合わず工事現場のおっちゃんの様な頼もしい言葉が聞こえてくる。
「ミテタゼ?チョウレイ。ナサケネェナ、ダイノオトコガドゲザナンテ。イマモダ。」
言葉が出ない。
「ダガオマエハイイワケモセズ、カノジョタチニシンシニムキアイアヤマッタ。ナカナカデキルコトジャナイ。」
・・・妖精さん。
「アノスガタヲミテ、オレタチハ、オマエハシンジラレルオトコダト、カクシンシタンダ。」
・・・・・・・。
「サァ、カオヲアゲロ。ドゲザハ、イチドダケデイイ。」
妖精さんはヒョイと山田の頭に乗ると胡座をかいて座った。
山田の瞳に真っ赤な炎が宿る。
「よし、行くぞっ!」
山田は立ち上がる。全身からとてつもないやる気が感じられる。
「さすが提督。一瞬で妖精さんと心を通わすなんて。」
「そうだねー。気分やの妖精さんがこんなにイキイキしている姿なんて久しぶりにみたよー。」
一瞬で妖精さんと仲良くなった山田を見て、大淀は目を輝かせ、北上は目を丸くさせている。