「おっ!聞こえたぞ。」
階段をがむしゃらに登っていた山田は微かに聞こえてきた五月雨の声に反応した。
「おーい、五月雨ぇー!!」
五月雨の居場所を把握する為に更に声をあげる、一度立ち止まってよく耳を澄ました。
「ここですよー!!提督ー!!」
声は聞こえるのだが、建物が一般の建物より異常に広い為、上からなのか下からなのか音がどこから響いて来るのか山田は分からなかった。お互いにお互いを呼び合うこの状況。ハタから見ればとてもロマンチックな光景なのだろう。山田が五月雨にパンツの持ち主の事を聞くという目的がなければだが。
「ゴホッ、ゴホッ。どこだぁ?五月雨~。」
声を出しすぎたせいか、山田の声は次第に弱くなってきた。ナノマシンの影響で通常の人間より強化されている山田だが、度重なる新キャラと超展開により疲労が溜まってそれが喉にきたのだろう。声が出にくくなってしまった。
(あぁ、五月雨が一生懸命に声を出して俺に答えてくれているのに。・・・せめてスマホがあればな)
そう思いながら三階に登りきった山田はギョっとした。
「・・・・・。」
山田の目の前に薄いピンク色をした髪の少女が無表情でビシッと気を付けをした状態で待っていたのだ。
「うわっ!ビックリしたぁ。」
誰もいないだろうと心の中で油断していた山田は突然現れた少女を見た途端、背中を震わせ仰け反った。
「・・・・・ふっ。」
山田のリアクションが滑稽だったのか少女は一瞬だけ笑い、元の無表情に戻った。そして左腕をそのまま横に上げて、人差し指をつき出した。
「え?何?」
何かされるのではないかと身構えていた山田を他所に少女はそのまま固まってしまった。電池が切れてしまった人形のように。少しだけ薄気味悪いと感じた山田だが、彼女が指差す方向を見ると。
「提督さぁーん!!・・・おかしいな。声が聞こえなくなっちゃった。」
五月雨がキョロキョロ見渡しながら歩っていた。
「あっ、五月雨だ。」
目的の人を見つける事ができ、安堵の溜め息をつく。よかった、よかった。これで一先ず安心だ。これで五月雨からこのパンツの持ち主についての情報が聞ける。その前に・・
「ありがとう、教えてくれ・・」
目の前の少女にとりあえずお礼を言おうと正面を向き直した。だが少女の姿は無くなっていた。先程のまでそのにいたハズなのに。
山田は手を先程の少女が立っていた場所の位置に出し、左右に動かした。
「・・・・。」
何もない。
回りを見渡しても上に続く階段と下に続く階段、そして五月雨がいる廊下くらいしか人が通行できる所はない。少女が指を指した方角(山田から見たら右側)に顔を向けたなら、右側の五月雨がいる廊下と下の階段が少なからず同時に見える。もし少女が立ち去ったのならすぐ分かるはずだ。だがそれは無かった。なら上の階段を上がって行ったのだろう。普通はそう考える、しかしそれはあり得ない。なぜなら足音が聞こえなかったからだ。
どのような体型の人間でも階段を上がったり、下がったりする時には必ず音は鳴るはずだ。音を鳴らさないように移動する方法としてはゆっくりと進む以外には無いだろう。だが山田が少女から目を離したのはたったの数秒。その数秒の間に足音を立てずに階段を一気に駆け上がり、上の階に行くなど現実にはあり得ない事だ。
「提督ー!!提督ー!!・・あれ?どうかしましたか?」
五月雨も遠くにいる山田を見つけ、手を振りながら近づいてきた。が、何故か放心状態の山田に気付いて声のトーンを少し落とす。
「お、おう。五月雨、会いたかったぞ。」
「はい、私も会いたかったです。」
山田の「会いたかった」の言葉に嬉しくなり、飛び跳ねるのを我慢しながら五月雨はニコニコと笑う。その顔を見た山田も、ふにゃーっと気持ち悪い笑顔を浮かべた。俺ら相思相愛やんけ!!と山田はそう思った、その刹那。
ピキィィィィィィィィィン。
山田の頭にニュー○イプのような効果音が流れた。
「殺気!?」
グルっと首を動かし、天井を見上げた。だが何もない。
「上に何かあるんですか?」
五月雨もつられて天井を見上げた。
「いや、何か黒い獣が・・・・。」
「黒い獣?」
「何でもない。気にしないでくれ。」
「は、はぁ。」
「ところで五月雨、今ハンカチを皆に返して回ってるんだって?」
「そうなんです。やっと半分返し終わった所で・・」
「俺も手伝おう。いや手伝わせてください。」
山田は食いぎみに言った。「ここで働かせて下さい」的な勢いで。
「本当ですか?ありがとうございます!!」
(提督が手伝ってくれるって事はいっぱいお話が出来って事だよね。)
「元々、俺の願いが原因だからな。」
(半分は返し終わったのか、ならもう半分の中にパンツの持ち主がいるかもしれない。)
純粋と不純、本音と建前。様々な想いが交差するがこれだけは言える。
ーーーーーーーー五月雨マジ天使ーーーーーーーー。
「それじゃ、提督。行きましょう。」
山田についてきてと言わんばかりに歩き出す五月雨。鼻唄を歌って、腕を大きく振り、楽しそうにしている。
「元気だなぁ。」
その様子を和やかに眺める山田。五月雨の後をついていこうとした時、また天井を見上げた。
「・・・・。」
「提督ー!!早く、早くー!!」
「あいよー!!」
五月雨に返事を返して彼女の後を追った。
山田と五月雨が天井から離れて数十秒後、天井から一枚の布が落ちる。
トッ。
その後薄いピンク色の髪をした少女が天井から降りてきた。先程、山田の目の前にいた少女だ。遠くにいる五月雨と山田をジッと見つめている。
「あれ?ハンカチが入っていた箱、どこに置いたっけ?」
「ええっ!?」(マ○オさん風)
「ふふっ。」
彼女、不知火は山田達の後を静かについていった。