「落ち着いたか?」
「・・・・」
尻を見られた恥ずかしさで、のたうち回る様子を摩耶に見られ、どうしようもなくなった山田は顔を見られたくない一心でベッドにうつ伏せになっている。摩耶が飽きて部屋を出るまでずっとこうしていよう、そう思っていた。
「まったく、しょーがねぇーなぁ」
コトッ、パタン。
そんな音が聞こえた。おそらく食事の乗ったおぼんか何かを置いて外に出たのだろう。せっかく持ってきてくれたのに悪い事をしたな、だけどあんな姿を見られて会話する事なんて到底出来る気がしない。展開的に明石か五月雨あたりが持ってきてくれるものだと思っていたが。
部屋の中には微かな波の音と時計の針の音しか聞こえない。山田の気持ちを汲んだのか、それとも気持ち悪がって逃げたのか。どっちにしても、もう彼女の気配は無い。山田の作成勝ちと言えるだろう。しばらくして旨そうな匂いが部屋に広がり、腹の音がグゥゥと鳴り響いた。
「今度会ったら謝ろう」
ゆっくり体勢を変え、起き上がる。摩耶が持ってきてくれた食事を頂こうと床に足を置いた。ふと何気に右側を向くと立ちながら壁に背中を預け、こちらを見ていた摩耶と目が合った。
「やっと起きたか、早く食え」
「アッチョンプリケ!」
観念した山田はおぼんが置いてある椅子を手元に移動させて、スプーンを手に取った。おぼんの上に水が入ったコップとそれはそれは大きなオムライスがバンッと置かれていた。本来黄色である表面が何故か大量にかけられているケチャップのお陰でほぼ真っ赤の状態になっている。
「嫌がらせか?」
ボソッと呟く山田に摩耶は答える。
「間宮さんがケチャップで、でっかいハートを書こうとしたんだが途中でミスって全体に塗りたくったんだと。よっと」
「なるほど」
スプーンでオムライスの端を小さく切り分けると鶏肉、椎茸、玉ねぎ、ピーマン等の具材がたっぷり入ったチキンライスが姿を表した。今すぐ食べたい、食べ尽くしたい。そんな気持ちを一時的に押さえ込んで山田は尋ねた。
「なぜ俺の隣に座るの?」
当たり前のように座ってきた摩耶にツッコミをいれ、スプーンを置いた。
「あぁ?座りたいから座っただけだろ?バカか、お前」
喧嘩腰で答える摩耶に少しビビりながら山田は理解した。
「おぼんと食器なら後でちゃんと返しに行くから大丈夫だ」
俺がオムライスを食べた後のおぼんと食器を片付ける為に、わざと俺を煽って早く食わせようとしたのだろう。持ってきてもらったんだ、片付けくらいは自分でやるさ。
「んなのどうでもいい、早く食わねぇと無理やり食わすぞ?」
ベッドにあぐらをかき、不機嫌そうな態度を示した摩耶は
横目で山田を睨み付けた。
「はい、いただきます」
気迫に押され、スプーンを持ち直しオムライスを一匙すくって口に入れた。チキンライスのほどよい酸味が口に広がり、食欲を加速させる。外側の卵も柔らかいのは勿論だが細かく刻んだネギやカニカマが入っていて、ボリュームがかさ増しされている。山田にとっては大満足な一品だった。
「・・・・・」
黙々と食べ続ける山田を横目で見続ける摩耶。他人から見たら、弟を看病する姉のようだ。暫く時間がたち、一息ついた山田がスプーンを置き、コップに手を出そうとした時・・・
「おい」
隣にいた摩耶に声をかけられた。
「何でしょう」
不良に絡まれた高校生のようにゆっくりと首を右に向けた。その顔を見た摩耶は腰の小物入れにぶっきらぼうに手を入れ、何かを取り出しそのまま山田の口に当てた。
「口にケチャップ付いてるだろうが。だらしねぇ」
カラフルな鯨が小さくプリントされたハンカチを左右に動かして汚れを落とす摩耶。
「ありがとう」
そんな事をやってもらうとは思わなかった山田は顔を今まで以上に赤くさせ、一言だけ礼を言うとスプーンを持ち直した。
ドクッドクッドクッドクッドクッドクッドクッ。
心臓の音が次第に大きくなりながらも再び食べ始める。
「旨いか?」
コクコク。
そんな簡単な質問にも今の山田には頷いて答える事しか出来なかった。夜は更けていく・・・・
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あの後、オムライスを食べ終わった瞬間に椅子のおぼんを取り上げ、勢いよく出ていってしまった。まさかの行動にビックリした俺はそのまま硬直した。摩耶が出ていき、ドアが閉じようとした時、再びドアが開いた。その隙間から摩耶が頭だけ出してこう言った。
「すぐ寝るんじゃねぇぞ?牛になっちまうからな」
それだけ言って勢いよくドアを閉めた。
俺はベランダ側に座り直し、海を眺め、呆けていた。
「これが青春か」
コンコン。
扉を叩く音に少し苛立ちを覚える。人が久々に青春を満喫しているとゆうのに。
「すいません、五月雨です」
「はいよー」
明石だったら無視してやろうと思った山田だが、五月雨だとわかると優しく返事をした。
ガチャ。
「提督、あのぅ・・・」
「どうした?あぁ・・」
箱を取り戻す所で俺が気絶したからな。夜になっちまったが大丈夫だろう。よっこいせと腰を上げる山田。
「私、提督が寝てる時に睦月型のお部屋に行ったんです」
いつもとは違う空気に山田は少し戸惑う。
「そしたら卯月さんが箱を部屋に運んでいる所を偶然見つけて、私、声をかけたんです」
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「そっ、その中には皆のハンカチが入ってるんです。返してください!!」
「やーだね、これは廊下に置いてあったピョン。回りには誰もいなかったし。うーちゃんが拾ったからこれはうーちゃんの物だピョン」
「そんなぁ・・・でも・・・」
「そこに立ってると邪魔だピョン。早くどっか行くピョン!!」
ドンッ!!
「きゃっ!!」
卯月は五月雨の肩を強く押した。その反動で倒れた五月雨は軽く腰を打ってしまう。
「ぷぷぷー、弱っちいピョン」
箱を部屋の中に入れた卯月は五月雨を見下ろしながらニヤニヤ笑ってドアを閉めた。
パタン。
「うぅ」
「まったく、また気絶って・・・少しは格好いい所の一つや二つ見せてみなさいよっての、あの気絶提督。うん?」
「・・・・・・」
「あら、五月雨ちゃん。どうしたの?」
「っ!!」
「えっ?ちょっと・・・五月雨ちゃん」
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「私、何とか返してもらおうとしたんです。だけど・・」
次の瞬間、五月雨の目から大粒の涙がボロボロと流れ落ちた。ズボンを力一杯握りしめ、口をへの字に変えて。
「ひっく、だげどダメでしだ、ひっく、がんばってじぶんをっ、かえっ、かえようとしたけど、ダメでした。やっ、やっぱりわたしは、なっ、なにをやっても・・・」
ガシッ!!
それ以上は言わせねぇ!!っと山田は力一杯、五月雨を抱き締めた。決して邪な気持ちではない。もう見てられなかった、そんな顔見たくなかった。俺が付いていればこんな事にはならなかった。あぁ、情けない。五月雨は必死に自分を変えようとしていたのに俺はのうのうと鼻を伸ばして・・・
「わたしっ、ていっ、とくのようにっ、つっ、つよくなれ、なりたくてっ・・」
「お前は強い子だっ!!弱くないっ!!弱いなんて言わせないっ!!」
山田の腕に更に力が入る。
「お前は俺の艦娘なんだ。他の誰よりもずっと強くなれる!!自分を信じろっ!!そして越えるんだっ!!己の弱さをっ!!」
「うっ、うぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!!でいどぐぅ、でいどぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
山田はあの時、自分の尻を指した犯人の顔を思い浮かべる。
「流石に今回はオイタが過ぎたな、卯月っ!!」
次回、卯月好きの人は見ない方がいいかも。