俺は五月雨が泣き止むまで頭を撫で続けた。あんまりクドクド言葉で慰めてても、俺は語彙力が無いから同じ事しか言えないしな。
「ありがとうございます・・」
「気にすんな、よし!五月雨。後は俺に任せてお前は部屋に戻れ」
五月雨の肩を軽く二回叩き、立ち上がる。
「いっ、一緒に行きます、今度こそちゃんと説明をして・・」
「いや、お前は一人で行ったんだろ?なら今度は俺が行く番だ」
腕をグルグル回し、首を回した山田はいきなり五月雨の両頬を手のひらで挟みこんだ。
「むぇ」
両頬を挟まれた五月雨は自然と口が「ぷ」の形になる。
「俺は天下の山田様だぜ?本気になったら誰にも止められねぇ。箱を取り返したらお前の部屋に持っていくからそれまで待ってろ。いいな?」
頬をプニプニ触りながら五月雨に視線を合わす山田。誘拐でもするのかな?と思われても仕方ない絵面だが、五月雨から見た山田はとても頼もしく、そして格好よく見えた。
「わかりました、私提督が来てくれるのを待ってます」
山田の手が離れたと同時に話す五月雨の目はいつも通りの明るく、大きなクリクリとした目に戻っていた。
「うし、いい子だ。」
その後、五月雨はドアを開けて自分の部屋に戻っていった。
「ふぅ。」
泣き出した五月雨が可哀想で一気に俺の怒りの沸点がピークに達したが、時間がたつに連れ、現在収まりつつある。口が達者になって行動力が活発的になったのは嬉しいが、それと同時に感情的になってきている。さっきまで五月雨を泣かせた卯月への「殺意」の感情が俺を支配していた。まるで俺が俺で無くなってしまうかように・・
「提督」
声がした方に顔を向けると、何やら分厚い書類を抱えた大淀が真面目な顔をしてドアの近くに立っていた。
「大淀・・・」
「提督、こちらへ」
大淀は山田にそう言うと、ドアを開けたまま、山田のいる部屋の反対の部屋に向かっていった。素直に大淀の後を付いていく。
「どうぞ、お掛けください」
立派な机に備え付けられた黒い回転式の椅子を手で指しながら大淀は言った。ここは先ほど山田がいた部屋のすぐ隣にある執務室という部屋。床には赤のカーペットが敷いてあり、壁は真っ白で一目では傷、汚れが全く見当たらない。家具は見る限り全て木製で出来ていた。部屋の真ん中に大きい机に、何かの書類がビッシリつまっている棚、洋服を入れるタンス。シンプルな部屋だ。出入口は寝室と廊下、二つある。
(川内をおぶった時もチラッと見たが、改めて見ると息が詰まりそうな部屋だ。)
大淀に指示されるがままに座り、机を触りながら周りを見渡す山田。そんな山田の前に立った大淀は眼鏡の位置を直しながら、口を動かした。
「失礼ながら先ほどの会話をドアの陰から聞かせていただきました。簡潔に言うと、五月雨さんが卯月さんに物を盗まれ、説得を試みたが拒否をされた。そういう事ですね?」
「そうだ、そして奴は俺の○ナ○処○を奪った・・・」
バンッ!!
大淀は手に持っていた大量の書類を机に叩きつけた。そう、叩きつけたのだ。
「・・・失礼。手が滑りました。」
「・・・・」
目力がすごい。大淀の後ろからゴゴゴとかなってそうな圧力を感じる。
「これは真面目な問題なのです。しっかりしてください」
「はい、すいません・・・」
大淀から叩きつけられた書類の一枚を手に取り、読んでみると上に相談報告書と書いてあった。
匿名希望
この前、身長が小さいピンク色の髪の毛の女の子が廊下にゴミを捨てていた。注意したが無視して何処かに行ってしまった。何とかしてほしい。
これは、まさか・・・。俺は他の書類にも手を取り読み進めていく。
あかつき
わたしがごはんをたべていたら、うづきちゃんがわたしのだいすきなはんばーぐをたべちゃったのくやしい。
朝潮
掃除をしていたら、「うーちゃんも手伝うピョン!!」と言ってきたので箒を貸したら、箒で叩かれました。
愛宕
靴にゴミが付いてると言われ、屈んだ時に髪をぐしゃぐしゃにされたわ。次に会ったら撃っちゃおうかしら。
日向
あのピンク、沈めてやる。
長門
提督の尻を眺めていると、何だか胸がざわめくのだ。こんな気持ち初めてだ、どうしたらいい?今度ゆっくりと話をさせてくれ。あなたの尻と。
磨留由
あの駆逐艦、断るごとに俺に因縁つけてきやがる。「もぐもぐ~」とバカを演じてやってるが、もう限界だ。お前が殺らねぇなら俺が殺るぞ?
龍驤
あかん、あの子。卯月とか言ったっけ?ウチのパッ・・大切なもんを盗んでいきよった。追っかけたんやけど逃げ足が早い、早い。ホンマになんとかしてや。
川内
この間はごめんなさい。私、夜になると気分が高ぶっちゃう性分でして。提督に迷惑を掛けてしまいました。反省してます。だから昼間の、その、埋めるのは勘弁して下さい。
鈴谷
提督、チィーッス☆相変わらずちょずいてる感じ?ウケルー(^q^)てかさ、あの卯月ってガキ。マジで可愛くないんだけど(;´д`)もう、ガン萎え~♪あたしの口紅を使って地面に絵ぇ書くとかマジ、ありえんティ~♪wwwお気に入りの色だったのにさ。て、事でお仕置きシクヨロね(^3^)/
そこで手を止めた山田は椅子を回転させ、後ろの窓側を向いた。
「後半からほぼ関係無くなって来たが、これほとんど・・」
「卯月さんに対する不平不満の書類です」
「はぁ~。」
なんだアイツ、俺と五月雨以外の奴らにもチョッカイ出してたのか。拳骨一発で勘弁してやろうと思ったがこりゃダメだ。
「最近の卯月さんの行動には目に余るものがあります。そして今回の提督への攻撃が決め手とって、いままで我慢していた他の艦娘達の怒りが加速して・・」
バンッ!!
廊下側のドアが勢いよく開いて、誰かが入ってきた。
「たっ、大変ですっ!!睦月型の部屋の周りを人が取り囲んで今にも暴動が起きそうなんですっ!!」
顔を青く変化させた青葉がぜぇぜぇ言いながら山田に近づいてくる。
「司令、このままではこの鎮守府が崩壊してしまいますっ!!」
「提督」
二人からの視線を背に受けながら山田はゆっくりと立ち上がり、夜空を見上げ静かに言った。
「行くか」