その後、五十鈴を含む艦娘達は山田に部屋に戻るように促され、それぞれ渋い顔をしながら部屋に戻って行った。廊下には山田、大淀、青葉の三人だけが残っている。
「はぁ、一時はどうなる事かと思いましたよ」
「あの空気は洒落になりませんでした。いつもならシャッターチャンスとカメラを構えますが今回ばかりはねぇ」
眼鏡の位置を直す大淀と額の汗を腕で拭う青葉は鎮守府崩壊の危機を回避出来たと安心し、一息ついた。
「五十鈴は姿が見えなくなるまでずっと俺の事を睨み付けてたけどな・・・おっ?」
艦娘達を見送った山田は床に転がっていた物に目を奪われた。
「なんでこんな所にバットが?」
床にあったバットに近づき、拾い上げた山田はバットのグリップに何やら書いてあるのに気づく。そこには「山田 金剛」と白いマジックのようなもので小さく書いてあった。
「まぁ、山田なんて何処にでもいるしな。」
深く考えず、適当な事を言った山田はバットを持ったまま卯月型の部屋のドアの前に立った。その様子を見た二人は一気に顔を青くさせ、必死に山田を後ろから抑えた。
「提督っ!!止めて下さいっ!!いくら何でもバットで殴るなんて酷すぎますっ!!」
「そうですよっ!!少し冷静になってくださいっ!!」
「お前らは俺を何だと思ってるんだ・・・」
顔を見合わせた二人は山田を押さえながら真面目に答えた。
「よく気絶する・・」
「単細胞?」
「よーし、卯月の前にお前らをターミネートしてやる」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
睦月型の部屋
ギギギギギッ!!
外の音が止み、ゆっくりとドアが開いていくのを睦月達はただ見つめるしかなかった。ドアが開ききり、彼女達が最初に見たのはバットを持つ山田だった。
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
彼女達は悲鳴を上げた。もしこの時、山田が手ぶらでこの部屋を訪れていたらこんな反応はしなかっただろう。しかし彼女達は先ほどまでの一件で最大級の精神的疲労により、まともな思考が出来なくなっていた。そんな中、真っ赤なバットを持った男がこちらを見ていたのだ、叫んでしまうのも無理もない。
「えぇ・・・?いや、いや、なにもしない、なにもしない。勝手にドア開けたのは悪かったけどさ。俺は卯月に用があるだけで・・・」
「「「「!?」」」」
ただの何気ない山田の言葉が彼女達の頭にはこう聞こえた。
「ほぉ・・・?おい、おい、たまらねぇな、たまらねぇな。卯月だけボコボコにしようと思ったけどよ、全員いるなら丁度いい・・・」
「「「「!?」」」」
「少しだけ話をしたいんだが(お前ら全員をブチのめして)」
「「「「!?」」」」
「いいか?(埋める!!)」
「「「「助けてー!!殺されるぅぅ!!」」」」
バタッ!!恐怖がピークに達した四人は仲良く気絶してしまった。
「・・・・なんで?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「それでーーーーーですか?こんなーーーーーて」
「ーーーんなものーーーーしてーーをーー」
「でもーーーーのーーがーー」
ここは執務室。少女の意識が覚醒する。
「う、うぅん」
「あっ、提督。起きたようですよ?」
卯月は瞼を開けてボーッと目の前に座っている山田を見つめた後、回りを見渡し、ここは自分の部屋ではないとすぐに理解した。
「ここは?」
「ここは執務室って所だ。」
「執務室?」
「そう。そして何故自分がここにいるのか・・・わかるな?」
山田は机に腕を置き、頭を置くと正面をじっと見据える。
「それは・・・」
真剣な顔をした山田から目を背け、卯月は少し前の記憶を遡った。いつも通り、他の艦娘に悪戯をした後部屋に戻って寛いでいた時に突然、姉の睦月が血相をかいて部屋に入って来た。どうしたのかと訪ねると姉は自分の悪戯に不満を持った艦娘達がこの部屋の周りに集まり始め、今にも恐ろしい事になるようなそんな感じだという。今まで散々姉に止めろと言われ続けた悪戯を陰で行ってきたのが悪かった。その後、姉と妹に質問責めと罵倒をされながら四人で身を寄せ合い、騒ぎが収まるのを震えて待っていた。
「お前、いろんな奴にチョッカイ出してたんだってな。皆えらく殺気を放ってたぞ?」
「そうですよ、卯月ちゃん。私も前々から注意をしていたでしょ?イタズラなんてしてはいけないって」
後ろからの声に驚いた卯月はビクッと体を震わせる。大淀はゆっくりと歩きだし、山田の近くで止まった。
「今回はもう注意だけでは許されませんよ、まったくあなたって子は毎度、毎度、人を困らせてばっかりで私がどれだけ・・・」
「あー、大淀さん、大淀さん。あんまり言ってやるな。今回の騒動で少しは反省したろうて」
先ほどまでの顔を変え、手をヒラヒラさせ、大淀を宥める山田。
「ですが・・・」
「まぁまぁ。なぁ、そうだろう?」
ブンブン!!
山田の問いかけに卯月は頭を上下に激しく動かし、肯定の意思表示をした。
「は、反省してるピョン!!もう悪戯なんて絶対、絶対にしないピョン!!」
「ほらな?」
「・・・・」
腑に落ちないといった顔の大淀に向けて山田は言った。大淀は明らかに不機嫌な顔をしている。それを見た卯月は更に言葉を続ける。
「大淀さんにも今までたくさん迷惑をかけたピョン、注意されても反省しないで悪戯を続けた事は謝るピョン・・でも、うーちゃんは反省したピョン!!あんな怖い思いはもうしたくないピョン!!」
半泣きで訴える卯月に大淀は少し困惑した。強く言い過ぎてしまったかな?嘘ついてないように見えるわという顔をしている。
「よしよし、反省してるんならいいんだ。反省してるなら・・・」
山田は蔓延の笑みで卯月に優しく問いかける。それを見た卯月に背筋が凍るような冷たい感覚が走った。
「そ、そう、ピョン・・反省・・してるピョン」
「そう、それじゃあ・・すう~~~~~」
山田は大きく空気を吸い込み叫んだ。
「アカえも~~~~んっ!!」
テレレ×6テレレレン♪
テレレ×6テレレレン♪
パパパ×8タラララララララララララッテ、トトット♪
「はぁい、呼びました?」
執務室の扉からアカえ・・明石が入ってきた。
「アカえも~んっ、助けてくれよぉーい。卯月がよぉ、卯月がよぉ、ここに来て誰とも目を合わせねぇんだよぉ。絶対嘘ついてるよぉ!!俺はコイツの本音が知りたいんだよぉ!!」
某漫画のようにデフォルメ化された山田は涙を滝のように流す。
「仕方ないですねぇ、提督君は・・」
明石はポケットではなく、胸から何やら取り出し、天に掲げた。
「ジンジン君~~!!」
「なにそれぇ」
「簡単にいえば、嘘発見器だねぇ、これを対象の頭に着けて、すべての質問に「はい」って答えてもらうの。もし嘘をついてるならセンサーが反応してブザーで教えてくれるんだ、すごいでしょ?」
「すごい、すごーい!!貸して、貸してー!!」
山田は明石に近づいて、ヘルメット状のジンジン君を受け取り卯月に被せた。
「オラァ!!」
展開がぶっ飛んでいて、脳内処理が追い付かない卯月は無意識にこの場から離れようと体を動かしたが、両手両足が縛られているのに今気づいた。なので抵抗、虚しく山田にジンジン君を被らされてしまった。恐ろしくなって身をよじった反動で座っていた椅子から落ちそうになった時、山田の手が卯月の片を抑えてそれを止めた。
「どうしたんだ?そんなに慌てて。死ぬわけじゃあるまいし。気楽にいこうぜ?」
山田は机に戻り、椅子に座り直した。
「まぁ初めに軽く試してみるか、いいか?俺の質問には全部「はい」と答えろ」
卯月は震えて小さく頷いた。
「悪戯は好き?」
「はい」
・・・・・。
ジンジン君に反応はない。山田は質問を続ける。
「姉妹にも悪戯をしたことがある?」
「はい」
・・・・・。
「俺はイケメンか?」
「は・・・」
ブー、ブー、ブー、ブー!!
執務室にブザーが響き渡る。
「・・・・・」
「・・・・・」
ゴホンと咳をした山田は再び質問を続ける。
「じゃあ、本題に入るか。お前は先ほどの騒ぎで反省したといったが本当だな?皆、一人、一人にちゃんと謝って許してもらいたい・・・そうだな?」
「は、はい」
果たしてジンジン君の反応は?大淀がゴクリと生唾を飲み込んだ次の瞬間。
キュイン!!キュイン、キュイン、キュイン、キュイン!!
キュイ、キュイ、キュイ、キュイ、キュイ!!
ジンジン君からパチンコの大当たり時に出るような音が盛大になった。
「これは何だい?アカえもん?」
「えぇー、この反応は全くと言っていいほどそう思ってないって事ですね」
・・・・・・・・。
「・・・・てへぺろ!!」
「なにが「てへぺろ」じゃぁぁぁぁぁぁ!!やっぱり嘘だったわ!!だってコイツずっと目がギラついてたもん!!反省してる目じゃなかったもん!!」
山田は勢いよく椅子から立ち上がると、手も足も縛られ身動きが取れない卯月を横に抱え、執務室から廊下に繋がるドアを足で力強く蹴った。
バンッ!!
「アカえもん、丸太か木の板を二枚持って海岸に持ってきてくれ!!あとロープも!!大淀、さっき話した通りコイツを海に連れていく。力持ちの奴、まぁ青葉辺りでいいわ!!アイツも連れて海に来い!!」
「提督!!何をするピョン!!離せピョン!!やめ・・」
山田は光の速さで海へ走っていった。
「丸太かぁ、倉庫にいくつかあったような・・」
明石が呟きながら部屋の外に出ていき、大淀だけ部屋に取り残された。彼女はやれやれと首を振り、執務室の電気を消して、戸締りの確認をとりつつ部屋を後にした。
ーーーーーーーーー。
真っ暗で何も見えないと思っていたが、外は月明かりで意外に明るくなに不自由なく海に向かう事ができた。山田は卯月を抱えながら波の音に耳を傾けながら、明石と大淀が来るのを待つ事にした。
「私をこんな所に連れてきて何をする気だピョン?」
抱えられた卯月が不機嫌そうに山田に問う。
「何をする?愚問だな。お前に罰を与えるんだよ」
「罰?なんでこんなところで・・・わかったピョン!!提督はうーちゃんを泣かせるような酷い事をするためにここに連れてきたんだピョン!!鎮守府の中でうーちゃんの声が響かないように!!」
「・・・・・」
「はっ、図星ピョンね!!いいピョン。好きなだけ殴ればいいピョン!!その後鎮守府に戻ったらあることないこと言いふらして提督の評判を下げてやるピョン!!」
「・・・戻れたらいいな」
ボソッと山田は呟く。どうやら卯月には聞こえなかったようだ。
「おーい、提督ー!!」
「来たか」
明石の声が聞こえ、山田は振り向く。そこには自分の身長の二倍の丸太を軽々と持った明石、くたびれたような顔をした大淀、そして・・・
「ヘーイ!!テイトクー!!待たせたネー!!」
顔を輝かせた金剛がブンブンと手を振りながらこっちにやって来た。
「お、おう」
青葉とは全く違う艦娘が来て、一瞬焦ったが卯月への罰が最優先と山田の脳は判断した。
「よし、じゃあ最初に卯月を丸太にくくりつけるぞ」
「えぇ?」
「は?」
「ワッツ?」
「今、なんて言ったピョン?」
明石、大淀、金剛、卯月は山田の言葉に驚いた。
「コイツを丸太にくくりつけて砂浜に突き刺した後、反省するまでずぅーーーーっと放置するんだよ」
山田は笑顔で言い放った。目はひとつも笑ってないが。
「よっと、テイトク。これでいいネ?」
「あぁ、いいわ。完璧だわ。最高」
だだっ広い浜辺に一つのトーテムポールが出来上がった。
「下ろせ、下ろしてピョン!!」
トーテムポールという丸太にくくりつけられた卯月は叫んびながら必死に体を動かす。しかし頑丈なロープで体を固定されている為、あまり意味はない。山田が無理やりロープで卯月の体を丸太にくくりつけ、それを金剛が一人で持ち上げ、浜辺に突き刺し、固定させた結果が今のこの状況である。(その場面を細かく書くと、ほぼ犯罪になりそうな描写になるので割愛します。)
そんな卯月を下から見上げ山田は言った。
「お前が本当に心を入れ替えて、皆に素直に謝れるまでここで反省してろ」
「ふざけるなピョン!!こんな事をしてタダで済むと・・」
卯月の言葉を無視して山田は言葉を続ける。
「お前の軽はずみな行動で涙を流す者、傷ついた者、何かを失った者が大勢いる。これはソイツら全員の怒りだ。精神を入れ替えるか、俺がいいと判断するまでお前はこのままだ。風呂も便所も歯磨きも何もかも出来ない地獄を味わうがいい・・・・」
そう言うと山田はゆっくりと鎮守府に戻っていく。
「ま、待ってください」
山田の後に大淀達も付いてく。卯月の耳にはもう、波の音しか聞こえなくなった。