「提督、その・・・彼女はいつまであの状態のままなのでしょうか?」
後ろから大淀が山田に話し掛ける。若干、早歩きのまま進む彼にとまどいながらも彼女は声をかける。
「本人次第だな、とりあえず五月雨の所にアレを持っていかなくてはならないから、細かい事はまた後でな」
アレというのは艦娘達のハンカチが入った箱の事である。山田は睦月型の部屋での騒動の後、部屋の隅に置いてあった箱を見つけ、執務室に運んでいた。山田の脳は今後の展開を想像し、妄想を膨らませ続けていた。
[山田の脳内]
「よぉ、五月雨」
「あぁ、提督!!無事だったんですね?私、提督に何かあったらどうしようって不安で、不安で・・・・んっ」
俺の人差し指で小さくて可愛い彼女の唇を塞ぐ。
「ははっ、俺があんなチンチクリンに遅れをとるわけないだろ?・・・・孝夫さんだぞ?」
今にも泣き出しそうな彼女に俺は上着を開くような仕草をとる。
「本当によかった・・・・本当に」
「それに、ホラ。これも取り返してきたぞ」
卯月から取り返した箱を堂々、五月雨に見せる。
「わぁ、ありがとうございます!!」
「これでまた明日から二人きりだな・・・・」
「提督・・・・」
五月雨は顔を赤くさせながら両頬に手を添え、少し俯くと、上目遣いで俺に熱い視線を向ける。そして目を閉じ、唇を尖らせ、顔を近づけてきた。
「ふっ、五月雨・・・・」
俺は震える五月雨の肩を優しく手で抑え、五月雨の唇に・・・・
ズブッ!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
目に何かを刺された山田が地面に倒れ、ゴロゴロと勢いよくもがき苦しみながら転がる。
「あぁぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁ!!」
「すいませーん、突然立ち止まったと思ったら白目向きながら、ブツブツ何か言ってたんで気持ち悪くて刺しちゃいましたー。てへー」
右手の人差し指と中指を突き出した明石が棒読みで山田を見下ろしていた。
「はぁぁぁぁぁ、なんかバカらしくなってきたわ。お酒でも飲みたい気分・・・・」
「いいねぇ。どうせ敵も来ないし、久々に鳳翔さんの所に飲みに行く?」
「えぇ、行きましょ」
明石の提案で何処かに行くことにした大淀はチラッと山田を見ながら言った。
「提督、着替えと生活用品は執務室に用意してあります。何かありましたら机の引き出しを調べれば呼び出しボタンがありますのでそれを押して下さい。では」
いまだ苦しんでいる山田をよそに早口で淡々と話す大淀。話終わった彼女は明石と肩を組ながらどこかに行ってしまった。
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「はぁー、綺麗だなぁ」
すっかり目の痛みが薄れ、目を開けた山田が見たのは一面真っ暗な空、そして散りばめられた宝石のように光る無数の星だった。子供の頃はよく寝転んで夜空を眺めていたが、大人に近づくにつれてそんな事をする時間も余裕も無くなっていった。あぁ、あの頃が懐かしい。周りの目も、時間も、汚れるのも気にせずに自分のやりたい事を思う存分やっていたあの頃が。
「もう少しこのままでいたい」
おもわず空に向かって手を伸ばす。
染々と自分の武骨な手を眺める。自分の手のひらはこんなに大きかったのか。幼かった頃の自分の手のひらの記憶と今の自分の手のひらを比べてそんな事を思う。慣れない事を立て続けに行ってきた山田はセンチメンタルになり始めていた。
「私もテイトクとこのままでいたいネ・・・・」
「そう・・・・か・・?」
山田は隣から聞こえてきた声に反応して声を出す。と同時に固まった。何せ今この場には自分一人だけだと思っていたのに隣から声が聞こえたのだ。つまりさっきからボソボソと話していた独り言を聞かれていたという事。
山田は目を瞑り、心の中で空にある無数の星に願った。
ーー恥ずかしい・・殺してくれ、と。
「!!」
現実から逃げようとしたその時、山田の上に何かが覆い被さった。ズシリとした重さが突然体の自由を奪う。
(ヤバイッ!!)
反射的に
「っ!!このっ・・・」
両腕に力を込めながら俺の上に乗っている奴の顔を見る。そこには必死な形相で俺を見る金剛がいた。
「・・・・・・」
「・・・・つ!!」
何かの感情が溢れ出ているような彼女の瞳を見ながら俺は悟った。彼女が何故俺にこんな事をしているのか。それは卯月に対して俺が行った罰に憤慨しているからだ。彼女達の仲はあまりよくないと聞いた、しかし同じ使命を持った仲間同士。少なからず思っているのだろう。そんな仲間をつい最近来たばかりの男が罰と称して海に張り付けにしたのだ。あまりの所業にとうとう堪忍袋の緒が切れてしまったのだろうか。なら・・・・
山田は腕の力を抜き、目を閉じた。
「!?」
それを見た金剛は一瞬、驚いた顔をする。
「好きにすればいい・・」
一言、山田は言った。
俺は頭もよくないし、偉くもない。そんな奴が人類を守れる力を持つ彼女達、艦娘に罰を与えるなど愚かな事だったんだ。提督、提督ともてはやされて俺はなんて事をしてきたのだろう。殴られても文句は言えないな。ここはケジメとして彼女の怒りをすべて受け止めよう。たとえ・・・・殺されたとしても。
いつもの山田とは思えない程に真面目な事を言った山田にナレーションは戦慄を覚える。
ポタッ、ポタッ。
その時、山田の頬に雫が落ちた。
(これは、涙?なんで・・・・)
金剛の顔を見ようと山田はおもわず目を開けた。何故泣くのだろう。俺が悪いのに・・・・などと考えていた山田は彼女の顔を見て固まる。
そこには顔をほのかに赤く染め、熱でふやけたようにとろけた目をした金剛。そして涙だと思っていた雫の正体は彼女の口から絶える事なく流れでる唾液であった。
「す、好きにしてくれって・・・・そんな大胆なっ・・じゅる!!ハァ、ハァ。あぁ、やばぁい。そんな顔をされたらワタシはっ!、ワタシはぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!誰か助けてぇぇぇぇぇ!!○されるぅぅぅぅぅぅぅ!!」
先ほどまでのシリアスを吹き飛ばすように山田の絶叫が海に響いた。