奇跡の会心の一撃により命からがら鎮守府内に逃げ延びた山田と青葉は緊張感が薄れたと同時に極度の精神的疲労のせいもあったのかお互いの背に寄りかかりながら、力無く座り込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、た、助かった・・」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、なんでこんな目に・・・・」
今まで味わったことのない出来事が続き、山田の脳にはアドレナリンが大量に分泌され、ちょっとしたハイテンション状態になりつつあった。しばらく呼吸を整えた後、山田はゆっくり立ち上がり手元のカメラを青葉に差し出す。
「ありがとう、コイツのお陰で助かった」
山田にカメラを差し出された青葉はジッとカメラを睨んでいる。言葉一つ出さず、ただジッと。
「・・・・?おーい、青葉ぁ?」
反応が無い彼女に山田は恐る恐る声を掛ける。すると青葉の目から涙がポロポロと流れ出した。涙の滴が一つ、二つ、3つと増え続け、しまいには大雨のように止めどなく涙が流れだした。
「うぅぅぅ、うぇぇぇぇぇぇぇ・・・・」
顔を手で覆いながら泣く青葉に戸惑いながらも山田は彼女が泣いてしまった理由を悟り、申し訳なさそうに言った。
「青葉、すまんな。お前をこんな事に巻き込んでしまって。俺も必死だったんだよ・・・・本当にごめ」
「私の大事なカメラに傷がぁぁぁぁぁぁっ!!」
「カメラかいっ!!」
山田のツッコミに青葉は激しく反応し、血の涙が出そうな程に山田を睨み付けた。
「カメラ以外に何があるんですかっ!!私がこのカメラを手に入れる為にどれっっっっだけ苦労したと思っているんですか!?このカメラは私のすべてなんですっ!!これが欲しい為に何回、大淀さんに土下座したと思っているんですかっ!!」
「お前のすべては土下座で出来てんのか、やっすいカメラだな。オイ」
「なにをぉぉぉぉぉぉぉ!!」
とうとうキレた青葉が山田の胸ぐらを掴んだその時、ヒタヒタと足音が聞こえてきた。
「「!?」」
山田と青葉は足音の方をゆっくりと見ると、先ほどまで追いかけてきた金剛が歩いてこちらに向かってきた。
「やべぇ!!すっかり忘れてた!!」
山田は上に逃げようと階段に向かおうとした。
「ちょっ、ちょっと待ってください司令」
走り出そうとする山田に青葉は思わず声を掛ける。
「なんだよ、俺はまだ死ぬわけには・・」
「あれを見て下さい」
青葉は人差し指を突きだし、金剛を指差した。山田はチラリと指差された方向を見る。そこには先ほどとは別人のような金剛がいた。バーサーカーのオーラも無く、血走っていた目も無くなり、見た感じ普通の女性に戻っている。そしてニコニコと手を振りながらこちらに近づいてくる。
「テイトクーー!!もう大丈夫ネ!!さっきはゴメンナサイ!!」
その様子を見た青葉は安堵の表情を浮かべ山田に言った。
「あぁ、よかった・・・・。いつもの金剛さんです。まったく司令官、金剛さんと何かあったんですか?さっきまでの鬼の形相とは全然・・・・はっ」
何かに気づいた青葉はニヤリと顔を歪めて、肘で軽く山田をつついた。
「さては金剛さんにエッチな事でもしたんですかぁ?ダメですよぉ?そんないいネタ・・・・じゃない!!そんな事をしては」
「・・・・・・」
「艦娘に手を出したなんて鎮守府中に知られれば大変な事になりますよねぇ?」
「・・・・・・」
「カメラの修理代の支払い。そして司令の土下座写真を一枚、撮らせてくれるのであれば目を瞑ってあげますよ?」
「・・・・・・」
女性として完全にアウトであろうと思える程のゲス顔をした青葉が山田に脅しをかけるが反応がない。恐らく図星を付かれて焦っているのだろう。青葉はそう思った。すると山田が突然、階段目掛け走り去ってしまった。
「あぁっ!!司令、待っ・・・・逃げられましたか」
最高のネタを逃がしてしまったとガッカリと肩を落とす青葉だが、ならばと今度は金剛に狙いをつけた。さっきは彼女の威圧的なオーラで思わず山田と一緒に逃げたが、それは山田個人に対する感情であって自分に対しては無い。そう考えた。
「いやぁ〰️、どうも、どうも、金剛さん」
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「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ、はぁ、はぁ、はぁ」
ところ変わって山田は必死に階段をかけ上がっていた。先ほどの金剛の顔を思い出しながら。そして四階に着いた山田は男子トイレに駆け込み、大の個室に入って鍵を閉めた。
「ここまで来れば、ひとまず安心だ」
便座に座りながら、二、三回深く深呼吸をする。
「見た目が普通に戻ったから、安心しかけたが・・・・俺の野生の勘がアレはヤバイと判断した」
あんなに狂っていた金剛が突然、自我を取り戻して友好的に接してきた事に山田は酷く恐怖を感じていた。
「とりあえず二、三〇分はここに立て込もって、少し休もう」
山田は便座にもたれ掛かり、瞳を閉じた。
ピピッ、ガガガガガッ。
鎮守中に何かの雑音が響いた。
「な、なんだ?スピーカーか?」
この田尻鎮守府には、作戦内容、呼び出し、時報などの情報伝達をよりスピーディにする為、いたる所にスピーカーが取り付けられている。もちろん山田がいる男子トイレにも。ただならぬ嫌な予感に生唾を飲みながら静観する山田。
(ハーイ、テイトクゥゥゥゥ!!あなたのハニー、金剛デェェェス!!)
山田は思考は彼女の声を聞いた途端、止まった。
(ワタシにあんな情熱的にモーションを掛けておいて逃げるなんてあんまりネ・・・・)
鎮守府内に金剛の悲しげな声が響く。
(でもワタシ、わかったの・・・・テイトクがワタシから逃げる理由を)
山田の顔中に尋常ではない量の汗が流れ出て、心臓の鼓動が身体全体に鳴り響く。
(ワタシと永遠に二人きりになれる場所を探していたのですネ・・ゴメンナサイ、ワタシ気づかなくて・・)
山田は凄い勢いで首を横に振る。
(カワイソウなテイトク・・寂しかったデショ、怖かったデショ、苦しかったデショ、だけどもう大丈夫・・今からワタシがアナタにありったけのLOVEを注ぎに行きまス。だから・・・・)
山田の身体が一気に震えだした。
(司令官っ!!早くそこから逃げてくださいっ!!じゃないと殺され・・・・)
(ガゴッ、ひぃっ!!止め・・ガッ!!ガッ!!ガゴッ!!ピー、ガシャ)
違う女の声が聞こえたかと思えば、何かを
山田は個室の鍵を開けて、外に出るために勢いよく扉を押した。しかし。
「えっ!!なんでっ!!なんで開かないんだ!?」
鍵を開けた筈なのに扉がまったく開かない。早くしないとアイツがここに来る。逃げなきゃ、逃げなきゃ。という焦燥感に襲われ、山田は体当たりで扉を開けようとするが、それでも扉は開かない。
「なんでだよ!?なんでっ!!」
思わず山田は扉を蹴った。その時、山田は気づいた。上から誰かに見られている事を。山田は恐怖で顔を歪め、震えながら上を見上げる。
(《●》 《●》)
そこには無表情な顔でこちらを見下ろす一人の女。金剛が個室の扉の上にぶら下がりながら、山田の顔を見つめていた。
「ひぃっ!!」
倒れこむ山田が最期に見たものは、どこか一点を見つめながら近づいてくる金剛の口元だった。彼女の口は喜びに歪みながらこう動いた。
「モ ウ ニ ガ サ ナ イ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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その後、山田は男子トイレの片隅で冷たくなっているのを発見された。死因は窒息。何故、彼がこうなってしまったのかは当事者にしかわからない。その後、田尻鎮守府は提督不在の為に解体され艦娘達は他の鎮守府へと移動となった。
後日談だが田尻鎮守府の艦娘の一人が妊娠したというニュースが大本営に知らされたのはその事件から一年後の事だった・・・・・・
俺の鎮守府(完) バッドエンド