「あー、もう嫌だ。こんな肉体的にも精神的にも疲れたのは、高校の入学試験以来だわ」
思わず口から弱音を吐く。階段を上がる山田は老人のように背中を曲げ、気だるそうにしている。自殺でもするのではないかというほどに覇気がない。トラブル&イベント続きで山田の精神はズタボロボンボンなのだ。
「つーか、なんで襲われてたんだっけ?えーっと・・・・あぁ、五月雨いじめたあのピンクを海に還して・・その帰りに金剛に襲われて・・・・」
二階に上がり、山田は立ち止まった。
「聞いてんのかよ?鳥海!!」
「聞いてます、聞いてますよ、姉さん・・」
誰かの話し声が聞こえる。なにやら賑やかだ。
「アイツはよぉ、そりゃあ、もうよぉ!!」
「はい、はい」
聞いた感じだと、酔っ払っているのだろう。怒鳴るとまではいかないが、結構な大声だ。酒が飲める所でもあるのか?というか酒飲んでいいのか?やっぱりこれは夢なんかじゃないのかと思えてきた山田は、階段に座る。
もうこれ以上、新キャラと交流したくない。面倒くさい。そう考えた。そんな山田とは裏腹に会話は続く。
「なんつーか、ずっと見てても飽きねぇんだよなぁ!!こう・・・・母性本能をくすぐられるみたいな?」
「へぇー」
なんだ?ここってペットでもいんのか?母性本能をくすぐる?子犬か?・・いいよな、子犬。足短くて、ピョンピョン跳ねてよ。モフモフだし、一日中見ても飽きねぇよな。
「飯を食う時もよぉ!!一心不乱にがっついてよぉ!!口回りの汚れも気にも止めねぇんだよ!!」
「そうですか」
食べ盛りだもんなぁ。そりゃあ、ガツガツ食うわ。体もちっちゃいし。食うのにも一生懸命だろうて。
「それがもうっ!!可愛くて可愛くて、かぁー!!」
「姉さん、ヨダレ垂れてます」
わかるわぁ。俺も柴犬飼いたかったけど、高ぇんだよな。あと躾とかトイレの世話とか予防接種とかさ。飼いたい、欲しいとは思うんだけど、なかなか・・・
「でもよ、照れてんのかわかんねぇけど、目を合わせてくんねぇんだよなぁー」
「お願いですから静かにしてください、また怒られますよ?」
でも生き物を飼うって事は、最期まで責任を持って育てるという事だ。自分の息子、娘のように深い愛情を持ち続けられるという自信があってこそ生き物飼う資格があるんだ。もう少し稼いで、生活に余裕と暇が出てきたら、検討してみるかなぁ。
他人の会話を聞いて、勝手に解釈し始めた山田は少しテンションが上がってきた。今までの会話から見て、おそらくこの鎮守府にはペットがいるのだろう。子犬かどうかわからないが動物には興味がある。というか動物と触れ合って癒されたい、いやマジで、マジでと山田は考えた。
「だからよぉ、今度また機会があったらまた飯持ってっいってやろうと思ってよ!!て・「提督」」
「ヒョッ!!」
ペットについてもう少し情報を得ようと聞き耳を立てていた山田は突然後ろから声をかけられた。反射的に後ろを振り向くとそこには
「そ、その・・さっきは大丈夫だった?」
川内が気まずそうに立っていた。
山田の頭に彼女との思い出がフラッシュバックしていく
ーー「私、わかるよ。トイレの後・・・夜戦行くでしょ?」
ーー「よーしっ!トイレに向かって全速全身っ!!進めー!提督号っ!!」
ーー「終わった?」
「あぁ、終わった。すべてが。」
ーーーーーーーーーーーーーーー。
「さっきと言うと?あれか?虫みたいな奴・・」
「そっ、そう。あの時提督と接触する前にクナイを投げたのは私で・・」
「そうか」
「それでその後、提督が階段に座り込んでブツブツ話してたから・・・大丈夫かなぁ?と思って」
川内は山田の顔を見ず、下ばかりを見ている。腕を後ろに組んでそわそわと落ち着かない様子だ。
「大丈夫だ、問題ない」
「・・・よかった」
山田の反応を見て川内はひとまず、ホッとした。そして何かを決心したかのように言葉を続けた。
「そっ、それでね提督・・・あの・・その・・ごめんなさいっ!!」
突然、頭を下げた川内に山田は一瞬、身構えた。
「あの時はなんかテンションが上がっててさ、提督の事を考えないで行動しちゃって・・それでたくさん迷惑をかけちゃったから」
反省している様子で、たどたどしく話す彼女を見ながら山田は思い出していた。
おんぶがてら首をしめられた。
下半身をハサミギロチンで圧迫され続けられた。
押しつけられた胸。
全てを捨てて女子トイレに特効した。
その時の吹雪のきょとんとした顔
天龍の恥ずかしそうな顔。そして・・
龍田のデカいゴキブリを見つけたような、決して人に向けてはいけないような目。
「提督?」
山田は大きく深呼吸をして、川内に手を差し出した。それが山田が出した答えだった。
許そう、最初は絶対に砂浜に埋めてやろうと思っていたが、その後の出来事がエグすぎてもういいかなって。さっきも襲われそうな時、助けてくれたらしいしな。もう水に流そう、憎しみは争いを生むだけだってわかれ☆
山田に手を差し出された川内は山田の顔をチラッと見た。するとそこには、怒りも憎しみもない、ただただ真っ直ぐ川内を見つめる優しい瞳がそこにあった。
「っ!!」
それを見た川内は両手で山田の手を握り、キラキラした目で山田を見つめ返した。
(なんだよ、よくみりゃ可愛い顔してんじゃねぇか)
祝え、たびたび憎しみあってきた二人(山田のみ)が今、お互いを尊重し、友好を確かめあっている。辛く長い戦いも一旦ここで幕を閉じることとなった。いやぁ、よかったな川内。許してもらえて。これで山田と川内の仲睦まじいお話が書けるってもんよ。よし、久々にアンケートでもとってみるかな。これで少しはネタが増え・・
ポロッ、カラカラカラ。
川内のポケットから何かが落ち、階段を転がり落ちた。山田は落ちたそれを目で追い、なにが落ちたのか確認した。
「・・・・」
山田はそれに見覚えがあった。それはボタンが4つある黒いスイッチだった。タイラント(金剛)を倒すために使った道具で山田の必須アイテムだった物だ。だが落ちた衝撃で(◯)のボタンが取れて床をくるくる回っている。おそらく壊れただろう。
「えーっと、あれって提督のだよね?その・・落としたままだったから返そうと思ってポッケに入れといたんだけど・・・」
「川内」
「はっ、はい!!」
「オ マ エ ノ チ ハ ナ ニ イ ロ ダ ?」