「ひいっ」
川内は身の危険を感じて山田から距離をとった。
「仲良くしようと思った途端、これですよ。へへっ」
一歩、川内に近づく。
「ごっ、ごめんって提督!!わざとじゃないの・・私だって提督と仲直りして、またお話したいと思ってたの、それから・・・」
「残りの俺の力をすべて使って終わらせてやる・・」
また一歩、近づく山田。
「球磨型の人達みたいに一緒にご飯食べたり」
「俺の拳が」
「明石さんみたいにじゃれあったり」
「真っ赤に燃える」
「さ、五月雨ちゃんのように本音で話をしたり」
川内の声が震える。瞳には涙も浮かべ、必死に山田に語りかける。
「勝利を掴めと」
「金剛さんのように追い駆けっこもしたいよぉ!!」
「いや、それだけはちゃう」
神の指的な技を出そうとしていた山田も流石に最後の言葉は聞き捨てならなかったようだ。
「え?」
「ちゃう、ちゃう。あれは追い駆けっこじゃない。あれは一方的な人間狩りだ、人間狩り。出荷ギリギリまで逃げる豚の気持ちを味わえたわ」
「・・・・」
「それならお前も今度、金剛に追いかけてもらえ、まぁ生きてるかどうかわからんがな!!あーはっはっはっは!!」
「・・・ふっ、ははは」
山田の小粋なブラックジョークと豪快な笑い声につられ、おもわず川内にも笑みがこぼれた。もう先ほどまでのピリピリとした空気はない。穏やかな空気の中、山田は川内に近づき頭を撫でる。
「別にもう怒ってねぇよ。わざとじゃない事はなんとなくわかったしよ。軽いジョークだよ、ジョーク」
その言葉をきいて、一瞬驚いた顔をした川内だが頬を膨らませ、山田の胸を叩いた。
「もうっ!!本気だと思ったじゃん・・バカ」
「はんっ、バカの方が人生楽しいんだよ」
「「はっはっはっはっはっはっはっ!!」」
(あんな顔されちゃ、流石に追い討ちはできんて)
二人の声が鎮守府内に響き渡る。二人でひとしきり笑った後、川内が山田に手を出してきた。
「なんだよ、もう握手はしたろ?」
「いいでしょ?私がしたいんだもん!!」
駄々っ子のように手を差し出す川内にやれやれと首を動かしながら山田も握手するために手を差しのべる。
「姉さんっ!!危ない!!」
互いの手が触れ合うその時、ビュンと誰かが二人の間に入ってきた。ホームに電車が来たような風が山田を襲う。思わず差し出した反対の腕で顔にかざした。
「提督」
川内とは違う落ち着きのある静かな声が山田を呼ぶ。かざした手をゆっくりと視界から離していく。そこには川内と同じ格好をした長髪の女の子が手を広げ、立っていた。
「少し落ち着いて下さい、姉さんは敵ではありません」
「じ、神通」
ふにっ。
川内にそう呼ばれた彼女は、凛とした顔で山田と対峙している。鎮守府内での彼女は穏和で他の艦とも仲良くしており、たとえ卯月にイタズラをされても笑顔でいる菩薩のような存在だった。姉に振り回されたり、妹にパシられたりと苦労人な彼女だが、許せない事がある。一つは、大好物のイチゴ大福を盗られる事、そして自分の姉妹が危害を加えられたり、馬鹿にされたりする事である。
「確かに姉さんは落ち着きがなくて、少し危ないところもありますが、明るくて優しい人なんです」
ふにっ。
「神通・・」
「姉さんは提督と・・・」
神通は知っていた。山田に対する姉の思いを。
ーーーーー。
「姉さん、おそば冷めちゃいますよ?」
「うん・・」
山田の方を見ながらそばを啜る川内。
ーーーーー。
「皆っさぁぁぁぁぁんっ!!提督のすっ・・・・ごく格好いい写真っ!!見たくありませ・・・」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「・・・はぁ」
「姉さん・・・」
ーーーーー。
「提督って・・・・毛深いんですね。」
パタン。
「・・・・っ!!」
「み、見てしまいました、と、殿方の・・・」
ーーーーー。
「まいったな。卯月、川内に続いて浜辺に埋める奴が一人増えちまったわ」
ガタガタガタガタ!!
「ちょっと、姉さん。お、落ち着いて」
「き、嫌われてる、私、提督に嫌われてる。うぅ」
「姉さん・・・」
ーーーーー。
姉の寂しそうな表情を思い浮かべ、神通は言葉を紡ぐ。
「仲良くしたかっただけなんですっ!!最初の印象は良くなかったかもしれませんですが、姉さんは・・・」
「神通!!」
神通の背中からひときわ大きな声が響く。それ以上言うな。彼女はそう言っているのかもしれない。今まで聞いた事がない姉の声に戸惑いながらも振り向く。すると川内が神通を指さして、アワアワと口をを動かしている。
「?」
姉のリアクションを不思議そうに眺め、視線を山田に戻す。
「・・・・」
山田はとても真面目な顔をしながらピクリとも動かない。
ゴクリと神通は喉を動かす。
(これが提督、山田孝夫・・・なんてプレッシャー。人間ではない私たちと同じくらいの何かを感じる)
山田と初めて対面した神通に汗が流れる。流れ落ちた汗は地面に落ちなかった。違和感を感じ、自分の汗が落ちた所を見るとそこは山田の手だった。なぜ提督の腕に自分の汗が落ちるのかと疑問を持った瞬間、神通の顔がみるみると赤くなっている。
むにっ。
「わっ、わわわわわわわわっ!!!!」
なぜ姉が、声を荒げ、あんな顔をしていたか神通はわかった。今まで感じたことがない違和感が神通に駆け巡る。
そう!!
山田は!!
神通の胸を!!
揉みしだいていたのだっ!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
山田は川内と握手する為に左手を出していた。そこに神通がスライドをする形で山田と川内の間に入ってきた。山田の左手は神通の腕に当たり、いい感じに回転して、吸い込まれるように神通の胸に収まった。エイ◯ャの赤石がカー◯の手に向かうが如く、ごく自然に動いた。ハハッ☆とんだラッキーボーイだぜぇ!!
「だ、大丈夫?神・・」
川内は座り込む神通に声をかけるが、神通は脇目もふらず泣いていた。姉を助ける為になれない事をしたあげく、上官にセクハラされるという何とも可哀想である。
「ひっく!!ひっ!!うぅっ~!!ひっ!!」
「神通、泣かないで。ねぇ?大丈夫だから・・大丈夫」
「・・・・」
その様子を眺める事しか出来ない山田の心には罪悪感という獣が体中を駆け抜る。山田だって普通の人間だ。多少暴力的だとしても人が本気で嫌がる事は絶対にしない男だ。彼は考えた、どうしたら自分は罪を償えるのか。どうしたら目の前の彼女と向き合う事が出来るのか。そして彼は見つけた。その方法を。
「・・情けねぇ」
「え?」
山田の言葉に川内は耳を疑った。
「情けねぇと言ったんだよ」
その言葉に川内は流石に怒った。
「ふざけないでよ!!神通は提督に胸を触られて・・傷ついて泣いてるんだよ!!」
「それが情けねぇっつってんだよ!!!!」
川内の更に倍の大声を上げる山田に一瞬、静まりかえる。
「たかだか体を触られたくらいでピーピー泣きやがって!!もし俺が敵だったらどうするんだっ!!」
山田の言葉に神通は泣きながら顔を上げ、山田を見つめる。
「敵が深海悽艦だけと、誰が決めた!!自分達に襲いかかるすべてが敵だと思え!!お前は胸を触られただけで膝まずいて泣くだけか!!」
「っぐ、ひっく」
「お前の仲間が、姉妹が敵に襲われている時、お前は泣いているだけか?敵に胸を触られただけで泣きわめいているだけか?」
「ちがっ、うっ・・」
「実際そうだろうが!!今、敵が現れてもどうせお前は泣いてるだけ。なんの役にもたたない腰抜けだ!!」
「ちがう・・」
「仲間が、姉妹が泣き叫んで傷ついたとしてもお前は泣いてるだけなんだなっ!!」
「違うっ!!」
山田の声に呼応して神通が歯を食い縛りながら立ち上がる。
「神通・・・」
「ならどうすんだ?」
「私が・・・私が敵を倒します。そして皆を守ります」
さっきまで泣いていたとは思えない程の強い眼光を放つ神通の背にはこれ以上はない程のオーラがあった。戦艦や空母にも劣らないその気迫は常軌を逸していた。山田はそんな彼女を見ると少し笑みを浮かべた。
「なら・・・倒してもらおうじゃねぇか。俺をよ」
「「!?」」
山田は手を広げ、無防備な腹を神通に見せつけた。川内と神通は山田の行動に対する理解が出来なかった。
「提督が、敵って・・・」
「お前、話を聞いてなかったのか?言ったろう、襲いかかるすべてが敵だと」
「すべてが・・・敵」
「軽い演習みたいなものだ。一撃で仕留めてみろ」
「で、ですが・・・」
煮え切らない神通を見た山田は真顔でこう言った。
「川内、殺すぞ?」
ブチィィ!!
その一言で神通の精神のリミッターは無くなった。右腕に力のすべてを集中し、一直線に山田の腹部に向かう。自分に襲いかかるすべてが敵、彼女の頭はそれを繰り返した。
神通の拳が山田を貫こうとした時、拳が止まった。
ブォン!!
「はい、そこまでです」
神通の力のこもった一撃は、小さな手のひらに阻まれ動きを止めていた。山田が止めたわけではない。なら川内?それも違う。
「提督はともかく川内ちゃんも、神通ちゃんも少し落ち着きなさいな」
割烹着を着た、黒髪のその女性は突然現れた。初めからそこにいたのではないのかと疑う程に。彼女は止めた。人など簡単に壊せるほどの力を人差し指のみで。
「「ほ、鳳翔さん!!」」
こーゆう山田もええんちゃう?(じこまん)