「まさか鳳翔さんが来るなんて思わなかったなぁ」
「そうですね。この時間帯ならまだ食堂の方にいるはずなのですけど」
川内と神通の二人は自分達の部屋に向かっていた。
「鳳翔さんも提督とお話したかったのかな?」
両腕を組み、首を傾げながら歩く川内。
「ふふ、案外そうかもしれませんね」
姉の横を歩く神通は手で口を押さえて、笑った。
「どうだろうな。そんなフレンドリーな感じではなかったような気がするけど」
その後ろ側を歩く山田。
「それは提督が問題ばかり起こすからじゃない?」
「失礼な、俺はこう見えても一生懸命だぞ。真摯にお前らと向き合ってきた自信がある」
「うっそだぁ!!なら今まで提督がやってきた事を思い出してみてよ!!」
ビシッと人差し指を山田に向けて言い放つ川内。
「・・・あー。うん、うん。あぁー・・・問題しかないわ。まいったねぇ、こりゃ」
「ほらぁー、私の言った通りでしょ?」
「ガッデム!!」
山田と川内の他愛のない会話で穏やかなムードが流れるなか、その流れに違和感を持つ者がいた。
「どうしたの?神通?鯉みたいに口をパクパク開けてさ」
「息が出来ないのか?まさか、喘息持ち?大丈夫?少し休むか?」
「・・・・ぜ・・」
「ぜ?」
「やっぱ喘息か。よし、壁に手をついて楽な姿勢をとってゆっくり呼吸するんだ。大丈夫、大丈夫だから・・・」
川内に顔を覗きこまれ、山田に背中をさすられながらも神通は言葉を続けた。
「何故ここに提督がいるのですか?」
妹の問いに川内はあっけからんと答える。
「バカだなぁ、神通。それは提督がこの鎮守府の提督だからだよ。ここにいるのが当然じゃないの」
「いえ、私が言いたいのはそういう事ではなくて・・・」
神通は山田の方をチラッと見ながら、衝撃の事実を口にした。
「鳳翔さんとお話しているはずの提督が何故ここにいるのですかと言っているんです」
ガラ、ガラ、ガラ、ガラ、ピシャーン!!
川内に電流走る。
ガラ、ガラ、ガラ、ガラ、ピシャーン!!
山田にも電流走る。・・・いや、なんで?
「そうだよ!!提督!!鳳翔さんとなにか用事があるんじゃなかったの?」
川内は鬼気迫る勢いで、山田に問う。
「いや、確かにあの人・・俺に用がある云々言ってたけどさ。俺に背を向けたままなんか止まっちゃってな。なんか怖くなって、お前らの後をついて来たんだな、コレェ」
「そんな木◯丸みたいな言い方・・・じゃなくて!!ヤバイよ、提督!!それはヤバイ!!」
思わず山田の肩を掴みながら、グワン、グワンと揺する川内の顔は真っ青になり、歯をガチガチと鳴らしていた。演技ではないと断言できる程の勢いだ。
「おっ、おおおおお落ち着けよ!!死ぬわけじゃあるまいし・・」
揺さぶられながらも軽く余裕を見せる山田。そんな彼に神通は少しうつむきながら話し始めた。思い出すのも嫌なのか、強く握る拳がプルプルと震えている。
「あれは、セミが鳴き始める初夏の頃・・ある方が鳳翔さんに言った、たった一言がきっかけでした。」
「・・ごくり」
真面目に話す神通を見て、思わず生唾を飲み込む山田。
「昔の鳳翔さんは、なんというか・・血の気が多い方でよく他の艦娘の方々とよくケンカをしていました。」
「ほぉ」
まぁ、初めて見た時は一瞬気が強そうな人だとは思ったが、殴り合いをするようには見えなかったな。
「その為、叫び声や怒号が一日中鎮守府内に響く事もあり、駆逐艦や海防艦の子達が怯えてしまって鎮守府としての機能が著しく低下しました。それを知った本部が鳳翔さんを止める為、戦艦の艦娘を一人、派遣したのです」
身内じゃ、完全に止まらんから第三者を加えたという訳だな?どこぞのヤンキー漫画みたいな展開だな。
「その艦娘が鎮守府に到着し、鳳翔さんに言ったのです・・・ーーーーーーーーと」
「えっ?何て?」
最初から小さかった声が途中からほぼ聞こえなくなり、山田は思わず聞き返した。
「ですから、ーーーーーーーーと」
だが神通の声は大して変わらなかった。なんと言ったのか、そしてどうなったのか。山田は知りたくて、知りたくてたまらなかった。
「あーもー!!おい、川内。その艦娘はなんて言ったんだ?教えてくれよ」
「えっ?私?」
何かを思い出すように腕を組ながら、相づちをうっていた川内に思わず声をかける。
「頼むよ、いいだろ?別に減るもんじゃあるまいし」
「うーん、まぁ昔の話だし・・ね・・・」
コッ。
「ん?どうした?後ろに後退って・・」
コッ。
何故か山田から一歩ずつ離れる川内。
「あわ、あわわわわ」
神通も川内と同じく一歩離れる。何かを恐れているのか、視線がやや上に向いていた。天井にクモでもいるのだろうか山田はそう思い、何も考えず後ろを振り向く。山田の瞳には和服姿の女性が拳を振りかざしている姿が写った。
「あああああああああああっ!!!!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー。
川内と神通は走った。自分達の部屋に向かって。走るしかなかった、走る事しか出来なかった。山田を助けるという考えすら出なかった。自分達がやれることは、逃げることのみ。怒り狂うライオンにネズミが勝てる筈は無いのだから。