俺はめーりんに会いに行く!   作:憩 恋子

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 気分転換やでっ! 熱しやすく冷めやすい性格のせいで、すでに飽きつつあるけどねっ!


第6話 完全で瀟洒な従者

 美鈴さんに案内されるまま、俺と霊夢は洋館の中にある広い部屋に来ていた。

 そこには数十もの机と、その机に付属する六つの椅子があった。つまり、椅子の総数は机の六倍あるというわけだ。

 …………この洋館には、そんなにも人がいるのだろうか?

「こちらが紅魔館の大食堂です!」

 ここに来てようやく洋館の名前が明かされる。

「へー、この洋館は紅魔館っていう名前なんですか。かっこいいですね」

「ですよねっ⁉︎ うんうん、同志がいて嬉しいです!」

 俺が素直にネーミングセンスを褒めると、美鈴さんはまるで自分のことのように喜ぶ。

 本当に子供のように純粋で単純な人だ。

「ちょっと待っててくださいね! 今から張り切って炒飯を作ってきますので!」

「はい、楽しみに待ってます!」

 駆け足で厨房へ消えていく美鈴さんに手を振り続け、後ろ姿が完全に見えなくなった瞬間。

「——っ‼︎」

 背後から凄まじい殺気を感じて、俺は震え上がった。

 圧倒的なまでの脅威に心臓が縮み上がる。だが、なんとか勇気を振り絞って首を回すと、そこには黒く禍々しいオーラを発する霊夢がいた。

「あんた、何のためにここへ来たのか憶えてる?」

「あ、紅い霧を消してもらうためであります!」

 そこには敬礼せざるを得ない何かがあった。

 俺は現代社会で飼い慣らされてしまった本能を総動員して、素晴らしく綺麗な敬礼をする。

「…………じゃあ、これはどういう状況? 敵の懐でご飯を食べるのが、あんたの考える最善策ってわけ? へー、平和的な侵略があったもんねぇ」

 チクチクと刺さる霊夢の言葉に居心地の悪さを感じながらも、俺は黙々と敬礼を続ける。

 ここで少しでも生意気な口を利けば、即座にあの細腕ではっ倒されることだろう。

「まぁ、とりあえず。今は相手の好意に甘えておきましょう。……帰ったら、もちろん夕飯はあんたが作りなさいよ」

 霊夢が咎めるように処遇を言い渡す。

「りょ、了解であります!」

 夕飯係を押し付けられた俺は再度敬礼し、静かに霊夢の隣の席に着いた。

 しばらくすると、俺たちが入ってきた扉とは異なる扉から数名の少女が入ってきた。

 彼女たちはロングスカートのメイド服を着ており、背中には透明な羽が生えていた。

「名付けるなら妖精メイドって感じね」

 霊夢が少女たちを見てそう呟いた。

 とんでもなくドヤ顔で言ってるけど見たまんまだよ? と言ってやりたいが、今霊夢の機嫌を損ねるのはとても不味いので口には出さない。

「あれ? あなた方はお客様ですか?」

 妖精メイド(命名・霊夢)の一人が、俺たちの元へ駆け寄ってきた。

「あ、はい。そうです」

「そうなんですかっ、では、ごゆっくり!」

 妖精メイドが一礼して集団に合流していった。そして、彼女たちはまた別の扉から出ていく。

 恐らく大食堂を通るのが一番の近道なのだろう。俺も近道だからとよく私有地を通り抜けたものだ。

 それからしばらく待っていると、厨房の方から香ばしい匂いが漂ってきた。

「なぁ、霊夢。今日の晩飯は何が——」

「——静哉ッ‼︎」

 ドォン‼︎ と、トラックと正面衝突したのかと錯覚するような衝撃とともに、俺はいくつもの椅子をなぎ倒しながら吹っ飛ぶ。その犯人は俺を突き飛ばした姿勢のまま、誰かと対峙していた。

 霊夢の前に現れたのは、冷たい瞳をしたメイドだった。顔の両側で三つ編みをした頭髪は銀色で、その髪と同じ色のナイフを多数指の間に挟んでいる。

 俺がさっきまで座っていた場所には、キラリと光を反射させる鋭利なナイフが数十本刺さっていた。

 霊夢が突き飛ばさなければ、俺は今頃ナイフを身体中から生やした状態で死んでいただろう。

「アンタ、客にナイフを投げるなんて随分なご挨拶じゃない。主人の教育が行き届いてるわねぇ」

「ええ、当然よ。お嬢様は私にとって最高の主人なんだから」

 突如現れた銀髪のメイドは、霊夢の皮肉をまるで意に介さない。

「……チッ」

「あら、お客様? 出口はあちらですが、案内しましょう、か!」

 言い終わると同時にメイドが——霊夢の背後でナイフを構えていた。

「霊夢っ‼︎」

「ぐっ! おりゃああ!」

 物凄い反射神経で霊夢は間一髪、背後から迫る凶刃を体を捻ることで避けた。

 すると、瞬きもしない内にメイドは消え去り、今度は全方位からありえない量のナイフが霊夢を中心に現れて襲う。

「くそっ、数が多いわね! 静哉! あんた暇なら倒した椅子くらい直しておきなさい! こいつを倒して美味しい炒飯食べるわよ!」

「お、おう……」

 意外に余裕なのだろうか?

 俺は言われた通り椅子を順番に立てていく。その間も、二人の攻防は続く。

「あれ、咲夜さんじゃないですか。どうかしたんですか?」

 場違いな声が戦場に響いた。

 声の主は、厨房から出てきた美鈴さんだった。

 手には、二人分の炒飯が。とても美味しそうだ。

「美鈴っ! こいつらは計画を邪魔する侵入者よ!」

「な、なんですとーっ⁉︎」

 美鈴が銀髪メイド咲夜の言葉を聞き、俺たちの顔を見て驚愕する。

「で、でも、あまり強そうじゃないですよ⁉︎」

 おぅおぅ、泣くぞこらぁ!

 美鈴さんが俺を指差して咲夜に伝えた。

「それは弱いから放っておいても大丈夫よ! こっちを手伝って!」

「はいっ!」

 ぐすん、みんなして寄ってたかってイジメやがってよぅ!

 もういいよ! 俺は美鈴さんが作ってくれた炒飯食べてるから、アンタらで勝手に戦ってろよぅ!

「ちょっと事実を言われたくらいで落ち込むんじゃないわよ! あ、一人だけ先に食べてずるい!」

 霊夢がナイフを避けエネルギー弾みたいなやつを避け、余裕綽々と言った様子で文句を言う。

 霊夢が強すぎる件について。

「美鈴さんっ! この炒飯、最っ高に美味しいです!」

「あははっ、ありがとうござ——ほげぇ!」

「美鈴さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん⁉︎」

 美鈴さんが花のような笑顔を咲かせながら、霊夢の攻撃で壁の方へ消えていった。

 俺は美鈴さんを迎えに行く——わけでもなく、炒飯を口の中へ掻き込む。

 うん、美味い。絶品だよこりゃあ。

 今は人の心配より、炒飯を味わうことの方が重要だった。




 読んでいただきありがとうございますっ!次話もお楽しみにっ!

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