タピオカを飲む話をしたいと思った。
※pixivに投稿してます

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呪術廻戦のSS少なくない……?


夏空とタピオカ

 

 

 

 

 「伏黒ータピろうぜー」

 

 「意味が分からん」

 

 暑い日だった。初夏もまだだというのに現れた殺人的陽射しは東京都へと機関銃のように途切れることなく襲いかかっていた。連日と続く集中砲火は都内全域を焼き尽くし、都民諸君の体力を著しく消耗させた。

 釣瓶撃ちにされた都民の一人、伏黒恵も相当参っている様子だった。普段なら決して開けない学ランの前を開け、日陰の中で今も続く上空からの強烈な掃射を凌いでいた。

 だがそれでも彼は訓練を再開しようとしている辺り、生真面目が垣間見える。温くなったスポーツドリンクを飲み干し、腰を上げた――ところに。

 

 「いや、分かれよ」

 

 釘崎野薔薇。睨み付けて唇を尖らせたのは、同じく日陰にいて、たった今まで同じように訓練をしていた伏黒恵の数少ない――最近一人減った――同級生。伏黒と違って自前のスポーツウェアを纏い、胡座をかき、手で作った扇で顔を扇いでいる。

 

 「分からん。説明しろ」

 

 ただまあ、ちょくちょく何を言ってるのか分からない。それなりにチームプレイは出来ようになったと伏黒は自負しているが、未だにこういう話をする時の釘崎に彼はついていけない。

 まだもう一人の話がマシだった、と彼は思う――そういう気がする。

 

 「はーこれだから…」やれやれとばかりに釘崎は首を振って「タピオカ飲みに行こうって誘ってあげてんの」

 

 「……なに?」

 

 「タピオカ」

 

 「そっちじゃない」眉を顰め。「なぜ俺を?」

 

 どうせ誘うなら禪院先輩だろうに。わざわざ自分を選ぶ理由がわからない。そう意図を込めた。

 

 「真希さん、用事で帰っちゃったからよ。折角誘ってんだからもっと嬉しそうにしなさい」

 

 見回してみたらいつの間にかいない。ぼうっとしてた間に帰ってしまったようだ。声を、掛けられたなそういえば、と伏黒は思い出す。

 

 「……他は」

 

 言って無駄なのはわかっていたのに、唇は言葉を洩らしていた。

 

 「パンダ先輩はタピオカどころじゃなくなっちゃうでしょ。簡易動物園になっちゃうじゃん

。インスタ映えはするけど」

 

 「なんだよ。俺、JKに人気だぜ? タピオカとコラボったらそりゃもう、瞬く間にフォロワー1万超え待ったなしだぜ?」

 

 日陰の丸砂利に転がって暑さから逃れようとしていたパンダが謎の自信で胸を張る。パンダ。喋るパンダ。成体の立派なパンダ。勿論、ここは上野動物園ではない。それにパンダはパンダじゃない。

 

 「そういう人気はノーサンキュー」

 

 腕を斜めにクロスしてみせる釘崎に、

 

 「まあ、誘われてもノーサンキューだけどな」恨めしげにカンカン照りを見、「ガングロパンダになっちまうぜ。ガングロなんざ今どき流行らねえ」とボヤく。

 

 のそりと気怠げに体を持ち上げれば、

 

 「狗巻ー、部屋でアイス食おうぜー」

 

 「…………シャケ」

 

 呼ばれて、パンダの隣でダウンしていた狗巻がふらふらと立ち上がる。どうやら相当熱波が堪えたらしい。シャケに張りがない。鮮度が落ちている。すっぱくなってそうだ。

 

 「今日はこれで終わりですか?」

 

 「熱中症になってもしょーもないしなー」

 

 「シャケ……」

 

 伏黒が訊くと、肯定を残して、パンダと狗巻の背中が陽炎の向こうに遠のいていく。

 

 「ほら、訓練も終わりだぞ」にやっと笑って「一時間後に駅に集合よ!」

 

 「いや、俺は別に」

 

 行くとは――と声を掛ける前には既に釘崎の背中は遥か彼方。四肢の生み出す加速がアウターの裾をぱたぱたとはためかせている。どんだけ楽しみなんだ。何も掴まず伸ばしたままの手と中途半端に口を開いた伏黒は思う。

 それから、暫し、行き場の無い言葉を閉じた口の中で転がして。

 

 「仕方ないか……」

 

 零れ落ちたのは、諦めだった。

 

 

 

 

 ++++

 

 

 

 

 「原宿のタピオカを舐めてた……」

 

 ぐぬぬと釘崎は言い、

 

 「暑い……」

 

 伏黒はぼやいて空を見上げた。眩しい。細まった視線の先に燦々と輝く日の玉。弱まる気配はない。

 

 原宿某所のタピオカ屋。店前にある路地に出来上がった行列は、二時間待ち。この世の地獄がここにある。実際、列んでいる女の子達の顔は大体死んでいる。嫌に静かな行列だった。葬列か何かだ。結構な数が青ざめているし、大体は汗まみれ。それに喋り飽きて手元のスマートフォンに集中している。

 

 流石の伏黒も学ランではない。ゆったりとした無地のTシャツに細めのデニムを合わせている。隣の釘崎はいつものようにスポーツテイスト。薄手の白と薄紫のナイロンジャケットを羽織、下にTシャツ、細い足を強調するピッタリとした黒のラインパンツ。

 

 「釘崎………」

 

 現状にうんざりした伏黒が、横目で声を掛けると。

 

 「嫌よ私」意図を察した様子「私、負けたくないから」

 

 キッと瞳に強い意思を浮かべてみせる。

 

 「その元気はどこから出てくる」

 

 「私の女子力は無限大なの」

 

 ふんすと言い切る釘崎。伏黒に言い返す気力がなかった。

 

 「暑いな……」

 

 今日何度目か、同じ呟き。同時に頬を伝った汗を手の甲で拭う。

 夏。まだ早い。しかし、今年の夏も忙しくなりそうだ。呪いは夏が近づくにつれて強くなる。夏が本番なのだ。

 去年も色々と忙しかったが、今年もきっと――伏黒はそう予感した。

 

 思うと、彼の内心に陰鬱が影を差す。理由は手前の話ではなく。もっと別なこと。ごく最近で、全て整理はついていないからか、伏黒の中にこうして時々顔を覗かせる。

 そういえば、葬式とかやれてなかったな――ふっと思い出す。落ち着いたら、上げてやろう。きっとそれで踏ん切りがつく。伏黒はそう心に決めた。

 

 

 

 

 ++++

 

 

 

 

 丁度、その頃。

 

 「ぶえっくしょん!!!! ぶべらっ!?」

 

 どこかの誰かがくしゃみと同時に鋭く、かつ痛烈な右アッパーを顎に食らっていた。

 

 「おいおい、ペプシまけちゃうだろー?」

 

 「いつつ……すんません……。ていうかこの大量のペプシどったんすか」

 

 「ホンダにじゃんけんで勝ったんだよねー。飲む?」

 

 「マジで?!?!!?! 飲む!!」

 

 

 

 

 ++++

 

 

 

 

 

 そんなどこかのことなど露と知らない伏黒は、絶妙にアンニュイな空気を醸し出していた。

 

 「なーに黄昏れてんのよ」

 

 「……なんでもない」

 

 誤魔化すようにぶっきらぼうに言う。

 

 「……ふーん、そ」察したような視線を向けつつも「ねえ、気づいてるわよね」釘崎は話題を切り替える。

 

 「当たり前だ」

 

 スッと、二人分の視線が脇に伸びる。先には建ち並ぶ雑居ビルの合間。視線の行く先は、二人のいる路地よりも更に狭い。両脇のビルの壁面にしがみついた室外機が隙間の面積を埋め尽くしているからだ。長い間、雨風に晒され、整備もされていないであろう様相。罅割れた隙間や侵食で脆くなった部分を突き破って這い回る雑草や、誰かの捨てた菓子の包装、空き缶と瓶が転がっている。

 問題は、その先だ。先にある暗がり。じめっとした黒の先へ視線は向けられていた。

 

 『ノ・マ・セ・テ・ケ・リ』

 

 耳障りな声がする――しかし、声なのだろうか。

 それは切り開いたばかりの腹腔で湯気を立てる臓腑に直接、氷柱を突き入れるような、聞く者の血の気を根こそぎ奪う音。姿は暗がりが飲み込んでしまったかのよう。そのため、視界に映らない。だから、声のような音だけがする。背筋を舐め上る悍ましさがそこにあった。ある、筈だ。その音は暗がりの奥底から聞こえてきているのだから。

 

 「……あそこに居るわよね」

 

 唇を手で隠して、ぼそりと釘崎は伏黒に囁く。

 

 「いる、筈だ」釈然としない口調「気配はある。だが――」

 

 「……? 気配だけ?」

 

 と、伏黒の反応に釘崎が怪訝な声を上げ、違和感を覚えた時。

「前に進んでくれますー?」

 不機嫌そうな声がした。振り返れば不機嫌そうな女の顔。化粧は濃く、真っ白だ。ファンデーションか地肌かは分からない。その中で蠢く唇は雪原に落ちた鮮血のように鮮やかだった。彼女の背後からも同種の、苛立ちが込められた険のある視線が向けられてくる。

 

 「ていうかー、止まっていちゃつくなら他行ってもらえるー?」

 

 急激に女の語調も強くなっていく。あからさまに苛立ちが高まっていた。瞳が、唇が。所作が。全てが女の機嫌が悪くなっているのを示している。すると、同調したかのように周りの視線も圧を強くする。

 

 『ノメテケ!! テケテケリリリ!!』

 

 すれば、暗がりの中で喚く音。騒がしくなっていた。どうやら列の中に何人か聞こえている人がいるようだ。反応している。目敏く気づいた釘崎は、

 

 「ちょっと伏黒!」女に気を取られていた伏黒に小声「呪いの声がでかくなってる!」

 

 「声?」聞き逃がせなかった。伏黒は釘崎に目をやり、路地に向け「――声が、聞こえるのか」

 

 ……聞こえない。伏黒は耳を澄ました。喚き始めた女を意識の外に追いやり、集中する、が――意味はない。だが、確かな事が一つあった。

 

 「呪いの気配が大きくなっている」

 

 二級はある。伏黒は目測でそう判断した――だが、今も呪力は増大している。危険だ。ひりつく肌と共に、無視できない脅威を彼は察した。ここでこれはまずい。伏黒が横目を向ければ既に怒り心頭の女、興味深げな野次馬。多すぎる――なにより、これは間違いなく。

 

 「呪いが感応しているのか……!」

 

 厄介だ。伏黒は思った。呪いが負の感情を糧にするのは当たり前だが、この成長速度は異常だろう。

 そして何故か、彼には声が聞こえない。代わりに隣の釘崎には聞こえている。

 

 「え、なに?!」

 

 近くで声がした。驚愕。周りを見回す女が一人。自然と伏黒はそちらに目をやっていた。隣には連れの男。恋人だろう。突然だったのか、目を丸くしている。

 

 「お、おい。どうしたんだよ」

 

 今も何かを探すように周りを見回す女に声を掛けて、肩に手をやる。

 

 「い、今、声が……声がしたの」

 

 「声って、なんだよ……」

 

 困惑する男を前に、「ひっ」と女は悲鳴を上げて、顔を引き攣らせる。

 

 「ノメって! テケリリって、聞こえるの……!! サトシは聞こえないの……?」

 

 「ええ、大丈夫かよ……。熱中症か……?」

 

 尋常じゃない様子に男も対応しかねていた。

 明らかに怯えている。しかし何に。分からない。困惑が濃霧のようになっていく。

 

 「……女性だけが聞こえているのか?」

 

 推測を零す。普通の男性ならともかく、伏黒は呪術師だ。呪いが見え、時に聴こえる。

 だからこそ出した答え。推論。正しいかは分からない。

 伏黒が放った〈鵺〉は上空を旋回しているが、こうも狭く暗い場所には探知も届かない。

 だから他を突っ込ませるというのは間違いなく愚策だ。狭いが故に迂闊な行動は返り討ちを生む。何より、相手を視認できていないのに真正面からというのは難しい。相当巧くやらねば、愚者の末路を辿るだけだ。

 

 そこで意見を求めようと「おい、釘崎――」声を掛けて気づく。

 

 「私のタピオカを、私のシティーライフを汚したな……!」

 

 「……何言ってんだ?」

 

 あまりに意味不明だったものだから、つい、伏黒は訊いてしまった。しかも何故かブチ切れてる。

 

 「ちょっと! 無視してんじゃないわよ!」

 

 するとさっきまでギリギリで踏み止まっていた女がついに爆発した。凄まじい剣幕で怒鳴りだした女をどうにか諫めようと努力しながら、釘崎の答えを待ち――。

 

 「呪いが分かった」

 

 答えはすぐに来た。

 

 「なに? どういう事だ」

 

 「最初から、見えてたのよ」口端は引き攣り、頬に冷や汗を浮かべ「私達は最初から、見えていた……!」

 

 「何を……?」眉を顰めた伏黒は「ここよ。これ自体が!」釘崎の言葉にようやく気付く。まさか。そうか女性にだけ聞こえたのではなく――。

 

 「女性が、呪いに取り込まれている……?」

 

 「……伏黒、七人岬って知ってる?」

 

 首肯。

 

 「起源については諸説あるが、共通項としては七つの霊が集り、列を成し、半永久的に彷徨う霊障。そこから開放される方法は唯一つ」

 

 言葉を作り、途中で気づいた瞬間、伏黒は内心であまりの迂闊さに歯噛みした。

 

 「代わりを作る。それだけだ……!」そして、と繋ぎ「ここに列がある!」

 

 「だけど七人岬は架空の存在。偶然でないなら、今この場で再現している誰かが居るはずよ」

 

 「呪詛師の仕業と言いたいのか」

 

 だとすれば、最悪の事態だ。相手によればこの二人ではどうにもならない。

 

 「たぶんね」自信は無さ気「私さ、最初ここ以外のタピオカ屋に行こうとしてたの。だけど……」

 

 「気づいたらこっちに居たと? ……行き先を聞いてなかったのは間違いだったか」

 

 過去の失態に、思わず伏黒は舌を打った。

 

 「何舌打ちしてんのよ!」すると脇からレスポンス。女の金切り声に伏黒の顔面が引き攣った。

 

 「それを今、思い出した」渋面「呪いだと、気づいたおかげで思い出せたかどうかは知らないけど……」

 

 「まあいい。祓うぞ」

 

 「当然。私のタピオカタイムを奪った事を後悔させてやる」物騒な口調で同意すると「で、どうするの?」

 

 「本体を探す」端的に言い「それ以外に方法はないだろ」

 

 「その本体は……」言い掛け「……もしかして」釘崎はふっと気づいた。そもそもこれはなんの待機列だ、と。

 

 

 

 

 ++++

 

 

 

 

 「まさかタピオカ屋が呪いだったなんて……」

 

 「……盲点だったな」

 

 コンビニの前で二人揃って項垂れていた。時刻は六時手前。日はまだ沈んではいない。うっすらとした黄色が彼らの前を通り過ぎていく。それも徐々に面積を減らし、影に呑まれつつあった。地獄の釜茹でのようだった気温も、茹だるような熱波も、炎の様な陽射しも身を潜めていた。

 

 「はぁ……飲み損ねた」

 

 あの時間なんだったのよ……。釘崎は深い深い溜息と共にそう吐き出した。

 

 「しょうがないだろう。呪いだった。呪詛師がいないだけマシだったとでも思うしか無い」

 

 慰めのように、自分に言い聞かせるように、伏黒は言う。

 ――原因は、そのタピオカ屋の不景気にあった。暑さで繁盛するはずが、周囲の、それも大通りに出来た人気店達に根こそぎ客を奪われたこと、客が来ても大して呑まずに捨てられるタピオカ、流行りに乗っかり無理に作った借金の返し方、そういう事の積み重ねが呪いを生んだ。というのを夏の魔障が増幅させたとか。

 

 「どうして私に声が聞こえて、あんたに聞こえなかったのよ」

 

 「客層、じゃないか?」これはもう憶測だったが、とりあえず伏黒は言葉にする。

 

 「タピオカってあまり男性客を呼ぶ商品じゃないだろう。流行りに乗りがちな若い女性向けだ。発生の原因としても辻褄が合う」

 

 と思う。最後のここは言葉にしなかった。

 

 「なるほどねえ。七人岬は……偶然だったかぁ」

 

 納得したように釘崎は呟き、会話は止んだ――数分の沈黙の後。

 

 「……帰るか」伏黒は沈黙を引き裂き、壁から背を離して歩き出した。

 

 「あ、ちょっと待ちなさいよ」と、アーチ型の車止めから飛び降りた釘崎は後に続いて一歩踏み出し――はたと足を止めた。

 

 「どうした?」

 

 追い付いてこない釘崎が気になり振り向くと、何かを見つめる彼女が居て。自然と向けられた視線の先を追えば。

 

 「あっ」ぽつりと零した伏黒に「――よし」と指を持ち上げ「あれ、買って帰るわよ」

 

 『新発売! タピオカミルクティーフラッペ!』

 

 自動ドアに貼られた広告を指して、釘崎は決定事項の様に言って笑った。

 

 

 

 

 ++++

 

 

 

 

 「おーい、伏黒!」

 

 教室の扉を勢いよく開け放ち、また勢いよく駆け寄ってきたと思うと床を滑ってスライドイン。丁度、伏黒の机の横で止まり。

 

 「タピろうぜ!」

  

 いい笑顔とサムズアップ。それに、文庫本へと目を向けたままの伏黒は、

 

 「この間したからパスだ」

 

 「は?! 誰と?!」

 

 「釘崎」

 

 答えた。するとバカみたいに目を見開き、ガーンという効果音を背景に置いて虎杖は叫ぶ。

 

 「まじかよ! 仲間外れとか酷くね?!」

 

 文庫本から目を上げた伏黒は呆れ顔を浮かべいて。

 

 「死人がタピオカ飲めるか?」

 

 言うと、虎杖の姿が伏黒の視界から消えた。

 何事かと一瞬、思って、気づいてから伏黒影は天井に視線をやる。垂直二メートルほど上、虎杖が居た。飛び上がっていた。垂直跳びだ。本当に馬鹿げた身体能力。呆れを通り越して驚嘆を覚える。

 そのまま空中で、とある態勢をとった虎杖は、来た道を戻るように重力に引かれて落ちてきた。

 

 「その節は本当に申し訳ありませんでしたぁ!」

 

 キレイな土下座。しかもジャンピングだ。高等テクニック。実に鮮やか。10点満点中8.5。審査員は五条悟でお送りました。

 

 「とりあえず、タピオカは釘崎に頼んでこい」

 

 「分かった! 釘崎ー! タピろうぜー!」

 

 「は? 急に何よ」

 

 ファッション雑誌を捲っていた釘崎は、スライドインしてきた虎杖に眉を顰める。

 

 「いや、だからタピオカだって。伏黒と行ったんだろ?」

 

 「いやいや……――」と何事か言い掛けて「まあ、いっか」釘崎は笑い「そんじゃあ、タピるわよ! 野郎ども!」

 

 「おー!!」

 

 バカが二人になった。その辺りから、伏黒は文字を追う気が失せ始めていた。しかも野郎どもとはなんだ……? 伏黒が思った直後。

 

 「ほら、伏黒! いくぞ!」

 

 バカみたいな笑顔の虎杖は、教室の入口からぶんぶんと手を振っている。

 

 「……ああ」

 

 そういうことか。内心思い、溜息。

 と、その時。陽射しを遮っていた雲が流れていった。そうなれば必然、遮られていたものが伏黒に降り注ぐ事となる。一度和らいで甦ったこの輝きは、まるで早く行けと伏黒を急かすよう。

 

 「今日も暑いな」

 

 眩しそうに窓の向こうを見上げ、目を細めた視線の先。そこで彼の夏は始まろうとしていた。

 熱い陽射しは、逃れられない苛烈な日々の始まりをどうしようもなく伏黒に予感させる。けれど、舌はあの日味わった甘味を思い出す。

 それに思わず伏黒はふっと唇を緩めると。

 

 「伏黒!」呼ぶ声に「分かってる」肩を竦めてから、彼は栞を挟んだ。

 

 

 

 

 

 

 


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