ガンダムビルドファイターズセルリアン   作:ジャッジ

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シナンジュ初陣

1

「ラビアンローズ」という名前を聞いて何を思い浮かべるかと問われたら、多くのガンダムファンはアナハイム社所有の研究施設兼自走ドック艦だと答えるだろう。それは当然の反応だ。Zガンダムを始め、宇宙世紀にまつわる作品ではよく登場する施設としてとても有名だ。ただ、青華町に住むガンプラ好きは別の答えを言うに違いない。

話は少し逸れるが、青華町の外れにある昔ながらの風景が広がる商店街、その中心部にあるのが我ら青華学園ガンプラ部の行きつけの模型店がある。その名も「ラビアンローズ」という。きっと店主は相当な宇宙世紀ファンに違いないと思われるかもしれない。しかしここの初代店長がTWO-MIXの大ファンだったということは知る人ぞ知る情報だ。

「今日定休日じゃなくってホンマ良かったわ」

そう言って部長はホッと一息ついて言った。いやいや、まさかそれも確認せずに言い出したのか。一年間付き合って知ってはいるが、なんと行き当たりばったりなんだろう。これで定休日だったらどうするつもりだったんだろう。

いや、やめておこう。今それを問うのは野暮というものだ。現にアキちゃんは今、窓から見える積み上げられたガンプラに目を輝かせている。それなのに水を差すわけにはいかない。

「そんじゃあ、行こっか!」

部長の掛け声に従い、私たちは店の中に入った。商店街の構造上なのか、横の広さはともかく奥行きはかなりある。入ってすぐ右にはレジがあり、商品棚にはガンプラやそれにまつわる品が所狭しと並んでいる。平日の昼間ということでお客さんも少なかったが、どういうわけか店員の姿が見当たらない。

「結構広いわね。ていうか、店員がいないってどういう事?」

「おかしいですね。いつもなら店長か店員の人がレジにいる筈なんですけれど」

キョロキョロと見回してみたが、どこにも店員らしき人の姿は見えなかった。

声をかけてみようとした時、お店の奥から大きな声が聞こえてきた。

「どないしたんやろ?」

「何かあったのかも。とりあえず行ってみましょう」

「あっ、ちょっとミサキさん!」

1人でさっさと奥に進むミサキ先輩を私、部長、アキちゃんの順に追いかける。

商品棚を超えた先、物で溢れかえっていた店先とは違い広々とした空間が広がっている。むかって右側には長机と椅子が数個置いてある。

奥には六角形の形をした機械があり、そこから青白い光が発せられていた。左側にはモニターが設置されていて、数人の子供が集まっていた。中には制服を着た近所の中学生らしき姿もある。

「これって、ガンプラバトルの?」

「そう。このお店はガンプラバトルのシステムが置いてあるんや。珍しいやろ」

アキちゃんの質問に部長は胸を張って答えた。確かに、学校の近辺でバトルシステムを置いてある場所といえばこのお店くらいしかない。ガンプラバトルを愛する者としては近所にバトルシステムがあるのは本当に有難い。

「さっきの笑い声って、今プレイしている人たちから?」

「そうだよ。でも、今はあんまり近づかない方がいいかも」

横から急に声をかけられ、私たちは全員ビクッとなって驚いた。アキちゃんに至ってはまたも「うわぁ!」と声を出していた。

横にいたのはピンク色の薄いエプロンを来た若い男性だった。年は20歳前後といったところで、体格の線は細く顔には無精髭を生やしていてど、大変言い難いのだがどこか頼りない雰囲気を醸し出していた。

「あっ、あなたは確かバイトの人」

「ああ。君たちは青華学園の生徒たちだね」

「そうですが、なぜ近づかない方がいいのですか?」

「今どこかの高校生が占有していて、子供達が使いたいって言ってるのに退いてくれないんだ。『退いて欲しけりゃ俺たちに勝ってみろ』って言ってね。今ちょうど、中学生の何人かが挑んでいるところ」

よく聞いてみると、子供たちが口にしていたのは占有している人たちの悪口と戦っている中学生たちへの声援だった。言っている間に、一機のガンプラがビームに貫かれて爆発した。それと同時にあざ笑うかのような笑い声が響き渡った。もしかしたら、さっきの笑い声も彼らが出したのかもしれない。

高校生たちのガンプラは、全て改造したりオリジナルのカラーで塗装されていて完成度はかなり高い。かたや中学生のガンプラは塗装に色ムラがあったりパーツのはめ込みが甘かったりして、ところどころ作りが荒いのがわかる。ガンプラバトルではガンプラの出来が性能に反映される。作り込まれたガンプラほど性能が高いわけだ。この時点で、中学生たちのガンプラはもうパワー負けしているわけだ。

「なんちゅうヤツらや! なんとかならんのですか?」

「注意したんだけれど、逆にボロクソに言われちゃって……」

店員さんはそう言って悲しそうに肩を落とした。もしかしたら、その時のことを思い出してしまったのかもしれない。

その時、バトルシステムから『battle ended』という音声が聞こえて青白い光が収束していく。どうやらバトルが終わったようだ。結果は、中学生チームの負けだった。またも耳障りなあざ笑う声が聞こえてくる。それと同時に、子供たちの落胆する声も。

敗北した中学生たちは悔しそうに手をギュッと握りしめてた。その様子を見て、高校生たちはまた煽っているようだ。もう、なんだか見ているのも辛くなってきた。

「部長、今日は帰りません?」

「確かに、こりゃあタイミングが悪かったなぁ。今日は仕切り直そか、ってあれ。アキちゃんは?」

「えっ、さっきまでそこに……」

さっきまでアキちゃんがいたところを振り返ってみたが、どこにも彼女の姿がなかった。あたりを見回しても、彼女の影すら見つからない。一体どこに言ってしまったんだろう。あの高校生たちが怖くなって、どこかに隠れてしまったんだろうか。

「お疲れ様です。よく頑張りましたね、皆さんとてもいい動きをされていましたよ」

バトルシステムの方から聞き覚えのある声がした。なんだか嫌な予感がして振り返ると、負けた中学生たち一人一人に声をかけていた。一人ずつ手を握ったりガンプラえお手渡したりして、なんて手厚い慰めなんだろう。いやいや、注目すべきはそこじゃない。こんな状況で前にいったら、絶対に高校生たちから難癖を作られるに決まっている。

「おいおい惨めだなぁ。ボッコボコにされて女の子から慰めてもらってさぁ、だっせぇの!」

予想通り、高校せたちの煽りはさらに過激になっていく。いい加減、聞いているこっちも腹が立ってきた。でも、下手に首を突っ込んで暴力沙汰になったら大変だ。それこそ廃部の危機に陥ってしまう。なんとしても止めないと。

引き止めようとアキちゃんの元に行こうとして──

「お黙りなさい」

彼女の声に、その場の全員が動きを止めた。言葉が発せられた瞬間、周囲の温度が5度くらい下がったような錯覚に陥った。寒気がして悪寒が背中をかける。それが本当にアキちゃんから発せられたものだと認識できなかった。部室前で見せたあの弱々しい姿からは想像できないほど、強いオーラみたいなものをまとっている。ような気がした。

目つきも部室で見せた弱々しいものではなく、冷たくて鋭いまるでナイフのような目だ。睨みつけられた高校生たちは少したじろいでいるように見えた。

「な、なんだよ。やるってのかよ。いいぜ、今度はお前がバトルしろよ。そんな目で見てたんだから、逃げるなんてことはないよなぁ?」

「ええ、もちろんです。逃げも隠れもしません。3人同時にお相手します。それでよろしいですね?」

高校生たちの煽りに対し、アキちゃんは余裕の表情で挑発している。側から見てたらカッコいいと思うかもしれない。現にさっきまで悪口を言っていた子供たちは全員、アキちゃんをキラキラと輝いた目で見つめているからだ。でも身内からすればとても見ていられない、めちゃくちゃ心配だ。あんだけ啖呵切っているけれど、彼女はまだガンプラの1つも作ったことのない初心者なのに。

絶対に大丈夫じゃない。私はそう思って、高校生たちが黙々と自身のガンプラをセッティングしている隙にアキちゃんの元へ駆け寄った。

「待って、待ってよアキちゃん。変に関わっちゃダメだって、後々めんどうなことになるから! 第一、あなたガンプラ持ってないじゃない!」

「ええ、持ってません。なのでそこの中学生からお借りして……」

「そういう問題じゃないって! ガンプラ作ったことないんでしょ? 初心者なんでしょ?! そんなので勝てるわけないじゃない。しかも3対1とか無理無理、勝率ゼロパーセントだよ。なんでそういう所だけ思い切りがいいのよ!」

対するアキちゃんは、きょとんとした目で私を見つめていた。少しだけ、ほんの少しだけ熱くなってしまったけれども、もしかして、何か変なことを言ったかな。

アキちゃんは私の顔を見てガッツポーズをすると、やる気に満ちた顔で答えた。

「ご忠告ありがとうございます。ですが、すみません。一生懸命にバトルをした人をバカにする人を、私は許しておけません。それにこれ以上、ここを占有させるわけにもいきません」

アキちゃんは礼儀正しく、それでいて丁寧かつ律儀に返事してくれた。この時点で私は彼女を説得することを諦めた。今の彼女に何を言っても無駄なんだろう。頑として自分の意志を曲げないタイプなんだろう。こういう時はどうすればいいか。だいたい相場は決まっている。こちらが折れるしかない。

「オッケー、わかった。わかりました。そこまで言うなら止めないわ。私がセコンドに入るわ。ガンプラも私のを貸してあげる」

「本当ですか?」

「その代わり、絶対に勝つわよ。いいわね!」

「もちろんです」

ポシェットからシナンジュを取り出して、私もアキちゃんの隣に立つ。目の前にいる高校生たちは3人とも怪訝そうな顔をしている。

もし負けたら。と思うと足がすくむ。きっと中学生たちみたいにバカにされるに違いない。それは怖いことだ。でも、初心者の後輩をそんな場に立たせるわけにいかない。しかも1人なら尚更のこと。だったら私も、ここは覚悟を決めよう。一緒に前に出るんだ。

『Gunpla battle combat mode, started up. Mode damage levels set to B. Please set your GP base.』

バトルシステムが稼働を始め、青白く輝き出す。今回は私のGPベースを使うため、アキちゃんの前にGPベースを置いた。

『Beginning palvsky particle this person. field 5 mountain.』

4人のベースが置かれたことを確認すると、システムはプラフスキー粒子を散布してガンプラたちの戦場を作り出した。フィールドは山岳地帯、斜面一帯の木々が切り取られ、あちこちに坑道が見えるここは「08MS小隊」に出てきた秘密基地をモチーフにしたステージなんだろう。

『Please set your Gunpla』

「あっ、ちょっと待ってください」

アキちゃんは私を引き止めた。今さらなんだろうと思っていると、カバンの中から小さな箱を取り出した。

その中に入っていたのは、ガンプラとほぼ同じ大きさの戦闘機だった。アキちゃんはそれを私に差し出した。

「これって使えませんか?」

「なにこれ、戦闘機?」

パーツを動かしてギミックを確認してみる。ミサイルランチャーとビームキャノンが2つずつ、それからソードストライクガンダムの対艦刀「シュべルトゲベール」を装備している。戦闘機にしてはずいぶんと豪華な武装だ。144/1サイズなのにも関わらず、キャノピーやスラスターなどの細かい部分まできっちり作り込まれている。

なんとなく機首部が動くような気がしたので折りたたんでみると、なんとそこからガンプラへの接続ピンが姿を表した。試しにシナンジュのバックパックを外して取り付けてみると、カチリと音を立てて固定された。

「うっそ、なにこれ。ストライカーパック? それともシルエットシステム?」

「私の友達がくれたんです。確か名前は、フラグメンツストライカー」

「へえ。その友達のことについても、また後で教えてね」

私は軽口を叩きながら、フラグメンツストライカーを装備したシナンジュをGPベースにセットする。ガンプラのプラスチックに粒子が反応してモノアイが怪しい音を立てて光る。そうそう、この音が堪らなくカッコいいんだ。これだからジオン系ガンプラはやめられない。

それはともかく、これでシナンジュを自由に操縦できるようになった。私の目の前にはガンプラの状態を表示するモニターが現れた。アキちゃんの方にはコックピットが展開されている事だろう。

「アキちゃん、目の前に黄色い玉があるでしょ? それを使えば操縦できるから」

『わかりました』

通信用モニター越しに顔を見てみると、以外にも緊張している様子はなかった。高校生たちを前にあれだけ言ってのけるんだから、それくらいの度胸はあるんだろう。ふと、どうして入部届けを出す時に使えなかったんだろうと不思議に思った。

『battle start !』

「よし。準備ができたら黄色い玉を押し出してシナンジュを出撃させて!」

『わかりました。シナンジュ、行きます!』

掛け声と同時にシナンジュはカタパルトから射出され、モノクロームのガンプラが勢いよく青空に飛び出した。バトルシステムのステージ再現度はとても高く、空だと流れる雲も本物のようにリアルに表現されている。

「しまった。景色に見とれている場合じゃなかった」

私はすっかり忘れていた自分のやるべきことを思い出した。

セコンドにはやるべきことはたくさんある。索敵や自身の機体の状況をチェックなど多岐にわたる。早速、私はシナンジュの機体データを確認した。バックパックを外してストライカーパックを付けてしまったので、機体のバランスが崩れてはいないかな。

「うっそ。なにこれ……」

機体の性能を示すバロメーターを確認して私は確然とした。おととい完成した時に確認した時よりもステータスの方が高くなっていた。特に機動性の部分は飛び抜けていて、基の機体にはなかった空中で浮遊する能力まで追加されていた。

「バックパックを付け替えただけでこれだけって。あの戦闘機、どんだけハイスペックなのよ」

この戦闘機兼バックパックを作ったというアキちゃんの友達は高い技術を持っているに違いない。

すると、甲高い警告音がコックピットゾーンに鳴り響いた。ついで山頂付近から幾条のビームが襲いかかってくる。私が避けるように支持を出す前に、アキちゃんはシナンジュを動かして全てのビームを回避した。すぐにメインカメラが撃ってきた敵の姿を映し出した。

敵は3機。両手にバズーカを装備し、ベースジャマーに乗っているのは「逆襲のシャア」で始めて登場したジェガン。右にいるのは「ガンダムSEED ASTRAY」のアストレイレッドフレーム。バックパックはフライトユニットではなくエールストライカーに換装してある。そして左に控え、ビームライフルを構えているのは「ガンダムビルドダイバーズブレイク」のシャイニングガンダムブレイク。さっきのビームはこのブレイクから放たれたに違いない。

『さっきはよくもボロクソに言ってくれたよなぁ。だから、ラクには終わらせねえぞ!』

シャイニングブレイクのファイターから脅しにも似た罵声が送られてきた。それと同時に、ビームライフルを乱射しながら迫ってくる。それの後を追うようにアストレイ、ジェガンと続く。

「今の声で萎縮してないかな」

気の弱いアキちゃんのことが心配になり、モニターを接続してみる。しかし顔は冷静そのもので、しっかりと相手の動きを見ているようだった。どうやら心配する必要はなさそうだ。もしかしたら、彼女はバトルの時になると気が強くなるのかもしれない。

いや、そもそも。基本的な動かし方やバトルの説明をするためにセコンドについたのに、なんの説明も無くとも十分にガンプラを動かしていることの方が驚きだ。

「あれ、ちゃんと動かせてる?」

『はい。このシナンジュ、とっても使いやすいです! 私の思うように動いてくれます!』

そう言いながら、アキちゃんは巧みにシナンジュを動かしてビームの雨を避けている。後ろからジェガンとアストレイの援護射撃もあったが、それも含め軽やかな動きで避け続けている。

『ちきしょう、ちょこまかとぉぉぉぉぉ!』

シャイニングブレイクはビームライフルを投げ捨ててビームサーベルを抜き放つ。投げたライフルは後ろにいたレッドフレームがキャッチし、2丁流の形で打ち始めた。

言動こそ乱暴だけど、動きもいいし連携もしっかり取れている。中学生たちに完封勝利するだけの実力はあるようだ。

アキちゃんはシナンジュの盾に付いているビームアックスを展開すると、あろうことかバーニアを全開にして、自分から援護射撃のビームの中へと突撃し始めた。

メインカメラを覆うようにビームが降り注ぐ。実際にはガンプラ目掛けて撃っているのはわかっているが、反射的に声が出てしまった。

「うわあああああ! ダメダメダメ!」

その間にも、シナンジュはどんどんスピードを上げていく。しかも、驚くべきことに1回も被弾していない。それどころか、あのキラ・ヤマトのようにライフルのビームをアックスで斬り払いながら進んでいく。

「(こ、こんな神がかった回避の仕方、とてもじゃないけど初心者ができることじゃない。もしかして……)」

何も言わずとも楽々シナンジュを動かして見せたり、今のようにビームを斬り払ったり。こんなことが出来る初心者がいてたまるか。ふと、頭の中に1つの可能性が浮かんできた。確かに、これはひょっとしなくても、ひょっとしないかもしれない。

「(ガンプラ作ったことないって言ってたけど、この子は間違いなくガンプラバトルをしたことがある。そうじゃなきゃ、いろいろと説明が付かない)」

斬り払いながら進んでくるのを見て、シャイニングブレイクの動きに一瞬だけ隙が出来た。サーベルを振りかぶった状態でこちらに向かってくる。これはバトルに不慣れな私が見ても、明らかな狼狽えだとわかった。

『これで、まずは1機!』

アキちゃんはそれを見逃すはずもなくさらに加速。サーベルが振り下ろされるよりも前に、剣道でいう胴の形で、シャイニングブレイクの胴体を両断した。しかもそのままビームライフルとバックパックのビームキャノンを斉射し、レッドフレームの持つ2つのビームライフル、それから右足を破壊した。

『う、嘘だぁぁぁ!?』

『これで2つ!』

そういうとミサイルランチャーから小型ミサイルを発射する。バランスを失ったレッドフレームに、容赦なくミサイルが襲いかかり、赤いガンプラを木っ端微塵に破壊した。もともとアストレイシリーズは装甲が薄いことで有名な機体、当たりどころが悪ければミサイルの数発で落とせてしまう。アキちゃんはガンダムの知識は無いと言っていたけど、そのことも知ってたのだろうか。

瞬く間に僚機を落とされ、ジェガンのファイターが「あっという間に2機!?」と叫んだような気がした。その雰囲気を感じ取ったのか、アキちゃんはさらに言葉を続ける。

『驚くのは、まだ早い!』

ジェガンに向けてビームライフルを撃たせると、再びミサイルを発射する。放たれたミサイルは白煙を吐きながらロックオンされた獲物を目掛けてどこまでも追いかけていく。結果、ジェガンはバズーカ1丁と左手を犠牲にすることで生きながらえた。これで反撃ができると思っているだろうが、残念ながらその命もすぐに尽きる。逃げた先には、シュベルトゲベールを担いだモノクロームのガンプラが、モノアイを煌々と光らせて待ち構えていた。

ジェガンがミサイルに追われている間、アキちゃんは逃走先にシナンジュを先行させていたのだ。すでに右手には、最後の獲物を倒すための剣が握られている。

『たあぁぁぁぁ!』

叫び声とともにシュゲルトゲベールを振り下ろした。一振りで戦艦をも切り裂く長刀は、ベースジャマーごとジェガンを真っ二つに切り裂いた。2つに別れた残骸は弧を描きながら墜落し、山に2つの赤い花を咲かせた。

爆炎をバックに、シナンジュは持っていたシュベルトゲベールを収納して、緑色のモノアイを輝かせた。これで3機撃墜。それはまるで、雷の訪れを知らせる稲光のような一瞬のバトルだった。

 

 

「こ、これでいい気になるんじゃねーぞ。ぜってぇ仕返しするから、絶対に覚えてろよ!」

私たちがバトルシステムから出てくる前に、高校生たちは捨て台詞を吐いて姿を消していた。なんて見事なまでの小悪党っぷりだろう。逆に関心するよ。

「な、なんとか勝てましたぁ。よかったです……」

私の後からのんびりと出てきたアキちゃんは、額の汗をぬぐいながら安堵の表情を浮かべる。いやいや、何が「なんとか勝てた」だ。ただの一度も被弾せずに3機撃墜、これを余裕の完封勝利と言わずに何というのか。

一息つきたいところだったけど、休む間も無くバトルを見ていた子供たちがアキちゃんの元に詰めかける。やれ「どうやったらあれだけ強くなれるの?」とか「どこかでガンプラバトルやってた?」「ぜんっぜん初心者ちゃうやんけ、最高やわ!」と質問攻めに会い、瞬く間に人の波に埋もれて消えていった。しかも最後の質問者は部長だ。子供に混じって何やってんだか。

「お疲れ様。なんとかなって良かったわね」

「あっ、ミサキ先輩。ありがとうございます」

先輩は腕を組んで微笑んでいた。その手にはタオルとペットボトルが握られてる。それを見つめてるのがわかったのか、先輩はハニカミながら答えてくれた。

「備えあればなんとやら、だったんだけど。あの子も疲れてるだろうに、質問なら後日改めてすればいいのに」

「全くですね。少しはあの子のことも考えて欲しいです」

ぎゅうぎゅう詰めになっていることだろう。そろそろ助けに行かなきゃ、と思った瞬間。

「そこまでにしたまえ。彼女の存在にに心奪われたのはわかるが、しつこくて諦めが悪いとなると、私のように人に嫌われる存在となる」

聡明な声がラビアンローズの店内に響いた。声がした方向に目を向けると、そこにいたのは金髪の外国人だった。一見、海外のタレントかと見間違える端正な顔をしている。アキちゃんと取り囲んでいた子供たちは、見ず知らずの青年の登場に驚いているだろうが、私は別の意味で驚いていた。

「ちょっと、なんでハム先生がいるんですか!?」

「これも備えあれって思って。ほら、負けちゃった時のために……」

私たちとあの人は教師と生徒の関係だ。彼はグラハム先生、我が青華学園英語科の教師にして、ガンプラ部の監督を務めている人だ。新任教諭ながらわかりやすさとそのルックスで、女子生徒を中心に大人気の先生だけど、本人の言う通りしつこくて諦めが悪いところが嫌われている。私も少し苦手なタイプの人だ。

「君が、我が部への入部を希望している子だね」

「あっ、はい。そうです」

「ならば歓迎しよう。ようこそ、ガンプラファイター!」

そういうとハム先生はピシッと背筋を正して敬礼した。それに合わせて、アキちゃんも同じように敬礼で返した。いやいや、何も便乗しなくてもいいのに。

「いや、それとも『翡翠の雷光』と呼んだ方がいいかな?」

そう告げられると、アキちゃんは恥ずかしそうに顔を背けた。いやいや、今のどこに恥ずかしがる要素があるんだろうか。名前の響きは確かに中二病っぽくて少し恥ずかしいけれど。部長とミサキ先輩にも視線を送ってみたが、2人とも首を傾げるだけで何も知らないようだった。全く意味がわからない。ハム先生が言った『翡翠の雷光』って、一体なんのことだろうか。




1週間ぶりですね。2話が完成して本当によかったです(小並感)
はやくも相手のガンプラのネタが切れそうなんですけど、どうしましょうか。ちなみに本作では「ビルドダイバーズ」シリーズは劇中劇として取り扱っています。ご了承ください。
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