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例え完璧な計画を立てていたとしても、様々な要因が重なり合って計画が台無しになるのはよくあることだ。今回の場合だと新入部員の勧誘がそれに当たる。待望の新学期が始まり、頑張って勧誘活動をした。にも関わらず我がガンプラ部への入部希望者は全く増えなかった。現段階で新入部員は一名。その唯一たるアキちゃんもおとといから新入生オリエンテーション合宿に参加していて不在、確か日程は3泊4日のはずだから、次に来るのは明日以降になるだろう。
個人的にはあんな合宿になんか参加せず部室に来て欲しかった。朝早くから集合して学校に関するお話によくわからない説法、宿舎はボロいしご飯も美味しくない。その上、朝早くから班ごとに山登りまである。マジでガチであれはただの時間の無駄だと思う。だけれどあれは基本的に全員参加だから仕方がない。
だから今日も、ガンプラ部の部室には私と部長、それからミサキ先輩の3人としかいない。いわゆるいつものメンバーってことだ。
「アキちゃんには色々と聞きたいことがあったんやけどなぁ……」
部長はパーツにヤスリをかけながらボソリと呟いた。もうすぐ選手権の予選が近いということがあって、そろそろバトル用のガンプラを仕上げておく必要がある。私も前回のバトルで使用したシナンジュをチェックしている。ダメージレベルが低いバトルだったからといっても、バトルをすればどこか消耗するパーツもあるから、一通りのチェックは必要だ。バックパックには例のフラグメンツストライカーが接続されたままだ。
「部長の聞きたいことって、彼氏の有無と中学時代の話でしょう? そういうのはまた別の機会にしてくださいよ」
「いやいや、それは重要なことやで。これからアキちゃんと一緒に戦っていくんやから、そういう昔のことも話せるような親密な関係を築いとかなアカンやん。わかるやろ?」
ヤスリを片手に持ち前のエセ関西弁で語りかけてくる部長。私は2度、首を横に振って答えた。
「一緒に戦っていく。ってところには共感しますけど、それ以外は全く意味がわかりませんね」
「割って入るのもどうかと思ったけど、私もアカリに同感ね。最初に聞くことはそれじゃないでしょう?」
ミサキ先輩の援護射撃もあって、部長の意見は見事に打ち砕かれた。男子としては気になることかもしれないけれど、私にとってそれはどうでもいいことだ。ごめんなさい。私としては優先して聞くべきことが他にあるんだ。
「結局、ハム先生が言ってた『翡翠の雷光』ってなんだったんですかね?」
私は一番気になっていたことを口にした。
ラビアンローズで一悶着あった後、ハム先生の一声でガンプラ部の部員は解散することになり、あの異名のことについて詳しいことが聞けなかった。こういう時に本人が居ればよかったんだけど。
「そんなんネットで調べや」
「調べましたけど、ゲームの攻略サイトが出てくるばかりで特にそれらしい情報は出てきませんでした」
「マジか。ネットにも載ってへんのかいな。ミサキちゃんは知っとるか?」
「ええ。この雑誌に載っていたわよ」
ミサキ先輩はそう言うと、読んでいた雑誌を私たちにも見えるよう机の真ん中においた。それは『hobby hobby』という全国的にも有名な模型雑誌だった。ここでは世界で活躍するプロのビルダーや有名なファイターらが様々な作例を出していることで人気を博している。
ただ、広げているのは有名所の作例紹介のページではなく、去年のガンプラバトル選手権決勝トーナメントの大会レポートだった。トーナメント表や三代目メイジンカワグチの好評など、大会関係の記事は全てカラーページで紹介されている。
「これの名バトル紹介のところ、よく見て」
先輩は『本大会の名勝負紹介』と銘打たれたコーナーを指差した。そこには大会で行われた全バトルの中から、編集部の投票で選ばれたバトルを名勝負と名付けて紹介するコーナーだった。ミサキ先輩の指は第3位にランクインした勝負に向かって伸びている。
それは全国大会の準決勝第1試合の写真だった。対戦カードは西東京代表の聖鳳学園「トライ・ファイターズ」と京都代表の叢雲学園「ラ・スパーダ」で、赤いガンプラと緑のガンプラが剣を交えているところを捉えていた。
「叢雲学園? そんな学校聞いたことないで」
「5年くらい前は強かったところよ。最近はあまり全国大会に出てなかったみたいだけれど、去年から急に強くなったみたいね」
私は改めて、この写真に目を落とす。赤いガンプラの方には見覚えがある。真っ赤なボディに太陽のような炎のエフェクト、腰には刀を提げて肩には「神」の文字が入っているこのガンプラは聖鳳学園のエース、カミキ・セカイのガンプラ「カミキバーニングガンダム」だ。けれど、もう片方のガンプラには見覚えはない。緑色の装甲を身にまとい両手に大剣を携えている。特徴的な背中のXスラスターと胸のドクロマークから「クロスボーンガンダム」の改造機じゃないかと思う。
「これはクロスボーンガンダム
やっぱり、これはクロスボーンの改造機だったか。身にまとった装甲はガンダムOOに登場するガンダムエクシアのバリエーション機、ガンダムアヴァランチエクシアダッシュの「アヴァランチダッシュユニット」だろう。これを使えば、ただでさえ速いクロスボーンガンダムはもっと速くなるだろう。それに両手にはX3のムラマサブラスターに似た大剣を装備している。間違いなく機動力を活かした近接戦闘が得意な機体のはずだ。
「緑色のクロスボーンガンダム。確かに翡翠のようにも見えるなぁ。けど、そこれとアキちゃんとはなんか関係あるんか?」
「大有りよ。そこから3ページめくって。クロスボーン
言われた通りにページをめくると、そこには確かに叢雲学園へのインタビュー記事が掲載されていた。そして、その一番下の欄に小さく書き込みが入れてあった。
「これって、アキちゃん?」
私は小さく呟く。インタビューに答えていたのは私たちがよく知る少女、アキちゃんだった。正直なところ、彼女は経験者だと思っていた。バトルシステムの操作は手馴れていたし、ガンプラの操縦も素人みたいな無茶苦茶な動かし方ではなかった。まあ、色んな意味で無茶苦茶ではあったけれど。それがまさか全国レベルのチームで、しかもエースファイターとして活躍していただなんて全く知らなかった。どうせなら言ってくれればよかったのに。
「中学3年生でこれだけの成績を残せるなんて凄いですよ」
「アカリの言う通りや、これならたった1人で3体も倒せるのも納得やな」
シンジ先輩も目を丸くしてインタビュー記事を見つめている。無理もないだろう。だって、入部の時、あんなにオドオドしていた子がこんな有名人だったなんて。普通はそう思わないよね。
その時、部室のドアを開ける音がして、背後からドスの効いた声が響いた。
「誰が、たった1人で3体落としたって?」
振り向くと、そこには学ランを着たガラの悪そうな男がいた。見た目の通り、我が校随一の不良であり我がガンプラ部で唯一の武闘派であるカイタニ・ヒロ先輩だった。そういえば、新学期が始まってからヒロ先輩は一回も部活に来ていなかった。だからアキちゃんのことを知らないんだ。血の気の多い先輩の目に留まったとなればきっとバトルを挑もうとするに違いない。残念ながら、当の本人は不在なんだけどね。
「よぉヒロ。ひっさしぶりやな、春休みは元気にしとったか?」
「よく言うぜ、休みの間中ずっとメールしてきたくせに」
「なはは、そういえばそうやったなぁ」
「あんた達、ずっとメールしてるとか、本当に仲いいのね」
「こっちはいい迷惑だよ。ったく」
ブツブツと文句を言いながら、ヒロ先輩は私の隣に腰掛けた。
これは以前、ミサキ先輩から聞いたことだけど、どうやらあの2人は同じ中学出身で、同じ模型部に所属していたらしい。それだけ長い期間を一緒に過ごしてきたんなら、これだけ仲がいいのも頷ける。
「それで、さっき言ってた3人落としたヤツってのはどいつだ?」
ヒロ先輩はアキちゃんの顔写真を見ると、少しだけ不機嫌そうな顔になった。
「ああ。この子ですよ。インタビュー記事の一番最後に載っている子です」
「こいつがかぁ? ずいぶんとナヨナヨしたヤツじゃねぇか」
「それでも腕は確かですよ。聖鳳学園のカミキ・セカイとちゃんとしたバトルができるくらいには」
カミキ・セカイは間違いなく、現役学生ファイターの中で最強と言える男だ。2年前の大会では初出場ながらも数々の強豪校を打ち破り、無敵といわれたガンプラ学園からも勝利をもぎ取った。それに去年の大会でも輝かしい戦績を挙げている。地区大会を合わせて被弾したのはほんの数回、決勝では清炎学園「炎トライ」のエース、フリーダムガンダムトライフェーダーと炎のエフェクトがぶつかり合う熱いバトルを繰り広げたらしい。私は実際に見ていないからよく知らないけれど、見に行ってた人は口を揃えて言っていた。曰く「カミキ・セカイは化け物だ」と。
そんな化け物とまともな勝負ができるのだから、本気の彼女はかなり強いはずだ。だけどヒロ先輩はまだ納得していないようだ。これらの情報では足りないらしい。
「そいつは分かる。インタビュー記事や写真を見ればすぐにな。けど、俺は実際にこの目で見ていない。憶測や推測だけで判断しねぇ主義なんだよ」
確かにそれは殊勝な考えだけど、確かめられる対象からすればたまったものじゃないよね。ある意味、いきなり喧嘩を売られるようなものだ。もしかして先輩が不良扱いされるのはそこに問題があるんじゃないかな。
「でも先輩、1年生は3泊4日の合宿中ですよ。明日まで帰ってきません」
「何言ってんだ。ウチのオリエンテーション合宿は2泊3日だ。帰ってくるのは今日だって、職員室のホワイトボードに書いてたぞ」
「ええっ!?」
あの合宿ってそんなに短かったっけか。なにぶん嫌な思い出しかなくって記憶の中から抹消しかかっていた事だから、細かい日程なんかよく覚えていない。
「ってことは夕方になりゃ会えるってわけだな。よし、待つぞ」
「え〜、待つんですか。明日じゃダメなんですか?」
「今日やれることはなるべく今日中にやる。これも俺の流儀だ」
そういうとヒロ先輩は、カバンからガンプラの箱と自前の工具類を取り出した。完全にここで作業する気満々だ。こうなってはもうダメだ。この人が待つと言ったのなら滅多なことがない限り自分の行動を変えようとしない。良いように言えば意志が強いと言えるけど、悪く言えばわがままだってことだ。私は後者だと思う。
私としても別に待つのは構わない。けれど今はまだ3時になったところだ。いつ帰ってくるかわからない1年生を待つのは少しだけ、少しだけめんどくさく感じる。あーあ、早く帰ってこないかな。
2
結局、1年生の解散を待つこと約2時間。帰ってきて少し疲れた顔をしているアキちゃんを拉致するような形で模型屋「ラビアンローズ」へと引っ張ってきた。一応、彼女のガンプラを預かっているという名目で着いてきた。その道中、半泣きになりながら引きずられていくアキちゃんを見ているとギュッと心を締め付けられた。私は全く関係ないのに悪いことをしている気になる。
その罪悪感は私と一緒にきた部長とミサキ先輩にも伝染しているようだった。
「まさか読んで字のごとく、首根っこ掴んで引っ張ってくるとは思わんかったわ。ありゃ人間を運ぶというよりも、キャリーケースか何かを引っ張ってる絵面やで」
「警察の人に合わなかったのが不幸中の幸いね。本当、彼女には悪いことをしたわ」
2人とも後悔の言葉を口にしている。私も勇気を持って止めればよかったんだけど、あの時のヒロ先輩はどこか禍々しい殺気のようなものを出していて、とても近づける雰囲気じゃなかった。
当事者であるアキちゃんは今、バトルシステムに寄りかかって座り込んでいた。こちらも話しかけづらい状態ではある。いやいや、ここは先輩としてちゃんとフォローしておかないと。
「ごめんねアキちゃん。事情も説明しないで拉致っちゃって」
「ホント、勘弁して……ください。心臓に……悪いです」
アキちゃんは肩で息をしていた。顔は恐怖で強張っていて目尻には涙が溜まっている。見知らぬ強面の先輩に、いきなり拉致されるのがどれだけ怖かったか。その恐怖は彼女のひどい表情が物語っている。
先輩も流石にやり過ぎたと感じているのか、申し訳なさそうに顔をぽりぽりと掻いている。
「あー、その、なんていうか。ここまで怖がらせるつもりじゃなかったんだ。悪りぃ」
「ふ、ふつうに……ガンプラバトルしたいって、言ってください。次……からは」
「お、おお。次からは絶対にだ。約束する」
「それなら、大丈夫です。それじゃ、始めましょうか」
アキちゃんの息が整ってきたところで、2人はガンプラバトルの準備を始めた。今回の観客は部長とミサキ先輩の2人だけと少々寂しいけど、このバトルは見世物じゃない。どちらかと言えば隠さなきゃいけない情報だから、観客がいないのは逆に都合がいい。
青い粒子が放出されて、コンソールとフィールドを形成していく。今回の舞台は宇宙、無数の資源衛星が立ち並ぶ火星と木星の間にあるアステロイドベルトだ。
アキちゃんはガンプラを筐体にセットした。今回使用するのも私のシナンジュにフラグメンツストライカーを装着した機体だ。今回はちゃんと、こいつの名前も考えてきてある。やはりちゃんとした名前がないと呼びにくいし、テンションも上がらないからね。
「フラグメンツストライカーを装着したシナンジュだから。シナンジュFカスタムってところかな」
『何ですかそれ?』
「そのガンプラの呼び名よ。こういうのはちゃんとしとかないと愛着わかないし」
『そういうのはよくわからないんで、先輩に任せます』
「じゃあ、これで決定ね」
私はタイピングキーを呼び出して機体名称を「シナンジュFカスタム」へと変更する。
こちらの準備は整った。ヒロ先輩もガンプラの準備が終わったらしく、バトルスタートのアナウンスが鳴った。
「それじゃ、今回もしっかり勝っていこうね。相手は先輩だけど遠慮しなくていいよ」
モニター越しに頷いたアキちゃんを見て、私も心をバトルモードに切り換える。ヒロ先輩はビルダーとしても、ファイターとしても腕の立つタイプだから決して油断できない。それだけに気をつけていきたい所だ。
去年の先輩を知っているだけに、私がしっかりとアキちゃんのサポート役を全うしなければならない。それは胸に刻んでおこう。
「それじゃあ行くよ。オキタ・アカリ」
『モモヤマ・アキ。シナンジュFカスタム、行きます!』
カタパルトから射出されたシナンジュは真っ暗な宇宙空間に飛び出した。そのまま速度を上げて資源衛星の隙間を縫うように移動していく。相変わらず、ガンダムのエースパイロットがやるようなことを平然とやってのけるなぁ。
彼女のテクニックに感心しているとシナンジュのカメラが相手のガンプラを捉えた。望遠カメラで拡大してみると、そこに映っていたのはずんぐりむっくりな2頭身のガンプラだった。ヒロ先輩が使うのは魔弾王フラウロス。SDガンダムのガンダムフラウロスを改造した、マントとコートを着用している珍しいガンプラだ。
『先手必勝。挨拶がわりに喰らいやがれ!』
フラウロスの右手に装備しているミサイルランチャーから、何発ものミサイルがこちらに向けて迫ってくる。それをバルカン砲で迎撃すると、お返しとばかりにビームライフルが3回火を吹いた。けれど撃墜のシグナルは出てこない。この程度じゃ流石に倒せないよね。
戦いの火蓋は切られた。今の私には彼女のサポートくらいしかできないけれど、それも立派なビルダーの仕事だ。私たち2人とシナンジュで、このバトルを勝ちに行くんだ。
あとがきって何書いたらいいですかね?リクエストとか募集してみようかな?