魔法
それはおとぎ話の中の妄想の産物、というのが人々の当たり前の考えだろう。数百年前までは。魔法は確かに存在した。元々魔法は人々に気付かずもひっそりと傍にあった。しかし、数百年前に起きた大事件を切っ掛けに魔法は人々の前に現れた。魔法が世間に認知されて数百年、世界は大きく変わった。魔法は人々に様々なものを与えた。例えば医療、不治の病と言われていた病気も治療ができるようになったり足や手が不自由な人に新たな希望を与えた。例えば災害救助、その場で治療ができ、危険な場所に安心して突入できるようになった。他にも様々あり、人々に善を与えた。しかしいいことばかりではなかった。魔法を悪用しようとする輩がいるからだ。元々魔法はある事件を切っ掛けに広まったのだから何もおかしいことではないだろう。魔法を犯罪に利用されるようになり犯罪はその危険度がさらに増した。そんな犯罪に対抗するために作られたのが管理局。これは警察と軍隊を母体に作られた政府直下の組織。管理局が発足されてからは犯罪は急激に減った。そして管理局は優秀な人材を育成、入手するため日本の文月市に管理局が経営する学園を設立した。その学園を文月学園と呼び、若い人材を集めている。そしてここにも管理局の入隊を夢見る少年がいた。その少年の名は吉井明久。彼は幼いころに交わした約束を果たすためにここに入学した。
もう、何年も前の話・・・
「明久くん・・・ほんとぅ?」
「うん、約束だよ。だから泣かないで」
僕は目の前の女の子の頭を撫でながら諭した。その子は人見知りで気が弱くて僕以外あまり友達がいない子だった。何でこの子が泣いてるかというと、僕が今日この土地から離れてしまうからだ。ようするに引っ越しってやつだね。この子はさっきまで泣きながら僕に抱きついて離れなかった。僕も本当は分かれるのがイヤだった。でも僕はまだ子供だから1人では生活ができない。だから着いて行くしかない。それはきっとこの子も分かってるだろう、けど離してはくれない。だから僕は約束をした。また会おうって、それを聞いてようやく僕の方に顔を向けてくれた。
「約束だよ・・っ・・絶対だよ・・!」
「うん。約束」
そう言って僕たちは手の小指を絡ませた。
「ゆ~びきり・・」
「あ、ちょっとまって。あともう1ついい?」
「ん?なぁに?」
「わたしね、大きくなったらお父さんとお母さんと一緒のとこに行きたいの」
「それって確か」
「うん。かんりきょくってところ」
この子の親が働いているのが管理局って言うところだ。僕もよくわからないんだけど、とりあえずお巡りさんがいるところって僕のお父さんが言ってた。だからこの子も大きくなったらそこに行くんだろう。
「分かった。大きくなったら僕もかんりきょくに行くよ」
「うん、わたしも。だから約束、2人とも大きくなったらかんりきょくに入ってそこでまた会おう」
「うん。約束」
そういって僕たちは指切りを交わした。指切りを終えゆっくりと僕らは指を離した。
「また会おうね、・・・・ちゃん」
「う~ん・・・夢?」
「ほほう、そんなに俺の授業は退屈か吉井」
僕はその言葉を聞いて戦慄した。僕は反射的に顔と背筋を伸ばした。
「て、鉄人・・」
「西村先生だバカ者!」
「いって!」
鉄人はそう言って僕の頭に拳骨を1発放った。あぁ、超痛い。鉄人は普段から鍛えているのか力がすごく強い。普通の男子高校生を軽々と持ちあげられるくらいだ。だからそんな人の拳はすこぶる痛い。
「吉井、お前は唯でさえバカなのだから居眠りなどしていないでしっかりと授業を聞け!」
「ぅぅ・・はい」
僕は頭を押さえながら返事をした。その返事を聞いた鉄人は教卓へと戻った。
っぅ、痛い。殴られた頭を撫でていたら横から小さな笑い声が聞こえた。そっちに顔を向けると赤髪で獣のように鋭い目つきの男が口元をニヤニヤと歪ませながら笑っていた。コイツは坂本雄二。文月学園で出会った僕の悪友だ。何かとコイツとツルむことが多い。
「明久、爆睡だったな」
雄二は呟くような小さな声で僕に声をかけた。僕も同じくらい小さな声で返した。
「ち、違うよ。ただぼぅっと教科書を眺めていただけだよ」
「口元に涎を垂らして言うことか」
「ぅぅ」
僕は口元を腕でゴシゴシと拭いた。
そして授業が終わった。
「ああ、終わった」
「お主は相変わらずじゃのう」
「・・通常運転」
僕の近くに寄ってきたのは木下秀吉と土屋康太だ。秀吉は肩くらいまで髪を伸ばし、口調が独特な子。さらに顔も奇麗に整っていてクラスどころか学園でも有名な女の子だ。欠点と言えば自分を男と思っているとこかな。
「む?何やら誤解をされているような」
もう1人は寒色系の髪色で三白眼の子。必要以上のことをしゃべらない静かな奴だ。彼はムッツリーニというあだ名で学園の有名人だ。どういう風に有名なのかというと女子の際どい写真を撮影しそれを販売していたり、エロのことに関してはずば抜けた知識を持つ、つまりエロに対してのスペシャリストなのだ。
「明久、そういえばお前が眠っていた時なんか呟いてたぞ。約束がどうとかって」
「約束とな?明久、誰かと約束でもあるのか?」
「・・・女子とか」
「いや、なんて言うか・・昔の夢を見てたんだよ」
「ってことは、やっぱり寝てたんだな」
僕は雄二の言葉を無視して窓の外を見た。
そう言えばあの子はちゃんとここに入れたのかな、なんて思っていた。もう2年なんだから会いたい。けど、会えない。なぜなら、
あの子・・・なんて名前だっけ?