戦姫魔晶シンフォギアD   作:イビルジョーカー

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 訳題『道化師からの贈り物』

 
 遅くなりましたが、どうぞ!





第16話 Gift from a clown

 

 

 

 

 血のような赤と深い海のような青の二色に染まり、左が青で、右が赤とそれぞれ頭部の左右両サイドで分かれていた髪。

 

 人形のような不気味な無機質さを感じる白い顔。

 

 黒目に浮かぶ、髪と同じ赤と青の色の瞳。

 

 黒と紫のゴスロリの衣装を纏う少女の姿をしたその悪魔は、自らの名をジェスターと名乗る。

 

 仰々しいお辞儀を見せた後、グニャリと曲がりくねった幹の木から跳び下り、そのままKの目の前へと軽やかに。そして仰々しい芝居臭い動作で立った。だが、その瞬間。向けられたのは言葉ではなく、インビスの切っ先がジェスターのすぐ自身の眼前へと突き付けられた。

 

 

「WOW! 変わった挨拶ドウモ!」

 

 

 驚き様もまた芝居がかっており、ふざけ切った雰囲気から、ジェスターが本当は驚きなど感じていないのだと、子供でも分かるくらいに分かり易かった。

 

 その態度にKは、自分の中に苛立ちが募っていくのを感じた。

 

 

「もう一度言う。何者だ? 名前だけ言われても困るな」

 

 

 名前だけでは、何も分からない。

 

 あくまでKが知りたいのはジェスターがどういった立場で、どういう意図で自分達を助けたのか。

 

 知りたいのはソコだ。名前だけ教えられ「はいそうですか」と納得するほど、Kはお気楽な性格ではない。

 

 

「あ、そゆコト? だったらキチンとその可愛らしいお口で丁寧に説明してYO! アーハッハッハッハッハッハッ!!!!!」

 

 

 まるでKをバカにするかのような……いや。

 

 実際見下して低能な奴と嘲笑っているのだろう。ジェスターが紛れもない悪魔であれば、当然の反応だろう。

 

 こちらの世界でも悪魔は人を見下し、嘲け虐げる存在なのだから。

 

 しかしコケにされて何も思わないKではない。

 

 すぐにインビスを手元に召喚し、横斜め一閃に下から素早く振上げるように斬りかかる。

 

 狙いは顔の右頬。

 

 殺しはしないが、おふざけに付き合うつもりは一切無いという、そんな意思表示を含んだ警告だった。だが、狙い通りにはならず。

 

 顔と同じ生気が一切感じられない白さの片手がインビスの刀身…先の方を掴んでいた。

 

 

「おっとと、イケないよ。いきなり剣で斬りかかるなんて。マジで怒ったのなら謝るからさ〜、ゴメンね!」

 

 

 形だけの謝罪などKはいらない。明からさまな挑発にギリッと苛立ちに歯を軋ませる。

 

 とは言え、更なる追撃をしたところでこの悪魔は容易に自分をいなすだろう。

 

 それだけの実力は確実にある。

 

 剣を止められた程度でも、その赤と青の双眸に秘められた、力の片鱗が嫌でも分かる。

 

 だからこそ、迂闊に手を出すのは止めることにしたKはインビスの柄を握る力を緩め、抵抗はしないという意図を示した。

 

それを見たジェスターはニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべ、インビスから手を離した。

 

 

「ムフ、イイ子チャンはだぁ〜い好き♪」

 

「……どういうつもりで私達を助けた」

 

 

 付き合いきれない。そんな気持ちを存分に滲ませたうんざり顔で真意を問うK。

 

 目の前の悪魔が完全100%の善意で助ける質の性格でないことは嫌でも分かる。故に意図は必ずある筈。

 

 素直に答えないのは明白だが、一応は形式として言ってはみたものの

……

 

 

「ハッハッハッハッ!! 面白ォォ! そんな直球で言ってさ、本気で言うとでも思ってるのォォ?! マジのマジでウケまくっちゃうYO

 

 

 嘲笑を乗せた煽りで返されるという、極めて不愉快な言葉の羅列にそろそろ堪忍袋の緒が切れかけた時。

 

 ふいにグリフォンが声を上げる。

 

 

「crown witch……魔宮道化師って意味の通り名で、そう呼ばれてた女悪魔がいたな」

 

 

 グリフォンの口から出たのは、ある悪魔について….…グリフォンの生まれた並行世界の魔界において、悪名を轟かせた女悪魔についての語りだった。

 

 

「ソイツは大昔の魔界で覇を競い合ってた三つの勢力の何処にもつかず、何かしらの対価も要求しないで、三つの勢力相手に股かけて情報を売り渡してた」

 

「……」

 

 

 つい先程までハイテンションで喧しく騒ぎ立てていたジェスターは、相変わらずのニヤけ顔で何かに期待するように沈黙を貫いていた。

 

 Kは突然の語りとは言え、いつになく真面目な口調のグリフォンから何かを察し、ジェスター同様何も言わず耳を傾ける。

 

 

「そんなことすりゃあ、三つの勢力のトップのボス悪魔どもはキレる訳だ。殺し合って競ってる相手に情報が漏れてるんだからな。んな訳で刺客が差し向けられた。犯した重罪を償わせる為にってもあったが、その男が大昔のオレ位のレベルの強さをもってたっつーコトで、三勢力の中で上位に入る腹心クラスがヤツを仕留めに向かった訳だが……」

 

 

一旦間を置いて、やや言いにくそうに語りを紡いだ。

 

 

「ヤツが自分から漏らした居場所の情報を頼りにやって来た三勢力の腹心どもは……喰われた。人や悪魔、生きてるものを際限なく喰らう魔界の植物の一種にな」

 

「ンフフ! 懐かしいね。そーゆーコトもあったよ〜」

 

 

 これだけ聞けばもう分かる。

 

 その魔宮道化師という異名を持つ悪魔こそ、眼前で不気味な笑みを浮かべるジェスターなのだと。

 

 Kは確信を得た。

 

 

「でもでも! アレは力を得る為にしたコト。これでもアタシ、大昔はそこそこ強いだけで弱い部類だったんだよね〜」

 

 

 自らを弱いと嘯くジェスターは、身体をクネらせ、時には兎のように軽く飛び跳ねる動作をしながら、流暢に話し続ける。

 

 

「だ、か、ら。強力な悪魔を喰らえば、果実を作ってソレを食べた者に絶大な力を与えてくれるっていう植物に喰わせた訳よ。アタシの命を狙うお邪魔虫を処分してくれて、パワーアップな果実も作ってくれるって

……もうサイコーだと思わないィ?」

 

「……」

 

「おお〜っと、勘違いしないで。アタシは面白いコトがだぁぁ〜い好き

。特に自分が誰かの手の中で滑稽に踊ってるとも知らずに動いてくれるおバカさんや、大切なヒトを殺されて憎んで。でも何もかも止められなくなった狂人とか、普通とは全然違った変わり者さんとか」

 

「ようするに、面白半分の道楽も含んでいた。……ということでいいのか?」

 

「ビィ〜〜ンッゴォォッ! やっぱ察しがイイネbar girl!!」

 

 

 ゲラゲラ笑うその顔に、Kがバールを持っていることから付けたであろう渾名。その名の通りバールを使って、思いっきり腹の立つ顔面へとぶち込みたくなるK。

 

 苛立ちを隠さず、むしろ露骨に顔に曝け出した。

 

 このハイテンションに馬鹿騒ぎ気味の女悪魔の相手など、神経が擦り減るばかりか、頭の血管がはち切れそうになるぐらい、嫌悪感と不快感が絶えずダブルでKの中で湧き起こっている。

 

 その点を考慮すれば、まぁ、Kの顔は当然の反応だろう。

 

 そんな彼女の苛立ちを通り越した殺意を知ってか知らずか、ジェスターは何処からともなく取り出した独特な形状のバトンサイズの杖を自身の頭上で特に意味もなくぶん回す。

 

 

「まっ、結局『絶大』って言う程でもなかったけどネ。それでも足しにはなったよ」

 

「……」

 

「おっとと。そろそろbar girlのイライラも限界っぽいから、簡潔に助けた理由を言ってあげるネ」

 

 

杖を振り回すのを止め、仰々しく敬意の何も込められていないお辞儀を披露する。

 

 

「あたしがbar girlのことを面白いって感じたか。面白そうなことは全力で取り組めって、コレあたしのマミィの名言なの♪」

 

「……」

 

「……え? ツッコミなし? 悪魔に親なんていないだろってツッコミは? ノリ悪いとこの先やってけ……うぉへぇッ?!」

 

 

 我慢も限界だ。

 

 その意思の表現だとばかりに懐に隠していたバールを、ジェスターの顔面めがけ投げつける。

 

 咄嗟に回避はできたものの、その事実にKは忌々しいとばかりに舌打ちを鳴らして見せた。

 

 

「チィッ」

 

「もー! それ酷くない?!」

 

「なら黙れ。そして失せろ」

 

 

 ジェスターの抗議を意に介さず、Kは端的に要求する。

 

 とにかく消えて欲しい。これが彼女にとって今一番叶えて欲しい願望だ。

 

 

「分かった分かった、分かったYO!! 悪魔だけにあくまで助けるのだけが目的だから、お望み通り消えてさしあげますって! それじゃあ

! バ〜イ〜ナラ〜〜ッッ!!!」

 

 

 まるで振り子のように左右に身体を振るいつつ、ジェスターは手も振ってそう言った途端、

 

 ドロンッ!

 

 古典的な効果音がつきそうな煙を出して、ジェスターはその場からマジックショーのように消え失せる。

 

周囲に気配がないことを確認して、Kは疲れたと言わんばかりに疲労を含んだ溜息を一つ、吐き出す。

 

 

「ケッ! フザけたヤローだな」

 

「ブーメラン発言も程々にな」

 

 

 ふざけているという点に関して言えば、グリフォンも似たようなものだろう。

 

 もっとも、得体の知れない相手よりは多少なりとも気心の知れた相手の方が大分マシではあるが。

 

 特にそれを言うこともなく、Kはもろ自分へと返って来ているグリフォンの発言を窘める。

 

 比較的にかなりマシとは言え、ふざけた態度で相手を挑発に誘うのは似た者同士だと言える。

 

なんとか元の人界に戻る為、元の歪を探そうと足を数歩進めた直後。

 

 

《アァァ〜〜っとっとっと!! 言い忘れてたことあったから、

メッセージでbar girlのHeartの中に伝えちゃうYO!!》

 

 

 特殊な伝達魔術を用いての、脳内に響き渡る憎たらしいジェスターの声。本当にウザい。口には出さずとも、Kがそう吐き捨ててしまうのも無理はない。

 

 消えたと思ったらテレパシーの類いで、こんな伝言をお届けするのだから。

 

ようやく消えかけていた筈の苛立ちがKの中で再燃焼してしまった。次会ったら、どうやって地獄を味わせてから殺そうかと思案するKを他所にジェスターは言葉を続ける。

 

 

《プレゼントあげちゃう! そりゃもう、とろけまくっちゃう程にイイヤツをね。あ、マジでトロットロにとろけちゃうかもしれないから、そこはご注意!》

 

 

 轟々と。地中から重く響くような音を鳴り上げ、地面から炎が沸き起こったと思えば、中から何かが姿を現す。

 

 

『かの炎帝様の領土に入るとは』

 

『身の程知らずの愚か者よ、断罪の炎によって醜く泣きながら懺悔するがいいぞ!!』

 

 

何かは、言葉を介すことのできる知性を有した二体の悪魔だった。

 

全体的に赤く、全身は鱗に覆われ、両腕は岩のような硬度を誇る外骨格のプロテクターが覆うその悪魔は、首や腹部に襟巻きのような硬質的な物質を纏っていた。

 

 

「炎帝、だと」

 

 

悪魔が言い放った『炎帝』というワードに対し、明白に動揺した反応を見せるK。その何か知っている風な様子を見たグリフォンは、すかさずKに聞く。

 

 

「ナ、ナァ、Kチャン。炎帝って何?」

 

「……"炎帝イフリータ"。灼熱の魔女とも言われる火炎を操る最上位のプライアに位置される大悪魔だ」

 

「え? イフリータ? "イフリート"じゃなくて?」

 

 

グリフォンの記憶にある限り、似たような名前で火炎を操る悪魔と言えば、イフリートという悪魔以外に思いつかない。

 

イフリートは、スパーダと雷を操る悪魔『アラストル』の両者と盟友の間柄で、彼等もまた魔帝の軍勢に属する悪魔だった。

 

しかし魔帝を含む三大勢力間での長き闘争の果てに命尽き、その魂はあらゆるものを焼き尽くす籠手の魔具になった。

 

後にスパーダの息子のダンテの手に渡り、当時全盛期の力を有していたグリフォンと激闘を繰り広げた訳だが、ここではどうやら違うらしい。

 

並行世界であることを考慮すれば、この世界におけるイフリートという悪魔は"イフリータ"で、『魔女』という異名から察するに女性のようだ。

 

ちなみにイフリートは、れっきとした男の悪魔である。

 

 

『炎帝イフリータ様の名を間違えるとは。なんと、恥知らずな鳥だ!』

 

『無礼千万。我ら、炎帝様のお力により眷属となりし焔の尖兵"フランメ"! この名にかけて、領土侵犯に加えて、炎帝の名を汚せし罪!』

 

『断罪の獄炎にて極刑なり!』

 

 

できることなら、無用な争いは避けたかった。

 

 Kは、身体から炎を吹き出して、怒りに燃え盛る二体の悪魔フランメたちを説得しようとした。

 

 が、そうする前にグリフォンのちょっとした勘違いが原因で彼等の逆鱗に触れてしまい、怒りを買う羽目になった。

 

 これでは、争いは避けられない。

 

「クソッ……ろくでもないプレゼントを渡されたなッ!!」

 

 この場にはいない例のピエロ女の悪態を吐きつつ、己の影からシャドウを召喚。

 

 更に透魔剣インビスを手に、態勢を戦闘のソレヘと移行させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 "フランメ"という種の悪魔は、元を正せば、ブレイドである。

 

 かつて、グリフォンたちのいた魔界において、ブレイドは魔帝ムンドゥスによって創造され、その創造主がダンテによって魔界と人界の狭間へ封印されたのを機に支配から解放。

 

 野生化し、独自の進化を遂げた。

 

 暴風が吹き荒れ、竜巻が容赦なく弱者の命を奪う魔界の環境地域において、風の力を身につけたブレイドは、インディアンのような装飾の羽と飾り物をつけ、襟巻き状の器官が生え、代わりに纏う鎧の硬度が下がった結果。

 

 『アサルト』という悪魔へと進化した。

 

 フランメの場合は進化したというより、自分よりも格上な悪魔の力を分け与えられたことで、大々的に肉体や体色が変質した悪魔と言っていい。

 

 両手自体も変化し、右手は高熱の弾丸を射出する穴ができ、その周囲を灰色の長く、上下に伸びる大爪と左右に伸びる小さな爪が生えた。

 

 大小合わせて4本の爪は、相手を切り裂く為のものではなく、穴の内部で発火させた魔力の弾丸の熱エネルギーを安定させる為のもの。

 

そして左手は、物を掴んだり相手を握り潰す為の黄土色の4本の爪が四方に囲うように生えている。

 

 注意すべきは、やはり目を引く両手であろう。

 

 灼熱に燃え盛る魔力の弾丸の射程距離は、最大で5kmにも及ぶ。当たれば洒落にならない程のダメージが待ち受けている。

 

 4本の爪の握力は隕鉄の塊さえも泥団子のように粉々に握り潰し、並の人間や悪魔ならどうなるか。語るまでもない。

 

 

『食らえッ!』

 

 

 一匹のフランメが魔力弾を飛ばす。

 

 それを瞬時に横へ移動したことで何とか躱したKはインビスの力を使い、相手の視界から姿を消し、更には攻撃の無効化を可能とする。

 

 

『ぬッ? 消え…ぐあァッ!!』

 

 

 悪魔とは言え、突如視界から相手が消えてしまえば、多少なりとも動揺する。

 

 見えない相手に対して、容易く看破できる察知型の能力。又、魔具があれば、対処は容易だったろうに。

 

生憎、フランメにそのような類いのものはなく、もろに斬られたダメージにより苦悶の声が漏らす。そして更に追い討ちをかけるように…

 

 

「■■■ーーーーーーッッッ!!!!」

 

 

 尋常な生物ではありえない力強く、そして不気味な咆哮を上げ、先端が刃となった触手による高速攻撃を繰り出すシャドウがいる。

 

 見えない相手を警戒しつつも、直に見える敵の猛攻のせいで、どうしても注意がそちらへと向いてしまい、Kが付け入る隙を作らせてしまう

この状況は、フランメにとってこの上なく忌まわしかった。

 

 

『ぐっ、小癪なッ!』

 

 

 だが。見えない、気配を知覚できないからと言って、対抗策が無い訳ではない。

 

 

『炎帝の尖兵を甘く見るなァッ!』

 

 

 業火。炎帝クラスの大悪魔には足元にも及ばないが、それでも。その次に位置する程に強力な熱量を秘めた炎を、己の身を守る為の防具として全身から噴き出し纏った。

 

 

「ぐうゥッ!」

 

 

 周囲を遍く灰塵に返還させかねない熱波を、その身に喰らってしまったKは一時的にインビスの希釈化能力が解かれ、吹っ飛ばされる。

 

 衣服と全身に魔力コーティングを施していた為に大事ないが、それでも腕や頬に重度の火傷を負ってしまい、その場に蹲ってしまった。

 

 

『勝機! ウオオオオオオオーーーーーッッッ!!!!!!』

 

 

 歓喜の咆哮を上げるフランメにとって、今の状況はまたとない好機に

違いない。これを見逃すほど間抜けではないが故に、フランメは炎を纏った4本の爪を合わせて刺突状の武器としてKの身体を勢いよく貫こう迫る。

 

 

「猫チャンッ!」

 

「グオォッ!!」

 

 

 別のもう一体のフランメと戦っているグリフォンは、Kが今まさに貫ぬかれようとしている場面を見て、シャドウの名を叫ぶと共に、三つの雷球‘を放った。

 

 雷球は、いつもの攻撃する為の雷球ではなく、『スパーク・バインド

』と呼ばれる技だ。

 

 これは相手を束縛する為の技で、文字通り三つの雷球は、フランメの足元の地面に着弾すると、囲い込むように紐状に伸びてその業火を纏う身体を押さえ付けた。

 

 

『ぐぬぉぉッ! なんだ、コレはッ?!』

 

『!! 束縛とは、姑息な!』

 

 

 自身の仲間が押さえ付けられ、身動きが取れない状態に晒された光景を見て、このスパーク・バインドの発動者であるグリフォンを打ち倒そうとするが、攻撃の悉くをグリフォンは余裕に避けてしまう。

 

 

「ハッハーノロマがッ!! ここまでおいでーーッ!!」

 

『おのれ! 愚弄するか!!』

 

 

 そんなことを繰り広げるグリフォンとフランメを他所にシャドウは、アメーバの如き不定形の形態になって、束縛されているフランメからKを遠ざけた。

 

 コレでひとまずは安心だ。元の形態に戻って心配そうに火傷を負ってない方の頬を舐めるシャドウ。そんな使い魔の心遣いに応えてか、少しばかり意識が上手く定まっていなかったKは、なんとか離さなかったバールを握り締め、松葉杖代わりに立ち上がって見せた。

 

 

「ありがとう。助かった」

 

 

 短く簡潔に礼を言うK。その表情はいつもの彼女とは思えないほどに温和なもので、その手でシャドウの頭を撫でる。

 

 為されるままにシャドウは身を任せ、その心地よさから猫科動物特有のゴロゴロと喉を鳴らす甘えの意味を孕んだ音を漏らす。

 

 

「さて。どうしたものか……」

 

 

 肉体的ダメージは中々といった具合にあるが、それでも魔具による能力の使用自体に問題はない。とは言え、あの業火の鎧によって斬撃が封じられてしまった以上、先程と同じ接近を主体とした戦法は困難となった。

 

「あの炎の鎧、お前でも無理か?」

 

「……ウォン」

 

 シャドウが音量の低い声で、申し訳そうに耳を項垂れ、頭を下へ向ける。

 

 魔具による斬撃が無効化されたとなれば、他の攻撃手段は三つに絞られる。

 

 一つは、魔力をコーティングしたバールによる刺突と殴打による技を用いたもの。

 

 もう一つは、魔力を形状変化させて放つ単純な魔力攻撃。

 

 最後の一つは、シャドウによる攻撃。

 

 三つの選択肢の内、いくつか。あるいは、その全てを連続して実行したとしても、フランメの纏う炎の鎧には通らない。

 

 貫通させる為の威力が十分ではないからだ。水を利用した魔具でもあれば、できなくもないだろうが、あればとっくに使っている。

 

 

『ぬぅッ! 虫の如く煩わしい鳥めがッ!!」

 

「ハッハー! 言ってろトカゲ野郎ッ!!」

 

 

 グリフォンの力をプラスすれば、まぁ、なんとかなるかもしれない。

 

 生憎、もう一匹の相手で忙しそうだが。グリフォンも何度も強力な技を放っているが、強力な炎の鎧によって掻き消され無効化されてしまっている為、未だ少し程度のダメージさえ与えられない状況だった。

 

 

「面倒な相手を遣わされたものだ………仕方ない」

 

 

 魔力を大量に消費する羽目になるが、打つ手がないと判断したKは転移の魔術を利用することで、この場からの脱却を思案する。

 

「来い! グリフォン!!」

 

 契約者と契約主の繋がりを利用した瞬間移動でグリフォンを手元に呼び戻すと、シャドウを自分の影の中へと戻し、グリフォンの脚を掴んで

飛翔するK。

 

 

『逃亡は許さん!』

 

 

 当然させまいとグリフォンが相手をしていたフランメがその強靭な脚力を駆使して跳び上がる。

 

 

『我も行くぞ! ハァァッ!!』

 

 

 スパーク・バインドによって封じられていたフランメも、その熱波を

勢いつけて解放した結果、稲妻の束縛を破壊し、跳び上がる。

 

 が、もう既に遅かった。

 

 

「"人と魔、この境において門を開き、橋をかけん"」

 

 

詠唱が紡がれ、凄まじい白色の光と共にKたちはその姿を眩ませ、もはや虚空には誰もいなかった。

 

一方、強烈な光によって一時的に視覚異常を起こしたフランメたちは、バランスを崩してしまい、着地もままならず地面へと身体を大きく殴打させてしまう。

 

しかし大したダメージなどない。人にとっては大怪我を負いかねないか

、もしくは。死に直結する高さだろうと彼等にしてみれば、地面から数センチ程度から落ちたに過ぎない。

 

 

『ぬうぉぉッ! 目が……おのれ逃げ遂せたか! なんと、不覚の極み

ぃぃッ!!』

 

『同じく。まことに恥ずかしいぞ兄上』

 

『この失態。死んで償うべきか、いや、次でこそ挽回すべきか。どう思う我が弟』

 

『挽回すべきだろう』

 

『うむ。炎帝様を守り抜く為に死するならともかく、こんな失態で恥を晒して死にたくはない。名案だな弟よ』

 

『しかし我が主に虚偽はいかん』

 

『おお! そうだッ! 危うく過ちを犯すところだったな』

 

『では兄上、やはり正直に行くか?』

 

『仕方なし。ゆくぞ、我が弟よ』

 

 

 なんとも言えない会話を繰り広げたフランメの"兄弟"……グニアスとサランは、自らが仕えし主の下へと焔を迸らせ、凄まじい速さでその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 







 今回出てきた悪魔『フランメ』の名前は、"火"を意味するドイツ語から取りました。4に出てきたブリッツが元はブレイドをベースに作られた『フロスト』という悪魔で、同じブレイド系列の悪魔であることと
、ドイツ語が由来になっている点からドイツ語の火を名前にしてみました。

 今回、名前だけ出てきたイフリータは、実際にイフリートの女性名として存在します。そもそもイフリート自体、現実のアラビア神話に登場する魔人で、女性バージョンもいるみたいです。


 あと、最後に……ジェスター、書いてて自分でもかなりウザかったです(笑)。




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