訳題『灼熱の幻影』
何気に今回、あの子が出てきます。
side 謎の少年
昨晩。ヘルゲ・パニッシュメントを8体狩って見せた例の少年は、自身と"妹"が暮らしているキャンプカーの中で軽い朝食を作っていた。
最初にフライパンでウィンナーを炒め、その上に生卵を落とし、蓋を閉じる。
そして3分後に蓋を開けて、中のウィンナーと目玉焼きを皿へと乗せる。
ただそれだけの単調な調理法。小難しい手間を省き切っているので、料理が苦手な人でも問題なくできる。
少年はできたソレをテーブルまで持っていき、既に椅子に腰かけ、スタンバイしている妹の目の前へと置いた。
「ほら、朝飯。目玉焼きウィンナーだぞ」
「むー……またこれ? 最近こればっかじゃんかよ」
「文句言うな。徹夜で"悪魔退治して来たんだぞ"。今日も仕事が入ってるから無理だが、きちんと豪華で美味いもん喰わせてやる。だから少しくらい我慢しろ"クリス"」
「ん……まぁ、それならいいっか」
長くふんわりとした銀髪の少女クリスは、不承不承といった様子でフォークを手に取り、目玉焼きの黄身の部分と、その下のウィンナーを同時に突き刺す。
敢えて半熟にした為、中身の液状の黄身が漏れ出てしまったが、しかしどうせ口の中に入れば否が応でも中身は出てくる。
そんな単純過ぎる理屈など気にする道理はなく、口の周りを汚しながら、もっきゅもっきゅと食べていく。
「ほら、拭け。汚れてる」
近くにあったナプキンを手に取り、それで口の周りを拭くように言う。
「サンキュー、"トム兄"」
クリスは少年をトム兄と呼び、ゴシゴシとやや乱暴に拭いていく。
呆れた溜息をトムは零すが別段嫌と言う訳ではなく、ただ小さかった頃と何一つ変わらない妹を見ては、顔には出さないが嬉しく思っていた。
微笑ましい兄と妹の光景だが、一つの不穏な気配が水を差す。
「……」
妹が自分が渡した布巾で口周りを拭っている最中に感じた、一つの気配
。
自身が嫌と言うほどよく知っている気配だ。
「クリス……」
「分かってるよ。まぁ雑魚だろ?」
「ああ。ちっと外出てるから、お前も食べたら食器とか片付けておけよ」
そう言って、出入り口のドアを開けた設けられている三段しかない階段を踏み締め、降りていくトム。
2人が住んでいるキャンプカーは、知り合いが所持している家が2軒建てれる空き地に駐車しており、それ以外は特に何かあるという訳ではない。
が、この世ならざる者が時々トムやクリスを目的に訪れることがある。
『なんと嘆かわしい。こんなチビクソの人間如きにやられるなんて……我等ヘルゲの種の名に傷がつく!!』
それはまるで芋虫と称されても、おかしくないブヨブヨとした肉塊の巨体。
ヘルゲ・パニッシュメントに似た顔だが角が左右4本とあり、顔の下には計6の腕が左右3対の位置で生えている。
この悪魔の名は、ヘルゲ・ワーム。
人型のパニッシュメントとは異なり、芋虫のような巨体を有するヘルゲの一種で、パニッシュメントよりも上位種に当たる悪魔だ。
『逃げられると思うなよ。貴様は今、この瞬間。我が支配する魔の領域へ引き摺り込まれたのだから』
その言葉が決して嘘ではないことは、すぐに証明された。
空が赤い雲に覆われ、生きる為に必要な空気が人の身体を害する毒性を秘めた瘴気へと変わる。
世界は、おぞましく変容した。
だが、この光景は人の世界が変わったのではない。
トムがヘルゲ・ワームの手によって魔界に似た特殊な空間が成す領域へと文字通り、『引き摺り込まれた』だけに過ぎない。
ヘルゲ・ワームは魔術を扱いに長ける程の知性を有する。特に一定範囲における空間を侵食し異質な法則によって成り立つ領域を創り出すことのできる魔術を得意とし、これによって自分に有利な環境を整え攻める手法を用いて、仕留める。
これを駆使することで弱肉強食の理が支配する魔界を生き残って来たのだ。
『この瘴気は我には無害。だが、それ以外にとっては身体を侵す猛毒…「うるせぇ」!!ッ』
ワームの口から吐き出される演説臭い長々とした台詞。それを遮った声に苦悶の様子は見られない。
その声の主は、他でもないトムだった。
「ゴチャゴチャ、ベラベラ、あーだ、こーだってほざくのは勝手だ。確かに悪魔は人間を欺くもんだしな。だがよ、それは塵糞にも劣る雑魚の話だ。本物の悪魔は力をもって相手に示す。その命を、魂を奪ってなァッッ!!」
黒い瘴気が周りの空気として構成しているその環境の中で、トムには息苦しささえありはしない。
普通の人間なら、ろくに呼吸ができない筈。更には瘴気の"圧"によって体が負荷に耐えられず、窒息する前に内部の臓器が潰され、腐敗していく筈なのだ。
だからこそ、ワームは驚愕と困惑を混ぜ込んだ目でトムを見る。
ワームも言ったことだが、人間にとって瘴気とは毒以外の何物でもない
。悪魔と契約を交わしその力を得たのなら無害だが、ワームの目から見ても明らかに少年は人間。
にも関わらず、この領域に平然としている。何故なんともないのか。
答えは単純。トムの"保有する魔力"がワームの魔力を遥かに越えているからだ。しかしワームはその膨大な魔力を感知できておらず、その単純な答えに気付いてはいたが、何故少年から魔力を感じ取れないのか。
疑問ではあったが、そこからある可能性が浮かんで来た。
「き、貴様、まさか"魔人"か?!」
「今更知っても遅せぇんだよ」
少年は口端を釣り上げ、ニヤリと嗤う。
三つ編みに束ねられ、先端がどことなく蠍の尾のソレに似た形状の長髪を蛇の如く操り、素早い速度でワームの右目を抉り、そのまま背後の後頭部まで貫通せしめた。
「ウギャアアアァァァァッッッ!!!!」
例えようのない激痛がワームを襲う。人間なら痛みを感じることなく即逝けただろうが、生憎そう易々と死ねない悪魔にとって、まさに地獄の苦痛と言っていいだろう。
「おいおい、情けない悲鳴上げんなよ。まぁ、俺も昔腹ブッ刺されて喚いたことあんけどよ」
懐かしそうに言うが、そんなことはワームにしてみれば知った事ではない。
すぐに引き抜こうとトムの髪を掴むが……。
「熱ゥゥッ!! な、なんだァァァァ?!」
すぐに手を離し、疑問に叫ぶ。
なんと髪が灼熱を宿し、燃えていた。だが不思議なことに髪そのものは燃えず、あくまで炎が燃え滾っているだけという、訳の分からない現象を引き起こしていたのだ。
しかしワームにとって、そこは問題ではなかった。この程度のことは"術師"でも可能だからだ。
問題なのは、自身を貫いているこの髪の束が抜けないことだ。
刺突に加えて高熱による激痛は耐え難いもの。
苦痛に悦を感じる性癖でもない限り、そのままの状態でいたいなど思う筈がない。なんとしても、この地獄の如き苦痛から脱却したかった。
「安心しろ。もう終わりだ」
髪から発せられる炎が一気に爆ぜる。
千度以上の熱を保有する業火は、ワームの肉を。骨を。その魂さえも消し炭へと変えた。
呆気なくヘルゲ・ワームはこの世から退場。
同時に世界が元に戻り、トムは取るに足らない雑魚悪魔に労力を使ってしまった事実に溜息を吐いた。
実際のところ、彼が悪魔によく絡まれることは、ほぼ日常のルーティンと言っていい。
しかし絡んで来るのは総じて大した力を持たない癖に態度だけは威張り腐る、雑魚かそれ以下の塵と称するに値する弱小の悪魔が殆どだ。
強靭な力量を兼ね備えているのであれば、格下なんぞよりも自分と同格か。あるいはそれ以上の相手と渡り合いたい、というのが本心だ。
だが願ったところで、運も神もそれを叶える事はなかった。
たった今、雑魚を相手にしたのがその証拠だ。
「はぁぁ。歯応えあるヤツはいないのか?」
彼以外の誰の耳に届くことはない、そんな呟きが空気に溶けて虚空へ還っていく。
人でありながら、生まれながらに悪魔の力を持つ"魔人"にして、"悪魔殺しの便利屋"は今日も退屈なルーティンを済ませる羽目になって
しまった……。
※
ファントム。
1万年という人から見て途方もない時間を生きた強力な悪魔であり、その姿はサソリのようなハサミ状の二本の前足と尾を持ち、その外骨格は魔剣士スパーダの剣戟さえも意に返さない程鋼鉄よりも遥かに硬く、筋肉や血液がマグマのような超高温の物質によって形成された巨大な蜘蛛そのもの。
触ろうとすれば、大火傷どころか骨さえも残さず灰燼に帰してしまうだろう。
それが、魔界で上位に君臨するファントムという悪魔である。
ファントムはKがいる世界の悪魔ではなく、魔剣士スパーダとその息子兄弟が存在する世界の悪魔だった。
その世界の魔界を総べし魔帝ムンドゥスの腹心で、己とよく似た形状をした土塊の蜘蛛悪魔であるサイクロプスや、空を遊泳する巨大な百足型の悪魔ギガピード、ハエの悪魔ベルゼバブといった虫系悪魔の軍勢を従えていた。
だが彼自身、その性格は猪突猛進を地で行くというもので、自分はそうでなくとも、周囲からは『脳筋』やら『頭なしの突進蜘蛛』などと揶揄されていた。
そんなファントムだったが、決して無能という訳ではなかった。
虫系悪魔の特性を理解し応用した戦略を駆使。その結果、数多くの戦績を残した将たる側面を有している。
例えば、数時間という単位の短期間で倍々に増えていく異常な繁殖力と増殖力を利用した物量戦。これにより、瞬発力が厄介だがその分消耗が早いという欠点を持つ種の悪魔に対し、完全殲滅という形で戦果を収めて見せた。
それに加え、己自身の強大な魔力と実力、そして外骨格の頑丈さを活かした特攻で配下の軍勢をカバー。
敵将の悪魔を討ち取って見せたりもした。
とは言え、それでも魔帝の右腕であったスパーダと比べるとその差はかなり大きいものがあったが。
しかし腹心として、魔帝に楯突く勢力を根絶やしにしていった事実は確かだ。そんなファントムだったが、スパーダが反逆した日、その短気で猛進的な性分が災いして特殊な結界に嵌ってしまい、魔力の大半を奪われるというヘマをやらかしてしまった。
その時のファントムの怒りは、壮絶なものだっただろう。悪魔の誇りである力を奪われ、雑魚と同列に並ぶ。
力を信奉する純粋な悪魔たるファントムにしてみれば、屈辱以外の何物でもなかった。
それでもフツフツと燃え滾る憎悪と怨嗟に耐え忍んだ。
復讐の時を、自分から力を奪ったツケを支払わせる為に。
大半の魔力が喪失して以降、ファントムは日々の多くを休眠に当てがった。無駄に魔力を消費することを抑える為だ。
しかしそんな節約なんかで事足りる筈がなく、足りなければ危険のない雑魚悪魔や、魔界に堕ちた人間の魂を喰らい、それを魔力の糧としていった。
地道で惨めな日々だった。誇り高い悪魔である筈の自分がちっぽけな人間の魂や、塵に等しい知性すら持たない雑魚悪魔を喰らい、怠惰に眠りを貪る。
情けない。忌々しい。
それでもファントムはスパーダへの復讐を諦めず、ひたすらその手段を繰り返し、ようやく。
二千年という長き月日を経て、完全な力を取り戻すことに成功した。
歓喜した。取り戻した己の力に酔いしれた。
2000年の間に喪失しかけていた強大なる魔力を持つという、この言葉にし難い感覚。
"………ハハ、フハハ、ハーッハハハハハッッ!コレだ! これこそ俺だ! 今この瞬間を持って己を取り戻したぞォォォォッッッ!!!"
叫ぶ。力を取り戻したと。ファントムは魔界の大気を震わせるが如く笑い声を上げ、自身の復活を宣告した。日々彼を嘲笑っていた悪魔どもは恐怖に慄いた。力を取り戻したのだから。
力を失ったこともそうだが、無駄な足掻きだと思って嘲笑い、侮蔑を吐いて来た彼等はファントムの復活を泡沫の夢と断じ、起こり得ない等と高を括っていた。
しかし、それが現実になった今、彼等を待ち受ける結末は一つ……。
"コケしてくれた礼だ。盛大な祝砲をくれてやる!!"
超高温の魔力を収束させ、一気に天へ向けて放つと、魔力は分散しまるで地表を抉り砕く隕石のように降り注いだ。
悪魔たちは容易く塵と化して死んだ。
断末魔の叫びを上げる暇もなく、呆気なく。
自身を嘲笑い、侮蔑下劣な罵声や嫌味を吐いて来た中級クラスの悪魔たち。それらを掃除できたことに対し、ファントムは清々しい気分を得て、それを存分に味わう。
中々気分の良い余韻に浸っていた矢先、ふと。かのスパーダに似た強大な闘気を人間界から感じ取る。
"もしや、スパーダなのか"
"この俺から力を奪ったことを、後悔させてやる!!"
スパーダである可能性が高い。
確証があろうがなかろうが、それ自体はファントムにとって問題ではない。可能性があるなら阻む障害を悉く破壊し、蹂躙を尽くしてでも向かう。
力を取り戻したとは言え、やはり2千年という年月を得ようとも変わらない短気で猛進的な性格は変わらない。
そもそも、ファントム自身に変える気がないのだから、変わらないのも当然かもしれない。
ともあれ。ファントムはその闘気を辿り、人間界へと現界を果たす。
現界した場所は、地図にない無人のマレット島。その城に設けられた礼拝堂の天窓を魔界のゲートにして通り、自身の存在を知らしめる為の咆哮を上げる。
そこに、強大な闘気の持ち主はいた。
残念なことにスパーダ本人ではなく、その息子であるダンテなのだが……それを知るのは、己の死に際だった。
※
ファントムは二度に渡りダンテと激闘を繰り広げた末、二度目の戦いで彼の渾身の一撃に怯み、その結果。
最初に天窓を割って現れたのと同じように、二度目の戦いの場である城のバルコニーの天窓を割って落下。
その下にあった騎士の像が持っていた槍の先端に背中から腹部を貫かれ、それが致命傷となってしまった。
"貴様……何者だ! 人間ではないな?!"
己の死を悟りつつも、どうしても知りたかったことをダンテに問い掛けた。
最初会った時、ファントムはダンテをただの人間だと判断したが、今となってそれは違うと認識を改める。
もし、彼がただの人間なら容易く己の餌か消し炭になっている筈だ。
しかし、どうしたことか。
彼は上級悪魔であるファントム相手に奮闘し、結果的にとは言え、倒してしまった。
なら……ダンテは悪魔と契約を交わし、力を得た人間なのか?
しかしそういった類の人間というのは大抵、雑魚悪魔と契約して大した力を持たない者が殆どだ。
ファントムのような上級悪魔が人間に下ることもなければ、その力を貸すなど有り得ない。
全くない、という訳ではないが理由が単なる気紛れや戯れの類なので、非常に稀な例と言える。
だが、それでも。あくまで直感的なものだが己の勘が"違う"と訴えている。
ならば、何だ。何だというのだお前は。
どれだけ思考を回転させようとも明確な答えは得られなかった。だが、その時ファントムは彼の姿がある悪魔と被るのを見た。
それは、単に錯覚の類だが、それこそが答えに
近かった。
"まさか……伝説の魔剣士スパーダなのか?!"
魔剣士スパーダ。
自身の主であるムンドゥスに歯向かい、あろうことか人間に下った愚かな悪魔。そして、自身の力の大半を奪った憎き相手。
それが、己を追い詰めた男の正体だとでも言うのか。
ダンテはファントムを見下ろし、不敵な笑みを浮かべつつ、答え合わせをするように自らの正体を明かした。
"鋭いな。その息子の……ダンテだ"
"ネンネしな"
スパーダの息子。あの魔剣士に息子がいたという事実に驚愕すると共に肉体が崩壊。
ムンドゥスの腹心の中で最初にダンテに敗れた悪魔として、その生に幕を下ろした。
しかし、何の因果か。
スパーダの息子に敗れた悪魔の魂は、魔界へと還ることなく転生を果たす。
それも並行世界に。
あろうことか……前世の記憶を持ったまま"悪魔の力を持った人間"として。最初、ファントムは困惑を隠し切れなかった。
何故、自分が人間の姿に?
魔力は感じる。が、かつての巨大な大蜘蛛の姿にはなれず、見えると言ったら木々や鬱蒼と生える草以外に何もない。
森の中にいる。せいぜい分かることはこの程度だ。
「……冗談だろ? この俺が、人間だとぉぉぉッ
!!」
沸き起こる憤怒に呼応するように己の魔力が炎へと変換され、周囲を悉く燃やしてしまう。
すぐに鎮火したが、彼の周りにあった植物は大きさや種類を問わず木々は一瞬の内に炭へと変わり、草に至ってはもはや炭の粒子そのものとなって原型などない。
「ええい、クソッタレ! 死んだと思ったらなんだこのザマは!! 意味分かんねーよ!!」
見たところファントムの外見は、肩まで長い黒髪の9歳程度の少年といったところだ。
先程まで青かった瞳の色が赤に変わるといった特異的な特徴はあるが、それ以外では特になく、外見だけで物を言えばどこにでも男の子だ。
そしてこれが…ファントムが並行世界へと転生し、己の置かれた状況を把握。同時に今生の姿を認識した始まりの記憶である。
後に彼はある家族と出会い、『雪音トム』という名を貰うに至るのだが……それはまた別の話である。
※
"魔人"とは、人でありながら生まれつき悪魔の魂を有した者を指す。
大抵、その力は強大なもので、かつて悪魔として生きていた前世の記憶…というより、ほぼ意思がまったく同じで、本人からしてみれば死んだと思いきや、何の脈絡もなく人間の肉体に捻じ込められたような感覚らしい。
特徴として、見た目自体は然程変わりはない。しかし魔人は"その保有する魔力を悪魔が感じ取れない"為、『ただの人間』と誤認される。
観察眼が鋭いか、あるいは万象を看破する類の能力を持っていなければ
、正確に判断することは不可能だろう。
「で、アレか? その魔人っつーのを仲間にしようってか? 大丈夫なのソレ」
人気のない路地裏。
建物の壁が左右に並び立ち、コンクリートで覆われた道を踏み締めて歩いて行くKの横でグリフォンがバサバサと音を立てて、Kから聞かされた"魔人"という存在について、
「お前が役に立たないからな。シャドウだけじゃ心許ない」
「そんならよォ! ナイトメアに頼んで協力してもらう方が楽なんじゃねーの? アイツの力は冗談抜きで国一つは余裕で落とせるんだぞ」
「響から悪魔を寄り付けなくさせるには、ヤツの力は必要だ。何かあってからでは遅いんだ」
ケルベロスへと標的を定めたKにとって、グリフォンは足手纏いとしか言えないほどに役には立たない。
他の事ならば話は別だろうが、ケルベロスとの戦いでは雷や電気を吸収し回復・強化することのできるケルベロスはグリフォンにとって最悪の天敵だ。
おまけにアラクネアと同じ上位(アパルト)に君臨する大悪魔。
アパルトに近い中位(コンプレア)程度の強さしかないシャドウだけでは、確かに不安が残るところだろう。
だからこそ、Kは"依頼"することにしたのだ。
自分と同じく悪魔の存在を知り、人に仇名す魔を狩る者に。
「つーかよォ、その魔人って連中はどのくらい
いんの? そんで連中の誰を誘うとか……そーゆープランあんの?」
「だいたいで一つに国に一人か二人、ぐらいの
割合だな。誰にするか既に決めてる。任せろ」
「"私にいい考えがある!"、とか! そんなんじゃないだろーな? マジでフラグってのは勘弁だぜ」
「訳の分からない事を言うなトリ頭」
一人と1匹。そんな会話を交わす内に時間は過ぎていく。歩く目的は勿論あり、決して気まぐれの散歩気分で歩いていた訳ではない。
目的の人物に会う為だ。狭い道を進んでいたKとグリフォンは、やがてそこそこ広い場所に出る。
子供が遊ぶ為の遊具が設けられている公園だ。
休日なら幼い子供たちが遊び、保護者たちが井戸会議に花を咲かせているそこも、さすがに平日は人っ子一人いない。
せいぜい、いたとしても野良猫か羽虫といった人間以外しかいないだろう。だが。この公園を包み込む熱気のような異様な雰囲気が漂い、それらさえも近寄らない領域と化していた。
「……ナァ、Kチャンよ。オレさ、なんとな〜く覚えがあるんだよな。この感じ」
「つい最近か?」
「いいんや、もうスゲー昔からさ」
公園に漂う熱気を含んだ魔力にグリフォンは覚えがあった。
かつて、共に魔帝に仕えた同胞の灼熱の大蜘蛛。自身の力に絶対の自信があり、空を飛ぶ自分を"羽虫"呼ばわりして喧嘩腰に突っかかていた記憶が悪い意味でフツフツと蘇って来る。
そして。
「お前が依頼主か? それに……どっかで見たことのある羽虫野郎がいるなぁ?」
この世界におけるデビルハンターにして、悪魔の力を秘めた魔人『雪音トム』が静かに佇み、ギラついた視線でKとグリフォンを一瞥していた
……。
ーーちょっとした補遺ーー
雪音クリス/原作同様、幼少期に紛争に巻き込まれて両親は死亡(経緯も原作通り)。しかし彼女の両親に拾われ養子となっていたファントムことトムが兄として居たこと。これがその後における原作との転換点になった。
なんとかトムの力で窮地を脱し、おかげでフィーネに引き取られることなく、その後は二人で各地を転々としながら兄妹で暮らすことに。
性格は特に変わりなし。
雪音トム(ファントム)/かつて魔帝ムンドゥスが腹心の上級悪魔だったが、スパーダの息子ダンテに敗れ死亡。その後、何の因果か魔人としてシンフォギアの世界に転生。
最初は色々と戸惑っていたが、同じ魔人の『ある人物』と出会い、この世界に関する情報を教授される。2、3年は一人であてもなく放浪していたところを雪音夫妻に出会い、紆余曲折を経て養子に。
クリスにとって義理の兄となる。
紛争に巻き込まれる形で両親は死亡するが、悪魔としての力を駆使して
クリスと共に紛争国だったバルベルデを脱出。以降は兄妹二人で各地を転々とする形で暮らしている。
性格は基本的にファントムの頃と大差はないが、傍若無人で血の気の多かった悪魔時代と比べると、人と接する上での常識を心得ているので幾分かマシになっている(これも雪音夫妻の教育の賜物)。
ちなみにクリス大好き。気安く近づいてくる害虫(男)は焼却処分する方針。