最新話です、どうぞ。
side K
「冗談には言っていいものと、そうじゃないものがある。お前は後者を言った」
Kはインビスの切っ先を突きつけていた。
この道化師は、翼と響が死ぬかもしれないと嘯いたのだ。
訳が分からない道化師の妄言。それに付き合うほどKは酔狂ではないが、言ってはいけない事を言ったのだ。
そのツケを、支払わせずに置く訳にはいかない。
「冗談じゃないのよコレが〜。なんでかって? そりゃシンフォギアがチョー疎ましいって輩がいてさ、その輩がアンノーウスと同盟関係にあんのヨ!! ……ここまで言えば、お分かり?」
「フィーネか」
終わりの名を冠する、ノイズを使役する術を持つ謎の女性。
そのフィーネがアンノーウスと手を組んでいる事は既に分かってはいた
。そしてノイズを操るというのであれば、その対抗手段であるシンフォギアは相当目障りな存在だろう。
故に始末する。その結論に至るのは当然の理と言えた。
「クソッ!」
ナイトメアの事を考えれば、自分が行く必要はないのかもしれない。だが万が一、ということも十分有り得る。
ならば、行く意味はある。
すぐさま二人の下へと急ごうと駆け出すKだが、それを止めたのはジェスターだった。
「待って待って。ほらドーゾ❤︎」
ジェスターはくるりと杖を回し、その先端を地面へ向けた瞬間、輝かしい青い光と共に魔力の稲妻を迸らせる魔法陣が出現した。
それは遠くの別の場所へと瞬間的に移動する為のもので、コレをわざわざ出したということは止めたとは言え、行かせないという訳ではないらしい。
「……」
とは言え、だからと言って魔法陣を使うほど間抜けではないKは、疑惑と警戒を剥き出しにした目でジェスターを睨む。
「大丈夫だって! 変なトコ行ったりしないからサ!! コレなら間違いなく二人のとこに行けれるから! 信じてよォォ〜!!」
信じられないとばかりに疑心を抱いているKを見て、身体をくねくねと奇妙に動かしながら嘘泣きをするジェスターは、どう見ても人を小馬鹿に謀っているようにしか見えない。
そんなジェスターが用意した魔法陣を通り抜けようとするなど、正気の沙汰ではない。
「悪いが、そういったのは間に合ってる」
故にKは、己の魔術による行使で向かうことを選択した。
「"我は汝の下へ行かん。さすれば道は開かれるであろう"」
白色の閃光を伴った魔法陣が現れ、Kを響と翼のいる場所……その付近へと転移させた。
残されたジェスターは、一つ深い溜息を吐く。
そして、嗤う。
「そーそー。簡単に引っかかっちゃうなんて、そんなのはダメダメ、ネ♪」
『ウオオオオオオオーーーーーーッッッ!!!!!』
そんな独り言を漏らした瞬間、魔法陣から巨大な異形の腕が、おぞましい獣のような叫びと共に現れる。
それも一本じゃない。何十本もだ。
灰色で筋肉質のソレは、手の部位が硬い手甲を彷彿とさせる外骨格に覆われ、今にもジェスターの足を掴んで来ようと手探りで踠いている。
ジェスターは、嗤い顔を張り付かせたまま淡々とした様子でその腕の一本を蹴り砕く。
鮮血と肉片が舞い、その飛沫がジェスターの頬を濡らす。
まるで痛みに耐えるかのように呻ぎ騒ぐ絶叫。
それは当然、魔法陣の向こう側に居る無数の手の主たちだ。
そう。この魔法陣は響と翼の下へは行かず、魔界の中でも数千数万と多種多様な悪魔が密集している危険なエリアに通じていたのだ。
ジェスターは、最初から嵌めるつもりだった。
「簡単じゃ〜つまらない。つまらないヨ。もっともっと足掻いて、踏ん張って、無様に絶望を抱いて泣き叫んでくれないと、ネ♪」
道化師の悪魔は不幸を、悲劇を、そうやって生まれる"地獄"を好む。
その中で踠いて、絶望する人間の姿はこの上なく彼女にとって心地よく美しいと感じ得るものなのだ。
単純に果てなき殺戮と闘争を好む本能的な悪魔とは真逆と言ってよく、まさに人間が思い描く『欺き貶める魔性の存在』としての悪魔らしさが
滲み出ていた。
※
『フン。まったくもって忌々しい悪魔ですね』
ドリームウォーカーは、中々倒れないナイトメアに対する苛立ちを隠さずに滲み出す。
ナイトメアの技を模倣したピートウィッチの強力な一撃で倒れることなく立ち続けるナイトメアの姿は、確かにドリームウォーカーにしてみれば厄介なことこの上ない。
『だが、こちらは貴様の力を模倣したピートウィッチがおり、私もいる
。形勢の利は我々が握っているに等しい』
現状は2対1の構図だ。
しかしピートウィッチは既存の力に加え、模倣したナイトメアの力がある。
量は勿論、質でも勝っている自負がドリームウォーカーにはあった。
『む? ……どうやら邪魔が入ったようだ』
ドリームウォーカーの視線にナイトメアもモノアイを向け、同じ方向へと視線を合わせる。
見れば響の前に立つ少年と、フォルテの背後を取って紅いクロスボウガンを突きつけている少女の姿があった。
すぐさま二人を解析・鑑識した結果、おそらく味方であろうという結果が99%と出た。
ナイトメアは自身の情報分析能力から得たデータに従い、謎の二人へ響を任せて冷静にドリームウォーカーとピートウィッチの対処へと思考を駆け巡らせる。
そして、二体の悪魔を倒し得る策を瞬時に構築した。
「ギィ、イィィィッッ!!!」
まずは、ピートウィッチ。
ピートウィッチは他者の悪魔の力を模倣する能力を持つ故に、自身の力をトレースされてしまった事実はナイトメアの不利を意味している。
だからこそ、最初の標的はピートウィッチだ。
ナイトメアがモノアイに魔力を収束させストロング・メアを放とうとしているのを察知したピートウィッチは、すぐさま腕の砲身をナイトメアに向け、同じく魔力を収束。
だが、生憎のところナイトメアの方が早かった。
『いけません!!』
ドリームウォーカーは、すぐさま幻術をもってナイトメアの攻撃を止めようとする。
妖しい赤色の輝きによる視線がナイトメアのモノアイから見る視線と重なる。
これでいい。奴はもう幻術という籠の中だ。
内心ほくそ笑むドリームウォーカーだが、その心中の思いはすぐに裏切られることになる。
収束された魔力は消えることなく、ドミネーションという極太の閃光となってピートウィッチのストロングメアごと、魔女の悪魔を飲み込む。
『!!ッ ええい! こうなれば!!』
己の幻術が効かない事実に対し、忌々しさを覚えることはあれど取り乱すことなく、冷静に次の手を講じる。
ドリームウォーカーが歪な音を奏でながら、硬い指をクイっと曲げる。すると地面から黒い靄が溢れ、それが様々な悪魔の形を成していく。
『"レギオエル"!!』
やがて。その全貌が真名と共に明かされる。
体色、細部はその個体ごとにバラ付きがあるものの、総じて同一なのは身体を包む金属質の鎧のような外骨格。
そして、人型を各パーツごと歪に曲がりくねった形状。
まるで中世の騎士の鎧を象ったモノを無理矢理に歪ませ、細長く伸ばし変形させた不気味なものとなっていて、頭部のヘルムにある縦細いスリットからは不気味な瞳が三つ、四つと覗いている。
歪な鎧の悪魔"レギオエル"
ヘルゲ種ように群を形成し、自分達よりも強い者を信奉し仕える、まるで騎士のような生態を持った悪魔の種族。
そして『戦士』と認識した者以外は決して襲わないという悪魔らしくない一面もあるという。
そんな悪魔がドリームウォーカーの配下として召喚された。この個体群の強さに関してはコンプレアだが、実力的には上位に近い。
『行きなさい!』
主の号令を合図に、レギオエルは片手や両手に魔剣を生成。一気にナイトメアへと斬りかかる為に迫る。
レギオエルの魔剣は、持ち手である個体の鎧の外骨格と同色で、刀身は波打つようなフランベルジュタイプの剣に似ている。
剣自体は自らの鎧を形成している物質と魔界の金属を混ぜ合わせて作られていること以外は、至って普通の剣。
しかし、レギオエルという悪魔には能力があり、それは『攻撃の反射』。
物理的・魔術的・単純な魔力の当てつけ等、方法や手段に問わず、向かってくる攻撃を反射する形でそっくりそのまま跳ね返すことができる。
但し、反射した攻撃は制御が一切できない。
よって、反射された攻撃がどの方角へ行くのか。担い手であるレギオエルたちにも分からないのがデメリットだろうか。
とは言え、これだけ聞けば厄介な悪魔に思うかもしれないが、ナイトメアは悪夢という幻の存在ではなく、一個の実体ある悪魔としてこの世界に転生した。
悪夢でしかなかった頃はVがいなければ、ろくに悪魔を倒せなかった。それは事実だ。
しかし今のナイトメアは違う。
全盛期……魔帝配下の頃ほどではないにしろ、力は悪魔の中でも強力な部類に入る。
「……!!ッ」
ナイトメアは身体中を巡る魔力を再びモノアイに収束。ストロングメアを今度は一直線に一つではなく、後方を除く左右前方に幾線も繰り出す"クリティカル・インパクト"を発動。
解き放たれた魔力の光線はレギオエルの一体一体に当たりはしたが、しかしカウンターの壁が光線を阻み、そのまま跳ね返す。
レギオエルにダメージを与えることなく、光線は見当違いの方向へと飛んでいき、いくつかはナイトメア自身に返って来たものの難なく腕で払い、防いで見せた。
その間に1体のレギオエルがナイトメアの身体を切り裂く。それに続いて他のレギオエルたちがナイトメアの身体を余すことなく切り刻んでいく。
しかし、ナイトメアの身体は流体のソレだ。
まともに切ったところで意味はない。
ナイトメアはレギオエルたちが自身を切り刻む為に近づいて来る、この状況に目をつける。
「……ッ!!」
声ではなく、まるで機械が駆動する際に出すような音を上げ、ナイトメアは左右の剛腕を地面へと叩きつける。
瞬間。地面が土砂の柱を立てながら盛り上がり、続いてナイトメアの身体を形成しているタールのような黒いスライムがレギオエルたちを一気に飲み込む。
"ナイトメア・ヘル・フォールン"。
悪夢の名の通り、ナイトメアは自分の内部へと取り込んだ相手の記憶を読み取り、その相手が恐れるもの。憎むもの。嫌悪するもの。
そういったものを幻影として見せ、襲わせると
いう能力を持っている。
内部はナイトメアが形成した異空間となっており、レギオエルたちをそこに送り込んだ訳だが、そこで幻影に攻撃させてもカウンターされてしまう為、意味はない。
なら何故取り込んだのか?
『!! 消えただと?!』
ドリームウォーカーは驚く。自身の配下であるレギオエルたちの気配…生命反応(ルビ)が消え去った。
彼等が何処にいようと、ドリームウォーカーはレギオエルたちの生死を判別できる。
これはドリームウォーカーという、個の能力というより、悪魔同士又は人でも主従関係を結んだ場合に生じる、契約の執行力だ。
しかしたった今、その気配が途切れた。
それはつまり、『死』を意味する以外にない。
『キサマァァ、何をしたアァァァァッッ!!』
怒りの叫びでナイトメアに捲し立てるが、発声器官を持たず、テレパシーにソレに近い思念送りの魔術を使えないナイトメアでは、答える事などできはしない。
もっとも、仮に意思を伝えることができたとして、それを懇切丁寧に伝えるとも思えないが。
ナイトメアがしたことは非常に単純なことだ。
レギオエルたちを異空間に送り込むと同時に、異空間を消失(ルビ)させたに過ぎない。
ナイトメアの異空間は、それが所謂ナイトメアの体内という訳ではなく、あくまでナイトメアが能力で作り出した産物に過ぎない。
よって、生み出すことが出来れば、それを消し去ることも可能。
レギオエルたちを、異空間ごと消し去っただけ。
一つ二つの物理・魔術的な攻撃を跳ね返すカウンターなど何の意味も為さない。
空間ごと消え去るのだから。
『え、ええい、もういい! 最初から私自らがやればいいだけのことだァァァァッッッッッ!!!!』
もし。ここにかつての契約主であるVがいれば、おそらくだが詩的な皮肉を聞かせてくれた事だろう。
それほどまでにドリームウォーカーは、頼んでもいないのに滑稽さと無様さの両方を見せてくれていた。Vがいたら、鼻で嗤うだろうと内心思いつつ、ナイトメアは再びドミネーションを放つ準備をし始める。
『フン! ハァァァァ………』
すると、ナイトメアの攻撃を予測したのか、両腕をクロスさせると共に下半身の黒い靄が辺り一面に広がっていき、ナイトメアの周囲を包み込む。
ドシュッ!
直後、生々しい音を立てながらナイトメアの左腕に何かが突き刺さる。
それを振って払い取ろうとするがそうするよりも先に、ナイトメアの左腕は根元から引き千切れ、地面に落ちる。
ドシュッ!
また音がする。先程と全く同じの音だ。
今度は右腕が引き千切れ、地面にドサリと落ちて融解・蒸発していく。
どうやらドリームウォーカーはこの靄に隠れて奇襲し、ジワジワと嬲るように殺す腹積りらしい。
とは言え、だからと言ってナイトメアに対処はできない。
この黒い靄はナイトメアの視界をただ遮るだけではなく、透視や熱源察知といった各種の視覚機能まで完全に阻害していた。
これではドリームウォーカーの姿を正確に捉え、こちらから攻撃を与えることはできない。
ザシュッ!
今度は刺す音ではなく、一気に切り払う感じの音が響く。
見ればナイトメアの胸部から腹部にかけて袈裟斬りの線が奔り、それが紫色の光を帯びている。
『フフ。やはり、完全に斬撃を無力化できると言うわけではないようですね』
相変わらず姿を見せず、余裕に満ちたドリームウォーカーの声が響く。
『物理的な斬撃が意味を為さないなら、魔術的、あるいは魔力を込めた攻撃を行使すればいいだけのこと。単純明快でしょぉぉ?』
ドリームウォーカーは、余裕と嘲りを嫌味として込めてそう言う。
レギオエルがナイトメアにダメージを与えられなかったのは、単にナイトメアの身体が流体だからという理由だけではない。
実はレギオエルはそれぼど魔力の扱いが上手くなく、どちらかと言えば、不得手な方だ。悪魔にも魔力の扱いに関して得手不得手というものがあり、それは個の才の有無だったり、種としてそういう風に出来ている等、様々。
レギオエルの場合は、種族そのものが魔力操作自体苦手とする存在。ナイトメアに斬撃でダメージを与えられなかった大きな要因は、魔力を扱えない為に武器に魔力を付与できなかった事だ。
魔力が十全に込められていれば、込めた魔力の分だけダメージを与えられただろう。
魔帝時代では魔力を吸収する性能を持っていたナイトメアも、今では幾分か弱体化したせいでそれが失われている為、効果の程は期待できた筈なのだ。
悪魔を殺すには、ただ武器で物理的に攻撃するだけでは足りない。
悪魔が忌み嫌い、時として彼らにとって毒となる『聖性』の力が宿ったモノを使うか。もしくは、同じく悪魔の身技たる魔術又は魔力が秘められたモノを使うか。
それ以外になく、レギオエルたちは種としての不得手が仇となってしまった訳だ。
だが、主であるドリームウォーカーは魔力の扱いに長けている。
魔力の付与など、彼にとっては赤子の手を捻るように初歩的なことで、高難易度の魔術を行使することだってできる。
ナイトメアが強くとも、ドリームウォーカーもまたレギオエルのように容易に行くほど、雑魚ではないのは確かなのである。
『ハッハッハッハッハッハッハッ!! なんと無様な!! さぁ! まだまだ行きますよォォォォッッ!!!!!』
ここでふと気付いたことがある。再生する筈の両腕がどういう訳か、一向に元に戻る気配が見受けられない。別にナイトメアが意識せずとも自動的に再生し、腕は元に戻る筈。
なのに、何かを入れられたのか、意識を集中させ再生させようとするが
全く上手くいかない。
コレハ……モシカシテ、マズイ?
ふと、そんな考えがナイトメアの心中を掠めて来た。