戦姫魔晶シンフォギアD   作:イビルジョーカー

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お待たせしました。今回はちょっと長めです。


第25話  tears of blood part4

 

 

 

 

 

「ったく、あのアマ(・・)人使い荒いっつーの」

 

 

トムは自身の髪をワシャワシャと掻きながら、『魔槍剣ファントム』というかつての自分の名を冠した魔具を肩に担ぎ、赤い少女であるフォルテへ鋭い視線を真っ直ぐにぶつける。

 

 

「で、この嬢ちゃん殺そうとしたお前は誰だ? 言いたくないなら結構。その分ブチのめさせてもらうだけだ」

 

 

クイッと親指を後ろにいる響へ向け、まるでヤクザが言いそうな常套句を述べるトム。

 

そんな彼に対し、フォルテは深く溜息を吐く。

 

 

「勘弁してくれよ。本当ならさっさと終わらせて帰る予定だったのに。これじゃー、楽に終われないだろーが」

 

「そうかい。そりゃ残念だったな。で、質問に答えてくんねーか? それともやっぱブチのめした方が早いのか? ん?」

 

 

首をポキポキと鳴らしながら言うトムを一瞥するものの、フォルテの顔に怖気付く様子は見られない。

 

場数を踏んだ強者故か、あるいは感情が希薄なのか。いずれにしろ別段口が硬いというわけでもないらしく、トムの質問に素直に答える。

 

 

「オレの名前はフォルテ。フィーネって女に雇われた身で、そいつの依頼でそこの嬢ちゃんの命を取ろうとしたってわけだ。まー、どこぞの誰かさんのせいで、たった今失敗したが」

 

「そのフィーネってヤツのこと吐け!!」

 

 

フォルテにボウガン型のアームドギアを突きつけていたクリスが、やや強めな口調で問い質して来た。

 

単純に苛立っている…という感じではなく、どちらかと言えば『憎悪』を滲み出している、という表現が当て嵌まる感じだ。

 

 

「クリス。落ち着け」

 

「でも!」

 

「落ち着ついてくれ。頼むから」

 

 

トムからの懇願に近い言葉が出される。その顔は厳しさの中に哀愁を入れたような、そんな表情だ。

 

その意味をすぐに察したクリスは頭に昇っていた血がゆっくり下がっていく感触を覚え、目を伏せてしまう。

 

 

「………ごめん」

 

 

一言の謝罪。それを聞いたトムは『気にすんな』と答え、仕切り直しとばかりにフォルテを睨む。

 

 

「おーおー、恐っ。フィーネのヤツに恨みでもあんのかよ?」

 

「テメェには関係ねーよ。ヤツの居所をさっさと言え」

 

 

チャラけた口調で活気良く聞いてくるフォルテに苛立ちを覚えたトムは彼女の質問を切って捨てて、ファントムの先端を向ける。

 

 

「悪いが、言えないな。だがこれだけは教えてやる。一応、念を入れて正解だったよ」

 

「あん? どーゆ……グボォッ!」

 

 

それは、あまりに突然のことだった。

 

地中から何かが飛び出し、それが土と共にトムを空高く舞い上げる。

 

一瞬あまりの衝撃に意識を失いかけたが、地中から飛び出した何かが鋭い爪らしきモノを向けて来るのを見た瞬間、即座に意識を取り戻し、何かを踏み台に宙返りを決め込みながら着地を果たす。

 

 

「トム兄…ガハッ!」

 

「油断は禁物だァァ!!」

 

 

勢いよく飛ばされたトムに動揺が生まれたクリスの隙を見逃さず、エルボークローを鳩尾へ叩き込んだフォルテ。

 

そして、そこから更に蹴りを一撃入れてクリスを吹っ飛ばした。

 

 

「クリス! くッ!!」

 

 

やられるクリスを見て助けに入ろうとするトムだったが、つい今し方トムに奇襲の一撃を与えた犯人が敵意を向けると共に鋭い爪を繰り出し、それをトムは咄嗟にファントムで防ぐ。

 

 

「テメェ……"アサルト"か!!」

 

「いかにも!」

 

 

アサルト。見た目は蜥蜴の獣人のソレで、トムの前世では魔帝配下だった尖兵ブレイドが魔帝の支配から解放され野生化。

 

そうして変化したのがアサルトという種の悪魔だ。

 

とは言え、この世界におけるアサルトは単にブレイドに似ているだけで、あくまで別種の悪魔に過ぎない。

 

姿形は騎士を彷彿とさせるヘルムや盾を装備していたブレイドとは異なり

、インディアンのような民族戦士の装飾を纏い、風を操る力を持っている

 

そしてこのアサルトはどうやら人間の言葉を理解して介する程の知性があるらしい。

 

 

「私の名は"ストムル"。魔界の言葉で"嵐"の意味を持つ!!」

 

「自己紹介どーも! 生憎覚える気はねぇよ!」

 

 

アサルト……ストムルの爪を弾くように押し返したトムは、ファントムの刀身部位を長く伸ばすことでそのままムルティーの心臓を抉ろうと突きを繰り出す。

 

が、突如としてストムルとトムの間に人並みの大きさの氷塊が刺さり、ファントムの突きを無効化してしまう。

 

 

「! これは……」

 

 

その氷塊に見覚えがあった。より正確に言えば、前の世界で見慣れた記憶がトムにはあった。

 

 

「フォォォォォォ……」

 

 

深く息を吐き出すような音。その発生源である斜め横へと視線を向ければ

、何もなかったはずの其処に1体の悪魔がいた。

 

両腕と両肩に氷を纏い、硬質な外骨格に包まれた肉体を持つその悪魔は、トムのよく知る存在だった。

 

 

「"フロスト"まで居るのかよ!」

 

 

氷の悪魔フロスト。ブレイドのように魔帝が生み出した悪魔の一種で、氷の力を有し、ソレをもって敵を葬るアサシン。

 

その力には魔帝もお気に召していた記憶があったなと思う反面、マグマでさえも耐えてしまうフロストの氷の鎧にうんざりしつつ、トムはファントムを構える。

 

 

「上等だぁ……来やがれ!」

 

 

そう叫び、勢いよくファントムを振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと! これで全部か?」

 

 

とある街中で二人の人物が突如として発生したノイズに対処し、その全てを残さず殲滅し終えたところだった。

 

一人は、青い長髪に何処か音符を彷彿とさせるサイドテールの髪型をした少女『風鳴翼』。

 

そして、もう一人はノイズが全て倒したことをに確認するように言った、赤く鳥の翼に似た髪型の少女『天羽奏』。

 

 

『ああ。付近にノイズの反応はない。ご苦労だったな奏、翼』

 

「ノイズに対抗できるのは、あたしらシンフォギア装者だけ。自分にできることをしたまでだよ」

 

 

通信から聞こえる弦十郎の労いの声に対し、奏はそれが当然だと笑顔で答える。

 

真っ直ぐで優しく、自分よりも強い奏のそんな姿を見てか、翼は自分でも無意識に笑顔を浮かべてしまう。

 

 

『何もないとは思うが、周辺を注意しつつ帰投してくれ』

 

「分かった分かった。ホント心配症だね〜旦那は」

 

『性分なものでな。じゃあ、また会おう』

 

「ああ」

 

 

そんな何気ない会話を終えて通信を切る奏。

 

 

「? どーした翼、笑ったりして」

 

「え、いや、その……ごめん」

 

「ハッハッハッ! 何謝ってんだよ。まったく翼はおかしいなー」

 

「わ、笑わないでよ!!」

 

 

顔を真っ赤にして抗議する翼。

 

そんな彼女を適当に遇らう奏。

 

二人の光景は仲の良い親友同士だからこその物で、側から見るにさぞ輝いていることだろう。

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それは本当に現実なのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!ッ」

 

 

知らない筈なのに何故か聞き覚えを感じる声。

 

それを耳にした瞬間、翼は思わず振り返る。

 

 

「? 翼?」

 

 

何もいない……当然だ。

 

今の声は翼にしか聞こえない幻聴のようなもの。どこを見ようと、その発生源を見つけることはできはしない。

 

 

「う、ううん。何でもない」

 

「ならいいけど、無理すんなよ?

 

 

怪訝な様子で聞いてきた奏も単に気のせいだろと判断したのか、特に追求することはなく、無理だけはするなと念を押すだけに留めた。

 

 

「大丈夫。さっ、帰ろう」

 

「おう!」

 

 

夕暮れを背にして、二人は二課本部へと帰投していく。

 

 

『目を……■■……ッ!!』

 

 

聞こえている筈の雑音(・・)に耳を傾けないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キシャアァッ!!」

 

 

アサルトのストムルと名無しのフロスト。この二体は通常よりも知性が高く、個体としての強さも厄介なものだった。

 

というのも、この個体らはフォルテが直々に育て上げた悪魔達で、上位であるアパルトに近い実力を有している。

 

が、それでもトムにとって倒せない敵ではない。

 

鋭利な鉤爪に風の力を纏わせ、繰り出す手刀。

 

その突きの一撃を放って来たストムルは、風によって生まれるその回転の力でトムの身体の肉を削ぎ落とす気のようだ。

 

しかし、その思惑は終わる。

 

ファントムの刀身はマグマと悪魔ファントムの岩のような外骨格によって形成されており、実質マグマという液体で出来た不定形の剣だ。

 

故に伸縮自在。鞭のように扱うことも可能で、その蛇のように曲がりくねる薙ぎ払いで鉤爪を弾くばかりか、その腕と胴体をマグマの超高温で溶断する。

 

 

「オラァァッ!!」

 

「!!ッ お、おのれぇぇ……」

 

 

ストムルの口から恨み言が漏れるものの、もはや死は確定付けられた。そう宣告しているに等しい溶断の傷の状態は酷いものだった。

 

鋼鉄に等しい硬質な皮膚を容易く溶かし、血肉を蒸発させてしまっている。

 

そして、生命維持を司る臓器である心臓も同様に抉り溶かされた。

 

皮膚や他の臓器ならまだ何とかなったのだが、生命維持と魔力循環を司っている心臓を破壊されては仕方がない。

 

切断された腕とほぼ同着でストムルが地に伏し、依代にしていたトカゲという物質と共に魔力が流出したせいで形を保てなく、身体ごと消滅するという死を迎えた。

 

 

「………」

 

 

フロストはそれを見てどう思う訳もなく、まさに氷のように冷厳な姿勢で両腕に纏う氷柱を地面へ突き刺す。

 

 

「おっと!」

 

 

たちまち氷柱が地面から生え、針地獄を生み出した。

 

トムは攻撃の気配を読んで咄嗟に宙へ逃げた為何ともないが、もしほんの数秒でも遅れたら、股から口まで貫かれ無様な氷像が完成していた

ことだろう。

 

 

「で、芸はもうお終いか?」

 

 

着地したトムはわざとらしい挑発を口にする。

 

果たして、このフロストに怒りの感情があるかどうかは分からない。

 

が、それでもフロストは何もせずそのまま退くという選択を取らず、敵であり獲物でもあるトムに殺気を向け襲いかかる。

 

と言ってもファントムの存在を忘れず、まずは遠距離から野球ボールサイズの氷塊を無数に飛ばす『アイスブレッド』という技で小手調べを計る。

 

考えなしに接近戦に持ち込めばファントムの餌食になるだけ。

 

予測不能な動きとその上で瞬発力が高いファントムを前に近づく行為は自殺と大差ない。

 

運良く初撃をかわすことができても、次の一手である予測し難い攻撃の餌食になるのがオチだ。

 

 

「地面から生やすのはお前だけじゃねぇぞ!」

 

 

そう言って片手を地面へ置く仕草を取るトム。

 

するとフロストの立つ位置から灼熱を迸らせるマグマの柱が湧き起こる。

 

咄嗟に回避したフロストだったが、マグマの柱は無数の糸状に拡散。その一つがフロストの氷に覆われた身体を絡め取る。

 

 

「捕まえたぜ!」

 

「!!ッ……オォォッ!!」

 

 

低い鳴き声を発して、その拘束から逃れようともがくが、決して簡単には行かない。

 

むしろ動けば動くほど糸は絡み付いていき、逃れられない。

 

 

「諦めな。いくらマグマの熱にも耐えられても

動けなきゃお終いだ」

 

 

そう言って、ファントムを振るいフロストの心臓を突き刺す。

 

更に超高熱のマグマを注入され、完全に息の根を止められてしまう。そしてフロストの身体は氷が蒸発した気体と共にこの世界から焼失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃりゃ。2匹ともヤラレちまったか」

 

 

フォルテは赤い閃光の矢を次々と払い除けながら、アサルトのストムルとフロストが倒されたことに対し、淡白な味気のない感想を零す。

 

 

「これでこっちが有利なったな。さすがトム兄! やるぅぅ!」

 

 

赤いエネルギーの矢を放っていたクリスは笑みを浮かべ、自分の兄がやってくれたことを素直に喜ぶ。

 

2対1で、しかも奇襲を仕掛けたにも関わらず2体が負けてしまったのは相手であるトム自身との実力における差。そして彼等が仲間同士でチームプレーをせず、各々勝手に戦い始めたところが敗因だろう。

 

勝てないでも、上手くチームプレーができていれば、もう少し善戦はできただろう。

 

力に対する自尊心と闘争心が異常に強い悪魔という種に対し、それを言っても栓なき事だが。

 

 

「有利? そいつは……どーかな!!」

 

 

フォルテは勢いよく戦斧を地面へ向けて叩きつける。

 

トムが武器ではないが手を地面につけて発動させる技を持っていることを知っていたクリスは、何らかの攻撃を発動させる気かとボウガンを構える

 

すると、それは起こった。

 

戦斧から亀裂が奔っていき、地面がスナック菓子のように容易く崩れ落ちていく。

 

亀裂の規模は、横一線で50mほど。

 

やがて地面は無くなり、代わりにぽっかりと虚無の穴が顔を出した。

 

 

「な、なんだコレ?!」

 

「"地獄門"……つってもピンと来ないか。まぁ簡単に言えば魔界と人界を繋ぐ穴さ。さて問題…この穴から出てくるのは、一体何でしょう?」

 

 

何が出て来るのか。この穴が魔界へ続いているというのなら、考える迄もない。

 

"悪魔"以外にありえない。

 

 

『ウォォォォォォォォォッッッッ!!!!』

 

 

そして、歓喜に打ち震えているかのような雄叫びを上げて1匹の悪魔が穴から姿を現す。

 

それはまさしく"炎を纏った鋼鉄のミノタウロス"と呼ぶに相応しい姿をしていた。

 

ミノタウロスとは、ギリシャ神話に登場する頭部が牛で身体が人間の怪物の名。その怪物によく似た姿のこの悪魔はこう呼ばれている。

 

業火の鉄牛魔フュリアタウルス。

 

元は罪人を焼き殺す為の処刑道具だった牛型の青銅像だったのだが、数多の罪人たちの怨念や恐怖と絶望が依代としての条件を満たしてしまい、炎属性の悪魔が憑依した結果誕生した。

 

 

『ブゥリ、サッシマーヒュー(久しぶりの人界だ)』

 

 

魔界の言語を口にするフュリアタウルス。

 

そしてフォルテとクリスに目が行く。

 

 

『エモー……クワッセル!!(獲物か……食わせろ!!)』

 

 

どうやら、人界に来て最初のご馳走だと認識したらしいフュリアタウルスは、口から物に触れられる特異な火炎を吐き、捕らえようとする。

 

 

「うわぁぁッ!」

 

「おっと」

 

 

間一髪避けることに成功。しかし今度はフュリアタウルスの両手が迫る。

 

 

「代わりにコイツを喰らいなッ!!」

 

 

フォルテは戦斧を投げつける。回転しながら、しかもまるで意思があるかのようにフュリアタウルスの腕を軸に螺旋状の曲線を描くように腕を切り刻み、バラバラの鉄片へと変えてしまう。

 

 

『グゥアアアアアアアアアアアアアアアッッ!

!!!!!』

 

 

フュリアタウルスは、苦悶の叫びを上げ腕の断面を押さえる。

 

召喚されたと言うのに召喚者であるフォルテを襲う。クリスにして見れば謎の光景なのだが、答えは単純だった。

 

 

「言っておくが、コイツはオレの部下じゃないぜ?」

 

 

クリスの顔から彼女の心中に浮かんだ疑念を察してか、フォルテは自分が作った穴へと戦斧の先端を向ける。

 

 

「アレは単なる『穴』だ。召喚陣じゃない。あの牛野郎は単に穴があったからこっちに来たってだけの話で、オレと全く関係ない」

 

「な、なんだよソレ……何の為にそんな…」

 

「そりゃ、混乱に乗じて逃げる為だよ」

 

 

地獄門は未だ開いている。無論、そこから出て来る悪魔はフュリアタウルスだけではない。

 

翅に異形の目玉が付いた巨大蛾の悪魔ノクトプテランが五体。

 

無機物に憑依し、ヘリと戦車に憑依した個体『インフェスタント』のインフェスチョッパーとインフェスタンクのそれぞれ2体。

 

歪で錆び付いた大鋏を持つ、仮面のように感情を覗かせない白い顔をした悪魔デスシザースが17体。

 

猿のような霊長類を思わせる外見をした悪魔ムシラ数十体。

 

更に名称不明の悪魔が無数に地獄門から出て来る。もし、これらの悪魔たちが街にでも襲来して来たとしたら……間違いなく、この世の地獄絵図が現実の光景として完成してしまうだろう。

 

 

「んじゃーな。あ、結界はせいぜい30分位だから、早めに穴閉じて悪魔どもを駆除しといた方がいいぞー」

 

 

張本人にも関わらず、いけしゃーしゃーと呑気な口調で告げるフォルテは戦斧を振るい、自分の背後に十字を描き、その十字を丸で囲む。

 

すると、何もない筈の虚空に円形の穴が現れる。

 

 

「待ちやがれ!」

 

「逃すかよッ!!」

 

 

クリスはエネルギー矢を放ち、駆けつけたトムは掌に生じさせた火球でフォルテの撤退を阻止しようとするが、火球は片腕を再生させ新たらしく生やしたフュリアタウルスの腕に阻まれて失敗。  

 

クリスの矢では威力不足のようで、簡単に戦斧で払い砕くと不敵な笑みを浮かべ、穴が閉じる。

 

完全に消え去った。もはやフォルテの姿は影も形もないが、それでも悪魔たちは残っており、僅かな休息の暇さえない状況だった。

 

 

『ウォォォォォォォォォッッッッ!!!!』

 

「こ、の! なんでこっちなんだよ!! あのガキだろ普通はッ!!」

 

 

何の関係もなかった筈のトムに標的を定めたフュリアタウルスは、腕を切られたことで激怒し、理性が完全に吹き飛んでいる状態なのだ。

 

故に区別など有る筈もなく、ただ目に映るモノを人も悪魔も関係なく屠る暴れ牛と化している。

 

フュリアタウルスの攻撃を軽快に避けながら文句を言うトムだが、いい加減鬱陶しく思いファントムを額へと伸ばし突き刺すと一気にフュリアタウルスの頭部へ立つ。

 

 

「さっさと鉄屑になれやクソ牛!」

 

 

そう吐き捨てるトムは、一気にファントムを脳天へと刺し込み、そこから大量のマグマを流していく。

 

フュリアタウルスの青銅の身体は内部に高温の魔力の炎を灯している為、耐熱性に優れてはいるが、当然の如く限界値も存在する。

 

約3500度。

 

この上を行くと鋼鉄の肉体は容易く溶け崩れてしまう。

 

そして、ファントムのマグマの温度は『4万8千度』。

 

限界値を遥かに超えている。

 

 

『ロメア! ロオォォメェェ……ァァァァァ……

……』

 

 

"やめろ"と叫ぶも既に遅過ぎる。

 

炎を纏う猛牛の身体は無惨にも溶けていき、その原型を残さずドロりとした金属の塵へと変換されてしまった。

 

一方、クリスの方は戦い慣れしていない響の援護に回っていた。

 

翼が未だ幻術に囚われて動けない為、彼女を守りつつ、悪魔を倒さなければならない。

 

 

「あーもうッ! 鬱陶しいんだよ!!」

 

「あ、あの! 手伝ってくれてありがとう!!」

 

「礼は後でいいから今は手を動かせ! マジで数がビッグハリケーンだぞ

!!」

 

 

響とクリスは互いに初対面だが、それでも両者の性格は悪いものではなく、拙いながらも連携自体は取れていた。

 

響が悪魔を殴り蹴るといった格闘戦で弱らせ、クリスがトドメを刺す。

 

アームドギアが無いせいもあるが、響本人の技量的にも決定打が足りない為、そこをクリスがカバーするといった感じで次々と悪魔を倒していく。

 

だが地獄門は未だその口を開け、悪魔をこちら側へと呼び込んでしまっている。

 

実力があっても、敵が際限なく永遠と出てくれば消耗戦に陥り結果的には敗北しかない。

 

おまけに結界という檻は時間を過ぎれば無くなってしまい、人間という餌を目当てに街へ向かうのは容易に想像できる。

 

 

「大丈夫かクリス!」

 

 

数体のムシラの首をファントムの刀身が切り落とす。

 

トムが合流したことで倒される悪魔の数は更に増えた……が、結局根本的には解決しない。

 

 

「くそっ、地獄門をなんとかした方が良さそうだな」

 

「穴に向けてドンパチすりゃいいの?!」

 

 

力任せな脳筋で投げやり気味なクリスの言葉にトムは首を横に振る。

 

 

「アレは単純に地面に穴が開いてんじゃねぇ。次元に穴が開いてんだ。だから物理的な力押しでどうにかなる代物じゃない」

 

 

大鋏を振り回し向かって来るデスシザーズをすれ違いざまに突き刺し、マグマを注入。

 

途方もない高温に苦しみながら死んでいき、続く様に襲って来た数体のヘルゲ・パニッシュメントに火球をぶつけて始末する。

 

 

「じゃあ、どーすんだよ!!」

 

 

また別のヘルゲ・パニッシュメント10体に向けて腰部のアーマー部位から展開した発射台からマイクロミサイルを撃ち、一発も撃ち漏らさずに屠って見せる。

 

 

「空間操作に長けた魔術か、錬金術じゃないと無理だぞアレはッ!」

 

「それトム兄できるの?!」

 

「できん! 悪い!!」

 

「もう詰んだじゃんソレェェッ!!」

 

 

クリスの悲観めいた叫びが轟く。あの地獄門さえ無くせば、後は雑魚を……ドリームウォーカーを倒すだけでいい。

 

しかし逆を言えば地獄門を閉じない限り、こちらの勝ち筋は一切見えてこないも同然。

 

 

「オラァッ! バーベキュータイムだァァァッ!!」

 

 

高らか且つ騒々しい声と共に奔る雷撃が、無数の悪魔を蹴散らしノイズのように消炭へ変えていく。

 

その声に聞き覚えがあったのは響とトム。

 

 

「あ、あの時の鳥?!」

 

「……チィッ! よりによってコイツかよ!!」

 

「うわー、ナニその態度。オレそーゆーの良くないと思うゼ?」

 

 

紛れもなくグリフォンだった。翼を羽ばたかせながら近づいて来るグリフォンに響は驚愕を。

 

対するトムはやはりと言うか、苛立ち混じりに舌打ちを鳴らす。

 

 

「お前の契約者は?」

 

「Kちゃんならメアちゃんのとこだ。苦戦してるみたいでよ」

 

 

そう言うグリフォンの視線は未だ黒い霧が漂う

ドリームウォーカーの特殊な結界へと向けられている。

 

 

「しっかしメアちゃんが苦戦たぁーねぇー」

 

「メア? 誰だよソレ」

 

「ナイトメアのコトだよ!! 知ってんだろ?」

 

「はぁ? そんなヤツ記憶にねーぞ?」

 

 

トムは怪訝な顔を露骨に見せて、知らないと答える。グリフォンはその様子を訝しぶがすぐに理由に至った。

 

 

「あー、そー言えばお前、スパーダの奴に封印されてたっけ。あのムンドゥスのジジイが創った魔造兵器だよ。まっ、今じゃ頼りなる仲間になってるケドな」

 

「……詳しい話は後だ。そら、次が出てくるぞ」

 

 

グリフォンの雷撃のおかげで残りの悪魔を殲滅することに成功したが、それでも一時的に過ぎない。

 

地獄門からまた新たな悪魔が出現した。

 

人並みの大きさを持つ鳥型の悪魔『ブラッド・ガーゴイル』。

 

人間の血液を浴びたことで不浄を孕んだ魔像を依代にした悪魔で、剣や槍といった攻撃では死なず、むしろ分裂して増えてしまう。

 

だが銃に耐性はなく、喰らうと魔像状態に戻ってしまうのでその内に破壊すればいい。

 

全部で50匹のブラッド・ガーゴイルの群れが宙を舞い、けたたましい鳴き声を放つ。

 

出てくる悪魔はブラッド・ガーゴイルだけでなく、他にもいた。

 

ヒレ状の脚を交互に波打つように動かして空を飛ぶムカデの悪魔『ギガピート』。

 

女性の上半身を持つ蜘蛛の悪魔『アルケニー』。

 

その他多種多様な悪魔が湧いて出てくる様は、何度見ても悍しく感じるだろう。心なしか、その大半が昆虫に似たモノに見える。

 

 

「ウヘェッ! 虫が多いな!! しかもあの塔の悪魔どもまで居やがるって、ここはテメンニグルかよ!!」

 

「おーおー。これはまた懐かしい顔ぶれだな。まっ、ぶち殺すだけだが」

 

 

文句を言うグリフォンに比べ、トムは懐かしさを覚えつつもファントムを構える。

 

クリスと響も気を引き締めて構え、襲い掛かって来た悪魔に対し、すぐに迎撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フッフッ! 気になりますか? 何故腕が再生しないのかと』

 

 

未だ黒霧が周囲を包むその中でドリームウォーカーの動きを感知できず、あろうことか両腕を捥がれてしまったナイトメアの聴覚器官にドリームウォーカーの嘲笑混じりの声が響く。

 

 

『毒を仕込んだんですよ! それもただの毒じゃない。魔力を喰らい何もせずとも消耗していく特殊なものでしてねぇ〜。ほら、そろそろ形を保つのも一苦労では?』

 

 

その言葉は結果として射抜いた。

 

片足が崩れ始め、思わずガクッともう片方の足の膝で倒れないよう支えるが、その間にも身体がドロドロと徐々に崩壊していく。

 

 

『悪魔を構成しているのは魔力! 悪魔の血肉や臓器、身体機能! 回復力! それらは全て魔力の働きによって成し得ている産物であれば

、魔力が減っていくというのは死も同然!』

 

 

ドリームウォーカーが仕込んだ毒は魔力を消耗させていくものらしい。確かに着眼点としては申し分ない。

 

悪魔は魔力あってこそ、その強大な力を行使することができる。逆にそれがほんの一欠片しかない状態ではまともに力を振るえず、身体をも

脆弱なものへと成り下がってしまう。

 

まさに『悪魔殺し』と呼ぶに相応しいだろう。

 

 

『ひ、ひひひひひッ! 楽しい楽しいぃぃ、粋がる馬鹿な悪魔が無様に死んでいく! こんな楽しいぃぃショーがあるかァァァッッッ?!

!?』

 

 

姿が見えずとも、頭がおかしいとしか言えないハイテンションで狂喜している。

 

そんな様子が容易くイメージできてしまうほどの声を吐き散らかすドリームウォーカーは、もう勝利は目前だと思っているのだろう。

 

ナイトメアからすれば認めたくないだろうが、実際にそうだ。

 

毒に侵され、身体が人型を保てず崩れていく状態で反撃は難しく、黒霧のせいで相手の位置が把握できない。

 

無闇やたらにストロング・メアを放ったとしても当たる確率は限りなく低いし、ただでさえ減少している魔力が更に減り、形を保てなくなってしまうのは明白だ。

 

そして、そうなってしまえば、ナイトメアの生命維持器官であるコアは無防備。

 

毒で死ぬか、トドメを刺されて死ぬか。

 

このどちらかになるだろう。

 

一か八か。ナイトメアはある賭けに出ることにした。

 

 

『コイツでお終いだァァァッッッ!!!!』

 

 

自身の勝利は揺るがない。もはやそう確信していたドリームウォーカーは、毒によるナイトメアの崩壊を待たず、直にトドメを刺す選択を選び叫ぶ。

 

方法は単純。針状の腕だけを出して、一気に突き刺す。突き刺した瞬間、今の毒よりも数倍強い毒がナイトメアの体内へと侵入し確実にその命を奪う。

 

ドリームウォーカーは手の部位が針状となっている方の腕を、ナイトメアの背後から一気に突き刺した。

 

『勝ったァァァッッッ!! コレで………?? は?』

 

 

仕留めたという悦びから、困惑に変わる。

 

何故なら毒がナイトメアの体内から放出されず、まるで詰まっているような感触を覚えたからだ。

 

 

『?!ッ まさか、キサマッ! 私の針の中に自分の一部を……』

 

 

針には毒を注入する為の穴があり、そこに何か物を詰めてしまえば注入することはできない。

 

ナイトメアはドリームウォーカーが自分の手でトドメを刺す選択をするだろう予想の下に、ある策を思い付いた。

 

刺された瞬間、自分の身体の一部である泥を毒を入れられる前に針の穴に入れて硬質化する。

 

そうすることで毒を入れられるのを防ぎ、尚且つ腕を泥で拘束するというものだ。

 

そして、その後は……。

 

 

『クソォォッ! 小賢しいんだよ塵野郎がァァァッッッ!!』

 

 

必死に腕を引き抜こうとするが、できない。

 

毒に侵された身体だと言うのにナイトメアは身体を形成している泥を操り、かなりの力でドリームウォーカーの腕へ纏わり付いて離れない。

 

そのままの状態でモノアイを背後へと移動させたナイトメア。モノアイに残った魔力を集中し、身動きの取れないドリームウォーカーへと向けた。

 

 

『さっさと離ッ……あ』

 

 

何処か間抜けな声と、煌めく紫光の光景を最期にドリームウォーカーの意識はテレビ画面の如く真っ黒に途絶し、その肉体は黒霧と共に消え去った

 

同時にナイトメアの身体は完全に崩れ、コアを晒したままの状態である"ステイルメイト"になってしまう。

 

 

「どうやら、私の出番はなかったようだな」

 

 

ステイルメイト状態のナイトメアの下へ来たのは、シャドウを横に同伴させたKだった。

 

 

「魔力が枯渇しているようだな。少し待ってろ」

 

 

そう言ってKは、懐から星形の紫色の物体を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回でこの回も終わりです。特に目立った見せ場のないカメオ出演的な感じでしたが、DMC各シリーズの悪魔たちを登場させてみました。

多分1匹くらい『あー、いたわコイツ』とか『やってた頃コイツ厄介だったわ〜』といった感じで思い出して頂けると幸いです。

ちなみに出て来た悪魔の中で、作者が個人的にカッコいいと思ったのは
フュリアタウルス。DMC2に出て来た悪魔です。純粋に燃え盛る業火のミノタウロスってのが良いですね。



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