戦姫魔晶シンフォギアD   作:イビルジョーカー

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デビルメイクライ5のグリフォン、シャドウ、ナイトメア。

もうこの三体が好き過ぎて、ついでにシンフォギア5期やるってもんだから書いちゃいました。

楽しんで頂けたら幸いです。


訳題『ある悪魔たちの目覚め』






Luna Attack(ルナアタック編)
第1話  It is the devil's whisper


 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは、一体どうなってるんだ?」

 

 目が覚めて開口一番の一言がコレだった。明らかに人間の言葉を喋ってはいるのだが、とうの本人は人間とは到底呼べず、分類不明の猛禽類らしき鳥にしか見えない

“彼”は今自分が置かれている状況に困惑を隠し切れなかった。

 

 

「おいおい。“俺たち”は死んだ筈だよな?」

 

「グルル……」

 

 

 彼の言葉に答えたのは、なんと黒豹だった。

 しかし身体中を奔るように赤いラインが浮かび点滅している。普通の黒豹であればこのような現象はまずできない。当然タネも仕掛けもない。

 

 異常な存在なのは明らかだ。

 

 そして、“死んだ”という言葉。その意味については、今は語る所ではない為、頭の片隅にでもボッシュートして置くことを薦めよう。ともあれ今この現状は彼等にとって説明し難く、常軌を逸していたが故に彼は深く溜息を吐き出し、愚痴る他になかったのだ。

 

 

「ハァァ〜〜……ったく、ワケ分かんねーな」

 

「グオンッ!」

 

「あぁ? “なんかいる”って? ……確かに妙なのを感じるな」

 

 

今彼等がいるのは、何処かの街の路地裏としか表現できない場所で、それを表すように人が作った建造物たるビルが聳え立ち、夜の店を象徴とするネオンの看板や、らしい雰囲気を放つ店々を見ればそう考えるのが妥当と言えるだろう。

 

 

「見てみるか猫ちゃん」

 

 

 鳥の彼はそう言い、黒豹はそれに答えはしなかったものの、両翼を羽ばたかせて向かう彼を追っていく。自分達の“同族”とは異なる、ましてや人間でもない全く未知の気配。存在感とも言うべきか。

 そういったものを彼等は感じ取れるのだが、経験上覚えのない気配を頼りに進んでいく様は、さながら阿弥陀口のようか。何が待つか分からないゴールを目指し、彼等は向かっていく。そうしていく内にやがて拓けた場所に出た。そこは街の通りだ。しかし肝心の人はその影さえなく、更に妙なものがあった。

 

 

「んあ? なんだァこれ?」

 

 

黒い砂らしきものがそこかしこに散っていた。見た所それだけで他にどうこう言うだけの特徴がなく、おそらくは煤の類と予想できた。

 

 

「………なんてことはねェ。ただの煤だこりゃぁ」

 

 

 翼を閉じて着地し、恐る恐る。そんな様子で足を出しては黒い砂のようなものを指で突くように触り、確認する。どうやら間違いなくただの煤のようだった。

 しかしそうなると何故こんな所に?と言う、一つの疑問が出て来る。煤は、有機物が不完全燃焼を起こして生じる炭素の微粒子や、建築物の天井などに溜まるきめの細かい埃で、少なくとも街中に散乱するような代物ではない。

 

 

「謎が謎を呼ぶ……ってか? 気配はもうちょい先だな」

 

 

 正確な距離を言えば、今彼等がいる街道の位置から50m程と言った具合だ。

 そこから角を曲がっての先に感じていた気配の根源がある。確証は他ならない自身らの勘だ。一般的な人間のソレとは違い、彼等の感覚は正確過ぎるレーダー並みにズバ抜けている。

 故に勘のみだったとしても十分証拠に成り得るのだ。

 

 

「で、来てみれば……何だアレ?」

 

 

 それは、人の言語を語る猛禽類らしき鳥である彼が言うのも可笑しな話かもしれないが、"その存在"は、彼と同じくらいか、もしくはそれ以上に奇妙で不可解だった。パステルカラーのような色彩が蛍光のように淡い輝きを発し、形状は個体ごとに様々で、カエルのような両生類を思わせる形もあれば、葡萄のように球体が寄せ集まったような形をしたもの。普通に人型に近いものなど。本当に千差万別で、当然ながらソレは一つだけでなく、まるで生き物が群れを成すように複数いた。

 正確な数は……面倒という理由で数える気が更々ない彼だが、見積もって30はいる。

 

 

「グォォ……」

 

「猫ちゃんも思うか? 俺も"ご同類"かと思ったんだがよ……全然違うなありゃ」

 

 

 彼が言う"同類"。その言葉を理解する為には唐突だが"悪魔"について語らなければならない。悪魔とは、宗教において神の敵対者であり、人の心を惑わし堕としめる事もあれば、人の血と肉、そして魂を喰らう魔なる存在。悪魔は、人の住む世界とは異なる世界である 『魔界』より生まれ落ち、様々な理由で人間世界へと来訪…もとい侵入するのだ。とは言え魔界と人界の狭間には悪魔の人界への侵入を防ぐ為の大規模な『結界』が構築している為、国一つ容易に落とせる程の上級に位置する大悪魔は足の先さえも入れないが、結界の生じてしまった小さな隙間。

 下級程度の悪魔ならばそこを掻い潜り容易に人間界へ侵入することができる。

 ならば、このカラフルで得体の知れない者共はその下級悪魔か?と聞かれれば、彼は自信をもって『NO』と答える。アレは、悪魔ではない。

 彼…猛禽類に似た姿を有する『グリフォン』もまた悪魔だ。同様に黒豹も『シャドウ』という影の名を冠する悪魔。彼等の持つ感覚という名のセンサーが違うとそう断じていた。

 

 

「おいおい。あのネーちゃん大丈夫か?」

 

 

 よく見ればあの異形のカラフル集団を相手に戦っている1人の少女がいた。黒く短い髪を波のようにクネらせた、ウェーブ状の髪型はよく見るとふんわりと浮きそうな感じを醸し出しており、翼を彷彿とさせるには十分な印象をしている。服装は何も着ていない下にその上からレザーの黒コートを羽織っている。

 そして、彼女は戦っていた。

 悪魔に似ながらも悪魔ならざる異形の群れを相手にその手に握り締めた一本の棒のようなもので、懸命に一心不乱に振って異形たちを煤くれへと変えていく。

 

 

「猫ちゃん。あのネーちゃん……魔力使ってるぜ」

 

 

 グリフォンは自身が気付いた事をシャドウに耳打ちするが、そんなことシャドウにしてみれば言われるまでもなく、容易に気付いていた。

 魔力は、悪魔が持つ特殊な力の事を指している。悪魔ならば無い筈がなく、無い悪魔など悪魔でなく人間かただの動物だ、と言い張れる程に在って当然の力。しかし、少女はそれを持っていた。

 人間の目では捉えられないが棒のような物には魔力が通されている。

 

 

「んじゃ、実力をお手並み拝見と行こうぜ。見た所そんな苦戦してる様子じゃねーし」

 

 

 同意の意味を孕んだ鳴き声でシャドウは答える。

 あの少女が一体何者なのか……全く分からない。自分達にとって協力者となるのか、もしくは敵となるのかさえの区別も付かないほど彼女は2匹の悪魔からすれば未知の相手だ。

 仮に何か知ってるとして、戦闘に介入し少女側に付いたとしても素直に教えてくれるとは限らない。そもそも悪魔とは人にとって敵なのだ。害意があろうなかろうが関係ない。

 魔の存在は人にとって実害を齎す毒その物。故に敵だと判断され襲い掛かって来る可能性が有り得る。

 そうなってはグリフォンとシャドウにとって少女は敵となる。実力が下ならば大したことないが自分達より遥かに上だった場合、確実に狩られてしまうのは目に見えた結末だろう。

 そんな謂れ無い悪意を受けて、再び死ぬのはシャドウもグリフォンもゴメンだ。ハッキリ言って馬鹿らしい事この上ない。

 だからこそ、様子見に徹するのが得策となる。

 戦いで消耗し、バテた所を捕まえて何かしら吐かす、という選択肢も踏まえての判断だった。人間かどうかは分からないとは言え、そのような外見の者に対してそうする、と言うのは乱暴で、人によっては悪辣と映るかもしれない。

 が、彼等は“悪魔”。

 いかに話が通じ、人間臭く憎めない所があるとは言え、それを忘れてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

 

 “あたし”は、まっとうな人間じゃない。

 

 あたしは、悪魔の力を意図せずして手に入れた。

 

 冗談でもなければ何の比喩でもなく、異形の化け物の悪魔だ。

 

 魔界に生まれ、人間を獲物として襲い、魂や血肉を喰らい糧とする。あるいは単純に己の嗜虐心を満たす為だけに惨い方法で命を奪ったりもするのさ。

 

 とにかく悪魔が人間世界へやって来る目的や理由なんて大抵がロクでもないんだ。中には人が好きだから、とか悪魔とは思えない理由でやって来る事もあるけど。

 

 そんな悪魔の力を手に入れたのは偶然か、必然か、あるいは神様ってヤツの傍迷惑な気紛れなのか。でも事実は変わらないし、どういう訳かあたしは一回死んだ身にも関わらず生きてる。

 

 でも、今はそれだけで十分。理屈も講釈も必要ない。

 

 あたしには、やらなきゃいけない目的があるから。

 

 それは二つある。一つは、“ノイズ”って呼ばれてるカラフルな化け物どもを始末する事。

 

 もう一つは……。

 

 

「◾︎◾︎◾︎!!」

 

 

 一体何を言ってるのか、そもそも言語等とは到底思えない電子音に近い鳴き声…かは定かではないが、発して1人の少女へと迫る。ノイズは人間のみを狙い、襲われた人は炭素の塵と化してしまう。物質変換能力を用いて人の命を容易く奪うのだ。

 おまけに自らの存在を人の存在する次元から別次元へと位相をズラす事で己が存在を曖昧な物とさせ、通常の武器・兵器、それに基づく手段を無意味にさせてしまう。

 

「ふん!」

 

 しかし、この少女にしてみれば大した問題ではない。

 少女が手に持つのは棒らしき物体…よく見れば工具でよく知られているバールだった。

 彼女が明確な自我意識を覚醒させたあの日、誰かに捨てられ落ちていたソレは、シンプルな金属製でデザインもこれと言う特別性が皆無。何処からどう見ても普通のそこら辺で売っているように思えるバールだが、コレだけあれば十分。

 ノイズを倒すのに不足はない。

 バール自体に魔力を通す事で通常ならノイズ相手に意味を成さない物理攻撃を可能にした少女の手により、ノイズたちはあらゆる武器・兵器の無効化という絶対的優位性を今この場をもって剥奪され

、煤へと還る。

 ノイズたちは鈍過ぎる単調な動きと目標に向かって突っ込むという手段しか持ち合わせておらず、動きが素早く、棒を用いての戦法をいくつか有している少女に分があった。

 少女はノイズとノイズの間を俊敏なチーターの如く駆け抜け、その都度バールの先端を両刃の刀身に変え切り裂く。魔力を調節することで少し程度だが、変形を可能にできるようだ。

 

 

「チッ、ぞろぞろと……」

 

 

 しかし数が多い。今のところ苦戦はしてないがあまり長引かせるべきではない。そう判断しつつも、決定的攻撃手段が見つからないし持ってさえいないのなら、早期殲滅は難しい。

 

 

「なにッ! ぐうぅッ!!」

 

 

 ダチョウをトーテムポール風にしたような、なんとも妙なデザインのノイズが嘴らしき突起からトリモチのような白い粘り気を持った物質を発射し、少女の両足を封じ込む。

 どうやら焦るあまり、油断してしまったようだ。なんとか力を込めて足掻き抜け出そうとするも、それを嘲笑うかのように白い物質は更に粘り気を増し、拘束力を強めた。

 

 

「ふっ、ふざけるなッ!!」

 

 

バールに両手の力を込めて何度も突く。が、それでも抜け出すこと叶わず。ただ時間と労力だけを消費するだけにしかならなかった。

 

 

「……こんな、ところ、でぇぇぇ!!」

 

 

 終わりたくない。

 

 あたしには、やらなきゃいけない事がある。

 

 ノイズを倒すことと、もう一つ……。

 

 一番大事なことなんだ。

 

 "償い"をしなくちゃいけないんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ。見てられねぇーな」

 

 

 そんな諦観を含んだ声と共に少女の視界を光が遮った。

 

 

「な、なんだ?!」

 

 

 突然の事態に驚くものの、光が収まり視界が戻ってみればノイズの群れは見る影もなく消え果て、代わりに奴等だったであろう煤がそこら中にあるのみ。

 

 

「これは……」

 

「よォ、ネーちゃん。今のはヤバかったな」

 

 

 自身の頭上から投げ掛けられた声に反応し、頭を上へ向ければ見た目とは裏腹に軽快そうな雰囲気を醸し出す1匹の猛禽類の如き悪魔…グリフォンが翼をバサバサと羽ばたかせていた。

 

 

「……悪魔か」

 

「そう言うネーちゃんはどうなんだ? その棒切れに魔力を通してるなら、俺たちのお仲間か……その力を得た人間っつーコトになる訳だが?」

 

 

 探るような視線を向ける少女。グリフォンはそれに対し、問いを投げた。

 

 

「……まぁ、いい。理由はどうあれ助けられたんだ。ありがとう」

 

 

 何かの目論みがあってのことかもしれない。その可能性があっても少女は礼を述べたかった。先程の閃光は彼によるもので、そのおかげで自分が助かったのは事実。なら、文句を言える立場ではない

。少女もそういった礼節は弁えている。

 

 

「ハッハー! 悪魔に礼とは面白しれェな!!

だが俺達はネーちゃんが消耗してる所を捕まえて、ゲロさせようと目論んでたんだぜ?」

 

 

 グリフォンの言葉は嘘偽りでなく、選択肢の一つとして考慮し、必要あれば実行に移す気でいた。

ある一人の男の悪夢の具現化でもあるグリフォンとシャドウ……そしてもう1体の悪魔は消滅を願い

、その男の弟と因縁も含めて戦い敗北。

 別れの言葉を告げて消滅した筈の彼等を待っていたのは、何処とも知れぬ街。何をどうすればいいのか。右往左往と闇雲に彷徨う訳にもいかず、妙な気配を辿り来てみれば悪魔ではない異形の集団と戦う少女の姿。

 安易に手を出せばこちらにどのような危険が及ぶか分からない。

 しかし結局、何と言うべきか。見ている内に自然と助けたくなってしまい、極め付けは少女の窮地を見て動いてしまったのだ。

 普通に考えればわざわざ助ける理由は何処にもない。

 情報が欲しいなら、其処らにいる一般人でもひっ捕まえてしまえばいいだけの話だ。別段この少女で無ければならないと言う理由は何処にもない。

 

 だが、それでも尚助けた。

 

 何故?

 

 "己の魂がそう命じた"

 

 それ以外の答など、なかったのだ。

 

「なら始めからそうすればいいし、そんな事わざわざ本人に言う必要もない。

助けてくれたんだろ?」

 

 そんなグリフォンの心情を読み解くように、少女は少しばかり笑みを浮かべて言った。

 

 

「……へいへい。んじゃ、とりあえず…」

 

 

 カラフルな異形達はまだいる。グリフォンの雷によって煤へと還されたとは言え、その数を減少させただけであって全滅した訳ではない。

 

 

「この訳分からない奴等を地獄に送らせてやるとするか!!」

 

 

 グリフォンが吠える。そしてそれに呼応するようにグリフォンの影が揺れる。水面の波紋のようにやがては沸騰する湯水の泡を想起させるボコボコと泡立ちを生じ始め、不可解な現象を生み出した正体がその姿を現わす。

 

 

「グオオオオオオッッッ!!!!」

 

 

 簡潔に言えば、黒豹。紛れもなくシャドウだ。

 シャドウは宙へと身を駆け出したかと思えば、目にも止まらず瞬きの間すらない程の速さで刃が連なる円盤と化し、更に回転する事で切れ味を倍増。宛ら、丸鋸のソレだろう。

 空飛ぶ丸鋸と化したシャドウは自身をカーブさせ、クネクネとしたS字を描くように異形の群れを切り刻み、煤へと変えていく。

 さながらミキサーに入れられ、固形から粉々とした物質へと変換される食材、と例えるのが相応しいかどうかは個々人で分かれる所だが。少なくとも少女は口には出さないものの、内心そう思っていた。

 

 

「やるねぇ〜猫ちゃん!」

 

 

 口笛でも吹きそうな軽い口調でグリフォンは言いつつ、雷撃を止めることなく異形の群れへと降り注ぐ。

 

 

「ハッハー!! 地獄に落ちてクソになりナァ!ゴミども!」

 

 

 言葉遣いはかなり悪いが。

 ともかく数は大分減り、程なくして異形たちはその全てが狩り尽くされた。グリフォンは今でこそ一般的な猛禽類の鳥サイズだが、昔はクジラよりも遥かにデカい巨体と国一つを

壊滅させる実力を兼ね備えた大悪魔で、魔界を統一していた帝王に仕えていた程の実力者。

 実力では大悪魔に行かずとも、それでも人間の軍隊100人編成規模をたった1匹で殲滅できるシャドウ。

 この2体を相手では大した力を持たない異形如きでは話にならないだろう。

 

 もっとも、“デカい相手”では分からないが。

 

 

「ウワッ! デカブツ登場?!」

 

「グルル……ッ!」

 

 

 空間から滲み出るように出現したドロドロの何か。それはすぐさま形を成し、芋虫を彷彿とさせるブヨブヨした質感の身体と20はあろうかと言う巨体。デカい新手の出現だった。

 

 

「チッ、デカい"ノイズ"が出たか」

 

「ノイズ? この訳分かんねー連中の名前か?」

 

「人間が触れれば瞬く間に塵に還る。そんな異能の力を持った悪魔とは違うモノ。それが今あたし等が相手にしてる存在だ」

 

「ご説明アリガトウ! けどコイツは逃げた方がイイぜェェェェェェェェェェーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

 

 

 強引に少女の手を両足で掴み取り、そのまま空中へと持ち上げる形で上昇するグリフォン。見ればグリフォンとシャドウ、少女のいた場所は前足2本、後ろ足2本で計4本はある巨大ノイズの片前足が重低音を響かせ、鎮座している。

 あともう少し遅ければ、足の裏側で血塗れの平面図と化していただろう。ともあれ、巨大ノイズが出た以上は倒さなければならない。

 

 

 

「デカい芋虫野郎がッ! 喰らってな!」

 

 

 そう言って、グリフォンは口から雷球を数発吐き出すと共に身体からも雷撃を放ち、ダメージを与えようとする。

 シャドウも地上から自身を刃の歯車と変えたり、あるいは巨大な口に、時として鋭い棘を生成して攻撃を加えていく。

 

 が、巨大ノイズへのダメージは、その殆どが微々たるものだった。

 

 

「どうした? 威力不足か?」

 

「ああーそうだヨッ! 猫ちゃんと俺のダブルでやってんのにクソちッせェェダメージ?!脂肪吸収もイイトコだぜ!」

 

「別に脂肪で攻撃を吸収してる訳じゃない。そもそも連中に脂肪なんてない」

 

「律儀に返してんじゃねぇーよ! ジョークも通用しないってかァ?」

 

 

 そんな会話をしてる内に芋虫の大型ノイズは顔と思わしき楕円形状の部位にある昆虫の様な口から自身の一部を弾丸として吐き出して来た。

 

 

「おい、きちんと避けろ!」

 

「鳥使い荒いっのォォッ!!」

 

 

 そうは言いつつ、グリフォンは翼をより一層と羽ばたかせ、魔力による強化も使って飛行速度を上げることでノイズの弾幕を紙一重のギリギリながら回避していく。

 

 

「どうするネーちゃん! このまま逃げ回ってるだけじゃキリないぜ!」

 

「クッ……何か、あのデカいノイズを葬れるだけの大技の類は無いのか?」

 

「無理言うなよ!俺も猫ちゃんもクソでかい大技なんざ持ってねぇよ

!!……アイツが入れば話は別だがなァ!」

 

「アイツ? あの黒い豹以外にも仲間がいるのか?」

 

「ああ、いたな! もっともソイツは諸々事情ってヤツでクタばっちまってる! 俺らと同じでな!」

 

「………話は後々聞くとして、今はアレをどうに…ッ?!」

 

 

 最後まで言いかけた少女は自らの身を伝わる衝撃に耐えかねて言葉を噤み、それによってグリフォンも意図せずして足を放してしまった。

 

 

「なァァッ?! ネーちゃん!」

 

 

 思わず叫ぶが自身もまた衝撃のせいで咄嗟の動きが取れず、そのまま彼女と共に落ちていきコンクリートが覆う地表へと激突。少女諸共に二次的な痛手を受けてしまった

 

 

「イッテテ……んだよ今のは?」

 

「……どうやら、新手によるものの様だ」

 

 

 グリフォンより先に態勢を立て直した少女は、宙に浮かぶソレに鋭い視線を送っていた。

 それを見たグリフォンは彼女と同じ宙に視線を向け、その先にある存在を捉える。

 

 それは一言で言い表すなら『宙に浮く玉』。

 この表現が一番の適切な程にソレに他に特筆すべき物が何もなく、張り付いたように輝くモニター状の模様からノイズである事だけでは分かった。

 

 

「$〓□○ッ!」

 

 

 理解不能な電子音を鳴らし、そのボール型のノイズは自身の球体を膨らませたかと思えば、中に溜まった"モノ"をグリフォンと少女に向けて吐き出して来た。

 

 

「ぐっ、がぁぁ! ……なるほど。"空気"か」

 

 

 避けることも防ぐことも出来なかった少女は見事ノイズの攻撃を食らってしまったものの、命に関わる程の殺傷性の高い威力でなく、しかも直に見たおかげで自身とグリフォンがどうやって落とされたのか

 それを察することができた。今しがた少女の言った空気という単語。この玉のような丸みしかないノイズは、内部で空気を圧縮させ収束。それを放つという攻撃手段を有していたのだ。

 

 

「風船みてーだなオイ」

 

 

 ギリギリ飛び上がって回避したグリフォンがそんな事を宣うが、対する少女は異様で不可解な物でも見るような表情を浮かべていた。

 

 

「……ありえない」

 

「ンン? 何がありえないってンだよ」

 

 

 説明を求めるグリフォンに少女は別段隠す素振りは見せず、素直に答える。

 

 

「ノイズは、人間を標的として定め襲って来る。理由は人間の命を奪う為だ」

 

「ハハッ! そこン所は悪魔と大差ねェーな」

 

 

 人の世に降り立ち、人間を好んで殺す。

 

 悪魔は例外を除けば大抵大半がそんな連中で占められており、例外、と言ったように中には気高き戦士としての誇りを持つ悪魔。あるいは人間に対して友好的な者もいるにはいるが、やはり割合で言えば性根が腐ったないし破壊や殺戮の本能しか頭に無い悪魔が占めている。

慈悲のカケラもなく、命乞いにも耳を貸さず、本能の赴くままに人の命を奪う。

 その点だけで見れば両者は同じ穴の狢、と言えるのかもしれない。

 

 

「そうかもな。だが、悪魔は色々なやり方で命を奪うのに対し、ノイズは自分と対象を接触させて……人間を煤くれに変えて殺す。それしかしてこない」

 

「あん? なんで他にねぇンだよ」

 

「そこまでは知らない。何故それ以外の殺害方法をしてこないのか……まぁ、そこはどうでもいい。重要なのは、そういった手段しか持ち得ない筈のノイズがそれ以外の攻撃をして来た、この点に注目すべきだ」

 

 

 悠長に説明しているように見えるが、これでも球体ノイズが放つ空気の弾圧を軽快且つ素早い動きで回避している。先程は不意打ちを食らってしまったものの、目できちんと見さえすれば回避は困難でなかった。

 

 

「ノイズの攻撃は今言ったように他者への身体的接触、自身を紐状又は槍状に変化させての突進。この二つのパターンしかない」

 

「つまり、空気を利用してくるのはアリエネェってコトか?」

 

「ああ。私の知識からするとな」

 

「だがネーちゃん。ネーちゃんを縛ってたあのモチは? その理屈で言えやァ、そういったのも有り得ないんじゃないのか?」

 

「アレはノイズ自身の内部を一部変化させて吐き出したものに過ぎない。魔力を持っているアタシならともかく、只人が同じようにされたら煤になる」

 

 

そして、と。一言置いて少女は言った。

 

 

「奴等にはタイムリミットがある。この世界に留まれる事を許された、僅かな時間がな」

 

 

まるで少女の言葉が引き金となるかのように先程まで優位に立っていた筈のボール型や巨大なノイズらは全てその形を保てなくなり、まるで燃え散る紙屑の如く煤くれへ還っていった……。

 

 

 

 


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