訳題『ネヴァン』
新年明けまして、おめでとうございます!
相変わらずの亀更新ですが、楽しみにして頂けると幸いです(^_^)
「てりゃああ!」
「声は良し! だがまだ腹に力が篭ってないな。おまけに腰もだ! そんなんじゃ、いい拳は放てないぞ響君!!」
「はい師匠!!」
実に見事な熱血スポ根ドラマを醸し出しているのは、筋骨隆々の大柄体格をした二課の司令官こと風鳴弦十郎。
ちなみに今はジャージ姿である。
そんな彼の指示の下、精を出しているのは立花響だった。
そしてこちらもジャージ姿である。
そんな二人が何をしているのかと言うと、スポ根ドラマには定番の『特訓』だった。
弦十郎は監督する側で、響は言われた通りに従い、気合いを込めて特訓に打ち込む。
この上なくシンプルな構図だが、何故こんな光景ができたのか。
その理由に関しては緒川がきっかけだった。
強くなりたい、足手纏いは嫌だと言う響を強くする為には、基礎的な体力を作り出す"鍛錬"と戦闘技術をその身と頭に覚えさせる"訓練"が必須科目だ。
だが、独学・独力では無理がある。
一般人であり、荒事を嫌う平和的思考の響には暴力を伴う戦い方など知っている筈もなく、必然的にそういった事柄に関して正しく教え導くことのできる師の存在が不可欠なのだ。
そこで緒川は二課の司令官である風鳴弦十郎を師として紹介したと言う訳だ。
門を叩いた事に関しては困惑を隠せなかった弦十郎だが、すぐさま彼女の意気込みとその瞳に滾る強い意思の炎を見て、彼女の師になる事を承諾した。
そして、今に至る。
「お〜お〜、ヤル気溌溂ってか?」
ついでに言うと1匹の傍観者…というより、傍観鳥がいた。
グリフォンである。
何であれ電気エネルギーを吸収し、力にしてしまうケルベロスを相手取るに当たり、不利になるどころか万が一捕らえられて、その魔力を吸い取られでもしたら堪らない。
それがあと一歩という状況の中で起こってしまうのなら、尚更回避したい可能性だ。
と言うことで、戦線離脱を余儀なくされた彼は、Kからの指示で響の様子を伺うという、半ばおつかいレベルの任務を仰せつかった訳である
。
「ハァァ〜……なっんでこんなん任すかネ〜。Kの奴、オレのこと伝書鳩か何かと勘違いしてね?」
響の様子の確認とは言っても別段問題が起きるとは思っていなかった
。彼女の側には常にナイトメアが影の中から身を潜めており、並の悪魔が襲って来たとしても、消し炭にされるのがオチだろう。
にも関わらず、自分を寄越すとは一体どういう了見なのか。
いくらケルベロス戦では役に立たないからと言って、これはあんまりだと愚痴るグリフォン。
だが、もう後の祭りだ。
「にっしても……よくや『ドゴォォッ!!』
絶えず拳を撃ち続ける響の姿を見て、よくやると呟こうとしたグリフォンの呟きを一際大きな音が掻き消した。
正体はサンドバックだった。
より正確に言うと、響の渾身の一撃がサンドバックに穴を開け、グシャリとひん曲げた。
その際に生じた音である。
「おお!いいぞ響君!まさに稲妻を喰らい、己の力とする良い一撃だ。この調子で次の修行に進むぞ!!」
「はい!師匠!!」
その身体に熱血を滾らせる、師弟の関係。
人によってはさぞ良い絵に見えるだろうが、グリフォンは到底そんな綺麗な風に見ることなどできなかった。
「………」
どうツッコミを入れればいいのか。
まさにそんな心境を表したように呆然と屋敷の中に入っていく2人を凝視することしかできない。
ただ、これだけは分かる。
サンドバックをひん曲げ、あろうことか穴を開けるなど、武を極めた達人ならワンチャンあるかもしれない。
だが、元一般人の10代の女の子に到底できる所業ではないと。
「………あの嬢ちゃん。ダンテやバージルみてェな感じじゃねェーだろうな?」
だからこそ。有り得ないと思いつつ、ついそんな呟きをグリフォンは零してしまった。
ちなみに、それを言ったら弦十郎も同類になってしまうのを加えておこう。
※
「ハ〜ロ〜! のこのこやって来た馬鹿ども!!」
歌と音楽で彩り、観客の心を湧かせる舞台ホール。そのステージの上で、たった二人だけの観客を出迎えたのは黒いセーラー服に厚めの同色のストッキング。
全身に満遍なく、塗料でも塗りまくったのかと指摘したい位に紫に染まった肌の身体。
腰までストレートに伸ばした銀髪からは、うっすらと火花が散っている。
「一応確認しておくが、お前がネヴァンか」
Kがバールで指しながら、そう問い掛ける。
「声聞いてわかんねーの? それともこの程度の判別もできねぇアホってワケ? ウケる!」
「すまない。あまりに弱そうに見えたんで、まさかとは思ったが……こちらにとっては良い意味で予想外だ」
「よし、ぶっ殺す!!」
なんとも沸点の低い悪魔だ。
Kが内心そう思っていると、彼女の身体中に火花が激しく散り始める
。
まるで電気のエネルギーが高まっているかのようだが、その通りだと主張する代わりに無数の太い稲妻の線がうねり曲がり、その目標をKとトムに定めて来た。
「オラァァッ!」
魔具ファントムを横薙ぎに振るい、マグマで構成された膜の盾を形成
。煮え滾るマグマの膜は稲妻の何本かを押し留めた。
「コイツをプレゼントしてやる!」
そして、そのまま膜を押し返す。
稲妻を防ぎながら前進する超高温を宿したマグマの膜が向かう先は、ネヴァンだ。
そのまま喰らえば、大火傷以上のダメージは確実だろう。
「ザッ、オ〜〜プンってな!」
するとネヴァンは、そんな言葉を吐いて黒く染まり出した。
さながら、黒のインクか墨で全身を染めたかのようだ。しかし体色を黒く変化させただけでは、トムの繰り出したマグマの膜を防ぐことなどできない。
《アッハッハッハッハッハッハッ!!!!》
甲高い笑い声。
まるでステージを彩る独奏曲のように響き渡るが、決して楽しげなものではなく、まさしく悪魔が歌う不気味な音楽だ。
その音楽と共になんとネヴァンの身体が無数のコウモリへと変貌。
容易くマグマの膜を回避してしまった。
《無駄無駄って訳なのよ!!見ろよ私を!私は文字通りコウモリの群れ!チャチ臭い攻撃なんか無意味なんだよバーカ!ギャッハハハ》
嘲笑する悪魔ネヴァン。
数百数千という数のコウモリは確かに彼女そのものであり、生半可な攻撃では何の意味も持たない。
トムの前世にいたネヴァンも全くの同じの能力を持っており、一度絡んだ時にこの能力で弄ばれた経験がある。
そんなトムからすれば、激しく苛立ちが沸き出る光景だろう。
「あぁぁッ、クソッ!!」
実際に苛ついている。
「あん時を思い出す!!」
自分めがけ襲いかかって来るコウモリの群れ。直接噛み付いて来る個体もいれば、バチバチと紫電の火花を散らし、一部のコウモリたちが
一斉に放つことで稲妻の線を生み出す。
それらを防ぎつつ、魔具ファントムを振るうことで発生するマグマの斬撃を使ってコウモリを焼却処分していく。
が、それはチマチマとした小規模な攻撃なので、コウモリの大群を相手にするには心許ない。
「■■■ッ!!!!」
咆哮を上げるシャドウは背中から触手を伸ばして、先端の刃でコウモリを次々と切り裂いていく。
こちらも正直なところ成果は上げられていない。バールを振るいコウモリを叩き落とすKも同じだ。
《アッハハハハ!!! 偉そうな口叩く割にこの程度? ないない、ないワ〜マジで!!》
高らかに嘲笑を張り上げるネヴァン。
そんな最悪な耳障りを受け取ったトムは顔を下へ伏せる。
「………そうかよ。なら、見せてやる」
絶望したから?
否。
自分の力に限界を感じた?
否。
無惨に殺される現実に恐怖した?
否、否!
どれも的外れもいい所だ。トムの顔は眉間に皺を寄せ、歯を食いしばり、所々血管がピクピクと蠢いている。
それは単純な『怒り』だ。
取るに足らない雑魚だ、能無しだとコケにされたことへの怒りは単純ながらも、彼にとって二番目にやってはいけない事柄だ。
ちなみに、その一番目はクリスへの危害を加えることである。
ともあれ、その怒りはある種の燃料となって彼の中の魔力を熱く滾らせ、彼の青い双眸を赤の色へと変えて顔を上げる。
「格を違いってヤツをな!!」
トムの激昂に呼応するかのように会場のあらゆる場所から上下左右関係なく。
骨をも消失しかねない灼熱を宿した柱が生える。
そしてそこから、マグマの糸がまるで蜘蛛の巣のように展開。
会場全体を四方八方に張り巡らせてしまった為、コウモリの群れは糸に囚われ、そのまま瞬時に溶けて消え去る。
《ギャァァァァァァァッッ!!!!!》
ネヴァンのコウモリは同質量を保持したまま無限に分裂できる為、少数程度殺されてもネヴァンにとっては何も痛手にはならない。
だが、一度で大量にやられてしまえば、その限りではない。
分裂変化の状態を維持できず、元の姿に戻ってしまうのだ。
「熱苦しい上にメチャクソ痛てぇんだよボケがァァァァァッッ!!!!
」
元に戻ったネヴァンは早々喚き散らす。
身体中は所々煤に塗れ、火傷らしきモノも見受けられる。
それなりにダメージを負ったようだ。
「人間如きが、こんな真似して、タダで済むと思ってんのかゴラァァッッ!!」
「さあな。持ち合わせは少ないから、慰謝料は期待できないが?」
両手を上げ、いかにもな困ったポーズを披露するK。それを見た瞬間、ネヴァンの中でブチリと何かが切れてしまった。
俗に言うところの、『堪忍袋の緒』だろう。
「……オッケ〜〜。よぉ〜〜く分かったわ」
歯を剥き出しに目を血走らせたその表情は、『怒り』を通り越して『憎悪』を宿していた。
「コケにしたツケはテメェらの命だアァァッ!!!!」
大蛇を彷彿とさせる極太の稲妻が放たれる。Kの命を奪い取る為にその肉体を徹底的に蹂躙し破壊し尽くすだろう。
悪魔として、コケにされて『はい、そうですか』と流す訳にはいかない。
悪魔としての誇りは時に命よりも重い。
そこに安易に触れると言うのは、凶暴な龍の逆鱗を舌で舐めるような命知らずの暴挙。
だが、それは無知で愚かな無謀者ならの話だ。
「支払ってやる道理も筋もないな。むしろ支払って貰うのはこちらの方だ」
何も恐れる様子はなく。Kはバールに魔力を込める。
そして迫る雷撃に対し、バールの先端を突き付けた。
すると稲妻は四方へ分散。結果的に稲妻はKの命を奪うことはなく、ただ無意味にその暴力的な魔力を消費しただけに終わってしまった。
「なッ?!」
「来い。ビッチコウモリが」
驚愕の表情を見せたネヴァンに向けて、Kはさも当然とばかりにそんな台詞を吐いて捨てた。
ギャルネヴァン(作者命名)は、原作3のネヴァンのように電撃とコウモリへの変身&分裂の能力があり、両腕の袖を刃に変化させたりもできます。
ただ、性格は大人びた優雅で妖艶な3とは真逆。簡単に挑発に乗って激昂してしまうので、そんな短慮な所が弱点になってしまうこともあります。