戦姫魔晶シンフォギアD   作:イビルジョーカー

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 訳題『異界の街』

 連続投稿です。今回は先駆けという形であの二人が登場します。






第32話 A city of another world part1

 

 

 

 

 

 

「うわ〜、すっかり日が暮れちゃったなぁ…」

 

 弦十郎との修行を終え、帰路に着こうという時には既に夕方。

 夕焼け色の太陽がまだ顔を出しつつもゆっくりと沈み始め、真っ赤に染まった雲が空を彩る。

 響の携帯はディスプレイ画面に5時半を記している。響は親友である未来とリディアン音楽院の寮で生活しており、当然決められた門限が

ルールとしてある。

 それが運悪く『5時半』。

 どれだけ足が早くても、あるいは瞬間移動なんて超能力染みた事ができたとして、やったところで意味などない。

 シンフォギアという常軌を逸した力を手にしようとも、ままならないものは何をどうしようとも無駄なのである。

 

「はぁぁ……わたし、呪われてるのかな?」

 

 お決まりとも言える弱気な言葉が溢れる。

 今まで寮の門限を破ったことは一度もなく、密かにそんな自分を褒めてる節もあったのだが、シンフォギアでノイズと戦う道を選んでからと

いうもの、緊急時に呼び出されることが多々あり、夜遅くに呼び出されることも珍しくない。

 そういった影響で授業中居眠りをしてしまったり、こういった意図せずの門限破りをやらかしてしまっているのが響にとって困り所なのだ。

 とは言え、こういった問題は二課が密かに手を回し、単位が落ちないよう取り計らっている。

 元々リディアン音楽院は二課の足下に属する教育機関の施設。

シンフォギア装者としての活動のせいで色々と支障が生じている彼女の生活面を支え、単位を落とさないよう手を回しておくなど造作もない。

 しかし、だ。

 こういったところが真面目で、小さいながらも誇りに思っている響にしてみれば、どうしても気落ちしてしまう。

 そういう性分だし、中々根っこのところにあるので、そう易々とは変えられない。

 

「? あれ? 道間違えた?」

 

 ある程度帰路を歩いて、ふと気が付く。

 

 景色が見知ったものではなかった。

 

 住宅街である点は変わらないのだが、所々いつもと違った所が多くある。

 明らかに知っている道ではない。

 

「いろいろ考え事してた…からかな?」

 

 響も人の子だ。些細なことで間違えたりすることなど結構ある。

 考えた事をしてたこともあって、それが原因で違う道に知らない内に行ってしまったと結論付けようとした響だったが、それを掻き消すように本能的な警鐘が頭に響く。

 

 違う。

 

 違う。

 

 迷ったとか、単純な話じゃない。

 

 居てはいけない。長く留まってはいけない。

 

 そんな場所に来てしまった。

 

 理屈でも、知識でそう学んだ訳でもなく。

 響は直感的にそう思ったのだ。

 

「に、逃げないとッ!」

 

 恐怖が込み上げて来る。

 心の奥底…あるいは本能的なものか。古来から人は未知を恐れるものだがそれは、響も例外ではない。

 シンフォギア装者もれっきとした人間であれば、それは至極当然の事

 だが寸前のところで踏み留まる。

 

「落ち着いて……冷静に……ノイズかもしれない

。だとしたら、戦わないと!」

 

 そう。恐怖を覚える人間とは言え、彼女はシンフォギアを有する一人の戦士。

 まだ未熟な所はあるがそれでも誰かを救い、全力で守るという一つの信念がある。

 それがある以上、何もせず逃げることはしない。

 勇ましい美点かもしれないだが、彼女にとってそれはある種の『歪み

』とも言えるものだ。

 

「霧? なんで……」

 

 聖唱を詠み、その身体にガングニールを纏う。

 すると直後に深い霧が立ち込めて来た。

 視界が一気に悪くなる。

 目に頼る生物ならそれは最悪と言っていい。

 いつ、どこから自身を狙う存在が襲い掛かって来るか分からないのだ。

 そのせいで、響の中で恐怖が更に増した。

 

「しゃがめ嬢ちゃん!!」

 

「は、はぃぃ!!」

 

 突然頭上から降り注ぐ声。聞き覚えはあった

が驚きのあまりろくに確認せず、ほぼ反射的に膝を折り屈んでしまう。

 すると、何かが空気を裂きながら通過していった。それも音の発生源は一つではなく、三つ。

 別々の方向から同時に、だ。

 何かは分からないが、必死な様子で叫んだあの声から察するに当たれば大怪我どころではなくなる。

 理屈でそう思考したというより、ほぼ勘だが。

 

「そこだァァッ!!」

 

 バヂィィッという弾け飛ぶような音と共に閃光が迸る。

 声の主が何かしたようだ。

 そのおかげか濃い霧は瞬く間に。それこそ煙のように掻き消えていく

 

「ひっ!!」

 

 消えたのはいい。いいのだが……霧が消えた直後、自分のすぐ目の前にあったソレに思わず、響は小さな悲鳴を上げてしまった。

 人形の首が転がっていたからだ。

 プラスチック製で精巧に作られたマネキンの一種と思われるそれは、所々煤汚れコーティングが剥がれ落ちている。

 不気味に思わない筈がない。

 マネキンの首自体が造形的にリアル寄りに造られているせいも相まって、近くで見たいとは到底思えない。

 物好きの変人なら話は別かもしれないが、響自身にそういった類の趣味や感性はない。

 

「ボサっとするなよ嬢ちゃん!ソイツはまだくたばっちゃいねェぜ!」

 

 左右の翼を羽ばたかせ、喧しく捲し立てながら舞い降りて来たグリフォン。

 声の主であり、あの閃光は彼が放った電撃だったのだ。

 

「あ、あの! Kさんのお友達の鳥さん…ですよね?」

 

「友達っつーか、まぁ、契約関係…って、んなのはドーでもイイっての!! マネキン見ろマネキン!!」

 

 激しく促されてマネキンの方を見てみれば、なんと。首だけしかない筈のマネキンが立っていた。

 首の断面部位から黒く、石ともプラスチックともつかない紐状に長い何かを出しながら、煤汚れ虚な眼球を響へ向けていた。

 

「あ、あああああの!! これ、なんですぅ!?」

 

「悪魔だよ悪魔! 散々見てんだろォ!」

 

「そんなに見てないですよ悪魔なんて!!」

 

 恐怖と混乱から、てんぱり出してしまう響にグリフォンが檄を飛ばすものの、お門違いだと反論される。

 確かに響は悪魔を見たには見たし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは言え、それでも直接目で見たのはナイトメアに出会ったあの時とフォルテという謎の少女との邂逅時。

 つまり、計2回しか悪魔に遭遇していないと言うことになる。

 

『たべもの、たべもの……ちょうだいぃぃ!!』

 

 首だけのマネキン悪魔が黒い紐状の身体から、更に紐状の黒い物体を何本か伸ばし、そんな人の言葉を介す。

 食べ物。それは言わずもがな、響自身のことだ。

 悪魔にとって生命エネルギーである精気や、精神を司る魂。そして血や肉は他にないご馳走。

 特に人間ものは格別だ。

 そんなご馳走を前に飛び付かない道理はない。

 人の言葉を介せるだけの知性があっても、所詮それは真似事に過ぎないのだ。

 

「おっとォォ!!やるせるかよボケが!」

 

 しかし。グリフォンがそれを許さない。

 くねらせながらも勢いよく響へ向け迫って来た黒い紐状の触手。それに稲妻が纏わり付き焼いていく。

 

 『ぎぃぃぃぃ!痛い!痛いィィ!!!』

 

 当然電気のエネルギーなのだから本体へ伝わっていき、本体をも焼いていく。

 先程放ったものよりも威力が強めだったことに加え、完全に息絶えるまで稲妻を送り続けたことが原因でマネキンの頭部が炭化。

 紐状の身体もろとも、ボロボロ崩れて消え失せてしまった。

 

「ヘッヘェ! どうヨ! 俺様の電撃は!」

 

「たお、したんですか?」

 

「ま、ザコだからな、あんなの!」

 

 今の攻撃はグリフォンの技の中でもさして強力ではない。それで死んだのあれば、確かにザコなのだろう。

 しかし今、解決すべき点はそこではない。

 

「なんか、アレだな。どうやら俺たちは異界に知らず知らず入っちまったって感じだな」

 

「異界? やっぱりここって私の知ってる街じゃないんですか?」

 

「ああ。違うネ。全然違げェ」

 

 直感的にそう思っていたとは言え、やはり直に指摘されるというのは並ならぬ不安が湧いて来る。

 できれば自分の勘違いであって欲しいと願ってはみたものの、現実は残酷だった。

 

「悪魔って連中の中にはヨ、こんな感じで、知ってる景色と同じようで違う場所を作れるのがいてナ。それが異界ってワケ」

 

「へ、へぇー……あの、ひょっとして、ここ。普通の方法じゃ出られなかったりします?」

 

 グリフォンの説明を聞く限り、異能力系のバトル漫画によくある『自分にとって有利な環境のある空間を作り出す』系のそういったものを想像した響は、同時にソレ関連でよくある『正攻法じゃ決して出られない

』的なタイプなのでは?とそんな結論を叩き出した。

 内心外れて欲しいと思いつつも……

 

「そりゃそーダロ。簡単に出れたらとっくに出てるしな」

 

 なんと的中。からの轟沈。

 またしても希望は容易く打ち砕かれた。

 まぁ、これに関しては彼女のは根拠のない希望的観測だったのだから

、砕かれても元来そういうものなので仕方がない。

 

「マァマァ、そう落ち込むなって、ナァ?」

 

 膝をアスファルトの地面につけて、ついでに頭も伏して両手で抑えてるような悶える格好を晒している響に内心爆笑しつつ、グリフォンはなんとか励ましつつ説得した。

 

「その普通じゃ出来ない方法を知ってンのよ、俺。これでもソコソコ強えー悪魔なんだぜ? なんつーかさ、大船にでも乗ったつもりで期待しろって!ナァ?」

 

「へ? どうやったら出れるのか、知ってるんですか?!」

 

 ガバッと、勢いよく飛び上がるように食いついて来る響にグリフォンはニヤリと笑って言った。

 

「やり方は単純。この空間を作ってる悪魔をボッコボコにすりゃいいのサ! 相手が堪らず泣いちまう位にナァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、ダメじゃないかぁ……こんなところに女の子が一人で来ちゃあ、なぁ?」

 

「そうそう。俺らみたいな怖〜いお化けにパックリ!なんてあるかもしれないんだぜ?」

 

「まぁ、ソレ事実なんだけどな!!」

 

 グリフォンと響が異界から脱出する算段を立てる中、同じく異界の別の場所…商店街の一角で、一人の少女を相手に3人の男達が取り囲んでいた。

 一見すると柄の悪いヤンキーとしか言いようのない着崩れした学生服を纏う彼等。

 自らを『怖いお化け』などと称する様は只の悪ふざけにしか見えない

 顔にも間抜け面が滲み出している点を考慮すれば、女の子一人を相手に粋がる馬鹿なヤンキー生徒そのものだろう。

 が、残念な事に彼等は人ではない。

 彼等はれっきとした"悪魔"だ。

 

「いやぁ、しっかし異界の主さまさまだな。術者どもにバレずにこんな美味い飯にありつけるんだからよ」

 

「まぁ、俺ら勝手に入って食い漁ってるけどなぁ! あっはっはっはっは!!」

 

「……あれ〜お嬢ちゃん? なんかさっきから俯いて黙ってるけどぉ、なになに? ビビってる?」

 

 ギャーギャーと喧しく騒ぎ立てる3匹とは対照的に少女の方は、至って冷静に沈黙を貫いている。

 顔を俯かせてはいる為、その表情は分からない。

 しかし彼等はそれを見て、溢れ出す恐怖をなんとか耐えようとしていると勝手に解釈し、その嗜虐心を更に沸き立たせた。

 

「うっほーいいね、いいね! そんじゃ俺から頂いちまうかぁぁぁぁッッッッ!!!!!」

 

 3匹のヤンキーの内、モヒカン頭がその姿を本来のものへと変化させた。

 俗に言うヤギに似たバフォメットの形態。

 背中には骨組みの翼があり、赤紫色の魔力の飛膜が張っている。

 まさしく絵に描いたような悪魔だが、その食性は本物のヤギとは違い、肉食。

 獲物を前に汚らしいヨダレを撒き散らしながら少女の頭へ齧り付こうと迫る。

 

「いただ「はい、ダメデェース!!」あへ?」

 

 突然聞こえて来た声。

 声の感じからして少女のそれらしいのだが、眼前の少女が口を開いた様子はない。

 というより、声は真上から聞こえて来た。

 なら。声の主は誰なのか?

 

「もう『調』!! 探したデスよ!!」

 

「遅いキリちゃん」

 

「デデース?! 探したのこっちなのにダメ出しとは!!」

 

「予定した場所はここで合ってる。キリちゃん間違えてたの気づいてる?」

 

「ほえ? えぇー……そんなまさかー……」

 

「じーっ」

 

「マジのマジの助け、デスかぁぁ?!」

 

 何気ない会話を繰り広げるのは、今まさに悪魔が喰らおうとした少女だが、もう一人は上から着地する形で現れた別の少女だ。

 金髪のショートヘアに黒いバツ印の髪留めをし、黒を基調とした服に緑のスカートを着た姿をしている。

 だが、突然現れたことなど関係ない。

 その少女が人間だろうが悪魔だろうが、喰い殺せばそれで済むのだから。

 

「あ、あれ? なんで、食えねぇんだ?」

 

 だが。どういう訳か喰えない。

 というより……そもそも視線がおかしい。

 何故か、少女たちを下から見ている。

 何故そんなことをしているのか。

 おまけに身体も動かない。一体全体どうなっているのか。

 

「あ。首、取れてんじゃん俺」

 

 なんとか視線を動かし、ようやっと置かれた状況を理解した。

 自分の頭…首が根本から寸断されて、落ちてしまっているのだ。

 頭が無ければ、身体が思い通りに動く道理はない。

 悪魔によってはバラバラにされても動くことのできる者はいるかもしれないが、生憎バフォメットの悪魔にそんな芸当ができる機能など備わっていない。

 己の死を自覚した途端、その身体は切り離された頭部諸共、魔力の粒子へとなり散っていく。

 

「テメェ、ゴルァ!! メスガキが何してんだよオイィィ!!」

 

「ヒヒ、2人纏めて始末してやりゃあ!!」

 

 残りの悪魔たちが殺意の籠った声を上げ、その姿を変貌させる。

 一人は、ズタボロの布袋を人形にしたような悪魔『スケアクロウ・デッド』。

 左手に2本の鉤爪、右手に生々しいチェーンソーのような殺害器官を備え、ナイフで切って出来た感じの切り目が顔を形成している。

 その口と思しき部分から、なんとガトリングらしきモノが銃口を覗かせていた。

 

「ボボッッボォォォン!!!!」

 

 妙な奇声を上げたかと思えば、ガトリングが回転を始め、銃口から情け容赦ない銃弾の雨が吐き出される。

 

「おおっととと!」

 

 当たれば蜂の巣は確定。

 しかし金髪の少女は少し慌てた様子ではあるものの、何処からか自分の背丈以上もある大鎌を出現させ、ガトリングと同じように両手で回転させたかと思えば、なんと銃弾を一発も漏らさず弾き捌いていく。

 

「脇がガラ空きなんだよボケが!!」

 

 しかし、そうなると側面に隙ができてしまう。

 銃弾の雨を防ぐのにやっとな様子の少女に側面からの攻撃を仕掛けて来たのは、もう1匹の悪魔。

 ヤンキーの一人だった『テンタクルス・リッパー』だ。

 この悪魔はイカとタコ、ナマコを掛け合わせたような不気味な姿をしており、身体中に多数の触腕が生え、尚且つその先端には鋭利な三日月状の刃が付いている。

 リッパー…切り裂く者と名にあるようにこの触腕を利用したトリッキーな動きで獲物を切り裂く戦法を得意としている。

 繰り出される速さも人間の視力で捉えることは難しく、仮に出来たとしても人間の反応速度を遥かに超えている為、回避も防御もままならない。

 

「速いだけで威力は大したことないね」

 

 一番の獲物として狙いを定められていた調は、触腕の刃が当たる直前

、桃色の魔法陣の障壁が展開したことで切り裂かれることはなく、代わりに魔法陣から同色の魔力刃が複数射出。

 テンタクルス・リッパーの触腕を輪切りにしてしまう。

 

「い、いでぇぇぇ!!」

 

「自分がやれる気分はどう?」

 

 頭に被っていたフードを取る。

 前髪を切り揃えて、長い髪をツインテールに整えたあどけない少女の顔が露わになる。

 

「お、お前、術者か?!」

 

 普通の人間では到底不可能な芸当の数々。それを見せつけられてしまえば、否が応でも彼女が普通ではないと認めざる得ない。

 

「うん。キリちゃん」

 

「はいデス!!」

 

 律儀に問いに答えつつ、『キリちゃん』と呼ぶ金髪の少女にアイコンタクトを送る。

 相変わらずガトリングによる攻撃を弾いてはいるが、しかしこのままでは埒が開かない。

 そこで、キリちゃんこと『暁切歌』は手を止めず、なんとそのまま突進を開始。

 ガトリングの弾丸の雨自体はそこそこ圧があるものの、押し返せない程ではない。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!」

 

 しかも運が良いことに弾を吐き続けることに限界が来たらしく、荒い息遣いを繰り返しながら攻撃を止めた。

 この好機を見逃す手はない。

 

「お前の命、いっただきデェース!!」

 

「アァ! ヤバい!!」

 

 大鎌の刃の部位は鉄の類ではなく、青紫の魔力で構成されたもの。

 魔力製の武器は単純に物理的な性能を持つだけではなく、悪魔の意識や魔力といった非物質に強く作用することができる。

 切歌の大鎌の特性は、悪魔の本体とも言える意識に直接的なダメージを与える。

 

「ギィィィィィィッッッッ!!!!!!!」

 

 断末魔の金切声を上げて、大鎌で前方斜め一線に、頭から腰の辺りまで袈裟斬り状に切り裂かれたスケアクロウ・デッド。

 ダメージに耐え切れず、意識体は魔界へ還ることができずに消失。

 依代になっていたズダ袋と銃器の数々が残された後、それらも風化するように消え去った。

 

「!! やべェ!!」

 

 このままでは、死ぬ。

 状況を見れば一目瞭然で、さして後退や逃走を恥と思うプライドが皆無な彼は命惜しさに去ろうとする。

 しかし、死神はそれを許しはしない。

 

「お前の命も、デェェェェス!!!!」

 

 大鎌の魔力刃部位を本体からパージさせ、ブーメランのように回転しながら、くねりくねりと。

 カーブの軌跡を描く跳び方でその勢いを殺すことなく、テンタクルス

・リッパーの頭を落とし、更には胴体を三枚下ろしの如く三つの肉の板へと作り変えてしまった。

 

「うぅ…グロい……」

 

 まぁ、当たり前だが、その様は想像するだけでもグロいの一言に尽きる。

 すぐに消えるとは言え、それでも臓物や血が大量に飛び出て、辺り一面を彩るのだ。

 そんな光景を見て喜ぶ様な人種は、サイコパスの類か"実は悪魔でした"の二択しか考えられないだろう。

 生憎、『月読調』という少女はそのどちらにも該当しない。

 

「あ、ご、ごめんデス調。やりすぎでしたね」

 

「ううん。これ位、慣れる……と思う」

 

 はっきりとは言えず、か細い小さめの声で自信なく答える。

 悪魔相手に渡り合えるとは言え、やはり感性は普通の女の子のようだ。

 

「大丈夫デス! 慣れなくても私が頑張れば何も問題なしデース!!」

 

「すごい自信だけど、どこから来るの?」

 

 根拠のない言葉にツッコミを入れる。

 だが、数少ない信頼に値する人物からの言葉というのは、例えそれが根拠のないものでも、不思議と心の中を暖い安心で満たしてくれる。

 調にとっての切歌とは、そういう存在なのだ。

 

「さて。行こっかキリちゃん」

 

「はいデス! 私の"キリキリ悪魔センサー"がバッチし捉えてみせるデース!!」

 

 両手の人差し指を自分の頭に向けて、くるくる。そんな感じで回す仕草を取りながら意味不明な言動をする暁切歌と、対照的に至って真面目な月読調の両名は異界の商店街を後にした。

 

 

 

 

 

 

 







 はい。Gで初登場する筈のきりしらコンビです!
 
 この作品内で調はシュルシャガナの装者であると同時に錬金術師。
 切歌はイガリマの装者であり、魔人ではない本物の悪魔。

 何故二人がいるのかについては次回辺りで追々。


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