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訳題『2匹の悪魔と少女』
side ???
「はい。周囲の避難は完了。被害も最小限に留められました」
ノイズが発生し、少女と悪魔が邂逅した現場は人払いの為の立ち入り禁止の赤文字がペイントされたバリケードが周囲を囲むように立てられ、それなりの武装を身に纏った自衛隊が見張りとして配備されている。バリケードの向こう側では自衛隊含む政府の人員たちが後始末に勤しんでおり、その中で黒スーツを身に纏った、通称『二課』と呼ばれる組織に所属する青年が上司たる男と連絡を交わしていた。
『ご苦労。いつもすまないな』
「いえいえ。当然のことです」
電話越しから来る労いの言葉に対し、青年は口の端をほんの少し上げては微笑むように。自分が任された責務を当然の事だと答える。
「ただ……気になることがあります」
『ん? 何かあったのか?』
声のトーンを和やかなものから真剣味を帯びたものへと。変質させた青年の様子に男も若干ながら気を引き締めた様子で問いを投げかける。
「ノイズが発生した現場にまるで雷でも落ちたような焼け焦げの跡や鋭く大きな刃物で切ったと思わしき傷跡が多数見つかりました……まさかとは思いますが」
『何者かがノイズと交戦した、と?』
青年が言葉に出すよりも早く、男は仮定していた予想を提示する。
「おそらく、ですが……」
『もしノイズ相手に戦えるのだとすれば、その何者かは"シンフォギア装者"か……又は我々も所持する"完全聖遺物"を持つ者かもしれんが……"アウフヴァッヘン波形"が検知できなかっただけでなく、ほんの僅かな反応さえなかったことを鑑みるとどうにもな……』
断定はできない。言わずともニュアンスでそう伝えて来る男の言葉だが、何も知らない一般人が聞けば疑問符を上げる他ない用語を平然と混じえて話す様はある種奇妙なものかもしれない。だが、このような内容の会話など二課にとっては日常茶飯事である。
「もう少し現場を調査してみます。何かあれば報告を」
『分かった。ではこちらも様々な方向で調査する。気をつけてな』
「はい。承知してます」
そんな会話を交わして、電話を切る。青年は流し目程度にある一点へと視線を向けた。そこには、膝を折り曲げ焼け焦げの跡が生々しく残るアスファルトに手を添え、神妙な面持ちで何かを考えている青い髪の少女の姿があった……。
side 少女と2匹の悪魔
「まぁ、ざっとこんな感じだ」
廃墟。
そう言うに他ないほど荒れ果て、誰にも使われないただの建物という一つの物体として存在するその場所の、一室。ある程度の高さがあるおかげか街の景色がよく見えるがその部屋にいる少女も。グリフォンも。シャドウも。正直景色を楽しもうという風情は皆無だった。あるのは『状況把握』と『情報を整理したい』と言った二つの興味しか存在し得ない。
「ノイズ……シンフォギア……全然聞いたことねぇー名前だ」
猛禽類を彷彿とさせ、嘴が普通の鳥とは違い花弁の如く四方に分かれる異様な形状の口部で人の言語を介する黒みがかった藍色の羽毛に覆われた悪魔『グリフォン』は、訳分からないと言った様子で疑問符混じりの言葉を吐き出す。
「だろうな。『レッドグレイブ』や『フォルトゥナ』っていう街の地名。世界的に有名らしい『魔剣士スパーダの伝説』。どれも聞き覚えないし、スマホで調べてもヒットしない」
そう言う少女の手には黒いカラーのスマホが収められていた。とは言え少女のものではなく、少女に対し強行的によからぬ事をしようとした不貞な野郎連中を懲らしめた際、慰謝料代わりに貰い受けたものだ。
もっとも持ち主本人の承諾は確認しなかったが。
ともあれ、互いの情報を確認する上でスマホの利便性は役に立ったものの、結果的に言えば双方の情報は中々噛み合わない謎を生じさせた。
グリフォンの経緯はこうだ。
自分達はバージルと言う男が魔と人を分かつ特別な力を宿した魔界の道具……俗に魔具と呼ばれる刀で、自身の人と魔を分かち、人間としてのバージルである男『V』と悪魔としてのバージル、ユリゼンの二つに分かれてしまった。
グリフォンとシャドウは、バージルの中にある負の記憶……それが本体から弾き出された結果、悪魔として顕現した存在。かつて母親を殺した仇である魔界を統べる魔帝ムンドゥスに挑んだ際、バージルは力及ばずに敗北。その折、ダンテを倒す為の駒として改造を施され、悪魔の剣士ネロ・アンジェロと化した。
その際の記憶……そして、ムンドゥスが自身の駒とする為の改造の過程で、様々な悪魔の存在性を司る因子をバージルの肉体に埋め込んだ。しかし他を拒むバージルの性質故か、どうやっても弾き出してしまうのだ。結果は無意味なものとなったものの、何種類かの因子は弾き出される消滅せず残り続けた。
その因子の二つが……グリフォンとシャドウの物だった。
つまり、彼等は悪魔の因子がバージルの記憶を媒介にすることで悪夢の具現化という形で誕生した本物であって本物ではない実体無き悪魔という訳なのである。
細かい部分は省略するがユリゼンによって魔界の大樹がレッドグレイブ市を侵食し、人の血を糧に成長していくという前代未聞の大事件が発生。
紆余屈折の果てにVは自身の目的、ユリゼンとの融合を成し遂げ、バージルとして復活する。役目を終え、果たすべき野望も何もないグリフォンとシャドウ、そしてナイトメアと呼ばれる三体の使い魔たちはかつて自分達を倒した男……ダンテと言う、バージルの双子の弟と死闘を繰り広げ敗北。そして何故か消え去った筈の自分達が確かに在り、少女と出会った……というのがグリフォンとシャドウの経緯だ。
だが話を聞いていた少女の記憶に魔界の大樹であるクリフォトが起こしたレッドグレイブ市の大事件などなく、ついでとばかりに話したフォルトゥナでの事件も聞き覚えはなかった。
それどころか地名や事件で何度検索してもヒットせず、事実上レッドグレイブ市並びフォルトゥナは存在していないと認めざる得なかった。
ならばとバージルとダンテの父である魔界随一の剣士にして、ムンドゥス並び魔界を裏切り、悪魔の侵攻から人間界を救った英雄スパーダに関する伝承・伝説も検索して徹底的に調べた。
が、前例と同じく、この世界に魔剣士スパーダの伝承・伝説は一切存在しなかった。アニメやゲームなどの似たような名前の関連性が全く無いものばかりで、目当てのものに辿り着くことは叶わなかった。
「オイオイ……んだよそりゃ。まさか並行世界にでも迷い込んじまった系かこりゃあ」
溜息交じりに吐いたグリフォンの並行世界という言葉。選択によって分岐した可能性が現実化した事象と言えばいいか。パラレルワールドとも呼ばれ、今自分がいる現実とは異なる同一の現実が存在すると言うSFでは有名な理論だ。
この時ああしていればこうなった。
あの時、こうしていればこうならずには済んだ。
あるいは、こんな歴史を歩んだ同じ世界があるのかもしれない。
そういった様々な分岐によって生じた幾重にも存在する現実の世界
。それが並行世界なのだが何故グリフォンが知っているのかと言うと並行世界の存在は大悪魔クラスであれば知り得る知識の一つだからだ
。実際、並行世界を行き来する魔界の道具があるのだから何らおかしい事ではない。
「パラレルワールド……信じ難いが、そうかもな」
「でよぉネーちゃん! そろそろお名前の一つは聞かせてくれてもいいんじゃねぇーか? これから長〜い付き合いになるんだから、ここは一つお近づきの印にさ!」
話の腰を折らんばかりの唐突な質問の投げ付けに対し、少女は溜息を交えつつ答える。
「『K(ケイ)』と呼べばいい。それよりも長い付き合いってどういう意味だ」
とりあえず律儀に名前を教えてから、先程言った言葉の中で気になったワードに関する問いを投げかける。
「そのまんまの意味さ。ネーちゃん……いいやK! このオレ達がお前に協力してやるって言ってんのよ!!」
「グオン」
グリフォンの提案に便乗するようにすぐ近くで大人しく座っていたシャドウが一鳴きする。ニュアンス的に肯定しているかのような感じだ。
「……なんでだよ」
「オイオイ、んな疑い全開な目で見るなよ」
訝しげな視線を送る少女ことKが何を言いたいのかなど、疑心を込めた目を見れば容易に分かる。
会ったばかりで単純に互いの経緯や情報を開示し交換しただけの間柄に過ぎない。にも関わらず、何の後ろ盾もない自分に協力するなど言われてハイよろしくなどと気楽には言えない。
裏がある。何かを企んでいるかもしれない。
そう考えるのが妥当であって、無論Kもそれは変わらず例外ではない。あの時助けてくれた恩があるとは言え、それでも容易に承認するほど少女……Kはお気楽ではない。
「俺たちに目的とかそんなもんは一切ない。死んで消えたと思えばこの有り様だ。だからよ、お前の目的の為に付き合ってやるってワケだ
! さぁさぁ今なら魂払いなしの無料お買い得!! 出血大サービス! 契約するなら今だぜKちゃ〜ん!!」
「少し黙ってろ」
自分の近くでギャーギャーと騒ぐのに加えて両翼でバサバサとやるのだから、Kにしてみれば鬱陶しさことこの上ない。その嘴を手で掴んだKの対応にグリフォンは思わず『ムグゥッ!』と。
そんな苦悶の声を漏らした。
「デ、デジャブ……」
「喧しい鳥はゴメンだ。けど確かにお前は中々強い。そっちのシャドウって奴もな。いちいち手段を選ぶ時間も方法もがないから、承知してやる。で、契約の仕方は?」
未だ疑念は消えないようだが、それでも構わないのであれば是非もない。Kが嘴を掴んでいた手を離し、自由になったグリフォンはやはり彼女の質問に陽気喝采な声で説明する。
「英断即決だ! スゲーぜ! 前のご主人様だったVは最初拒否ってたからな! で契約だがそんな難しいもんじゃねー」
グリフォンはそう言うと自らの身体を黒い粒子のような物へと変化させ、間髪入れずKの中へと入っていった。
『ビビるこたぁねぇよ!! こうやって繋がりを作るんだよ!』
頭の中で響くグリフォンの声に不快感が増す。
とは言えコレが契約する為に必要であるのなら、それを否定することをKはしない。まぁ、だとしても不快感があるのは否めないが。
そうこうしている内に少女の身体に黒い独特な模様が刺青のように浮かび上がる。悪魔が自身と契約した事を示す“刻印”だ。
「ヒャッホーウ! イイね! 最高だ! 本当なら実体のない俺らは消えちまうんだが、どういう訳か今の俺たちには“実体がある”! そんなもんだから得られる魔力も絶好調だ!」
「……は? 実体がないと言ってなかった?」
適当なことを抜かさずキチンと答えろ。
そう言わんばかりの表情と視線で訴えかけるKに焦りを感じたのか。バッというような効果音と共に彼女の肩から現れたグリフォンは、慌てて自身の弁明を述べる。
「まま待てって! 別に適当に言った訳でも嘘を吐いたつもりねーよ?! こっちに来るまではよ、本当に実体のねー存在だったんだ!」
悪夢である彼等は本来、相手を苦しめることはできても殺す事はできない。何故なら、悪夢が形を有しただけで実体と呼べるものがなく、誰かに憑依しなければ長く姿を保てない曖昧にして不明瞭な存在。
だが、この世界では有る筈のない実体があった。
証拠に彼等はノイズを殺すことができた。
アレが明確な命を持つかどうかは怪しいところだが、それでも倒す事ができたのは間違いない。それは詰まるところ、彼等はただ相手を苦しめるだけでなく、“殺すことができるようになった”と言えるのだ。
「はぁぁ。どうなってるんだソレ」
「まぁイイじゃねーか細かいコトは。目ん玉で見るイマが重要ってな!」
悩ましい溜息を吐き出すKを尻目に調子のいい台詞を口遊むグリフォン。そんな一人と一体をどこか懐かしそうな様子で見るシャドウ。
前途多難かもしれない。
Kという少女は内心、そんな弱音に近い愚痴を吐露する他なかった。
感想ほしいデス! お待ちましてます!!