戦姫魔晶シンフォギアD   作:イビルジョーカー

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訳題『飲んだくれの悪魔』


第4話 Devil who drank

 魔界。人界のありとあらゆる物が変質・変形し、人界には存在しない奇妙なものがそこら中にある異形の世界。そこには悪魔と呼ばれる住民が日夜罪人の魂を喰らい甚振り、なんとも悪趣味なパーティーを開催している。常人から見れば地獄と評して然るべきそんな世界に一人の少女……Kはグリフォンに周囲の確認をさせつつ、何という事など無いかの如く歩いていた。

 

 

「着いたぞ」

 

 

 狭い建物間の道を抜けて広い場所に出たKは、グリフォンにそう言う。

 

 

「何ここ? バー?」

 

 

 拓けた場所は子供が遊んでそうな小さな公園。

 と言うより、遊具のある広場という方がしっくり来る程にそこそこ広いだけの小さな公園のど真ん中にポツンと佇んでいるソレにグリフォンは疑問符を浮かべた。

 形状を述べると赤く四角いレンガの積み重ねで構成された建物で、屋根は少しボロめの木の板を三枚程度に置いてくっ付けたような適当さを、これでもかと感じる作りになっている。これを見てグリフォンが酒場であるバーなどと思った要因は出入り口と思われるドアの上に英語で綴られた黒い塗料か何かでこう書かれていた。

 

 

 

 “Stomach

 bag of liquor"

 

 

 

 訳すると“酒の胃袋”と。なんとも言えない珍妙さで、酒臭さが漂って来そうなネーミングである。

 

 

「“バクス”。いるか?」

 

 

 ノックをせずいきなりドアを開けると言う些か礼に欠けた入店方法で、特に店に対する不信感なく入り込んではこの店……かどうかは分からないが店らしき建物の主へ声をかける。存在の有無を確認する為のKの言葉に返って来たのは……。

 

 

 

 キィィンッ!! 

 

 

 

「アブねェェッ?! 酒瓶が飛んで来やがった!」

 

 

 

 なんと言うことか。言葉としての返事が返って来るかと思いきや、グリフォンの言う通り、返って来たのは言葉という実体のない音の現象でなく、きちんとした実体も質量もある酒瓶。

 それが突然投げつけられたのだ。幸いKは一切の動揺を見せずバールを素早く前へ出し、酒瓶防いで見せた。そこそこ頑丈なのか酒瓶はそれで割れて砕け散るような事はなく、円形のタイプである為コロコロとその辺に転がった。

 

 

「うぃぃ〜なんだお前さんかK」

 

 

 呑気な飲んだくれ声と共に店内のカウンターから、ゆっくりと一人の男が姿を現わす。第一印象としては薄汚い。この一言で十分表せるほど男の顔は整えてなどいない無精髭が顎と両頬を覆い、団子鼻にそばかす。身なり自体はやや高そうなヒョウ柄の毛皮コートを羽織り、その下に着ている服装も少し高級感を匂わせるシックな黒のシャツに黒ズボン。

 それに茶色の革製ベルトも加え、雰囲気だけは出せていた。実際は金欠だが。

 

 

「こいつの名はバクス。表と裏、両方の情報通でまぁ世話になってる……ついでにかなりの酒豪だ」

 

 

 そう解説するKだがバクスというこの男の口、果ては身体にさえ染み付いている酒臭さが相当嫌なのか。鼻をつまみ、うんざりとした表情を見ればそれが本当である事を嫌でも物語っていた。

 

 

「ご紹介ありがとうよK! ところでコイツは……ヒャ、ヒャッハッハッハッ!!!! なんて、なんてこったァ! コイツ、あのグリフォンじゃねーか! んん! おまけによぉ〜く見ればシャドウもいるなぁオイ

?!」

 

 

 グリフォンとシャドウを知っている。と言うことは、この男が単に悪魔関連の裏側を知っているだけでなく、この世界の住人ではない事を意味しているに等しい。その事についてグリフォンが早々に指摘し出した。

 

 

「オレらを知ってるつーことは、アンタもオレらと同じ世界から来たってことだよな?」

 

 

 グリフォンの問いかけにバクスは笑いを未だに抑えられず、上擦ったように答えた。

 

 

「ヒャッ、ハハッ……そ、そうさ。ヒッヒッ! 俺はアンタと同郷……ヒヒッ! プッ! のもんさ」

 

 

 ようやく笑いが収まったのか。今度は普通とした口調で答える。

 

 

「まぁ、つっても俺ぁ雑魚悪魔だがな。名前なんてそう馳せてねーし

、人間界に逃げ込んでたよ」

 

 

 悪魔の住む魔界は弱肉強食。過酷な環境に耐え、他者を圧倒する実力こそが全ての世界。ではその世界に馴染みない弱小の悪魔はどうなるか、と問われれば結末は二つに絞られる。

 

 自分よりも遥かに強い悪魔の餌食になるか。

 

 人の世に逃げ込んで来るか。

 

 グリフォンのいた世界では魔界と人界はかつてスパーダの張った大規模且つ、強大な結界による隔たりがあるが、それを何かに例えるのなら『網』というのが相応しい。

 ならば当然網目があり、その網目より小さい物は容易くすり抜けてしまう。

 網で魚は捕らえられても、極小の砂は捕らえられず、摺り抜けるのと同じで、魔界で生きられないほど脆弱極まる悪魔は結界の網目を通り抜けられる。

 まぁ、逃げた先の人間界で必ずしも望んだ生が謳歌できる保証はないが……少なくとも自分を容易く、それこそ人間が何の抵抗もできない芋虫を軽く踏みつける程簡単に殺すことのできる強者の悪魔が右往左往と犇めく魔界よりはマシと言うものだろう。

 バクスもそうやって安全圏へ逃げ込んで来た、ようは負け犬悪魔なのだ。

 

 

「ハッ、負け犬ヤローが笑えた義理かよ」

 

 

 盛大に笑われた事を気にしているのか。皮肉な言葉を口にするグリフォンにバクスはあまり堪えている様子はなく、むしろ愉快そうにする始末。

 

 

「ケケッ、違げぇねぇ。しかし雑魚の負け犬で結構。生きてりゃー文句なしよ」

 

 

 悪魔とは大抵プライドを持つ者が殆どだ。人間が豚と同列に扱われることを嫌悪するように、悪魔は自分より下の存在に対し同列、又はその下に置かれ扱われることを殊更嫌悪する。

 

 だから、力を求める。

 

 他を圧倒する力を得て、至高へ到達する快楽と全てを支配する名誉を勝ち取る為に。そういった野望を持つ悪魔は本能のみに生きる魔獣とは違い、人並みかそれ以上の知性と確固たる自我を持つ悪魔が絶えず持っているものだ。

 このバクスもそうした悪魔の1匹である筈だが……見て分かる通りバクスにそういった野望はない。自分が安全に生きていて、この世で最も重宝する酒を飲んで飲んで、飲み明かす毎日を送れれば、それで良し。

 悪魔としてのプライドはなく、あるのは酒好きとしてのしょーもない矜持だけだ。

 

 

「で、なんだ。今日はどんな情報が欲しい? なんなら俺がどういった経緯でこっちの世界に来たのか身の上話でもしてやろうか? 前にお前に貰った中々良い味の酒は全部で3本。

 その3本分に応じて情報をやるってのは覚えてるよな? 前に一回情報やったから、残り二回だ。俺の身の上話は勘定に入ってねーから安心していいぜ」

 

 

 ドカッと近くにあったボロい木製の椅子に座り、偉そうに両足と両腕を組む姿は、腹立しいと思う以外の感情をKやグリフォンに抱かせず。

グリフォンに至ってはこのまま自身の雷撃で消し炭にしちまおうか、などと物騒な事を考えてる始末だ。

 ちなみにバクスの経営方針は基本的に前払い制で、金ではなく酒を要求する。その酒の味や質が良ければ貰った数だけ情報を提供し、逆に質が悪くて味も微妙なら何個貰おうが一回のみ。

 彼は悪魔である故に人間のように生命維持という意味での飲み食いをする必要性がなく、文字通り酒だけで生きていける為、健康面の配慮などは無縁である。

 

 

「なら、一つ聞くぞ。ノイズを操ってる黒幕について…教えろ」

 

 

 Kは自身が望むもの…ノイズを影から操っているであろう存在についての情報を求める。

決して嘘偽りは許さない、と。

鋭い眼つきだけで、そう語りながら……。

 

 

 

 

 

 

 side 立花響

 

 

 

 

 

 “立花響”。それが彼女の名前だ。

 

 性格は明るく元気溌剌という言葉を絵に描いたような人柄は偽りなく事実であり、同時に彼女はその特徴に合う優しさを持ち、人助けを己の信条にまでしている。

 

 それはいつ自分が、どのような危機的状況に置かれようとも、だ。そんな彼女であればこそ、ノイズに遭遇し尚且つ母親と逸れた小さな女の子と出くわしてしまえば、迷わず救いの手を差し伸べる他にない

 

 

「はぁ、はぁ、がんばって!」

 

「うん! はぁ、はぁ」

 

 

 自身と手を繋ぎ逃げる女の子に励ましの言葉を投げ掛ける。少女は辛そうに息を吐くが、それでもきちんと答えてくれた。ともあれ先程から逃げてはいるものの、一向に振り切れずにいた。

 ノイズ自体の足は遅くとも、何処からともなく先回りするかのように次々と現れて来るからだ。紆余曲折の逃走劇の果てに二人はビルの屋上へと難を逃れたのだが、待っていたのはノイズの団体様だ。当然二人を煤くれにしようと迫って来ている。

 

 

「お姉ちゃん……私達、死んじゃうの?」

 

 

 死への恐怖と救いのない絶望。幼いながらに嫌でも理解してしまったのだろう。そんな女の子に対し少女は決意を込めて言った。

 

 

「諦めちゃダメ! 生きるのを諦めないで!」

 

 

 それはかつて、自分の運命を変えたライブ会場の悲劇で自分をノイズの魔の手から救った恩人が自分に投げかけた言葉。あれから2年経った今でもその言葉を覚え、胸に刻んでいる。死の淵にあった自分を引き上げたくれた、魔法の言葉なのだから。

 

 

「へ? アレ何?」

 

「え?」

 

 

 唐突な事を言う女の子に疑問符を浮かぶ響は女の子が見上げている視線に合わせて、自身も顔を上げる。

 視線の先は自分の頭よりかなり上の宙。そこに黒い玉のようなものがあった。表面は液体のように波打ち畝り上げ、本当にそれが黒い液体で構成されているのかと思う程に液状が球体の形を成していたのだ。

 やがて、黒い玉は一気に降下し、爆発した。

 

 

「きゃあああッッ!!」

 

「うわあああぁぁッッ!!」

 

 

 女の子と響が突然の事態に驚愕と恐怖を織り交ぜた声を力一杯に吐き出し、それでも尚響は恐怖を押し殺して女の子を庇うように抱き締めた。

 幸い、爆発で二人が怪我を負うことはなかった。

 屋上を丸々消し飛ばす程の威力がなかった事も要因の一つだが“彼”が二人に危害が及ばないよう配慮した事が一番大きかった。

 

 その“彼”が人型のような形を成して、二人を守るように立つ。

 

 黒い玉の何かだった彼は、彼を良く知る者たちからはこう呼ぼれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を破滅しかねない魔界兵器……ナイトメア、と。

 

 

 

 

 

 

 




ナイトメアが何故響たちを守ったのか。そしてグリフォンたちがアレコレしていた時、彼は何処で何をしていたのか。

次回はそれについてスポットを当てたいと思います。

ちなみに今話で登場したオリキャラの悪魔『バクス』は原作でダンテと馴染み深い情報屋のエンツォがモデルで、名前の由来はギリシャ
神話の酒神バックスから来ています(バッカスとも呼ばれてる)。

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