昼間は全くの快晴であったというにこの有様は何だろうか。数拍と空けず断続的な白い光が瞬間的に暗い室を照らす。大きな獣の唸り声のような低く重々しい音が遠くから襲ってくるのだ。
「ぁ……」
閃光が走るたび、私は小さな呻きを漏らした。カーテンを閉め、布団を被り枕で耳を覆っても、まだ万全ではなかった。
体の震えは止まらない。
雷の夜、前世の父は死んだ。夜中トイレに起きた時、雷に照らされた父の死に顔はいつまで経っても忘れられない。あの苦悶に歪んだ、蝋人形のような、あの顔を。
ある雷の酷い雨の夕方、母は車に引かれて死んだ。あのぐしゃぐしゃの現場も私は忘れることができなかった。
そしてあの雨の日。私が死んだ日。雨が降り出す頃遠くで雷の音を聞いた。私は死に、他の人をも巻き込んだ。
雷は嫌いだ。
雷は不幸を連れてくる。
雷は不吉を告げにくる。
雷は………………。
少しだけ雷の間隔が遅くなった。震える足をベッドから恐る恐る伸ばし、頭からすっぽりとシーツを被ったままで、私は廊下へ出た。靴も履かず裸足で。
木の木目が足に直で感じる。ささくれが出ないよう丁寧に削られているが日本のフローリングよりはゴツゴツとしている。
先生の部屋に行こうかとも考えたが、恥ずかしいので両親の部屋に来た。扉の前で数秒佇み、開けようか開けまいか逡巡している最中、閃光が廊下の窓から入った瞬間に空が割れるような音がした。
「ひゃぁああ!」
その場に尻餅をついた。どうも腰を抜かしたようで立てなかった。
暫くの後、目の前の扉が開いた。
「なんだ?」
訝しげな顔をしてパウロが半身を覗かせる。上半身裸で少し汗ばんでいるようだ。そこで初めて私は判断ミスをしたことに気がついた。先生かリーリャの元へ行くべきだった。情事の後の両親のベッドで寝たいかと言われれば全力で否を掲げる。
だがここまで来てしまったのだ。逃げるわけにいかない。
「ぱぱ…………、オーフェね、雷怖いの。だから一緒に寝させて」
この布塊が娘だということに気づかずにいたパウロは虚をつかれた顔をした後、私の頭を撫でた。
「ああ、いいとも。可愛い娘のためだからな。さあ、部屋に入りなさい」
震える足を叱咤して部屋に入った。
部屋に入るとゼニスが必死に匂い袋の中身や香水を撒いて香りを誤魔化そうとしているのが目に入った。男女の匂いが下地にあるが、そこは四歳児。気づかないふりをすべきだ。
両親の大きなベッドが一つと、その脇に丸いサイドテーブル、右側の壁には一人用のベッドが置いてあった。物は少なく、いたって殺風景な部屋である。
「じゃあ、オーフェ。お母さんと二人でこっちのベッドで寝よっか」
小さい方のベッドに腰掛け、ゼニスが手招きをする。流石に先程までギシアンしていたベッドで娘と寝るのは気が咎めたからだろう。
対してパウロは不満げな顔をした。
「オーフェは、ぱぱと寝たいって言ったんだぞ。な、オーフェ」
「私、ママの方がいい」
一瞬で撃沈したパウロは一人寂しく広いベッドに入り、未練がましく小さいベッドを見ていた。
シングルベッドに寝っ転がると、ゼニスが私を腕で包み込んだ。柔らかく、暖かく、安心する腕。ほんのりとお日様の匂いがする、ゼニスに抱かれて、私は暖かな昼の陽だまりの中で眠っているような心地がした。
「ねえママ、ママのお母さんってどんな人?」
見上げてゼニスの顔を見た。ゼニスは少し困りげに眉尻を下げて、私の背中をトントンした。
「そうね、厳しい人だったわ。自分にもママにも、他の人にも。だからね、ママ逃げちゃった。……いつかは会いにいかなきゃね」
ゼニスの声には少しだけ後悔の念が混じっていた。自らが親になって何か思うことでも出来たのであろうか。ゼニスは今、二十代前半。前世の私より少し年上で、私よりも人生経験が豊富だ。私には前世の父や母について思うことはなかったけれど、もし確執があったら、何かきっかけがなければ関係の修復はできない気がする。
「ママはすごいね」
「そんなことないわ。おやすみ、愛しの我が娘」
額に一つキスが降ってきて、気がついたらいつのまにか朝だった。