午前の魔術の授業の後、いつもの通りルディと二階で魔術の自主練をしている。どうにも下が慌ただしく、ルディも私も浮き足立っていた。
「なあ、オーフェ。なんだと思う?」
忍ばせた声でルディが囁く。この不思議な高揚感と心の高鳴りが彼にそうさせるのだろう。私とてこの心地には覚えがある。クリスマスの前日のお昼のような、もどかしい気持ちだ。
「何かお祝いごと、とかかな。何かあったっけ?」
パウロたちや先生の様子を見るに、私たちに隠して準備をしているようなのだ。サプライズ的な。しかし何のものかとんと見当がつかない。この国では誕生日は祝わないようだし、新年でもない。大きな獲物を仕留めたとかじゃ隠さないだろうし、結婚記念日とかなら尚更だ。
「俺たちの何かを祝う、のかな」
私たちに隠すところを見るにそのくらいしか候補がない。では何を? というと手詰まりだ。まあ、時間が来ればわかるだろう、と練習に勤しんだ。
「ルディ、オーフェ、ご飯できたわよー」
下から呼ぶゼニスの声で私とルーデウスは階段を駆け下りた。少し段差が大きいので、一歩一歩にはなってしまうが、それでも大急ぎで降りた。
明かりの漏れるリビングの戸に手をかけて、ルーデウスと二人、目を見あう。どちらのものとも知れぬ唾を飲む音がして、ルーデウスが頷いた。子供が押すには大きくて重い扉を開けた。
「ルディっ、オーフェっ、五歳の誕生日おめでとう‼︎」
弾けんばかりの拍手とパウロの指笛が炸裂し、クラッカーでも目の前で破られたかのようだった。不快感は全くなく、呆然の暫くのちに頭が追いついて笑顔がこぼれた。
ご馳走が所狭しと並べられたいつものテーブルに、ゼニスに急かされるように座らされた。
「まず、父さんからだ」
咳払いを一つして、パウロは私とルーデウスに実剣と木刀を渡した。剣は重く、私は数歩たたらを踏んだ。
「いいか、剣士は心の中に一本の剣をーーー」
「長い」
パウロの話が長くなるのを感じとってゼニスが叩き切った。パウロは苦笑しつつ下がり、代わりにゼニスが二人の前に立つ。
「私からは、ルディに植物図鑑、オーフェに物語集よ。二人とも本が大好きだものね」
渡された分厚い本をルディも私もきつく抱きしめた。
「ありがとうございます。こういうのが欲しかったんです」
ルーデウスの声と私の声と、どちらも同時に、全く同じ文言を言ったものだから、パウロが笑ってそれから家族全員に伝染した。笑いは移るものだ。暖かな笑い声はその場をより温め、万事を期して最後に先生が二人の前に立った。
「私からは、これです」
先生から手渡されたのは小さな赤い石のついた杖。簡素な作りの質素なものだ。
「先日作成したものです。二人は最初から魔術を使っていたため失念していましたが、師匠は初級魔術が使える弟子に杖を作るものでした。申し訳ありません」
そう聞くとより手元の杖が愛おしく、輝きを持って見えた。師匠から弟子に送られるもの。私たちは師匠の、弟子なのだ。
頰が紅葉して胸が高鳴った。頑なに師匠と呼ばれることを拒んでいた先生だから。
「ありがとうございます、師匠」
ロキシーは苦々しく笑ったが、拒まなかった。
「さ、ご飯食べましょ」
冷めないうちに、とゼニスに勧められて乾杯の音頭とともに食事が開始する。ゼニスとリーリャ作のご馳走たちに舌鼓を打ち、特に先生は甘いお菓子に目を輝かせていた。
「師匠は甘いものがお好きなんですか?」
ニヨニヨとしたルディが突撃。先生はジト目のまま口を尖らせた。
「ま、魔族は全般的に甘いものが好きなんですよ」
甘味好きでもいいのに、頑なに先生は誤魔化したいらしい。余計に可愛い。
ゼニスとパウロは私とルーデウスの将来の話をして盛り上がっている。
幸せだ。
幸せな日々だ。
私はしみじみと思った。