有職転生〜頑張るのも疲れました〜   作:高橋 葵

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私オフェーリア、今魔術の練習をしているの

 

二歳になった。この世界では毎年誕生日を祝うわけではないらしく、二歳になったという自覚は薄い。でも私もルーデウスも駆け回れるようになり、口も達者になった。

 

「ルディ兄さま、どうしたの?」

 

この頃ルーデウスと私はよく二人で本を読んでいた。パウロの読み聞かせてくれた内容を思い出しながら解読して文字を習得したのだ。

頭は使っていかないと忘れるもので、お絵かきセットをもらってからは毎日、こちらの文字を描きつけたり、高校の時に習った公式や化学式を書いておいた。

頑張って覚えたのに忘れたらもったいないでしょう?

震える手で頑張っていたらルーデウスが覗き込んできて、一緒に日本語で会話をしたりした。ルーデウスはすでに高校程度の数学の公式や化学式は忘れてしまったらしい。いや、元から高校には行けていないと言っていたか。

ともあれこちらの言葉も読み書き共にオールクリア! クエスト終了! 状態なのに、はじめに読んだ魔法書をまた広げているのだ。

 

「魔法が使えるんなら試して見たいと思うのがサガじゃないか」

 

魔法。そうか、この世界では使えるのだ。それはやらねばなるまい。

 

「そうね、私もやる。ルディ兄さま、まずはどうするの」

 

ルーデウスは右手を突き出し教本を左手で抱えた。

 

「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、

 清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール」

 

拳大の水の球が現れ、ぐしゃっと潰れた。

 

「すごい! 兄さま、私もやる」

 

真似をして右手を突き出す。

 

「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、

 清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール」

 

ざわりと体を駆け巡る何かがあった。その後に熱が段々と右手に集まり、抜けた。手の先には水の球が浮いている。まるで手から出てきたようだ。

 

「わあ」

 

私が驚きの声を上げると水の球は瞬く間もなく崩れ落ちた。

 

「やっぱり集中力が切れると落ちるみたいだな」

 

「たしかに。そうみたい」

 

教本には水球が飛んでいく、とあるのだ。

 

「うーん、どうやったら飛んでいくんだろうな?」

 

「こう、ホースみたいな、水道みたいな……」

 

先ほどの手に集まった熱を思い出しながらホースから勢いよく出る水を想像した。水球だとよくわからないんだよなぁ。こう、消防車のでっかいホースなら。

 

途端私の手から太い水柱が立った。そのまま壁にあたり、流石に壁を破るということはなかったが、跳ね返りの水圧でえぐりはした。なのに水は止まらない。

 

「オーフェ! 止めるんだっ。顔色が」

 

体が寒くて寒くてたまらない。恐怖とは別に奥歯がガタガタと言っている。おそらく真っ青なのだろう。唇も色を失っていると思われる。水道を止めるみたいに、止めなくては。止めるのだ。

左手で右手を抑えて、固く目を閉じた。

 

「とまれぇぇえええええ」

 

 

私は気を失った。

 

 

 

何があったのだと問いただすパウロにルーデウスは必死でとりなしたらしい。

次の日目覚めて大変だったんだぞ、とため息をつくルーデウスから聞いた。パウロは烈火のごとく怒って取りつく島もなく、ルーデウスは本当に苦労したようだ。パウロには今度、ルーデウスを叱りすぎないでってお願いしないとな。上目遣いプラス潤目で。

 

本の内容から察するに、どうにも私は魔力切れを起こしたようだ。

 

「それにしても、あれは無詠唱だったよな」

 

ただ今二人で本日の書斎タイムである。教本には何度も確認するように、魔法を使うには詠唱が不可欠である、と書いてある。詠唱を省略する方法は書いていない。

 

「細かくイメージしたらできた」

 

「イメージ…………」

 

ふむ、と顎に手を当てて熟考するルーデウス。目を閉じ、もう片方の手は人差し指を立てて。ややあって、ルーデウスの指先の空気が少し揺らいだかと思うと拳大の水球が出現した。

そして人差し指をちょいちょいと振ればそれに合わせて水球も動く。そのままバケツまでルーデウスは運んだ。

 

「…………なるほど」

 

「兄さま、すごい!」

 

私は飛びつき抱きついた。子供特有のふかふかとした体系は抱き心地が良い。ハグにはストレス解消効果があるというが、高い体温も相まって大人同士のハグよりストレス解消度倍増だ。

 

「ほら、オーフェもやってみなよ」

 

らじゃ。

目を閉じて指先に集中して……。

 

熱が放出されたと思うと水球が浮いていて、それは指を動かせば自在に動いた。スマホのスワイプみたいだな。じゃあズームにしたら大きくなる? ……てことはないか。じゃあ形は? これって、形も変えられるのかな? 真ん中の部分をつまむように想像すると、水球は餅のように伸びた後真ん中でぷちりと切れ小さな二つの水球になった。

 

「えっ、どうやったんだそれ!」

 

ルーデウスの驚く声を無視して片方の水球をバケツに移動させ、片方の水球を花火のように破裂させた。

爆ぜた水が雨のように降り注ぎ霧散した。

 

「うわぁ、凄いな。やり方を…………て、ひどい顔色」

 

昨日ほどじゃない。ちょっと倦怠感があるだけだ。

 

「大丈夫だよ。えっとね、こう、画面をスワイプするみたいに……」

 

もう一つ水球を出した途端、ふっと意識が消えた。倒れた床に水が降ってきて濡れた。

 




次回はリーリャ視点っぽい三人称になります。
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