神山思いつき集   作:神山

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ここは原作十年前です。兵部さんが捕まって少しといったところだと思って下さい。


AMON2

まず初めに兵部京介が感じたのは、強力な力の奔流と強い絶望だった。

 

彼はパンドラという「普通(ノーマル)を滅ぼし、その支配からエスパーを解放してエスパーだけの世界を作る」ことを理念とする革命組織のリーダーを務めており、とあることからエスパー犯罪史上最悪の人物として、厳重なセキュリティの元で管理されている。普通のエスパーならば絶対に脱出できない特殊牢だ。

 

内務省特務機関超能力支援研究局、通称バベルの特殊牢にいた兵部でさえ感じたこの大きさ。おそらくは世界中のエスパーが感じ取ったであろうこの力に、バベル内部は非常に騒がしくなった。ECM(超能力対抗装置)の作動した全面ガラス張りの牢で聞こえてくる話によると、高レベルの予知能力者(プレコグ)接触感応能力者(サイコメトラー)が何人か叫びながら倒れたそうだ。症状を聞く限り、現役復帰はしばらくかかるだろう。

 

「これは中々……よし、えーと、桐壷クンへ――――」

 

兵部はにたりと笑うと、書置きを残して現場に向かうことにした。現世界最高の対エスパー牢だとしても、この兵部京介という男には全く関係ない。それだけの力を有している男なのだ。内心この何の前触れも予知も無かった事態に少し動揺を隠せないが、それでもこれだけの力を持つ新たな同胞の誕生だ。仲間に入れることが出来たとすれば、これから先の『彼女達』のために存分に活躍してくれることだろう。

 

移動の途中で他所で活動させていた部下であり家族の真木司郎・加納紅葉・藤浦葉の幹部格三名をを呼び戻し、紅葉のテレポートで移動してきたのを確認してから現場に向かう。道中で現場について詳しく聞いたが、どうも下っ端の暴走も原因の一つのようだ。組織という体系である以上、下っ端の暴走や事故などはどうしてもあることだ。これからはこんなことが無いようにしないといけない、などと考えながらも先を急ぐ。おそらく彼女が来るまでに少しばかり時間があるはずだ。それまでに決着をつける。

 

「っ……!血の臭い……!」

 

「それも強烈だな……確実に潰れているぞ」

 

「これ、やばいんじゃね?」

 

近づくほどに増す力の大きさと、血の匂い。どうやら倉庫のようで、この最奥に原因がいるようだ。兵部は全員で行くと警戒心を強めるだけだとして、最初は自分だけで話に向かうことにした。真木達は終始渋っていたが、彼にそうそう何かあるわけもないとして、何かあればすぐに動ける体勢で待機することになった。

 

中に入った兵部はすぐに原因の元にテレポートする。座標も計算済みで、寸分の狂いもなく後ろに到着出来るはずだった。しかし、普通のエスパーならばほとんど気にしないほどの些細なズレ。普段の彼ならば絶対にありえない誤差が発生した。彼だからこそわかったズレだ。そのことに違和感を感じるが、今は目の前の事に集中すべきだとして問題を見送った。

 

「やぁ、また随分と派手に暴れたね」

 

兵部の目の前に血だらけで佇むのは、全身真っ黒な少年だった。服も、目も、髪も黒。これだけの事をしでかしたにも関わらず、表情を一切変えないその姿にも普通ならば恐怖を覚えるだろう。だが、兵部でさえ軽く鳥肌になるほどの覇気と抑えきれていないカリスマ。それらが合わさり、血の滴る黒髪を撫でて血を舐めるその姿はとてもエロティックであり、ただ佇んでいるだけでも、その立ち姿は美しかった。周りに飛び散る肉塊ですらその背景として作用している。題名をつけるならば、悪魔の誘惑だろうか。

 

「今回の事、君にはすまないことをしたと思っているよ。きっかけは反エスパー組織『普通の人々』だとしても、結果的には僕の組織の下っ端も加担しているわけだしね……とはいえ、いきなり言ってもわからないか。順を追って説明しよう。僕は兵部京介。君を仲間(家族)にしにきた」

 

それから順を追って説明される今回の事件の顛末。兵部自身聞いただけなので実際の詳細は変わるかもしれないが、概ね正解だ。お互いの自己紹介の時に彼、不動アキラの歳も判明した。本来彼のような少年に話したとしても意味がないし、分からないだろうが、兵部は彼がすべて理解していると確信していた。そしてそのことを謝罪するとともに、彼に自分達の組織の行動理念を話す。おそらく彼には嘘が効かないだろうから。

 

「――――というわけさ。君にとっては色々複雑かもしれないけど、未来を僕達エスパーの物にしようじゃないか。エスパーの楽園、こんなことはもう起きることのない平和な世界だ……どうだい?」

 

「……」

 

右手を彼に向け、笑みを浮かべながら様子を伺う兵部。血で濡れた前髪のせいで表情は伺えないが、それでもこちらを向いて彼は歩いてきた。一歩一歩ゆっくりと進んでくる姿に兵部は笑みを深めた。

 

だが、次の瞬間その笑みは崩れ去ることになる。彼が口が裂けんばかりの獰猛な笑みを浮かべていることに気付いたからだ。

 

「っ!?」

 

「――――断る」

 

そう言うと同時に振りぬかれる拳を体を反らすことで辛うじて避けた兵部。そうして一気に距離をとるが、自慢の学生服の胸元が裂けていることに気付き、冷や汗を流す。外した拳の先を見れば、轟音をたてて倉庫の壁を壊していた。

 

「いきなり随分なご挨拶だね?これが君の返答と見ていいかい?」

 

「仮にも俺の両親を殺した組織が勧誘してきておめおめ着いて行く馬鹿がどこにいる。それに両親は死に際でさえも人を守れと、愛せと言った。全てではなく、守るべき人間を。2人の息子であるこの俺が、その逆の行動をするわけにはいかんだろう?」

 

淡々と、だがどこか可笑しそうに言う彼の姿に兵部は過去の出来事を思い出し、苛立ちを顔に見せた。彼が言っているのは、全てではないにしろノーマルもエスパーも同等に守るということだ。これはパンドラの理念とも違うし、このままではいずれ彼も裏切られるかもしれない。かつての自分と同じように。

 

「少佐!」

 

「大丈夫!?」

 

「おわっ!すっげえことになってるし!」

 

アキラが拳を壁の残骸から引き抜くと同時に外で待機していた三人がテレポートで中に入ってくる。そして中の惨状を確認した後、アキラに向けて戦闘態勢をとった。すでに子供だからといって気を抜くつもりはない。あの兵部の学ランに避けられたとはいえ一撃当てているのだ。普通ならばかすりもしないだろう事を成し遂げたアキラに、三人は油断するつもりはない。

 

「増援か。子供相手に四対一とは、大人げないな?兵部少佐殿?」

 

「君の力は侮れないからね。それに、僕自身そんなに時間ないし」

 

「そうか。ならさっさと終わらせるために、力を少し見せてやろう」

 

そう言って身構えるのを無視し、アキラは背を丸め、腕を胸の前でクロスさせながらぐぐぐっと力を込めていく。するとざわざわと波立つようにして変化していくアキラの身体。骨もボキボキと音をたてて伸び、体格ごと変化する。さらに体中に赤黒い体毛が生え、盛り上がった筋肉を覆っていく。それは顔にまで周り、先程までの人間の顔ではなく、完全に悪魔の顔に変化した。

 

このメタモルフォーゼに兵部達は驚くも、少し警戒のレベルを下げた。というのも、現在アキラのようにメタモルフォーゼを行う能力者は数多く確認されているが、基本的に弱いのだ。見た目も複雑に絡み合った能力のせいか醜悪で、能力を最初からうまく制御できていない。それか、不完全な複合能力のせいで力がうまく発揮できないケースが多い。

 

アキラがこれに当てはまるかどうかは定かではないが、先程の力を見た後だというのに少しばかり気を抜いた。抜いてしまった。デーモン族最強の勇者・アモンを前にして。

 

「ヌゥアアァァァァッ!」

 

「っ!」

 

「嘘でしょ!?」

 

雄叫びと共に放たれた拳による一撃。咄嗟に反応した兵部と紅葉は瞬時に倉庫外へとテレポートする。そしてその光景に唖然とした。

 

「おいおい、ただ殴っただけだぞ……」

 

「こりゃ、ちょっと不味いかもね」

 

先程のアキラ……いや、アモンの攻撃には多大なサイコキネシスが込められており、最初の一撃よりも強力な力が込められていた。ましてやアモンへとメタモルフォーゼした後の攻撃である。その一発で倉庫及びその前の敷地は災害でも起こったかのように壊滅していた。

 

これに驚いたのは兵部たちだ。安定して使えないと思っていた能力と肉体を完璧に、いやそれ以上の力でもって仕えている。使いこなしている。先程回避できたのはアモンが超能力を使ったからであり、そうでなければ確実に当たっていた。変身前でさえ兵部に攻撃が当たり服を斬り裂くほどなのだ。変身後に当たればどうなるか、考えたくもない。

 

かつてこれほどまでの変異型がいただろうか。否!いるわけがない!彼こそが最強!彼こそが勇者!彼こそが不動アキラ!そして彼こそがアモンである!

 

「ふん、避けたか。まだまだイメージとの齟齬があるということだな」

 

掌を開け閉めしながら悠々と倉庫だった場所から出てくるアモン。そして空に浮かぶパンドラ一同を見つけると、にやりと笑い手をこまねいて挑発した。

 

「ちっ!このっ!」

 

「おれだって!」

 

「馬鹿、二人とも行くな!」

 

それに乗せられたのは未だ若い真木と葉である。二人は兵部の制止も聞かず、アモンに向かってそれぞれの能力で攻撃を開始した。

 

真木の能力は合成能力である炭素操作である。炭素を自在に操り、翼を作ったりそれ自体を攻撃の手段として使用できる。そして葉は念動力ベースの合成能力者であり、振動波を操る。未だ十歳と幼いために度々暴走し、うまく操れていないが、それ自体は非常に強力な能力であった。

 

各々がそれぞれの攻撃を加えていく中、アモンは腕を交差し、それに耐えていた。体の至る所に炭素の針が刺さり、衝撃波によって脳をと身体を揺さぶられる。一般のエスパーならば確実に耐えることが出来ない攻撃を、アモンは眉ひとつ動かさずに堪えていた。否、分析をしていたのだ。

 

超能力一つ言ってもその分類は大きく分かれる。真木達のように合成能力もあれば純粋特化したものもある。おそらく紅葉や兵部もテレポートだけでなく他の力も使えるのだろうと思考し、様子を見ていたが彼らが攻撃する様子はない。

 

そして実際は見逃すつもりであるが、アモンとしては初めて見る超能力をもっと見てみたかった。自分の力がどこまで通じるかも確認したい。ならば、この二人を倒せば?

 

「ぬぅん!」

 

「なにっ!?」

 

結論に達したアモンは真木の炭素と葉の衝撃波を一気に振り払い、体から流れる血もものともせずに翼を広げて飛びあがった。その間にも体の超回復は行われ、すぐに出血は収まった。

 

「なめるなよカス共ォッ!」

 

「うわあ!?」

 

「くっ!」

 

アモンは蝙蝠の翼をはためかせ、真木達へと急接近する。翼に驚いていた二人はそれをぎりぎりで避けるも、アモンの鋼鉄さえ斬り裂くその翼によって真木の炭素製の翼は片翼断ち切られてしまう。すぐに再生したものの、アモンがまずターゲットする相手を選んだのは明白だった。

 

「まずはお前からだ。落ちろ!」

 

「まずっ!?ぐあっ!!」

 

「真木ちゃん!」

 

アモンがバチバチと音をたてる手を高々と上げ、振り下ろすと真木に向かって様々な方向から電撃が襲ってくる。サイコキネシスの波形を変化させて使用する技であり、普通ならばサイコキノでその方面に特化した者でなければ使えないはずのもの。それをいとも容易く使いこなしている。

 

真木も避けるが、あらゆる方面から繰り出される電撃にとうとう避けられずに落ちてしまった。なんとか紅葉が回収するも、すでに気絶している。真木の使用している炭素は電気を通しやすいものなのだ。ゆえにそれが弱点と化している。

 

「よくも!」

 

「おっと、今度はお前かチビすけ」

 

「お前もそう変わんないだろ!むしろ年下のくせに!」

 

真木を落とされたことで激昂した葉の衝撃波がアモンを襲うも、アモンは涼しい顔でそれを受け止める。ダメージを負うどころか身体を回し、マッサージか何かを受けているかのような小馬鹿にした態度をとっているためさらに葉の機嫌は悪くなった。

 

「まぁ、このくらいか。チビにしては頑張ったほうかもな」

 

「だからお前だって変わんないだろ馬鹿!」

 

「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ馬鹿」

 

「なっ!馬鹿って言ったな!お前の方が馬鹿だよ馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」

 

さらりと言い返したアモンにやけになって言い返す葉。同時に衝撃波を飛ばしているのだから半ば暴走しているとも言えるだろう。若干涙目なのはこの際気にしない。

 

「よし、マッサージも十分だ……本物の振動波を見せてやろう」

 

「――――鹿馬鹿馬鹿馬鹿……へ?」

 

「まずい!葉!」

 

大きく息を吸ったアモンに危険を察知した兵部が咄嗟に葉の前に出る。そして強力な防御壁ともいえるサイコキネシスを展開した直後、莫大な力の奔流が二人を襲った。

 

「超振動波ァ!」

 

「うぐっ!くそ!」

 

「うわあぁぁぁ!」

 

アモンの口から放たれる渦状の振動波は辺りの空気を揺らしながら真っ直ぐに兵部達へと向かっていき、直撃した。それは凄まじい威力を持ち、兵部でさえギリギリの所で耐えていた。

 

衝撃で辺りの岩盤は崩れ、コンクリートが砕けて浮遊し、近くの海が大きな波を作る。さらに方向性を持たされたその力は兵部の後ろに行っても続き、空を覆っていた雲を一気に吹き飛ばした。もし二人がアモンより下におり、ここが町の近くであったならばどれだけの被害が出ていたか。

 

「ふー……なんとか耐えられたかな」

 

「うぁ……ぁ」

 

兵部は冷や汗をかき、葉は自分と同系統でありながらけた違いの力を見た事で恐慌状態に陥っている。そして紅葉は気絶した真木を余波から庇って疲れ切っているし、真木の起きる気配はゼロだ。それに時間もない。そろそろ彼女が来る時間だと兵部は判断した。

 

と、どうやって撤退しようか考えていると、アモンがどんどんと下に降りていくではないか。

 

「どうしたんだい?僕たちを殺すつもりだったんだろう?」

 

「それもいいだろうが、もう良い」

 

「というと?」

 

「見逃してやると言っている」

 

アモンは兵部の方を向き、にやりと笑うと翼を残してアキラへと戻った。完全に制御しているさまを改めて見せつけられた兵部は、今回の戦闘は彼にとって肩慣らしに過ぎなかったことを実感させられた。

 

「それはまたどうして?」

 

「気まぐれだと言っても信じまい……まぁ、あんたは危険を顧みずに俺に真相を教えてくれた。隠すことも出来たはずなのにな。それの礼だ」

 

「だったら最初から戦わなくてもよかったじゃないか」

 

「アンタの組織が両親を殺した片棒を担いでいるってことはアンタの管理不足が原因だろう?直接の原因でないにしろ、な。あとは八つ当たりと力の確認だ」

 

「はぁ……まぁいいさ。いずれ君がこちらに来てくれることを祈っているよ。最悪、敵にならないならそれでいい」

 

「ふん、またな」

 

完全に地上に降りたアキラは振り返ることなく倉庫に消えていく。それを見送った兵部は震えている葉を抱きしめ、紅葉達を迎えに行った。

 

(後片付けよろしくね、バベルの皆さん)

 

この時バベル局長と財務担当者がぶるりと震えたとかなんとか。




戦闘回、うまく書けてるでしょうか。

まだ真木ちゃんも葉も若いので、喧嘩早くしました。まぁさっさと戦って欲しかっただけですけど。

次回バベル視点。
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