リミッターを渡されてから一年。アキラ達デビルマンは徐々に世界に認知され始めた。学校の製作を始め、数々の難題を伴ってきたがそれが徐々に結びつき始めたのだ。今では国連にも認められ、任務や予知に限り各国を移動する権利を得た。あとはデビルマンの保護を行うためならば事前の連絡があれば十分になる。
もちろんその代償も大きい。各国の任務をこなさなければならないし、普通なら危険な任務もアキラやアキラの認めたデビルマンには回ってくる。そしてそれと共に一般人にアキラが認知され始めたことで状況は好転した。
アキラがダークヒーローとして人気を得始めたのだ。元はアキラが助けた漫画家達が原因である。彼らは昔から青年誌を書いていたのだが、そのネタを探している途中で事故が発生。そこをアキラに助けられた。さらに運悪く……いや、彼にとっては運よく人食いのデビルマンとの戦闘に陥った。その戦闘の苛烈さは言うに及ばず、同時に彼を魅了した。レベル7の存在とデビルマンの事は知っていたが、ここまでとは。そして彼らは人々に邪険に扱われつつも人を助けている。
何故かと、彼はアキラに問うた。そうして威風堂々と返ってきた言葉は彼の心を貫いた。他にも多くの事を喋っているが、これが一番彼の心に残っている。
「人間を、愛しているからだ」
驚くほど単純で、それでいて難しい。そして、その姿はとても雄々しく美しかった。
彼は帰宅後すぐに知り合いの漫画家とアシスタントを呼び寄せ、作品を一気に仕上げることになる。その鬼気迫る姿にアシスタントたちは気圧されるほどだった。そして彼は後にこう言う。私は悪魔に魅入られたのだ、と。
そうして完成した作品を許可を得るためにバベルに報告したところ、局長と不二子が絶賛。さらにデビルマン達もアキラが題材ということもあって次々に自分達のエピソードと能力を紹介していくものだから止まらない。アキラが海外に任務に行っている間に着々と計画は進行した。不二子の悪乗りも加速の原因である。
結果として、それは爆発的ヒットを迎えた。人々の感情を揺さぶるような物語に、根底にある愛を終始一貫して描き続けたそれは大人から子供まで広く知られるようになる。ここまでがリミッターを付ける一年前の話。
そしてさらに一年経った現在。原作は大人向けだったものが子供向けに脚色され、低年齢層にもヒーローとして認知され始める。さらにコメリカ合衆国ではアキラが頻繁に訪れていたこともあってその姿を知る人は多かった。そこに向けて漫画化・アニメ化である。コメコミ化(アメコミ)もされた。フィギアも出て、もはや国民的ヒーローの体を獲得しつつある。バベルとしても副次収入が増えたと喜んでいた。
が、これらは全てアキラに無断である。日本に帰国した時にやけに視線を感じ、時にはサインをねだられたので不思議に思っていたアキラはジェニーから全てを聞かされ、局長と不二子を吊るしたのは言うまでもない。
「朧さん、あなたが居ながら……」
「ご、ごめんねアキラ君。どうしても止められなくって……管理官が」
「あぁ、姉さんか……じゃあしょうがない」
「なによそれ!私が全部悪いみたいじゃない!」
しかしデビルマンに対するイメージが少し和らいだのはいいことだった。自分の今までの行いが少しでも報われているのなら、自分がさらし者になるくらいどうということはない。それに日本の産業が活気づくのはいいことだ。などと無理矢理自己完結させていくアキラ。そうでもしないとやってられなかった。
「お、おこづかいもでるヨー!」
「そんなこと言ってるから孫にたかられるんだぞ局長」
「ファッ!?なぜそれを!?」
桐壷帝三46歳。19で結婚し子供も18で子供を産んだため、現在アキラの一つ下の孫がいる。まだ小学生にも関わらず、自分に甘くなんでも買ってくれることを理解してたかることを覚え始めた。が、ほぼ同い年ということで面識のあるアキラに拳骨で修正されて以来大人しく成長している。局長のあずかり知らぬところでお兄ちゃんと呼ばれ、満更でもないアキラを見てジェニーと朧が悶絶していたのは余談だろう。
「デビルマンの地位向上よ?いいじゃないカッコいいし」
「いきなりサインをねだられた俺の身にもなってくれ。何かの幻覚かと思ったぞ」
「ファンが増えるっていいことよネ!」
「……」
「あ、ちょっ、ごめん!ごめんなさい!少しずつ締め付けないで!」
いい笑顔を浮かべる不二子に容赦なく制裁を加えるアキラ。ある程度で満足したのかため息をついて馴れた手つきで不二子を降ろし、頭を押さえる不二子の痛みを能力で取り除く。不二子はすぐさまアキラを抱きしめた。
「やっぱりわたくしの定位置はここよね~。落ち着くわぁ」
「……頭の上が重い」
「もうっ!本当は嬉しいくせに!でーも、みんなの前でお触りは、ダ・メ・だ・ぞ・?」
「……」
ウゼェ。このババア若返ってから果てしなくウゼェ。
そんなことを考えながらも、アキラは不二子に愛されていることを確かに感じていた。若干鬱陶しいこともあるが、自分達を愛してくれているのだけは十分に伝わっている。アモンとして活動していく中でだんだんと口調が荒っぽくなったアキラだが、その内面は変わらないのだ。
決して彼女に甘いわけではない。夜に寝床に引きずり込まれて喰われたからでは断じてない。
(甘いなアキラ君は)
(管理官との交流は、傍から見てれば本当に姉弟ね)
(まぁ喰われちゃってますけどね)
ぶすっとした顔をしながらも不二子を拒まないアキラにさらに気をよくした不二子は、そのままキスして細胞をリセット。アキラも慣れたもので、特に拒みもしない。唖然とする朧に説明するジェニー。もはやこの面子では丁度毎回いなかった朧を除いて見慣れた光景である。
アキラが不二子に最初に血を与えたあの日。別れ際のキスで細胞の情報をコピーした不二子は、自身の細胞が急激に活性化していることに気が付いた。血の効力と相まって、アキラの見立てよりも若々しい身体を手に入れたのだ。デビルマンであるアキラの細胞を完全にはコピーできてはいないが、無意識化で人間用に変換した不二子の細胞は人間としては最高峰であると言っていい。
しかし、その分他の人間でスキャンをかけることが難しくなった。アキラの超細胞をコピーしてしまった不二子は、その活性化の代償として他の人間の細胞では自分を弱体化してしまう欠点を得てしまった。若さを保つことは出来るものの、アキラと比べてみると明らかに劣るのだ。それがわかってからはより頻繁にアキラを求めるようになったのは言うまでもない。最も、分かる前と大して差はないのだが。
「あ、そうそう。今日呼んだのはちゅーしたかったのもあるけど、しばらくまた冬眠するからそろそろ補給が必要かなって思ってね」
「……もうそんな時期か。局長、また二三日籠る」
「了解だヨ。その間の任務はどうするかね?」
「そうだな……基本的な采配はジェニーに任せる。指揮はシレーヌ、ザンのいつものでいいとして……あとはパリィを連れてけ」
「パリィも使うので?」
「まだ粗削りだが、ヤツにとって良い具合の憂さ晴らしになるだろうさ。この間、ヒーローの俺には歯ごたえが無いとかほざいていたからな。馬鹿は一度死にかけたほうが良い」
「フフフ、かしこまりました。では一層厳しい物を当てましょう」
「死なせないように頼むヨー!」
シレーヌ、ザン、パリィ。どれも原作デビルマンに出てきたキャラクターである。アキラは彼らを手中に収めることに成功していた。彼らの他にも原作キャラクターの勧誘には成功しているものの、ビッグネームはこの三人だろう。どれも簡単な道のりではなかったが、実力・カリスマ・意志の強さ……それらを見せつけ、彼らはアキラと共に在ることを認めたのだった。特にシレーヌとザンにアキラとの優劣はなく、形式上アキラをトップとしているが、良き友として互いを認め合った。その過程で激闘を繰り広げたのは言うまでもない。
本来であれば敵同士だった彼等も、この世界においては社会的弱者と同類に見られる。しかし彼らが弱いということは決してない。最初は力の制御がうまくできていなかったとはいえ、現在ではアモンと激闘を繰り広げられる程である。だが、どうしてもデビルマンとしての見た目と社会の認識が付いて回る。そんな彼らにとってアモンは一種の希望でもあった。同族を守ることにも繋がるとあって、力を貸してくれているのだ。もしもアモン、いや不動アキラが道を違えることがあれば、彼らは自らと率いる軍勢をもってしてアキラを殺しにかかるだろう。自らを拾い鍛え上げてくれた恩はあれど、友としてそれを果たしに来る。だがそうでないのならば、アキラを守り、アキラと共に在る最高の仲間達である。
ジェニーはすぐさま携帯で連絡を取り、アキラはその返信を確認すると不二子と共に奥へと去っていった。