真・女神転生Ⅳ~選択者~
辺りに広がる木々の間を駆け抜け、目の前の敵に剣を振るう。上へ、下へ、はたまた左右へ。時折フェイントをかけながら行われるそれに型というものはなく、しかし確かな実用性を兼ね備えていた。見る者が見れば、強者であることがすぐにわかる剣だ。
だが敵もやられっぱなしではない。彼の剣を避け、弾き、時折反撃も加えてくる。それはどれも彼の攻撃よりも大きく力強さに溢れていた。その手や武器を使った攻撃はどれも強力で、敵がどれだけ強大な存在であるかを如実に語っていた。
そんな物理攻撃に加え、範囲の広い万能魔法と雷魔法、銃撃スキルを組み合わせて発動された攻撃は、普通の人間ならばたやすく呑み込んで魂から消滅させることだろう。しかし彼はそれを気合と共に真正面から斬り裂き、敵を動揺させた。彼であるからこそ出来る芸当。どのような逆境であっても乗り越えてきた彼だからこそ、常に自分の進む道を心に決めていた彼だからこその一撃。そしてそのまま己の持てるすべての力でもって敵の喉元に剣を――――
「フリン!」
スッ、と振りぬかれた木刀が目の前にある木を根元から斬り倒す。めきめきと音をたてながら倒れていく木を見ながら、彼はまたやってしまったとそれを呆然と眺めていた。
彼――フリン――は木刀を振りぬいたままの姿で固まっており、もしも先程のイメージトレーニングの中の敵が目の前にいたなら一撃でやられていたことだろう。しかしそれも無理からぬこと。この後に起こるであろう身内からのお説教を考えれば固まってしまうのも仕方のないことなのだ。
「あーあ、まーたやっちまってる。これで何本目だ?まぁ俺としちゃ薪も出来るし、売れるからいいけどさ」
「……悪い」
「俺に謝っても仕方ないって。後でおばさんに存分に叱られるがいいさ」
思わずがくりと落とした肩を叩くのは先程声をかけた青年イサカル。彼はフリンの幼馴染であり自称兄貴分。面倒見が良く少々夢見がちなどこにでもいる青年である。ぼさぼさの髪を後ろで結い、パイナップルのような状態になっている髪が特徴的だ。
「しかし、相変わらず見事なもんだな。木刀で木を真っ二つにするなんてよ。俺と同じくサムライになるための鍛錬とはいえ、俺はこんなことできないからなぁ。自信無くすよ」
「イサカルだっていい筋してる。俺がおかしいだけ」
「自分で言うか?まったく、同じカジュアリティーズだってのに、御伽噺のサムライも顔負けな力しやがって!かっこいいじゃないの!」
うりうりと頭を小突いてくるイサカルにフリンは苦笑しながら、心の中で感謝していた。
同じ人間としてここまでの力を持っている自分に変わらず接してくれ、褒めてくれるのは彼も含めて一握りの者だけだ。正直化け物と言われてもおかしくないだけの力を持っていると自覚しているフリンは、隠れてやる鍛錬以外では極力力を出さないようにしている。今現在バレているのは家族とイサカル、村長だけだ。
しかし他の皆にバレることがあれば、おそらく家族ともども酷い目に合うだろう。この閉鎖的で変化を望まない世界では、自分のような存在は疎まれやすい。それでも愛してくれる人達がいることは、フリンの大きな心の支えになっていた。
「ほら、早く帰るぞ。木は後からでも持ってこれるし、お前が引っ張ればすぐだろう?今はとりあえずおばさんに頭下げにいかないと」
イサカルが小突くのをやめ、前を進むのを見ながらフリンは後片付けを始める。片づけと言っても木刀を腰に収め、持ってきていたタオルで汗をぬぐう程度であるが。
そしてふと空を見上げ、思う。
(あれからもう10年以上か)
少し離れたイサカルに置いていかれない程度の歩幅で進みながら、フリンは過去を振り返った。
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フリンには3つの記憶がある。
一つは力でもって全てを制した自分の記憶。悪魔王とともに国を、世界を乗っ取り、力ある者が望むだけ変えられる世界を作った。その道程にある障害は全て実力で排除し、弱かったことが悪いと断じた。友も民も天使も全て斬り倒し、王となって残る神との戦いに向けて悪魔王と共に力を付けていた。そして最後は人間の反逆と裏切りに合い、あっけなく死んだ。
二つ目は秩序と平等を願った自分の記憶。今日の安寧が明日も続くようにと、天使達とともに神の僕である光の戦士として行動した。自国である東のミカド国の民の安寧を願い、それに逆らう人間や悪魔を残らず断罪していった。様々な出会いと旅をした東京をケガレとし、神と民のためにと虐殺した。すべては東のミカド国のため。そして神の戦車が有無を言わさず起動した全てを飲み込む大アバドンによって、神の殉教者として救世主になってしまった。
そして最後の記憶。これはこの二つの記憶をゲームとして眺めていた自分の記憶。大好きなシリーズのゲーム最新作が発売し、自分にそっくりな主人公に愛着を持っていた。攻略には手を付けず、自分の力で二つのルートをクリアしてどれもしっくり来ず、次に向かおうとしたところで記憶が途切れている。最後の記憶は、スーツを着た金髪の外国人の青年が微笑んでいたことか。
彼が何者なのかはわからない。だが、可能性のすべてを束ねたと言っていた。気に入らないのなら変えて見せろと。あとなぜここの自分はこうなってしまったのかとかブツブツ言っていたが、そんなことはどうでもいい。今の自分は可能性の中の自分ではない新たな
あの時、本当に二択しかなかったのか。どちらも世界を壊す選択肢であり、人間の尊厳を根底から否定するものだ。二つの両極を傍観していたからこそわかる。他に選択肢があったはずだと。東京も、東のミカド国も、悪魔達も、全てを遍く助けることが出来たのではないかと。彼女を、殺すことは無かったのではないかと。
その道程ではおそらく多くの命を奪うことになるだろう。互いの道を否定するならば、ぶつかり合うのは記憶から見ても必定である。だが、迷うつもりはない。自ら選びとった道を自らの意志で貫き通す。これはどの記憶の自分でも成し遂げていたことだ。
幸い、まだ時間はある。かつての自分たちの能力を引き継いでいるらしいこの身体の力はそれは素晴らしいものだ。記憶の中の経験もあるためか、スムーズに動けるし、この通り木刀であっても木を軽く真っ二つに出来るだけの技量もある。流石にスキルの引き継ぎは無かったものの、それを除いてもなお余りある能力だとフリンは感じていた。今までの自分がただ過ごしていただけの時間も鍛錬に充て、記憶と肉体の齟齬を修正している。今ではだいぶ落ち着いてきたが、実戦経験が足りないためにあと一歩足りない。
実はこっそり悪魔退治も経験しているのだが、それも数度。下級悪魔と中級に入るか入らないかの存在だけだ。しかも相手は人間の子供だからとなめてかかってくるのだからそこまで苦労しなかった記憶がある。苦戦はしなかったものの、ガントレットの補助AIたるバロウズがいかに優秀だったかを思い知る結果になった。
だからこそフリンは今自分を鍛え上げている。記憶の中の強敵を思い返し、誰もいないキチジョージの森でひっそりと鍛錬を続けていた。もちろん両親と村長は知っていて、サムライになるというどこの子供も一度は夢見るだからと、18までは続けてもいいとされた。普段はわがままを言わないフリンの唯一のわがままだったことも両親からすればうれしかったのだろう。もちろん労働階級であるカジュアリティーズとして家事手伝いもしなくてはならないが。
そうして過ごしていくこと10年以上。毎日の鍛錬によって今のフリンはかつての自分を凌駕しつつあると自負している。あとはかつての仲魔達と共にあの東京での旅やサムライとしての鍛錬をすることが出来れば――――
「ちょっとフリン!聞いてるの!?あなたって子は、一度やり始めるとすぐ周りが見えなくなるんだから!森の木を何本倒せば気が済むの!森を丸裸にする気!?」
「……ごめんなさい」
――――良いのだが、とりあえずは目の前でお冠である母親の相手をしなくてはいけない。フリンは家の前で正座して誠心誠意頭を下げ続けた。
将来の救世主、混沌王になりうる器である彼のこの姿を見れば、あの天使達や悪魔王はなんて言うのだろうか。などと現実逃避をしながら、フリンは目下最大級の敵である足のしびれと戦うことになった。
全てはハゲルシファーを嫌がった上位世界のイケメン閣下による陰謀なのだっ!
はい、ニュートラルルート一直線なのがもろ分かりの作品ですよね。
フリンは能力値400近辺だと思って下されば。魔型のロウと力型のカオスが合わさって万能主人公になりました。だしたい仲魔募集中。