三十回ガチャ引いたんですけど、十連目で茨木童子(水着)を二体引いて、二十連目で源義経(水着)とベオウルフ(ピックアップ関係なし)を引いて、そして三十連目にジャンヌ(水着)を引くことができました。
超ラッキーでめっちゃうれしかった。
さて、無事にクラス全員の自己紹介が終わってだるい一時間目を何とか寝ずに乗り切って、今は休み時間なわけだけど、やっぱこの時間は友達作りに励むべきかな~。
だってせっかく男子は二人しかいないって状況なんだから、この状況を利用して女の子と友達にならない手はないよね!
「なあ、二人目の男性操縦者ってのはお前か?」
おっと、女の子と友達になりたいと思った矢先に野郎が話しかけてくるとは、これは下心満載で女子に話しかけようとした俺への罰か何かかな?
まあいいや!話しかけられたらちゃんと返事しないとね!
『そうだよ』『ていうかIS操縦者でもないのにここにいるわけないだろ』『まさか君の目には僕が男装の麗人にでも見えたのかい?』
「いや、そういうわけじゃないけど……。でもお前、女みたいにガリガリだな。ちゃんと飯食ってるのか?」
ブワッ
「えっ!?泣いた!?しかも血涙!!」
『ごめんね』『僕のことを心配してくれる人なんて今までいなかったから』『感極まって泣いちゃって』『うう……ぐすっ』
「飯食ってるか心配しただけで泣くって、今までのお前の人生には何があったんだよ……」
少なくとも、君のような
『それで』『どんな用があってこれから友達作りに励もうとした僕に声をかけたんだい?』『どうせくだらないことだろうけど』
「いや、くだらなくねえよ。ただ、二人しかいない男同士、これから仲良くやっていきたいって思って声をかけたんだ」
『え!?』『男同士仲良く!?』『もしかして君はホモなのかい?』『ごめんね』『僕にそっちの趣味はないんだ』『君とは仲良くできそうにないぜ』
「ちげえよ!俺にもそんな趣味はねえよ!」
うん知ってる。でも、そっちの趣味があることに期待した女子生徒が何人かいるみたいなんだよねえ。顔を赤らめながらこっちを見ている人がちらほら。どうやら頭に腐が付く女子のようだ。
「織斑君と球磨川君、どっちが受けでどっちが攻めか……」
「織斑君が攻めよ。引き締まった体格の織斑君が
「だけど球磨川君って絶対ドSでしょ?だったら球磨川君が攻めってシチュエーションも捨てがたいわ」
……これ以上不愉快な妄想をされる前に会話の流れを変えよう。
『あっはっは』『冗談だよ』
「やめてくれ。かなり笑えねえぞそれ」
『そうかい?』『僕は面白かったけど』『まあいいや』『これから仲良くやっていこう』『自己紹介の時にも言ったけど』『僕の名前は球磨川雪』『よろしくね!』
「俺の名前は織斑一夏だ。俺のことは一夏って呼んでくれ。俺もお前のことを雪って呼ぶから」
『お互い名前呼び?』『まるで友達同士みたいだね!』
「何言ってんだ。俺たちもう友達だろ?」
おいおい、会って間もなく友達になれるほど、プラスとマイナスの溝は浅くないぜ。…………可愛い女の子は別としてね!
『ありがとう一夏ちゃん』『僕達はこれで親友だ』『一緒に温い友情』『無駄な努力』『虚しい勝利に満ちた学園生活を送っていこうぜ!』
「いやなんだよそれ!?もうちょっと普通の青春を楽しもうぜ」
おいおい、普通なんてお気楽なものだなあ。
お前みたいなプラスが、この世に二人しかいない男性操縦者が、世界最強の弟が、ライトノベルの主人公が、普通の学校生活を送れるわけがないだろう。しかも僕の目の前で。
「……ちょっといいか?」
「『え?』」
ちょっと話してる間にメインヒロインの登場だ。って、よく見れば俺の自己紹介の時に吐きそうになってた子じゃん。
『篠ノ之箒さんだよね?』『掃除用具みたいな名前だから覚えてたよ』『それで?』『何の用があるんだい?』
「……貴様に、用は……無い。い、一夏に用があるのだ!」
「おい大丈夫か箒?顔色悪いぞ」
本当だ。これは保健室に連れてったほうがいいかも。顔が青を通り越して白くなってる。今にも倒れそうだ。
『本当に大丈夫?』『無理は良くないよ』『ん?』『ますます顔色が悪くなってないかい?』『何か嫌なことでもあったのかな?』
篠ノ之さんの顔を覗き込んだら、ますます顔色が悪くなった。
「ぐっ……心配無用だ。それより一夏、ついてきてくれないか?」
「あ、おい!……悪い雪。箒は俺の幼馴染なんだ。放っておけないし、ちょっと行ってくる」
タッタッタ………と、急ぎ足で一夏は箒の後を追った。追いかけられている箒の顔は、先ほどまでの顔色の悪さが少しはましになったようだ。
……う~ん、これは、やっぱり篠ノ之さんの体調が悪い原因は俺みたいだ。
それはつまり、この学園で可能な限り抑えてきた俺の過負荷性が悟られたということに他ならない。
そして、その悟られた原因が俺の想像通りだとすれば……。
『箒ちゃん』『君とは仲良くなれそうだぜ』
◇◆◇◆
「箒、どうしたんだよいきなり呼び出して?」
「……本当はもっと色々話したいことがあるのだが、時間もないし手短にいくぞ。球磨川とは仲が良いのか?」
「はあ?なんでそんな事聞くんだよ?」
「いいから答えろ一夏!お前は球磨川と仲が良いのか!?」
一夏は箒のあまりの激高ぶりに驚愕した。箒はもともと気が強く、言葉を発するときはハキハキとしていて迫力がある方だったが、ここまで強く言われたのはもしかしたら初めてかも知れなかった。だから、その勢いの負けるような形で、つい答えてしまった。
「まあ、初対面だしそこまで仲が良いってわけじゃないぞ。これから仲良くなろうとは思ってるけど」
「今すぐ奴と縁を切れ」
「はあ!?なんでそこまで言われなくちゃいけないんだよ?せっかく俺と同じ男子なのに、急にそんなこと言われても困るって!」
「お前には分からないのか!?奴の危険性が!」
そう言われても、一夏には何のことかさっぱりだった。一夏の球磨川に対する第一印象は華奢な奴。腕っぷしは弱そうだし、悪人のようには見えない。確かに性格はちょっと変わっているかもしれないが、そこまで危険な奴だとは思えなかった。
「そう言われてもなぁ~。具体的に、あいつのどこが危険なんだよ?」
「それは……私にも上手く説明出来ないが、とにかく奴は危険なんだ!今日初めて奴の姿を視界に入れた時、私は吐きそうになった。近くで見たらその時以上の寒気と嫌悪感と恐怖が一気に襲いかかってくる!いいか?これ以上奴と関わるな!!」
「お、落ち着けって……」
キーンコーンカーンコーン
「ほら、チャイムなったぞ。急いで戻ろうぜ」
「あ、ああ」
どうやってこの幼馴染を
しかし、戻った先には
パアンッ!
こうして一夏は、出席簿アタックを喰らった。
そして千冬は、もう一人の遅刻者である箒に出席簿を向けようとして、やめた。
「篠ノ之、体調が悪いなら保健室で休んでいろ。なんなら今日の授業が終わるまで休んでいても構わん。私が許可する」
「……ありがとうございます」
千冬は、おぼつかない足取りで保健室に向かう箒を見送った後、尋ねた。
「織斑、篠ノ之と球磨川は前から面識があったのか?」
「いや、今日初めて見たって言ってたぜ。それにしてはえらく嫌ってるけど……」
「……そうか」
それだけ聞いた後、千冬は視線で一夏に早く席に着くよう促し、山田先生のもとへ向かった。
◇◆◇◆
一夏は、球磨川が何もしていないにもかかわらず、さっそくピンチに陥っていた。それは……
(お、俺だけか?俺だけなのか?この専門用語の羅列にしか見えない教科書に悪戦苦闘しているのは?他の皆はちゃんと理解できてるのか?)
勉強に困っているという、学生にはありがちなピンチだった。
隣の女子を見てみると、山田先生の説明に相槌を打ちながら、真剣にノートを取っている。
(女子はだめか。なら男子は……)
そして一夏は、自分と同じ馬鹿仲間を探すため、球磨川に目を付けた。だが……
(なっ、なんだあの真剣な表情は!?)
球磨川は、自己紹介の時のおちゃらけた態度が嘘のように、真顔で教科書と対峙していた。時々頷きながら、ページをめくって何か思案するような表情を浮かべている。その姿は、まさに本人が自称したような、優等生のそれだった。
(球磨川、お前、真面目な奴だったんだな。第一印象でふざけた奴だって決めつけてすまん)
「織斑君、何かわからないところはありますか?」
一夏の様子から、何か悩んでいることに気付いたのだろう山田先生が、親切に聞いてきた。
「ほとんど全部わかりません」
「え……。ぜ、全部、ですか……?」
予想以上の不甲斐なさに、さすがに頬が引きつる山田先生。いくら急な進学だからとはいえ、初日でこれはあんまりだった。
「えっと、織斑君以外で、今の段階で分からないっていう人はどれくらいいますか?」
シーン……
球磨川を含め、挙手する人間は誰もいない。
「織斑、入学前の参考書は読んだか?」
「古い電話帳と間違えて捨てました」
パアンッ!
強烈な出席簿アタック。だが、今回は完全に一夏の自業自得だ。
「必読と書いてあっただろうが馬鹿もの。少しは球磨川を見習って……」
この騒ぎの中でも教科書から目を離さず、一生懸命勉学に勤しむ球磨川の姿を視界に収めた千冬は、そこで何かに気付いたように一瞬動きを止め、球磨川の背後に回り込む。
そこには、正面からではばれないように、分厚い教科書にジャンプを挟んで熟読している球磨川の姿が……。
バアンッ!
パアンッ!ではなくバアンッ!である。誤字ではない。
これにはさすがにクラス全員が引いた。まあ、完全に球磨川の自業自得なので、同情する声はなかったが。
「真面目にやっていると思ったら、何をやっているのだ貴様は?」
『何って』『ジャンプを読んでいるんですよ』『見て分からないんですか?』
ブチッ!!
球磨川の開き直ったような態度に、千冬の堪忍袋の緒が切れる音がした。その時の千冬の表情と威圧感は、もはや三国志の英雄では例えようもない、鬼や悪魔といった人外を例えに使ったほうが似合うような、そんな形相になっていた。
その威圧感に球磨川を除くクラス全員が恐れおののき、近くにいた者は小さく悲鳴を上げるほどだった。
『こんな分厚い教科書』『教師に隠れて挟んでジャンプを読めっって言ってるようなもんじゃないですか』『だから僕はその通りにしただけですよ』
それでもなお、球磨川の態度は変わらない。彼はプラスを恐れない。強さや暴力では、球磨川は変えられないのだ。
千冬と球磨川は、致命的に相性が悪かった。
「球磨川君、そんなに、私の授業はつまらなかったですか……?初日の授業だから、躓いちゃいけないって、ぐすっ、一生懸命頑張ったつもりなんですけど。うぅっ……」
そう発現する山田先生の姿は、瞳にわずかに涙を浮かべて、悲しみに染まった表情をしていた。たった一人授業を真面目に受けなかっただけでこれなのだ。この人の教師という職業に対する熱意と、生徒を思う心がうかがえる態度だ。
『ごめんなさい山田先生』『こんなに僕を思ってくれている山田先生を泣かせるなんて』『僕は人として最低だ』『泣かないでください山田先生』『僕が悪かったです』『次からはちゃんと真面目に授業を受けます』
「本当ですか!?分かってくれて先生嬉しいです!頑張ってくださいね。先生も精一杯サポートしますから」
強さや暴力は球磨川を変えられないが、涙は別だ。たった一人の授業に対する態度で涙を流すような脆い心を傷つけるなんて、弱い者の味方を自称する球磨川には不可能だった。
少なくとも、気が変わるまでは真面目に授業を受けようと、ジャンプを引き出しに入れてから教科書を手に取る。
この教室で球磨川と一番相性が良いのは、山田先生かもしれない。
「ISは諸々の性能が過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった兵器を深く知らず扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」
全くもって正論だった。正しくて、完璧で、非の打ち所がない、プラスの言葉。
球磨川が最も嫌うものだった。
「織斑、貴様自分は望んでここにいるわけではないと思っているな?」
ギクリと身を震わせる一夏。どうやら図星だったらしい。
「望む望まざるにかかわらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するのなら、まず人であることを辞めることだな」
厳しく現実的な言葉にもかかわらず、その言葉は一夏に対しては発破としての役割を果たし、一夏は頑張ってここで学園生活を送ることを決意した。
そして、その言葉に焚き付けられたのは、一夏だけではない。球磨川もまた、その言葉でやる気を出した。
ただし、ある意味後ろ向きな方向で。
『人を辞めろって言うのなら』『僕は問題ないですね』『だって僕は自他ともに認める人でなしですから』『人ではない故に』『人でなし』『なんちゃって』
「!?」
千冬は驚いた。まさかこの言葉にこのような返しが来るとは思っていなかったから。
それは、球磨川のことに対する無知ゆえの反応。この男が、プラスの言葉を前向きに受け取り、まともな反応を返すわけがないのに。
『さっきから偉そうな御高説ご苦労様』『だけどそれは』『最初から集団の中で生きていける奴にしか効果はないぜ』『僕みたいなはみ出し者には』『最初から集団に排他されるような人間には』『足りない部分を補うために群れるような』『一見弱い人間がやるようなことすら出来ない弱者には』『全く心に響かない』
教室の空気が急に重くなった。
球磨川がその過負荷性をわずかに開放したのだ。
千冬の言葉は心に響かないと球磨川は言ったが、それは球磨川の言葉も一緒だ。
括弧つけた、本音かどうかも怪しい球磨川の言葉は、人の心には響かない。
ただ、それでも人の心には残る。
響くではなく、へばりつくという形で。
『そんな弱者の気も知らずに』『自分の主観で物事を語るなよ』『高々僕らより数年多い人生経験から得た結論を語ればいい感じになると思った?』『現実的で厳しい事を言えば反論する奴はいなくなると思った?』『高圧的な言葉と態度で威圧して実力の差を見せつければ歯向かう奴はいないって思った?』
『
そして球磨川は、千冬の顔面に向かって螺子を投げた。
それをとっさに出席簿で受け止める千冬。だがその螺子は出席簿を突き破って、千冬の顔の数cm手前で止まった。
『が』『その甘さ』『嫌いじゃないぜ』
パチン
球磨川が指を鳴らした瞬間、出席簿に空いたはずの穴と、穴を空けたはずの螺子は消えてなくなった。
まるで、
『驚かせてごめんなさい』『で?』『僕の手品は面白かった?』
(そうか。篠ノ之はこれにやられたのか)
千冬は、箒の体調不良の原因に納得いった。
始めて球磨川を見たときから違和感は感じていた。こいつは普通の人間とは違うと直観的に感じ取っていた。
だが、それが何なのかは分からなかったし、分かったとしても些細なことだろうと思っていた。
(楽観視していたにもほどがある)
箒の体調不良の原因が球磨川ということは、千冬も分かっていた。だが、それはきっと箒は前から球磨川と知り合いで、何か球磨川にトラウマがあるのだろうと思っていた。だから、球磨川と箒が初対面だと聞いて、少しだけ動揺した。
(だが、今のこいつと対峙すると、篠ノ之の様子にも納得がいく)
ヘラヘラとした笑顔、人を食ったような態度、括弧つけた喋り方、終いには些細な挙動の一つ一つにすら吐き気を覚えるようになってきた。
現に自分以外の人間は意識を保つのも辛そうなのが何人もいる。弟の一夏だって口元を抑えて吐きそうなのを我慢している様子だ。情けない気がしなくもないが、それを責める気にはなれなかった。
パン!!
千冬は思いっきり手を叩いて、重苦しい空気を変えた。
「球磨川、下らない手品などせずに、さっさと席に座れ。真面目にやるのだろう?」
『まあ』『気が変わるまでの間ですけどね』
「山田先生、大変でしょうが、授業を始めて下さい。どうしても授業を受けられないものは、急いで保健室に向かえ」
こうして、数名の早退者は出たが、授業は無事に再開された。
球磨川になって苦労したこと。
目薬使わずに嘘泣きすること。
(五歳の時)
『う~ん』『嘘泣きってどうやるんだろう』『悲しいことを思い浮かべればいいのかな?』『でも』『それだけじゃ血涙は流せないよね?』『でもこれができなかったら球磨川じゃない気がする』『ホントどうしよう……』
数年の練習の末、何とか習得した。