ウルトラマンメビウス、ヒビノミライは今日も地球を守り戦い続ける。
万の月日を経て、宇宙の壁すら隔てても地球の人々を守る為に。
そんな彼は祈り、祈られる。
「日々のミライが、幸福でありますように」と。


ウルトラマンメビウスの二次創作短編です。時系列はウルトラマンジード以降のメビウス本編から万単位の年を経た時代になります。

1 / 1
レイフ星人スロワ
ベリアル融合獣ベゼルライザー
宇宙悪魔ベゼルブ
                                    登場


日々のミライが、幸福でありますように

闇の中、少女が一人うずくまっていた。

 

「………」

 

大きな、本当に大きな樹の基に築かれた街。ところどころに焼け焦げた建物がある街の中心に築かれた一際大きな建物の中、ぼろぼろの服装の少女の姿は髪もほつれ、汚れまみれで大変に見ずぼらしく憐れみを誘う状態だ。だがそれ以上に見る者に憐れみを抱かさえるのはその目だ。何の光も希望もないがらがんどうの虚ろな目。それは様相と相まって少女の歩んできた悲惨な人生を想起させた。

 

『シェアッ!

「ぐ…おおおおおおお!!馬鹿な…俺がこんな…!」

 

赤と銀の胸に無限を象ったかのようなマークを印した巨人の光剣が両腕にドリルを装備した戦闘兵器を次々と両断し、爆発させる。激しい戦闘を意味する光景であるが、少女の心の虚ろさは上空で繰り広げられる激戦と、その終焉を意味する爆炎と断末魔、そして各地から上がる歓声にもなんら興味を持たず、反応を見せない。

 

少女にはあずかり知らぬことだが赤と銀の巨人はウルトラマンメビウス。宇宙の平和を守護する光の国の宇宙警備隊員でもウルトラ兄弟として讃えられるエースの一人であり、複数の宇宙をまたにかけて暴れまわる宇宙海賊、ある目的からこの星を狙い続ける輩たちの討伐の為この星へ来ていたのだ。

 

戦いを終えたウルトラマンメビウスの身体が光となってほどけていくと、建物の中に現れたのは優しさと勇敢さを兼ね備えていることが一目でわかるような、柔らかくそれでいて強靭な雰囲気を纏った青年となる。

 

「僕はヒビノ・ミライ。ウルトラマンメビウス。君の名前はなんて言うのかな?」

 

この姿になった時のメビウスはかつて青い奇跡の星、地球で仲間と共に戦ってきたときの名前を用いる。膝を曲げ少女に目線を合わせて問う。彼の醸し出す暖かい雰囲気は自然とかたくなになった人の心を解きほぐす物。しかし少女は何の反応も返さない。そんな心が壊れ切ったかのような少女の反応を見てミライの顔もまるで自分の苦しみであるかのように歪む。

 

「辛かったね、苦しかったね……。でももう大丈夫だ。」

 

自身の服装が汚れるにもかかわらず未来は少女を優しく抱きしめる。

 

「君の未来が、どうか幸福な物でありますように」

 

青年の真摯な祈りに、太陽のような温かさに、少女の虚ろな目にかすかに光が灯った。

 

 

 

 

 

太陽系第三惑星地球。あまねく宇宙のほとんどに存在する地球と同様に美しい、この宇宙の地球に住まう人々は今日も平和な日常を謳歌していた。特に日本という国に住む人々は今日が休日である日曜日であることもあり、多くの人々が街へ出かけつかの間の休息を楽しんでいる。

 

「次のニュースです。先日衛星軌道上で防衛軍とウルトラマンに撃破された宇宙怪獣ですが、その後の防衛軍調査部の調査の結果何者かによる人為的作為が見られ――――」

 

高層ビルに設置されたビジョンがニュースを流す中様々な人が交差点を通り歩き、または少し離れた場所にあるオブジェを待ち合わせ場所として集まっていく。前衛芸術のような奇妙なオブジェはこの街の名物なのだろうか、休憩の為に備え付けられたベンチがあることもあり多くの人が集まっていく。うら若きポニーテールの少女もその一人だ。

 

「えーっと……あ、いた!ミライさん!」

 

待ち合わせていた人を見つけたのだろうか少女はぱっと顔を輝かせると手を振りながらかけていく。その視線の先いたのは高校生程の年頃の少女よりもやや年上の青年だ。少女の呼ぶ彼の名前をヒビノ・ミライと呼ぶ。

 

「やあ久しぶりだねキョウコちゃん!それにしても背が伸びたな~」

「へへへ。成長期だからね。じゃあいこっか」

 

キョウコと呼ばれた少女はミライの手を取り平和な街に変えだしていく。幸福で満たされた幸せな街。そして穏やかな雰囲気を纏った少女。その平和な光景にミライは目を細める。青年らしい容姿に似合わない何処か老成した仕草だった。

 

 

 

 

 

 

キョウコとミライが初めてあったのは数年前、キョウコの曾祖母がなくなった日の事だ。キョウコの曾祖母が彼岸へと逝くその日ミライが息を切らせて駆け付けてきた。曰く彼は曾祖母の友人なのだという。ただならぬ雰囲気に病室へ通された彼は病室の曾祖母と彼は二言三言言葉を交わした。その交された言葉が何であるかはキョウコは知らない。ただ一つ分かっているのは曾祖母がこの上なく安らかな顔で逝ったという事。

 

それからもミライは大好きだった曾祖母の死を悲しむキョウコを幾度も励まして勇気づけてくれた。そんなミライとの交友はキョウコの家族ぐるみで続き、キョウコが高校生になってからはミライが忙しくなったこともあり、会う頻度が減った物の仲の良い従妹同士のような二人の関係性は変わらない。今日は一年ぶりにミライに会う日だった。今日この日をキョウコは何日も前から楽しみにしていたのだ。

 

そうして二人は休日を楽しんでいく。ある時は映画館で

 

「ミライさん!この映画面白そうだよ「ナチスシャークVS悪魔男」ってやつ!TVでもすごい宣伝してたし!」

「……キョウコちゃん悪いこと言わないからそれはやめとこうよ。こっちの「吾輩はウルトラニャンである。名前は漱石」ってやつの方がいいと思う……絶対に」

 

結局周囲の人のススメもありミライのおすすめの映画を二人で見た。最初はキョウコもナチスシャークVS悪魔男に未練があったがミライの進めた映画が面白かったのと、シアターから出てきた人たちの表情が能面の様になっていたのを見てこっちの映画を選んで良かったとほっとした。

 

その後は二人で買い物に行った。ショッピングモールを見て色々と買った。

 

「ミライさんこれなんかどう?保育園の子たちにいいんじゃないかな」

「うわぁハネジローのぬいぐるみなんてあるんだ!キョウコちゃんこれを買おう!」

 

二人が持っているのは羽のついた生き物がデフォルメされた可愛らしいぬいぐるみ。ミライとキョウコはいろいろな店をめぐってショッピングを楽しむ。買う物の多くはキョウコの欲しいものだが、同時にミライがボランティアに行っている保育園や病院の人たちにプレゼントしたい物も買っていく。

 

そしてその後は二人でお茶をした。評判のお店との事だったがなんと店長はネリル星人という宇宙人だった。正式にビザを取って地球に滞在している彼はミライの以前からの知り合いだという。

 

「お久しぶりですミライさん!お連れのお嬢さんもウチの特製ケーキをどうぞ召し上がってください!」

「え?こんなに頂いていいんですか!?」

 

ミライとキョウコが慌てるほどにリーラというネリル星人はサービスが良くお土産までくれた。宇宙人という事から当初はキョウコは驚いたが彼の親切な態度に触れ、また人々から好かれている様子を見ていい人なんだと安心した。

 

そんなふうにしてキョウコとミライの穏やかな休日は過ぎていく。兄のように思う人と一年ぶりに過ごす休日は実に楽しくあっという間に夕日が暮れ、帰る時刻になった。

 

「はーいっぱい遊んだねー。久しぶりで楽しかったー」

「僕も楽しかったよ。やっぱり平和な休日って凄い良いね……どうしたのキョウコちゃん?」

 

夕焼けに染まる河川敷。一昔前のドラマのロケーションのような道を二人は歩んでいく。そんな平和な道のりを歩んでいく中キョウコは緊張を帯びた表情を浮かべる。彼女にはミライに聞きたいことがあったのだ。

 

「ミライさん…私聞きたいことがあるんだ。幾つか、いいかな?」

「うん。なにかな?」

「まず最初に…ミライさんってあのウルトラマン、だよね」

「知ってたんだ」

 

ウルトラマン。それは幾多の宇宙を守る光の巨人たちの名。ある者は超古代から人々を見守りまたある者は絶望に抗う人々と共に戦う。そんな彼らはこの宇宙の地球においても存在する。数年前からこの地球で悪しき宇宙人や怪獣と戦い続けているウルトラマン、ウルトラマンメビウスが。

 

「うん。ひいおばあちゃんが死んだ少し後に…蛇みたいな宇宙怪獣が来た時があったよね。あの時…見たんだ。ミライさんがウルトラマンに変身するのを。だから知ってた。ミライさんがウルトラマンなんだって」

「その通り。僕が…ウルトラマンメビウスだ」

「あはは…やっぱりそうだったんだ。て、いう事はひいおばあちゃんも宇宙人だったの?」

 

やや驚いたような様子のミライにキョウコは問い返す。キョウコに宇宙人への偏見はない。それでも自身のルーツが宇宙にあるという点はもしかしたらと思っていたが衝撃的であった。

 

「うん。君のひいおばあちゃんも宇宙人。生まれ育った星の名前は」

 

そう言ってミライはキョウコに聞きなれぬ星の名前を伝える。今は人のいないその星がキョウコの曾祖母の出身地だという。

 

「そうなんだ…。あともう一つ聞いていいかな?ミライさんがひいおばあちゃんに初めて会ったのはどんな時だったの?」

「……今でもその時のことはよく覚えているよ。君にはつらい話になるかもしれないけど」

「構わない。前から、ミライさんが最後にひいおばあちゃんを見送った時から、ずっと気になっていたんだ。二人はどういう風に出会ったんだろうって。だから…教えて」

 

キョウコの懇願にミライはうなづく。そして彼らの出会いについて話しだした。

 

 

 

 

 

およそ100年ほど前になるだろうか。もうすでに滅びたというキョウコの曾祖母の生まれた星はもとより戦乱から逃れた移民者たちの集まりが作った星であることもあり、非常に人口が少ない星であった。そのままでは侵略者からも見向きもされる事のない辺境の星として長く長閑な時を過ごしていただろう。しかしその星には一つ特筆すべき点があった。その星には「命の樹」という宇宙でも一本しかない大樹が存在したという点である。

 

命の樹は一説には全ての生命の起源となる植物であり、無数に実った果実の一つ一つまで強大な生命エネルギーを秘めているという。それはその星への移民者たちが移民からしばらくしてから判明した事実であるが、その事実は彼らに恵みをもたらすとともに災いをもたらした。命の樹を狙った宇宙海賊の襲来である。

 

無論その星の人々も備えを怠ってはいない。持てるだけの防衛兵器の配備を行ってはいたがベリアル帝国軍のバックアップの元最新式の兵器を次々投入する宇宙海賊には抗するべくもない。瞬く間に緑豊かだった星は荒廃していった。日に日に悪化していく戦況。街も人心も荒れていく中彼らはある禁忌に手を出した。それは命の樹の力を軍事転用する事。

 

転用の方針としては宇宙海賊が40~50メートル級の兵器を使用していたことからそれらの兵器と戦闘が可能な人間を生みだす事を考えた彼らは次々と命の樹の力に適合した人間を生み出す為の人体実験を始めた。その唯一の成功例が―――キョウコの曾祖母だという。

 

曾祖母は成功例として戦線に投入され当初は成果を上げたが、徐々に宇宙海賊に押し切られるようになっていった。破壊されていく両親との思い出の詰まった街並み。嘆く人々に非難する声。まだ幼い曾祖母の心身はボロボロになっていったという。そしていよいよ宇宙海賊の新兵器に曾祖母は決定的な敗北を喫し倒れ伏した。そんなときに来たのが―――ヒビノミライ、ウルトラマンメビウスだ。

 

「それが…僕の君のひいおばあさん、トワと、僕の出会いだ」

「酷い……そんな、そんな辛い事がひいおばあちゃんにあったなんて」

 

其処まで話したところでミライは一旦話を切る。大好きだった祖母のあまりに壮絶な人生に彼女は口を押えていた。

 

「…それでその星はどうなったの?」

「最終的には宇宙海賊を倒して星を守ることは出来たけど命の樹も僕が知っている物よりもずっとしおれていて小さかった。多分元から寿命が近かったんだろうね。生き残った人々の多くは地球や他の平和な星に移り住んだよ」

「…良かった」

 

ミライの答えにキョウコはホッとする。今彼女がここにいる事。それは戦いの果てに掴み取った物がなかったわけではないことを示すが、それでも彼女は安心を感じていた。

 

「ひいおばあちゃんの戦いは無駄じゃなかったんだ」

「あの戦いは無駄じゃない。それは誰にも言わせない」

 

それだけは言いたかったのかやや強い口調でミライは断言する。

 

「そんな事があったから戦いが終わった後も僕は不安だった。トワがこの星で幸せになる事が出来るか。だから心配して何度も顔を見に来ていたんだけど―――でも、かつて僕のいた地球と同じで地球の人々は優しい人たちが多かったんだ」

 

かつてミライはこの世界とは別の地球で仲間と共に平和を守る為に戦っていたという。その時も敵の宇宙人の策略により人の悪意に苦しめられることがあったが、彼を支えた

地球の人々の多くは優しかったという。そして共に戦った仲間たちとの日々は万の月日を経た今でも胸に焼き付いていると。

 

「苦しい事もいっぱいあっただろうね。でもトワは友達を作り家族を得てこの星で幸せな日々を送った。そして君のおじいさんが生まれ―――やがて君が生まれた。だからキョウコちゃん。君は何も気にすることはない。おばあちゃんから受け継がれてきた幸せな日々を君も笑顔で送るんだ」

 

そう言ってミライは笑う。ウルトラマンが何故戦うか。その理由については諸説あるがミライの場合は決まっている。良き人々の送る幸せな日々を、未来を永遠とも思える月日守り続ける為だ。それが彼の戦う理由。

 

「……うん。私これからも出来るだけ、幸せに生きるよ。ひいおばあちゃんが喜んでくれるように」

 

ミライとの話ともに浮かび上がってくる曾祖母との思い出。節目節目のイベントから何気ない平凡な思い出まで、それらの一つ一つがキョウコに教えてくれる。曾祖母の選んだ道は、今自分が幸福に生きていることは間違いじゃなかったと。

 

「その意気だよキョウコちゃん」

「あー、あと最後に一つだけ聞かせてもらってもいいかな?あの時ひいおばあちゃんとなに話してたの?」

「それはね…「ははは、久しぶりだなウルトラマンメビウス!」

 

声がすると同時にミライはキョウコの盾になるように素早く動く。攻撃が加えられることはなかったが依然ミライは警戒の体勢を崩さない。ミライの視線の先に居たのは黒装束の男。一見何の変哲もない平凡な顔立ちだがキョウコからしても露骨なまでに剣呑な雰囲気を纏っている。

 

「お前は…レイフ星人スロワ!」

「フン、無駄なまでに記憶力はいいようだな…100年前の恨みを返しに来たぞ」

「100年前…あなたはひいおばあちゃんの!?」

「いかにも」

 

キョウコの言葉にスロワと呼ばれた男はうなづく。そして答えた。自分こそがかつて命の樹の星を襲った宇宙海賊の最後の生き残りであると。

 

「目的は…僕への復讐か!」

 

「あの時貴様とあのガキに負けねば我らがこの宇宙を支配していた物の…!だが文字通りここであったが100年目だ。あのガキの血脈の前で貴様に引導を渡してくれる!」

「危ないキョウコちゃん!」

「来い!フュージョンライズだ!」

 

叫びと同時に上空に現れた円盤から赤黒の禍禍しいエネルギーがスロワめがけて大量に放射される。エネルギーを浴びたスロワは目を禍禍しく光らせながら咆哮した。

 

「があああああああああああああああああ!!!」

 

『フュージョンライズ!! 』

 

そしてその体は有機物と無機物の混ざったかのような状態へと巨大化してゆく。その姿はさしずめ機械で身を鎧った悪魔。背後に浮かぶのはグロテスクな黒い怪獣と三角形に並んだ丸いレンズが特徴的なロボット。そして黒き破壊の巨人ウルトラマンベリアル。

 

『クイーンベゼルブ、インペライザー…ウルトラマンベリアル! 』

 

そしてそれ大地に降り立つ。ゴキブリのような人々を不快にさせる黒光りする甲殻と無機質な灰色の装甲、大口径の火砲と陰惨な鋭い爪刃を携えた両腕。そして黄色と赤がランダムに入り混じった複眼。その悪魔の名は

 

『ベゼルライザー!!!』

 

「ベリアル融合獣…試作型のライザーを使ったのか!」

 

カイジュウを見る未来の顔は戦士の顔になっている。人々の未来を奪う大怪獣に立ち向かう為彼もまたアイテムを取り出した。それは彼がウルトラマンである証の一つ、メビウスブレスだ。

 

「ミライさん…無事に、無事に帰って来てね!」

「ああ…メビウーーーーーース!!!」

 

ミライがメビウスブレスを掲げると同時に無限をイメージさせる焔が空中に描かれ光に包まれた彼の身体は巨大化していく。そして彼もまた悪魔の向かい側に降り立った。

 

それは光の巨人。無限に続く光を象徴し、永遠に続く絆の力で人々を守り続ける誇り高き勇者その名は―――――

 

「ウルトラマン……メビウス!!!」

 

 

 

 

 

 

黒光りするベゼルライザーの刃とメビウスのメビュームブレードが衝突する。空中で幾度なく切り結ぶ度に火花が散り空に残光が描かれていく。八度目の衝突を得ても両者に致命傷はなし。

 

「ははは!!どうしたメビウス!あの時の威勢は飾りかぁ!?」

『くうっ…』

 

にも拘らず状況はメビウスの劣勢。速度と旋回性について両方でわずかながらベルゼライザーに上回られていることもあるが、本来なら万をも超える月日戦い続けてきたメビウスの戦闘経験は些細な不利を跳ね返し勝利を収めただろう。彼の劣勢には他の理由がある。

 

「まだまだ行くぞ…そらぁ!」

「「「ビギィィィィィィ!!」」」

 

その理由はベゼルライザーの固有能力にある。ベルゼライザーの背から伸びた黒と灰の突起は瞬く間に成長すると醜悪な怪獣ベゼルブに育ちメビウスに突撃していく。口から吐く光球で、身体の各所にねじ込むようにして備え付けられた火器で、鋭い爪で攻撃していく。これこそが純粋戦闘力では他に劣るベゼルライザーの固有能力。下僕となる怪獣ベゼルブの精製能力である。

 

そもそもベゼルライザーの基となったクイーンベゼルブとインペライザーはこうした量産と縁のある怪獣である。クイーンベゼルブは下位種であるベゼルブを生み出し操る能力を持ち、インペライザーもまたかつてメビウスと戦ったエンペラ星人との決戦に先駆け量産され13体が地球上に現れ、物量でメビウスを苦しめた。そんな2体の数を増やしやすいという怪獣の性質はベゼルライザーに濃厚に受け継がれている。

 

空中を怪獣たちとウルトラマンが乱舞する。如何なる戦闘機も追いつけない機動力で行われる死の舞踏(ダンス・マカブル)は傍目から見れば美しくすら見える。だが実際に行われているのは巨体同士の死闘。そしてその影響は流れ弾や意図的な街への攻撃といった形で人々に現れるのだ。

 

無論メビウスも負けてはいない。ディフェンスサークルで街を狙って放たれた光線を受け流し、返す刀で強烈な回し蹴りを放ち不用意に接近した一体の首をへし折る。そして攻撃を放ち離脱していこうとする2体に向けて腕を十字に組み合わせる。

 

『メビュームシュート!』

 

メビウスの放つ必殺光線は2体纏めてベゼルブを薙ぎ払い爆散させる。そのまま光線はベゼルライザーへと延びていくが―――新たに生成した一体を盾に防がれた。

 

『な、仲間を盾に!?』

「ふん。こんな雑兵共など幾らでもくれてやる。まあ便利なのは否定しないがなぁ」

 

そういうや否やベゼルライザーは腕の砲口をメビウスへと向ける。巨大な砲口はそのまま分解され中から大小合計十三の砲口が出現。一斉にエネルギー弾を放ちメビウスを狙う。

 

『っ!?シェアッ!』

 

膨大なエネルギー弾に追われるメビウスは重力による自由落下をも利用してエネルギー弾を躱し続ける。ある時は舞い落ちる木の葉のように回転しまたある時は空力を利用して紙一重でエネルギー弾をすり抜け、どうしても当たる光弾はブレードで切り払う。だが急激な回避運動によりどうしても高度は下がる。すでに彼の滞空するのは街の直上数十メートル。頃合いだとベゼルライザーはほくそ笑んだ。

 

「今だけは感謝するぞウルトラマンメビウス。貴様らウルトラマンの善人ぶった精神性に!ぬううん!」

 

猛る叫びと共にベゼルライザーはさらに2体のベゼルブを射出。合計で9,10体目となるベゼルブはどうも様子がおかしい。これまでにない速度でメビウスに迫りながらもその身をがくがくと空中で振るわせまた腹部を始めとする体の各所が危険な熱を帯びて発光している。その悍ましい有様を見てメビウスの脳裏にひらめくものがあった。

 

『この怪獣は…まさか!』

 

メビウスがベゼルライザーの狙いに気づいたのは一重に彼自身もメビュームダイナマイトという自爆技を使う事が理由だ。そう、ベゼルライザーの狙いはベゼルブによる自爆特攻。

 

「「ギャギャギャギャギャギャッッ!!!」」

 

悍ましい叫び声を上げ発光するベゼルブが次々とメビウスのバリアに衝突していく。1体2体と轟音と共にベゼルブが次々バリアに当たりその身に抱えた莫大なエネルギーを開放し爆散していく。そして6体目の特攻でメビウスは膝をついた。それと同時にカラータイマーが赤く染まり、ピンチを知らせる音が鳴り響く。

 

「ふははははは!無様だなウルトラマンメビウス!まさかこうまで簡単に引っかかるとは思わなかったぞ!」

『ぐっ…あ……』

 

膝をつくメビウスに対し碌な損傷のないベゼルライザーは意気揚々と仁王立ちで街に降り立つ。赤と黄色の複眼はメビウスや弱者への侮蔑に満ち溢れていた。

 

「しかし本当に不思議だ。貴様らウルトラマンは何故其処までしてとるに足らない人間を守る?それが不可解でならんよ。見ろ」

 

ベゼルライザーは戦闘の被害から逃れようと必死に走る人々を指さす。そして鼻でその必死さをあざ笑った。我々に比べ何と惰弱な事か。

 

「ハッ、奴らは貴様のように俺に抗する力も意思もない。ただレミングスのように逃げ纏うだけだ。そんな下等な存在を守っていて楽しいのか?自分の心に正直になれよメビウス。その強大な力を自分の為に使って見ろ」

 

ベゼルライザーとなり一層強くなったスロワにはよくわかる。力とはすなわちこの宇宙の真理。強大な力を持つ者こそが全てを手にする権利を持つ。故に彼はメビウスに疑問を呈する。貴様はそれでいいのかと。

 

『……』

 

高慢極まりないベゼルライザーの演説を聞いたメビウスは無言。だが顔を彼方へと向けた。戦場から避難しつつも自分を応援し続けるキョウコの姿を。

 

そして再び立ち上がる。不屈の闘志を象徴するかのような勇ましいファイティングポーズをとって。不死鳥の如く。

 

『お前は知らないんだなスロワ。人々の送る平穏な人生の素晴らしさを』

 

かつて宇宙警備隊のルーキー時代に地球に訪れたメビウスもまたその素晴らしさを知らなかった。しかし地球での戦いの日々の中、彼もまた多くの事を地球の人々から学んでいき、その幸せを守り続けたいと願った。その思いは万の月日がたっても、この宇宙の地球に来た後も強く胸に燃え続けている。

 

だからウルトラマンメビウスは戦う。命ある限り。絆の焔が燃え続ける限り。

 

『その掛けがえのない日々を守る為に僕は戦うんだ…ファイトの意味は欲望じゃない!』

「頑張ってーーーーーー!!ウルトラマンメビウスーーーーーーーー!!」

 

キョウコの声が聞こえた。かつて彼が救った少女の苦難の果てに掴んだ幸せな日々。その先に生まれた少女が。

 

『シェアッ!!』

 

雄たけびと共にメビウスの姿が焔と共に変わりゆく。焔の如き鮮やかな赤と黄金で刻まれたファイヤーシンボルは彼がGUYSの一員として仲間と共に戦い続けた証。不死鳥の勇者たるメビウスの最強の姿。ウルトラマンメビウスバーニングブレイブだ。

 

「そうか…ならばここで死ねえ!」

 

ベゼルライザーは一斉にベゼルブを解き放つ。合計8体のベゼルブは複雑な軌道をとり街ごとメビウスを砕こうと一斉に襲い掛かる。

 

『ハァッ!!』

 

対するメビウスは不死鳥を象った焔を纏い飛翔。狂ったような声を上げて突撃してくるベゼルブに正面から突撃し――――容易く粉砕した。

 

「何ッ!?チィッ」

 

超高速の体当たり。それだけでインペライザー由来の装甲で頑丈なはずのベゼルブが粉々に砕けていく。追随する為飛翔するベゼルライザーもその速さを追いきれない。再び放った火砲からのエネルギー弾に対してメビウスは躱すどころか逆落としにして回転しながら流星のように突っ込む。それはウルトラマンメビウスの奥義の一つバーニングメビウスピンキック !

 

『でやあああああああああああ!!!』

「がっぐおおおおおお!!!おのれ…おのれぇ!」

 

とっさに盾にした左手の火砲毎甲殻装甲が砕かれ、ベゼルライザーは海まで吹き飛ばされていく。水切り石のように海面をバウンドしていくベゼルライザーは10回ほどバウンドしたあたりでようやく体制を立て直し空中に浮遊する。対するは一瞬で残りのベゼルブを全滅させたメビウス。その雄姿にベゼルライザーも覚悟を決めて右腕の刃を掲げる。

 

「いいだろう…ならば小細工は無用。決着をつけよう」

 

一度灰と黒が入り混じり肥大化した右腕の刃はメキメキとすさまじい音を立てて圧縮されていく。それは紛れもなくベゼルライザーの一刀に賭ける心意気を示している。

 

メビウスもまた右腕から焔を纏うメビュームブレードを出力する。残りのエネルギーのほとんどを注ぎ込んだ焔の剣は、その姿をブレさせることはない。彼もまたこの戦いを終わらせるため迷いはないのだ。

 

2者は静かに対峙し――――そしてまるで引力に惹かれるかのように自然に動いた。そして交差する。

 

背中合わせのように残身を決める2者。一泊の間をおいてずるりとベゼルライザーの姿がずれていく。(メビウス)の字に切り裂かれた悪魔の甲殻と装甲が剥がれ落ちていき、その体を崩壊させていった。

 

「なるほどこれが…ウルトラマン、か」

 

そしてベゼルライザーは粉々に吹き飛び爆散する。爆発の後残るメビウスは彼方へと飛び去っていく。彼の飛び去っていく下、街の人々はメビウスを讃え歓声を上げていた。

 

自分たちの日常を守ってくれた最高のヒーローに。

 

 

 

 

 

時がしばしたって空に星が瞬く夜。戦いを終えたミライとキョウコはキョウコの家までたどり着いた。そしてミライは先程中断されたキョウコの質問に口を開く。

 

「トワが最後に僕に言ったのは…僕を想ってくれる言葉だったんだ」

「ミライさんを?」

「うん」

 

何処か堪えるようにミライは答える。

 

「『私は幸せだった。だからあなたの日々も、未来も幸福でありますように』って。僕の幸せを願ってくれた。だから僕は戦い続けるよ。君たち地球の人々と、僕の日々が幸福であり続けるように」

 

そう言ってミライは手を京子に差し出した。握手を求めるように。

 

「うん。私もひいおばあちゃんと同じように祈り続けるよ。私たちのウルトラマンの為に」

 

そう言ってキョウコはミライの手を握り返す。キョウコの手のひらに太陽のような温かさが広がった。

 




半年ぶりに書いた1万字程のウルトラマン短編。楽しんでいただけたならば幸いです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。