DECADE×IS/世界の破壊者は何を見る――? 作:ちーたら
おのれディケイドォォォォォ!!
いつも通りに『世界』の旅を終え、いつも通りに写真館の主である
「ここは……?」
明るい茶色の髪に整った顔立ち、そして首から濃い桃色のトイカメラを紐で吊るし下げた青年、
「待って下さい士くん」
「そうだぞ士……って、なんだその恰好は?」
数秒遅れて光写真館から出てきた男女、少し堅苦しい敬語で話す光栄次郎の孫娘
「見た所……どこかの制服か?白と黒で赤い線も入っていてなんかかっこいいな」
「まあ、俺ならどんな服でも似合っちまうからな」
そう言って士は制服(?)のポケットなどを探ってみる。ユウスケの言った通りどこかの制服のような格好に、かつて自分が体験した出来事からポケットなどの中にこの『世界』での門矢士について何かの手がかりがあるかもしれないからだ。
そして目当ての物はあっさりと簡単に見つかった。
「士くん、なんですかそれ?」
「胸ポケットの中に入っていた」
そう言って、士が手に持っていたのは一通の封筒だった。宛名は『門矢士』、送り主は――
「国際IS委員会……?」
怪訝に表情を歪める士に夏海が訊く。
「中身はなんて書いてあるんですか?」
「そう急かすな、これから確認する」
そう言って士は封筒の封を無造作に破った。その乱暴な開け方にユウスケは不器用のくせに何か言いたそうな顔をしていたが、士は我関せずと中身を取り出す。
中に入っていたのは、一枚の書類と保険証のようなカード一枚だけであった。そのいかにもカードを申し込んでそれが届いたかのような風体に、クレジットカードは持たない主義の士は少し顔を顰める。
士はまず、書類の方に目を通し、そしてカードに自分の名前が刻まれていることを確認して呟く。
「なるほど、大体わかった」
「え、なにがわかったんですか?」
急に納得をした様子の士に、夏海は疑問を呈した。
「もちろん、この世界での俺の役割だ」
門矢士は光夏海ら仲間と共に『九つの世界』を始めとした無数の『世界』を旅していた。
役割……『門矢士の役割』とはそんな『世界』を旅する毎に士に与えられる、その『世界』での立場である。
とある『世界』では巡査、違う『世界』では弁護士、またある世界ではある特定の人物となったこともある。
「で、この『世界』での士の役割は何なんだ?」
「ああ、この『世界』での役割は――」
IS学園。日本の領海、その人工島に建造された白い校舎と近未来的な内装が特徴的な高等教育機関である。
そんなIS学園の一角、一年一組と記載されたプレートが前方後方、二か所の出入り口に掲げられた教室の最前列中央の席。
(これは、想像以上にきついぞ……)
黒髪の少年、
自意識過剰、というわけではない。かといって自分が注目を集めていないなどとは口が裂けても言えるわけでもなかった。
まさに針の筵、武蔵坊弁慶もびっくりな奇異の目の集中砲火により、気のせいだろうか一夏の胃が少しキリキリしてきたような気がする。
「え、えーと、それではみなさん自己紹介を……」
お通夜のように静まり一触即発五秒前のような張りつめた空気の中、このクラスの副担任と名乗った眼鏡をかけたショートヘアの女性、
「……それじゃあ、出席番号順にお願いします」
まるで捕食者に怯える被捕食者のような雰囲気に哀愁の意を感じたのか、少しばかり教室の空気が軽くなった……気がするが、相も変わらず一夏にダーツ感覚で突き刺さる奇異の目は無くなることは無い。
それもそのはず。このクラスにいる人間は、一夏を除いて全員が女なのだ。
IS学園。それはIS――インフィニット・ストラトスという高機動パワード・スーツについて学ぶための世界唯一の教育機関で、そしてIS唯一絶対の欠点と呼ばれる理由から生徒はもれなく全員女生徒なのである。
が、諸事情にて、より正確にはちょっとした食い違いや理由不明の異常事態から一夏は男の身でこの女性の園であるIS学園に入学する事になってしまったのである。
(くそ、なんでこんなことに……)
じぶんでも少し引く程にぶつくさとする一夏。と、彼に声が掛けられる。
「織斑君、織斑君?」
「え……あ、はいっ!」
見れば、山田先生が一夏に話しかけていた。
「あの、今自己紹介が『あ』から『お』まで来て、とりあえず織斑君の番だから自己紹介して欲しいんだけど……」
「はい、わかりました」
どこか今にも泣きそうな目をしていた山田先生の雰囲気に一夏はそう即答すると、慌てて立ち上がって後ろを向いた。
向いて、たじろいだ。
ざっくざっく体に刺さる視線、視線、視線の嵐。軽く心が折れそうになるのをこらえて、何故か空いている自分の一つ後ろの誰も座っていない席に現実逃避気味に目を落としてから一夏は固唾を呑んでから口を開く。
「えっと、織斑一夏です」
そこまで言って、なにか言うべきことがあるか、と考えた。
小粋なジョークでも言おうかと思ったが中学からの親友の
途中、救難信号を発したのにぷいとそっぽを向いた六年ぶりに再開する黒髪ポニーテールな幼馴染の
「……以上です」
とりあえず言うこともないのでそう言って言葉を締めると、みんなが盛大にみんながずっこけた。
入学式初日だと言うのに長い間同じ教室で時間を共にしたかのような統制のとれた動きにびくっと一夏は怯む……というか若干引いた。
そこで、教室の前方のドアが開いた。
開いてその音に振り返り、顔を見せた人物に一夏は驚愕したのも束の間、その人物は持っていた出席簿で一夏の頭をばしん、いや、ぱぁん!と叩かれた。
「いでっ!?」
脊髄反射的に声を上げてしまう。無理も無い、なぜならそれは骨の奥まで染み渡る程に慣れ親しんだ、一夏にかなり近い人の得意技だったからだ。
「まったく、お前はまともに自己紹介もできんのか」
「ち、千冬姉!?」
黒いレディーススーツに肩あたりで切りそろえられた黒髪、意思の強そうな双眸。それらは全て研ぎ澄まされた一振りの日本刀のようで、一夏が現在進行形であこがれ続けている姿でもある。
織斑千冬。一夏の実の姉である。
「な、なんで千冬姉がここにいるんだよ!?」
ついつい声を上げて訊く一夏。間も入れずにいい音の出席簿が一夏の頭を叩いた。
「一度だけ言うぞ『織斑』。学校では『織斑先生』と呼べ」
なんで、と言いそうになって踏みとどまった。姉の礼儀についての頭の堅さといったら筋金入りだ。それはもう、件の箒と並んで頭の堅い人ランキング(集計一夏個人)の上位トップ2にランクインしているのだ。ちなみに第三位は孫娘以外に対する五反田厳氏である(孫公認)。
「……わかりました」
納得したわけではないが、一応、しぶしぶ、少し嫌だがそう答える。身内が教員というのに関しては内心複雑だが、しかしだからといって教員に対して敬語を使わないのは良くない……公私をちゃんと区別しろ、ということなのだろうと材料を用意して半ば強引に納得する。
「わかればいい。もう座れ」
はい、と返事をして着席する。千冬は山田先生と二言三言言葉を交わすと、教壇の前に立って言う。
「今日から一年間、お前たちの担任をすることになる織斑千冬だ。私から言うことはただ一つ、諸君には一年でISに関する知識を全て付けてもらうということだ。文句を言う者は学園から去ってもらって結構だ」
そう言うが早く、教室中から歓声が巻き起こる。女子たちのエクスタシーな声に、どこか百合の花だらけの女子校の雰囲気みたいだと一夏は思って、ここが百合は無いにしろ女子校であることを思い出して少しばかり辟易する。
どうやらその光景は第一回IS格闘世界大会『モンド・グロッソ』にて優勝し、最強の女『ブリュンヒルデ』の栄光を勝ち得た千冬にとっても頭が痛い事象のようで、眉間に皺を寄せて大きく溜息を吐いていた。その斜め後ろで苦笑いしている山田先生を見る限りどうやらいつもの光景のようだ。
しかし千冬の影響力とはすごい物で、ぱんぱん!と手を二回叩くとすぐに教室が静まり返る。
「さて、このままホームルームを続けたいところだが……その前に、諸君に紹介する奴がいる――入れ」
しゅぅ、という少し空気が抜けるような音と共に先ほど千冬が入ってきたドアが開き現れた人物に教室中の目が見開かれる。理由などは単純、その人物が男だったからである。
一夏が身に着けている制服と寸分たがわず同じ物を身に着け、紐で首にかけてあるピンク色のトイカメラのファインダーを覗きこみながら教室全体にシャッターを切ったのは他でも無い光写真館の居候の青年、門矢士である。
「門矢、なにをしている。自己紹介をしろ」
「了解、織斑先生」
言葉で肯定しつつもどこか千冬に対して反抗的な雰囲気を出しながら、士は教壇の前に立って周囲を見回した。
目に映るのは女、女、これまた女で一人だけ男。先ほど夏海とユウスケと共に確認したとある事実から、自分がこの世界で与えられたのは今まで体験した役割でトップクラスの異質なものであることを理解する。
そして口を開く。
「門矢士だ。よろしく」
静まりかえる教室。そして女生徒たちの「え、またかよ」という目。
直後、士の後頭部に出席簿が必中した。