DECADE×IS/世界の破壊者は何を見る――? 作:ちーたら
光写真館。
居間兼撮影所にある背景ロールを変えることにより様々な世界を渡航することができる不可思議な場所。
ある時は街中、ある時は街の外れ、またある時は田舎町の一角。巡る『世界』によって全く異なる場所に現れるその写真館は、今回はとある街の中、老舗らしき食堂の隣に現れていた。
そんな写真館の中、その写真館の一人孫娘の光夏海と居候の青年小野寺ユウスケがこの『世界』について調べていると、陽がどっぷり暮れる頃に門矢士が帰って来た。
「お、おかえり士」
「お帰りなさい士くん」
「おや、お帰り士くん。あ、コーヒー淹れるからちょっと待っててね」
キッチンの方からひょっこり顔を出した白髪頭に眼鏡をかけた老人こと夏海の祖父、光栄次郎がかちゃかちゃとカップを用意する音が聞こえる。
そんな三人の言葉に返事もせずに、士はどっさりと椅子に腰掛ける。
「……夏海ちゃん夏海ちゃん」
ちょいちょい、と手招きして倒れこむ士から離れるように夏海を呼んで、小さな声で話し始める。
「いったい士の奴……どうしたんだ?」
「さぁ……この半日で何かあったんでしょうか?」
そう小声で話してからちらり、と士の方を見る。見るからに疲れた様子で、喉から疲れた声を出している。
「……IS学園、だっけ?前に『555の世界』で普通に高校生をやってたから問題ないと思ってたんだけど……」
「ほ~ら士くんおまたせ。って大丈夫かい?」
コーヒーを淹れた栄次郎がテーブルにカップを置くも、士が反応する様子は無い。
「……だめ、みたいだね」
「……はい」
今まで自分たちが見てきた士、皮肉屋で素直じゃなくて嫌味ったらしいけど仲間想いの彼とは思えない状態である。正直な話、今まで見てきた士の中で一番精神的に参っているのではないだろうか……『RXの世界』で自分のことを見失いかけていた時でもあそこまで滅入ってはいなかった気がする。
しかしうじうじしてても仕方が無いので、この光写真館のムードメーカーであるユウスケが明るく士に声を掛けた。
「士、どうだった学校は?友達はできたか?いやー、士って友達作るの難しそうな性格してるからなー、気の合った人はいたか?」
「気の合った人?」
ユウスケの言葉にむくりと体を起こした士は栄次郎が淹れたコーヒーに角砂糖を四つコーヒーに入れて煽るように飲み干した。
「ああ、一応何人かはな。だが殆どが興味本位で話しかけてくる連中ばかりだ。まるで動物園のパンダの気分だ」
「いや、まあそれはしょうがないだろ。IS学園?って女子校なんだろ?そりゃ女ばかりの中にぽつんと男がいればそうなるって」
「でも、たしかIS学園にはもう一人男の子がいるって話でしたよね?ほら、この織斑一夏くんっていう子」
そう言って夏海は先ほどまで自分たちが調べていた新聞の切り抜きを取りだして言う。
「そうそう、織斑一夏。俺的にはさ、この織斑一夏っていう奴が重要人物なんじゃないかと思うんだよね。女しか使えないっていうISを使える男だろ?」
「それにこの織斑一夏くんのお姉さんはすごい人らしいですよ?第一回世界IS格闘大会『モンド・グロッソ』の栄えある世界チャンピオン織斑千冬さん」
「そうそう、すごい美人だよね!」
そう言うユウスケの顔は綻んでいる。彼が元の『世界』で思いを寄せていた女性の件も含め、彼は年上好きなのだろうか?どうでもいい話であるが。
「その二人なら今日会った。弟の方は同じクラスの前の席、姉の方は担任教師だ」
「え、会ったのか士!?」
有名人を街中で見かけたことを聞かされたような子供のように反応するユウスケをぐいと押し返し、先ほどまで夏海とユウスケがまとめていた資料を手に取って見始める。
その資料……殆どが図書館から借りてきた本やインターネット記事を印刷した物、そして今日少しばかり授業をした内容を整理する。
ISが登場したのは今から約十年前。当時起こった謎のハッキング事件により日本に二千三百四十一発のミサイルが発射され、それを一人の犠牲者も出すことなく颯爽と現れて防いだのが世界初のIS『白騎士』。
その操縦者不明の原初のISの活躍は世界中に瞬く間に広がり、様々な国でISについての研究が行なわれようとする。が、ISの力の全ての根源、ISコアの開発方法は製作者
やがて世界中は女性が偉く男性が偉くない女尊男卑の風潮を持って行き、それが定着して現在に至る。
資料をテーブルの上に置き直し、士は立ち上がる。
「今日ざっと授業を受けてきたが、どうやら織斑千冬は篠ノ之束とは幼馴染の関係らしい。弟の一夏がそう言っていた」
「さすがだな士。もうそこまで調べてたのか」
「ああ。それと、この背景ロールの絵の正体もわかったぞ」
そう言って、士は学園から持って帰って来た参考書を広げてテーブルに置く。
「あ……これ、この絵と同じじゃん!」
「本当です。えっと……『白騎士』……って、世界初のISの?」
三人が話しているのは他でも無い、この『世界』に辿りついた原因である背景ロールの絵の話だ。
その絵には、前悟上下左右に広がる青空の中央に翼を持った白いロボットのような人型が佇んでおり、それが無数の飛行機雲を残して接近する何かに対峙している様子が描かれているのだ。
「ぴったり一致するじゃん!じゃあ、この絵は白騎士で」
「じゃあ、この世界は……」
「ああ、インフィニット・ストラトス……『ISの世界』だ」
その言葉の意味を頭の中で必死に噛み砕いて、ユウスケは言う。
「じゃあここは、『シンケンジャーの世界』みたいにライダーがいない『世界』だっていうのか?」
「ああ、おそらくな」
……ライダー。
正式名称『仮面ライダー』。それは様々な方法にて人々が変身する戦士の名前で、門矢士が光写真館の背景ロールを通して巡る旅のキーパーソン。
彼の様々な独立した『世界』を巡る旅の殆どがそれぞれ別個の仮面ライダーの存在する『世界』であり、彼らが何らかの理由で戦い続ける世界であったのだ。
例えばここにいる小野寺ユウスケ。彼は元々『クウガの世界』の住人で、仮面ライダークウガとして人間を襲う未確認生命体と闘っていたのだ。
士はそんな無数の世界をとある目的のために旅を始め、その過程で記憶喪失となりこの光写真館が元々あった世界に流れ着き、そして突如始まった『九つの世界』の融合を阻止するために全ての仮面ライダーを破壊する者として仮面ライダーディケイドとして旅を続けていたのである。
そして様々な闘いを経て士は自分の記憶を取り戻し、一度消滅した『九つの世界』を復活させ、そして始めた『ディケイドの物語』。この『ISの世界』に辿りついたのはその途上だ。
「おそらく、『シンケンジャーの世界』のようにこの『ISの世界』は仮面ライダーにあたる部分がISに置き換わっているんだろう」
そう言って、士は自らのライダーカードの一部を見せた。
ライダーカード。士の変身する仮面ライダーディケイドの特性、様々なライダーの能力を複製する力を発動する上で必要な無数の種類のカードのことだ。
本来であれば士が出会ったライダーの姿が描かれているはずのものなのだが。
「これって……白紙のカード?」
士が取りだしたカード、十枚以上の枚数のそれには一切何も描かれていなかった。
「ああ、この『世界』に着いた時に増えていたカードだ」
「でも、枚数が多くないですか?今まで士くんが『世界』で再生させたカードも多くて三枚程度だったのに……」
「ああ、俺もそこが引っ掛かっている」
『九つの世界』を巡る際にはそれぞれ三枚ずつ。『シンケンジャーの世界』『RXの世界』『アマゾンの世界』ではそれぞれ一枚ずつ。『ライダー大戦の世界』では例外的に十枚以上だが。
一つの『世界』でこれだけのカードが増えているのは、かなり例外だ。
「そして、これだ」
そう言って取りだすのはまた一枚のライダーカード。しかしそれは他のカードとは違って既に何かが描かれている。
「これ……なんでしょう?」
「おそらく、これが俺のISとやらだ」
「ええ!?これが士のIS?」
カードに描かれているのは頭部と胴体がすっぽり抜け落ちているマゼンタカラーのロボットのような機械。555のアタックライド《オートバジン》の構造に少し似てない気がしなくもない。
「つまり、俺はいつも通りに戦えば良いってことだ」
「戦うって、誰とですか?」
「さあな。とりあえず一週間後、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットとかいうのと決闘することになっている。そこでなにかわかるだろ」
「そんな無茶苦茶な……」
ユウスケが呆れたような声を上げる。
だが実際、士はいつもそんな感じで『世界』で自分のやるべきことを見つけてきた。今回もまたそうなのかもしれない……が。
「でも、このカードの枚数だと結構長くなりそうですね」
「うん、そうだね。よし、士、夏海ちゃん、一緒に力を合わせて頑張ろう!」
一人ガッツポーズを取っておっしゃー!とやる気満々のユウスケ。その様子に士と夏海は目を合わせると苦笑する。
「え、どうしたんだよ二人とも、急に笑ったりして。え、俺何か変なことやった?」
「いえ、ユウスケはいつまでもユウスケのままでいて下さいね」
「え、なに?どういうことだよ夏海ちゃん?」
夏海の言葉に釈然としない様子のユウスケ。
写真館の孫娘一人に居候二人。少々おかしな繋がりの三人であるが、これがいつもの三人なのだ。
「おや、盛り上がってるねぇ。みんな、ご飯ができたよ~」
のほほんとした雰囲気でキッチンから栄次郎が三人を呼ぶ。
「さっ、みんなで腹ごしらえだ。今日のご飯はな~にっかな~」
夕食と聞いてダイニングの方に向かうユウスケの子供のような様子に、再び士と夏海は苦笑するのだった。