DECADE×IS/世界の破壊者は何を見る――? 作:ちーたら
最近は忙しく文章が書く時間がとれず、さらには暇な時間も別の事をしていて、しかも会話パートなためこんなに遅くなりました。
亀更新ですが、温かい目で見ていただけると幸いです。
……ちなみに、書くのが遅くなったのは『仮面ライダー剣』を全話視聴していたからです。
その爆音はもちろん、彼女の耳にも届いていた。
事の発端は放課後の廊下。よりにもよって参考書を電話帳と間違えて捨てたなどとぬかした愚弟の補習授業の様子を見た後の職員室へと帰る道のりでの途中だった。
誤解無きように言えば、放課後のアリーナから爆音が聞こえることはそう珍しいことではない。職員室側に許可を取ってアリーナを使用している代表候補生ら専用機持ちが実機の装備をテストすることなど日常茶飯事であるからだ。
今日のこの時間は確か更識……この学校の生徒の代表にして生徒会長を務める才女が申請をしていたか、と考えて、彼女はそのまま職員室に戻るつもりだった。
……が。
いざ踵を返そうとした彼女の目の端に映った光景がその足を止めさせた。
それは、銀色のオーロラだった。
より正確に言えば、銀色の光のオーロラのような現象、というのが最も正しい表現だろうか。不特定多数の色が混じり合う通常のオーロラとは違い、銀色一色の壁のような光の幕。世界中のどこでも観測はできないであろうその現象を目の当たりにし、故に彼女はその発生源の元へと足を運んだ。
そのアリーナ……第三アリーナの最も近かった入口、観客席の入口から中に入ると、そこで行なわれていたのは一つの闘いだった。
しかし、彼女の知るものは一つも無かった。
いや、知る物はあった。だがその知る物も知らぬ物に改変された、と言った方が正しいか。
《FINAL FORM RIDE.MYSTERIOUS LA.LA.LA.LADY》
アリーナの観客席に足を踏み入れた彼女の耳に入ってきたのはそんな音声。そして目に入ったのは自分の知るこの場での唯一の存在、更識楯無と彼女の専用機ミステリアス・レイディが昆虫のような複眼を持つ人型に、人体の構造では不可能な変形をさせられたところだった。
更識楯無が超現象の前に戸惑いの声を上げた。が、人型はそんなことを気にすることなく彼女が変形した巨大な槍を手に持つと、目の前にいた異形の怪物に対峙し。
《FINAL ATTACK RIDE.MYSTERIOUS LA.LA.LA.LADY》
そして、双方が激突した。
巻き起こったのは今までの比にはならない爆発。しかし同時に仮面ライダーディケイド、門矢士は違和感を覚えていた。
より詳しく言えば、手ごたえの無さ、だろうか。
手に持っていたミステリアス・レイディソウリュウセンを宙に放り投げる。と、その行動に同調するようにミステリアス・レイディソウリュウセンは人体の構造上不可能な変形を解くように人間の形に変形し、明るい水色の全身を包むフルアーマーの状態を経由する形でディケイドに牙を剥いた時の更識楯無とミステリアス・レイディの姿へと変わった。
「な、なんなの今の……」
当の本人、IS学園生徒会長はと言うと自分が体験した不可解極まりない変形に対して体をぶるりと震わせていた。
無理も無いだろう。人体に於いて構造上限られている関節の稼働範囲を逸脱した動きを痛みも何もなく経験すれば、普通はだれでもそうなる。
ディケイドライバーを腰部から外し、変身を解除する士。その傍らでも楯無の全身が光の粒子に包まれてミステリアス・レイディが量子化し、IS学園の制服姿の生徒会長になる。
「……それで、やったの?」
腰を抜かしたようにへたり込む楯無の問いに、士は冷静に答える。
「いや……最後の最後で手ごたえがなかった。おそらくとどめを刺す前にこの『世界』からいなくなったんだろう」
『世界』からいなくなった……つまりはこの『ISの世界』からイカロスの元々いた世界『フォーゼの世界』へと帰還した、もしくは別の『世界』に逃れた、ということだ。
「そう……またあいつがここに来る可能性は?」
楯無の問いに対しあらぬ方向を向く士。正確にはそのあらぬ方向には件のイカロスをこの『世界』に呼び出した張本人、鳴滝が先ほどまで立っていたはずの場所を見たのだ。
「……ないだろうな」
鳴滝は士、ディケイドを排除するために躍起になっている。そんな彼が一度失敗したライダーを再びけしかけるとは考えにくい。ゲームで一度使った手が次からは通用しにくいように、その特性上ライダーキラーとしての性質を持つディケイドに再度同じ方法を使うとは愚策である。
それに同じ手を使わずとも、こうしている間にも無数の『世界』のどこかでは新たなライダーが生まれているのだ。
未知なる敵は最悪の存在。士が知ることのない新たなライダーをけしかけた方が幾分も良い。
その事を簡潔に伝えると楯無は少々腑に落ちない表情で渋々と納得をした。
と、その時だ。
「門矢、更識!」
二人を呼ぶ刺々しい女性の声がした。振り返れば観客席……鳴滝がいた方向とは真逆の階段を下りてくる黒いパンツスーツ姿の女性がいた。
「織斑先生……」
一番見られちゃまずい人に見られたなぁ……と口の中で呟く楯無。半ば硬直したように顔を強張らせる彼女とは対象的に、士は平然と彼女に向き直る。
黒いパンツスーツ姿の女性、一年一組担任教師にして楯無をも上回る最強のIS操縦者、織斑千冬は顔を引き締めるように眉間に皺を寄せて歩み寄ってきて、そして二人から最も近い観客席の最前列まで来ると、
「どういうことか説明してもらうぞ、二人とも」
有無を言わせない威圧感を放ち、彼女は命令をした。
夕日が地平線に接し始めた夕刻。もう半時間もすれば夜の帳が街を包み込む時間。
光写真館にてISについての情報収集を重ねていたユウスケは、外でバイク……マシンディケイダーが停車する音を耳にした。
「お、士が帰ってきたみたいだ」
「そうですね……」
ユウスケの言葉に夏海は生返事をする。他でも無い、彼女は購入した女性専門雑誌を食い入るように読んでいるからだ。
仮面ライダーの旅に同行し、時にライダーたちに食ってかかることのある勇猛果敢な彼女であるが、実際の所年頃の女性である。女性について進んだ文化のこの世界で、何やら気になる物を見つけたようで、数時間前に栄次郎が買いだしに出かけた時から既にこの調子だ。
すごい集中力だね、と少し苦笑い気味にコーヒーを啜るユウスケ。
そんな中、居間兼撮影所の扉が開く。
「なんだ、爺さんはいないのか?」
「お帰り士。今買い物に行って――」
と、ユウスケがコーヒーカップを口元から離さずに喋ろうとして、
「――ぶふぅ!?」
そして、思いっきり吹きだした。
「うお、汚いぞユウスケ」
眉間に皺を寄せて睨むように言う士。しかし当のユウスケはコーヒーが変な所に入ったようで咳き込んで咽ながら士の片を大仰に叩く。
「げほっ、げふっ、な、なんでだ士!」
「?」
少し苛立たしげにユウスケを睨む士に、ユウスケは士……と共に入ってきた二人の女性の内、黒いスーツ姿の方を指さして、
「なんで織斑千冬さんがここにいるんだよ!?」
「それも含めて後で説明する。とりあえず客が二人だ、コーヒーでも準備しろ」
「お、おう」
相も変わらずに大胆不敵な物言いの士に、ユウスケは思わず流されるように返事してしまう。
キッチンにとんぼ返りしたユウスケに継ぎ、ファッション雑誌から目を上げて絶句していた夏海に目を向けると、
「どうした夏ミカン。そんな呆けた顔をしているとただでさえ間抜けな顔がさらにアホ面に見えるぞ」
「……士くん。とりあえず説明して下さい」
「だから後でするって言ってるだろ。と言うより、説明するのはコイツらにだ」
そう言って右手の親指で自分の後ろにいる千冬……と(一応)楯無を指す。
「だからどういうことですか! 急にお客さんを勝手に連れて来て、それがあの織斑千冬さんだなんて!」
立ち上がり、抗議をするように詰め寄る夏海。彼女を士は突き飛ばすように先ほどまで座っていた椅子に押し戻し、
「鳴滝に会って戦ったんだよ。もちろん変身してな」
「鳴滝さんなら仕方ないですね」
「いや、そこ納得しちゃうの?」
なるほどとテーブルに散らかっているISに関する資料やさっきまで読んでいた週刊誌を片付け始める夏海に、その切り替えに思わず突っ込む楯無。
と、この写真館に入って来てから一度も喋っていなかった千冬……否、あるものを見て言葉を失うかのように静かだった千冬が喋った。
「……なんだ、この絵は」
千冬の言葉に士、夏海、そして楯無の三人が彼女の視線を追う。その先にあったのは他でも無い、青空の中心で無数の飛行機雲を伸ばし接近する物体に対峙する白い人型が描かれた背景ロールだ。
「これ、白騎士じゃないですか? IS学園の教科書にも載っているし……でも写真そのまんまって感じもするわね。瓜二つというか、むしろ写真をそのまま絵にしたみたいな」
楯無がそう言ったところで、キッチンに引っ込んでいたユウスケがお盆に人数分のコーヒーを淹れたマグカップを持ってくる。
ユウスケがそれをテーブルに置いたところで、ここにいる中で唯一の、この写真館の本来の住人である夏海が言う。
「とりあえず座って下さい。士くんがいろいろとご迷惑をかけたと思いますけど、とりあえず私たちのこと、そして仮面ライダーのことをお話します」
「つまり、君たちは異世界から異世界を旅する存在……というのか?」
夏海が主な語り部となった仮面ライダーの話。九人のライダーが存在する独立した『九つの世界』と無数の戦いが行なわれた『世界』。
そして……『ライダー大戦』。
「……なんというか私からしてみれば、それこそディケイドとかさっきのイカロスとか、そんな連中がうようよいるのかと思うと結構寒気がするんだけど」
夏海の語った仮面ライダーたちの話。それを聞いた楯無が少し身震いしながらそう言った。
彼女が目にしたディケイド、イカロス……そして聞いた話によると、ディケイドが姿を変えた二つのライダー、オーズと龍騎。自らの体を液状化させたり電源の落ちていた巨大スクリーンから赤い龍を召喚したりとした『彼ら』もまた、仮面ライダーという存在で、士が変身したのとはまた別に存在すると考えると恐ろしく感じる。
そんな風に考えている楯無にいざ知らず、千冬は顔を今まで話をしていた夏海からユウスケの方に向ける。
「さっきの光さんの言葉によれば、門矢だけでなく君もまた『仮面ライダー』とやららしいな?」
「はい! 仮面ライダークウガ、小野寺ユウスケです!」
有名人に話しかけられて喜ぶ小学生のように笑顔で答えるユウスケ。彼の言葉とは裏腹に、楯無の表情が少しげっそりとしたのは気のせいではないだろう。
「なるほどな。ここに来るまでに更識には仮面ライダーがISと互角に渡り合うものと聞いて俄かに信じ難かったが、しかし門矢のディケイドとやらも僅かとはいえ私はこの目で見ていた。更識とミステリアス・レイディをあのような姿に変換した技術を私は見たことが無い」
「当たり前だろ。それが仮面ライダーとしての力だからな」
「士くん! 織斑さんは担任の先生なんでしょ。だったらちゃんと敬語とかを使ってですね……」
「敬語を使うのは夏ミカンだけで十分だ」
そう言って椅子から立ち上がり、士はまるで見下すように千冬を見下ろす。
「それであんたはどうするんだ織斑先生? 鳴滝やそこの更識みたいに俺を『世界の破壊者』として排除しようとするなら相手になるぞ」
そんな風に挑発気味に言う士に、とうとう夏海の堪忍袋の緒が切れた。
士同様に立ち上がり、右手を親指だけ立てて握り、そしてその親指を士の首筋に押し指した。
「光家秘伝――笑いのツボ!」
その言葉と同時に士の首筋に炸裂する夏海の必殺技。瞬間、士は体を一瞬びくんと痙攣させるように僅かに震わすと、たまらずに体を硬直させつつ笑いだした。
「あははは、はは、おい、夏ミカン、おまえ……」
文句を言おうとして、写真館にいる人間全員で囲んでいるテーブルから離れ、件の白騎士の背景ロールの前まで千鳥足で歩いてそしてたまらず笑い転げる士。
そのあまりにもの奇妙な光景に、初見の千冬と楯無は絶句する。特に楯無は仮面ライダーとしての彼と戦ったからか、二つの姿のギャップが彼女の笑いの琴線に触れたのか、思わず噴き出すように笑ってしまう。
一方そんな状況を作り上げた張本人の夏海は士のそんな惨状を意に介すことなく千冬に向き直り、
「本当にすみません千冬さん。士くんには私やユウスケからきつく言っておきますから……」
その横で「え、俺も……?」と急な指名に驚く様子を見せるユウスケを一睨みして黙らせる夏海。写真館の正式な住民と居候では地位に差があるのである。
しかし千冬の言葉は、意外なものであった。
「いや、門矢の態度はもっともな話だ。元々はこちら側……君たちの言うところの『ISの世界』、その『住民』が勝負を吹っかけたのだからな」
その言葉に思わず笑ってしまっていた楯無がびくりと振動する。そうしてどういうわけか、背中に嫌な、できればかきたくない類の汗、所謂冷や汗が流れおちた。
「門矢の行動はそれこそ自己防衛とすることができるものだ。この件に関してはその鳴滝とかいう男の言葉を鵜呑みにして襲いかかった更識に非がある。たとえそれが門矢が件の『世界の破壊者』であることを認めてもだ」
内心びくびくし、同時に冷や汗だらだらの楯無に目を向けて、
「IS学園はあらゆる国に従属しない、完全独立の組織だ。領土こそ日本国内にあるが、それは変わらない。そこで起きた事件は下手をすれば国際問題にまで発展する……それにも関わらずに自分のみの判断で動いたのは生徒会長としても、一人の人間としても愚の骨頂以外の何物でもないぞ、更識」
「……はい。私の軽率な判断でした」
楯無がそう言ったところで、ようやく笑いのツボによる笑い地獄から開放されたらしい士に目を向ける千冬。
「しかしこれは門矢にも言うことができることだ。その『世界に与えられた役割』であろうと、お前はIS学園一年一組に所属する一生徒だ。今後このような面倒事をしてもらっては困る」
「……まだ、俺の質問に答えてはいないぞ」
「ああ、そうだったな。結果から言うなら私は鳴滝とかいう人物や更識のように君を排除することはしない……いや、する必要がない、と考えている」
その言葉に顔を見合わせる夏海とユウスケ。そして意外そうな眼差しを向ける士に、千冬は補足するように言った。
「『世界の破壊者』『悪魔』……確かに大層な名前だ。だが、彼女の言う言葉の中にいる門矢士という人間はそのような悪の権化ではないようだからな」
そして苦笑するようにこう付け加える。
「それに、生憎と『世界の破壊者』とやらには私自身心当たりがあるしな」
そう言って彼女はどこか寂しげな眼差しで白騎士の背景スクロールに目を向けた。
「……と、言うことは」
「ああ、これからも門矢にはIS学園に通ってもらうことになる。無論鳴滝とかいう人物の今後の接触も範疇に入れざるを得ない。それに言い方は悪いが、君たちの仮面ライダーについても放置しておくわけにはいかないからな。監視の目的もある」
この世界の軍事の頂点に立つ存在、ISと互角以上に戦うことのできる存在、仮面ライダー。湧いて出たようなそれを警戒しない選択肢がないことなど、当たり前のことだ。
「あれ、でも今君たちって……」
「そう、あくまで君『たち』だ。私は一応君たちの言葉を信じることにしたが、しかしだからといって君たちの動向を静観するわけにもいかない。ISの登場から十年ほど経っているが、今の社会はまだ混迷期を脱し切れていないのが事実だ。そこに君たちのような
「まあ、それはもっともな話だな。織斑先生の言う通りだ。鳴滝がちょっかいかけるのは俺たちの周り。つまりは俺たちがなるべく固まっている方が都合がいいわけだ……お互いにな」
士はテーブルの所まで戻って来て、どかりと椅子に座って、
「だがどうするんだ織斑先生? 夏ミカンはともかく、ユウスケまでもIS学園に入学させるって言うならその面白すぎる冗談は笑いのツボよりも大きく笑ってやるが?」
「馬鹿を言うな。未だに二人目のIS学園男子生徒の事は世間には伏せているんだ。それが決まる以前に三人目など論外だ。まあ、これについては考えが無いわけではない」
そう言うと千冬は、
「さっきも言った通り、IS学園はあらゆる国の法の適用外だ。それは国際問題に発展する危険性を孕んでいるが同時にどこまでも柔軟性があるということでもある。『職員が全員女でなければいけない』なんてルールもないことだしな」
そして不敵に笑って、千冬は言う。
「そして門矢。お前の処遇も今しがた決めた。お前のような問題児のには組織に入ってもらうのが一番手っ取り早い。丁度、私の目の前には
「え……あの、織斑先生? まさか……」
「なに、お誂え向きに空席がある。それにISについてもっと詳しく知るべきな門矢には代表候補生の一人の下で働いてもらうのは、丁度良い立ち場ではないか?」