殺人貴はトータスに行く   作:あるにき

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いっきにはかどったのでやっちゃいました


そこは()(ひとや)

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁の場所だった。縦横五十メートル以上はありそうな通路は明かりもないのにほんのりと発光していて、松明や魔法具がなくてもある程度視認が可能。

緑光石(りょくこうせき)という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ている。

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の目の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その光輝達の中に俺もいる。

言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構なスピードで飛びかかってきた。

灰色のたいもうに赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが、"二足歩行で上半身がムキムキ"だったりする。八つに割れた腹筋と膨れ上がった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすようなポージングだ。

要はコレ。

 

「気持ち悪っ」

 

「と、遠野君!言わないでよ!意識しないようにしてたのに!」

 

「あ、ごめん.....いやぁ、でもコレ.....」

 

「聞きたくない聞きたくない」

 

怖い系に耐性はあるらしいが、お姉様こと八重樫とて女の子。

可愛い物が好きで気持ち悪いものは気持ち悪いのだ。

いつだったかゴ○ブリが出たときは「ヒィィィ!」なんて声出して抱きつかれたし。男的には嬉しいがゴキ○リの処理が出来ないんでなかなかてこずった。

 

そんな話は置いておいて目の前の魔物をどうにかしないと。

流石にこんなことでいちいち眼は使いたくないのでメガネはつけっぱ。

目の前にいるのは五体。

一体が俺の方に走ってきた。

間合いに入ったタイミングでナイフを使い、首、胴、足に三連撃を繰り出してそのまま通り過ぎる。身体能力が上がったからか、スキルからか型にハマったような動きがたまに出ることがある。それはほぼ無意識で体が動いたあとに「ん?」ってなる感じ。不思議だがそれがなんだかわからないのだからわかるまで気にするのは無駄だ。

後ろを振り向くて残り四体中二体は八重樫と坂上が既に倒しており、残りの二体をため攻撃的なものを使って天之川がサクッと仕留める。

ちなみに天之川が持っているのはハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、聖剣らしい。光属性の性質が付与されていて、純白に輝いている。

光源に入る敵を弱体化させて自身の身体能力を上げるという力なのだとか。メルド団長から聞いたことだったが光属性とかよくわからんことを知ってること前提に話すんでこれが終わったら八重樫に講義を開いてもらおう、うん。

 

坂上は、空手部らしく天職が"拳士"であることから篭手と脛当てを付けている。なんとなく柔道着じゃないの?なんて聞いてみたら格ゲーの話になった。

俺あのゲームで明彦に勝ったことないんだよな...アイツが強いのか俺が弱いのか....

というか坂上がやったことあるのが意外だったが案の定コマンドとかにイライラして辞めたらしい。難しいヨネ

 

八重樫は、サムライガールらしく、"剣士"の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどだった。

 

とはいえ後方支援系の出番なく終わってしまった。

 

「ああ〜、うん、よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒達の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないように注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮で魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。メルド団長にも覚えはあるのだろう。「しょうがねぇな」と肩を竦めた。

 

 

そこからは特に問題なく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

もっとも、迷宮で一番怖いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くある。今のとこ引っかかってはいないが、階を重ねれば必然、多くなるのは道理だ。

トラップの対策で、フェアスコープなるものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することが出来るという優れものだ。迷宮のトラップは魔法を用いたものが八割以上だからだいたいはフェアスコープで発見可能らしい。問題点は索敵範囲が狭いことぐらいなのだとか。

 

そのため、志貴達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所には行くなと強く言われている。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連係を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからといってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合を入れろ!」

 

メルド団長のかけ声がよく響く。

小休憩に入り、八重樫と白崎の近くに腰掛ける。

白崎と目が合うと、なまじ昨日思い出話を少ししたのでなんというかむず痒い。それで目を逸らしてしまうと拗ねたような顔をされた。

それを横目で見ていたらしい八重樫にジト目で睨まれた。

 

「......ジィー.....」

 

「な、なんでしょう八重樫サン....」

 

「いえ、別に.....ただ、昨日香織が部屋を抜け出したと思ったら満面の笑みで帰ってきたから怪しんでたのよ」

 

こいつら同じ部屋だったのか?!

 

「あ、あはは....ちなみに、話の内容は聞いたりしたのかな?」

 

「へぇ、(はなし)してたんだ。てっきりいやらしい事でもしたんじゃないかって....」

 

言いながら少し赤面したのをちゃんと目にした。

恥ずかしいなら言うなよ...

しかしその言葉は最後まで言い切ることは出来ずに妨害が入る。

 

「し、雫ちゃん?!ダメだよそんな話しちゃあ!時と場合を考えようよ!」

 

そこからはなんやかんやで二人のじゃれ合いが始まっただけであったが、メルド団長に怒られたところで終わった。

 

怒られたことでシュンとした白崎を少しなだめていると背後から嫌な視線を感じた。視線の方向に顔を向けてみれば、誰がいる訳でもない。わけも分からず頭をかく。何度も教室で味わったような視線だが質が違かった。何倍もたちが悪かったのだ。

 

この時志貴は楽観して何とかなるだろ、なんて考えてしまったが、白崎の言う嫌な予感が当たり始めているのに気づくべきであった。

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一同は二十階層を探索する。

迷宮の各階層を数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通。

もっとも、現在では四十七階層までは確実なマッピングがされているので迷うことなく進むことが出来る。

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞(しょうにゅうどう)のように氷柱状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。

転移の魔法は神代魔法の部類らしく、また地道に帰らなければならない。一行は、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

すると俺達最前列の目の前に変なのが現れた。というより隠れていた。

壁に変なのがくっついているのだ。しかも保護色なのか壁の色に同化している。

....あ、これ魔物図鑑でみたな。

 

「擬態しているぞ!周りをよ〜く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

その直後、壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。名前は確か、ロックマウント。

カメレオンみたいな色を変える力を持ったゴリラっぽい魔物だ。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!剛腕だぞ!」

 

これは今日一番で面倒そうだ。八重樫と天之河が二人がかりで囲もうとするが足場が悪くて上手くいっていない。

坂上の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

「....嫌な予感がする」

 

直後、

 

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 

部屋全体を振動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

体にビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。コイツの固有魔法、"威圧の咆哮"だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

これをまんまと食らった天之河達は一瞬硬直してしまう。防ぎ方も分からなかったが咄嗟に耳を塞いだのが正解だったらしく俺に魔法の影響はなかった。

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップして、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達後衛組に投げつけた。

投げた岩は前衛組の頭上を抜ける。

急いでそちらに向かうが、不意に気づいてしまった。

投げた岩が岩ではなくロックマウントだったということに。そいつは空中で見事な一回転を決めると両腕を目一杯に広げて白崎達に迫る。それがあんまり気持ち悪いんで、迎撃するために発動しようとしていた魔法を中断してしまう。

 

俺はメガネを取ってポケットにしまう。外した瞬間の痛みは無視だ。

一転して世界(しかい)に『死』が満ちる。『死』を見るというのは戦闘中には便利ではなく。こんな(ちから)、本来は必要ないんだろうけど。

 

不思議と、体の動かし方は分かっていた。

岩、ロックマウントを追い抜いて後衛組の前に立つ。

 

「と、遠野くん!?」

 

白崎が驚いたような声を上げるが時間もないので構っていられない。

"ソレ"の『線』を視る。

『線』に狙いを定め半ば勝手に動く体に身を任せてその魔物に向かって跳ぶように走り"すれ違う"。

すれ違い際に首に一撃浴びせて"ソレ"を殺す。

 

「ふぅ。───大変な目にあったね。大丈夫だった?」

 

死んでいることを確認してからメガネを掛けて、白崎の方に歩み寄って、そうやって声をかける。

 

「う、うん....と、遠野くんは!?怪我とかしてない?私治せるよ!?」

 

「うん?別に問題ないかな。そっちの二人も怪我はないか?」

 

白崎の横にした二人に声をかける。

 

「う、うん。大丈夫.....」

 

「私も....」

 

あれは相当きもかったみたいで青ざめているが、ひとまずなんともないようで良かった。

 

「志貴!お前今の動きはなんだ!あの速さ、確実に私以上だったぞ!?それに型にハマったような動きだったが....」

 

目先の敵もいなくなったのでメルド団長がよってくる。

 

「いや、なんか体が勝手に動いたっていうか...」

 

「.....ふむ、心当たりが無いならお前の技能か。退魔の技能の一端かもしれん」

 

メルド団長は「戻ったらいろいろ調べてみるか」と言って元の配置に行くように促す。さすがに騎士団長。切り替えは早い。疑問とかそういうのを全て持ち越した。

 

「あ、あの、遠野くん!」

 

「ん?お礼なら別にいいよ。約束を守っただけだって。ほら『ピンチのとき───」

 

「す、ストップ!ストップだよ遠野くん!他にも聞いてる人がいるんだから!」

 

「?....ええっと、ごめん?」

 

志貴の手柄独り占めみたいになってしまったことで天之河が親の仇でも見るように睨んでいるが視線を感じるぐらいしか志貴には分からない。なにより天之河が無自覚なため殺気とは違う視線なのがネックだろう。

 

 

 

 

 

そんなこんなでそろそろ引き返そうという時に白崎が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「......あれ、何かな?キラキラしてる....」

 

その言葉に、全員が白崎の指さす方へ目を向けた。

そこには青白く発光する鉱石が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようだ。白崎を含めて女子達は夢見るように、そしてその美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ〜、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

聞いた事はもちろんないがメルド団長が説明してくれる。主に女子に。この鉱石が宝石の原石のようなもので、地球でいうダイヤみたいなもんらしい。

 

「素敵....」

 

白崎が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。ちらっと志貴の方を見たのは無論誰にも気づかれない。志貴にも、だ。

ちょうど横にいた八重樫はただ眺めているだけでさほど関心はないらしい。

 

「八重樫はあんまり興味ないの?俺、女の子は皆好きなもんだと思ってたよ」

 

「ええ。宝石とかにはあまり魅力を感じないわね。動物は好きだけれど....」

 

以前のペットショップの件で動物好きをバレているからか案外素直だ。簡単に説明すると去年、なんとなくペットショップに入ったら八重樫に遭遇したのだ。しかも兎のゲージに張り付いて。

しかし、普段と違う対応をされると、新鮮さより好奇心が出てきてしまい、ついからかってしまいたくなるがタイミングがタイミングなので今は無理だ。明日にでもなにか思いついたらやってみよう。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

唐突に動きでたのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所までたどり着いてしまった。

メルド団長は止めようとして檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。

 

────そして、一気に青褪めた。

 

「団長!トラップです!」

 

「ッ!?」

 

しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 

(鉱石にもトラップあるのかよ!?)

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり輝きをましていった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが.....間に合わなかった。

部屋に光が満ち、志貴達の視界は白一色に染まる。同時に浮遊感が一瞬体を襲う。

目を開けてみれば先程と同じ場所ではなかった。あの日の召喚のように転移させる魔法陣だったらしい。

すぐに騎士団員達は戦闘態勢に入る。それに習って前衛組も同様に構える。

今自分達がいるのは石作りの橋の上らしい。

何もない、強いて言うなら橋ぐらいしかない場所。まさに奈落の底。

橋の横幅は十メートルぐらいありそうだが、手すりどころか緑石すらない。足を滑らせればそのまま真っ逆さまだ。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

転移の衝撃で尻もちをついている生徒達に雷の如く轟いた号令。わなわなと動き出すが迷宮のトラップは転移だけではなかったようで、撤退は(かな)わなかった。

橋の両サイドに突如、赤黒い魔力の奔流と共に魔法陣が現れたからだ。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートルくらいの大きさだが、その数がおびただしい。

赤黒い、血色にも見える不気味な魔法陣は、一度ドクンッと脈打つと、一拍後、大量の魔物を吐き出した。

階段側の小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を添えた魔物トラウムソルジャーが溢れるように出現する。空洞の眼窩(がんか)からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き、目玉のようにギョロギョロと辺りを見渡している。その数は、ほんの数秒の間に百体近くになっており、尚、増え続けている。

 

背中がピリピリする。反対側にある、つまり通路側に体が全力で「危険だ」と叫んでいた。

振り返ればそこに居たのは、体格十メートル級の四本足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したのだ。まるでトリケラトプスのようだった。但し、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜に生えている角から炎を放っているという要素も追加されるが。

 

「まさか.........ベヒモス......なのか........」

 

一番最初に声を出したのはメルド団長だった。

いつだって余裕があり、生徒達に大樹の如き安心感を与えていたメルド団長が冷や汗を掻きながら焦燥をあらわにしている。

天之河がそのベヒモスとか言うのについて聞こうとするも───ベヒモスはそんな悠長な時間を与えてはくれない。

おもむろに息を吸い、それが開戦の合図だとでもいうように凄まじい咆哮をあげたのだ。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

「ッ?!」

 

その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ!やつを食い止めるぞ!光輝、志貴、雫、龍太郎!お前達は早く階段に向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も.....」

 

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは六十五層の魔物。かつて"最強"と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之河。何とか撤退させようと再度、メルド団長が天之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員、その巨体と突進力で圧殺してしまうだろう。

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、"聖絶(せいぜつ)"」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。たった一回、一分だけの防御ではあるが、何者にも破らせない絶対の守りが顕現する。

衝撃の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石作りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒するものが相次ぐ。

トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味なガイゴツの魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。

その内、一人の女生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。生徒達のだいたい真ん中にいた少女だ。

「うっ」と呻きながら頭を上げると、目前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りあげようとしていた。

 

「あ」

 

─────この距離なら届く。

腰を深く下げ、蜘蛛のように低くする。一直線だ。深く考える必要はない。さっきだって体が勝手に動いたのだから、それを頼りに同じことをすればいい。

簡単だ、この衝動に従えばいい。

 

「──ッ!」

 

閃光のような速度で加速し、トラウムソルジャーとすれ違いざまに首をへし折る。

 

「......」

 

「キツイと思うけど頑張ってくれ。ここで諦めてあっさり死ぬか、無様でも生き残る。どっちの方がいいかなんて....解るだろ」

 

この状況ではあまり構っていられないため自分なりに声をかけて立たせてやる。

 

「混乱してるだろうけどちょっと待っててくれ。いまリーダーを連れてくるから」

 

その子にはそれだけ伝えると前衛組の方に戻る。

この状況で生徒達はパニック状態。見ていた限りじゃ騎士団員の呼びかけじゃどうしようもないらしい。なら纏められるリーダーが必要だ。

それが誰かなんて分かりきっている。

 

「遠野君、今の動き....それにさっきも...」

 

前衛組の方に戻る無いなや八重樫に話かけられるがそんなの後だ。前衛組はメルド団長とこう論じみたことをしていた。残るのか残らないのか。天之河と坂上はノリ気のようだが、ここは撤退するべきだ。今ここで倒す必要なんてない。

 

「天之河、キミは早く撤退してくれ」

 

無視されたことに一瞬不服そうな顔をされたが今は後回しだ。

 

「いきなり何だ?遠野、お前の方こそ早く撤退しろ!」

 

「ええいうるさい!周りをよく見ろよ!このパニック状態のクラスメイト達をよく見ろ!普段からクラスをまとめてたのは誰だ?!お前が意地でも引き下がりたくない気持ちは理解できる!だけどその意地はいま必要か?人の命と天秤にかけるほどのものなのか、よく考えろ!」

 

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る天之河は、ぶんぶんと頭を振ると志貴に頷いた。

 

「ああ、わかった。すぐに行く!メルドさん!すいませ──」

 

「下がれぇーーー!」

 

天之河が"すいません、先に撤退します"そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴じみた警告と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

 

 

そこからの流れはこうだ。

 

ここで突然南雲が現れ、足止めできる方法があると言い出した。

俺にも仕留められる方法があることを白状し、周りの人達にフォローしてもらいながらなんとか仕留めた。

 

しかし仕留めた瞬間橋が崩落し、階段の方になんとか行けそうだったところを誰かの魔法(・・)にをぶつけられて落とされた。南雲は恐らく落ちてしまっただろう。下に何があるか分からないし落ちただけで死ぬかもしれないがあの魔法は多分──────────意図的なものだった。

 

 

「ーーー!!!」

 

 

最後に、俺が落ちるのを見て涙を流す。八重樫雫と白崎香織の顔が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。ちょっと強いからって調子に乗るから......て、天罰だ。 ......俺は間違ってない......白崎のためだ......あんな野郎に......もう関わらなくていい......俺は間違ってない......ヒ、ヒヒヒ」

 

暗い笑みと濁った瞳で自己弁護している男。名を檜山。南雲をいじめていた連中の一人である。

そう、あの時、志貴を襲った魔法、"火球"はこの檜山が放ったものだった。

バレないように絶妙なタイミングを狙って誘導性を持たせた火球を志貴に着弾させたのだ。

あの状況で流星の如く魔法が飛ぶ中、一人の誤射など気づきようない。

そう自分に言い聞かせて暗い笑みを浮かべる檜山。

その時、不意に背後から声を掛けられた。

 

「へぇ〜、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか......中々やるね?」

「ッ!?だ、誰だ!」

 

慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。

 

「お、お前、何でここに.......」

 

「そんなことはどうでもいいよ。それより......人殺しさん?今どんな気持ち?恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?それに、巻き添えくらってもう一人死んじゃったしね」

 

その人物はくすくすと笑いながらまるで喜劇でも見るように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが二人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。

 

「......それが、お前の本性なのか?」

 

呆然と呟く檜山。

それを、その人物は馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。

 

「本性?そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被ってるのが普通だよ。それよりさ......このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に......あの子が聞いたら.....」

 

「ッ!?そ、そんなこと......信じるわけ......証拠も.....」

 

「ないって?でも、僕が話したら信じるんじゃないかな?あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」

 

檜山は追い詰められる。まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言葉。まさか、こんな奴だったとは誰も想像出来ないだろう。二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。

 

「ど、どうしろってんだ!?」

 

「うん?心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない?ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」

 

「そ、そんなの......」

 

 

 

 

「白崎香織、欲しくない?」

 

 

 

 

 

彼から見たその人物は、まさに悪魔だった。

そして彼は、その悪魔の誘いに乗ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

()()けば

(おれ)()(ひとや). . .!

 

 

どこかわからぬ

地中(ちちゅう)(そこ)(そこ)

 

 

亡者(もうじゃ)()くう

地下王国(ちかおうこく)

いたっ. . .!!!

 

 

悪夢(あくむ). . .

 

(なんで(おれ)がこんな()に!?)

 

 

「ううっ...」

 

 

そうっ 悪夢(あくむ)

 

 

「ぐっ. . .!」

 

 

これが悪夢(あくむ)でなくてなんだっ!?

 

 

 

ああッ

 

 

 

それにしても(かね)()しいっ!!!

 

 

 

────などとバカな事をやってる場合ではなく────

 

「しっかし...」

 

当たりを一度見渡す。

 

「また えらい所に落とされたというか.........」

 

「何なのここ?」

 

 

どうやら遠野志貴は五体満足に無事らしい。

眼を行使したため頭が痛いが、それだけだ。メガネにも傷はない。

周りは薄暗いが緑光石(りょくこうせき)の発光のおかげで何も見えないほどではない。視線の先には幅五メートル程の川がある。

 

幸運だったのだろう。それかこの世界に来てから身体能力が上がったからあの高さでも大丈夫なだけかもしれない。

 

「そういえば....」

 

巻き添えくらって落ちていったヤツがいたはずだ。

しかしあたりをキョロキョロみてまわっても何処にもいない。

ここも迷宮の中だし、そのうち会えるだろ。と考えて早々に切り捨てた。

 

ここがどこかも分からないのでとにかく歩く。

ここは自然の洞窟といった感じで、複雑にうねうねと曲がっている。二十階層の最後の部屋のようだ。

適当な道を曲がってみれば魔物がいた。

ウサギ型の魔物と熊っぽい魔物だが、結果はウサギの圧勝。

 

「キュ!」

 

まるで「勝った!」とでもいうように雄叫びを上げている。

それにその魔物の戦闘力は以前までより圧倒的で自分がかなり下まで落ちてきたのだと直感した。

 

「冗談だろ....」

 

気づかれないように自分なりに足音を消しながらゆっくり戻る。

 

 

 

 

そうして、遠野志貴の前途多難を優に超す勢いでドキドキの地下生活が始まった。出口はまだない

 

 

 

 

 

 

 

 




感想と評価に比例してペースがあがったり下がったり

現在二つの作品を同時進行で進めているのですが、どちらを優先して書いて欲しいですか?

  • 殺人貴はダンジョンに行く
  • 殺人貴はトータスに行く(この作品)
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