君と共に在りたい
「…参ったね。僕の負けだ。降参だ」
カルデアの精鋭Aチームのリーダー、キリシュタリアとの模擬戦で尻餅をついて負けを認めた英霊エルキドゥ。見物していた他のチームの魔術師達から歓声と称賛の声が上がる。キリシュタリアは一礼した後、エルキドゥに手を差し伸べた。
「貴方との戦闘は良い経験になります。今回は私が勝ちましたが、次はどうなるか分からない。お互いに切磋琢磨していく関係でありたいですね。勿論、私だけでなく他の魔術師達ともね」
「そうだね。こちらも性能比べなら大歓迎だよ」
手を取らずに立ち上がったエルキドゥはその場を後にする。精鋭と言われるだけはあり、その力量は魔獣や神獣相手に戦ったエルキドゥですら舌を巻く程だった。
カルデアに召喚されしサーヴァントの第四号であるエルキドゥは、ダヴィンチと違い戦闘に特化したサーヴァントであったため、魔術師達の訓練相手を務めていた。
「やあ、模擬戦お疲れ様」
「おや、ロマン」
白衣を着た優しそうな青年ロマニ・アーキマン。通称ロマンはカルデアでドクターを務めている。
「早速だけどメディカルチェックといこうか。君はこうやって呼びに来ないとすっぽかすからね」
「僕は兵器なんだ。兵器にメディカルチェックなんかしてどうするんだい?そういうものは人間にするべきだろう」
「駄目駄目。戦闘によって霊基に異常が見られないかとか、調べることは山ほどあるんだから!」
「やれやれ、こういう時だけ仕事熱心だね」
「だ、だからあれは休憩してただけであってだね…!そ、それにこれは君のマスターの命令でもあるんだぞぅ!」
「ふぅん?まあ。マスターの命令なら仕方ないか。早く済ませようじゃないか」
医務室に向かうエルキドゥとロマン。医務室の中ではエルキドゥのマスターである防人ケンが待っていた。
「来たな、エルキドゥ。とりあえず座りなさい」
「うん」
「ケン君の言う事は素直に聞くんだなぁ…」
言われた通りに椅子に座るエルキドゥ。ケンはブラシを取り出して、戦闘でぼさぼさになった髪の毛を整え始めた。
「君も変わり者だね。兵器として扱ってほしいって言っているのに、こんなに甲斐甲斐しく僕の世話を焼くなんてさ」
「好きでやっている事だから…」
「魔術師はサーヴァントなんて使い魔くらいにしか思ってないのにさ。君はどうしてここまでするんだい?」
「…俺みたいな雑用係より、あんた達の方がよっぽど凄い。なら、相応の態度ってものがあるだろう」
「うーん、ケン君は相変わらず卑屈だね。これから召喚するサーヴァント用の種火や素材を集めているのはケン君なんだし、偉そうにとは言わないけど、もっとこう…」
「特異点修復に必要な最低限のレイシフト資質がないんです。俺は素材集めくらいしか役に立てませんから」
「それが十分役に立ってるって言ってるんだけどなぁ…」
話の通じなさに思わずめまいを起こすロマン。エルキドゥは髪を梳かれながらケンに話しかけた。
「代わりに高いマスター適性があって、チームには入れないけどスタッフとして勧誘されたんだっけ?」
「そうだよ。エルキドゥも俺じゃなくて、他の優秀なマスターの方が良かったんじゃないか?」
「うーん、そうでもないかな。こうしてマスターに色々してもらうのも、嫌って訳じゃないんだ」
「……負けたのに?」
髪を梳く手が止まり、ケンが問いかける。
「うん、そうだね」
エルキドゥは笑っていた。
「負けても、マスターにこうやって慰めてもらえるから、苦ではないかな。ほら、手が止まっているよ?」
「ああ、ごめん」
「うーん、僕出て行った方がいいのかなぁ。おかしいな、ここは医務室で僕は医者なんだけどなぁ…」
エルキドゥを召喚してもう数ヶ月になる。
掴みどころがなく、現代の色んなものに興味をもっている。
自分の部屋を与えられているのに、しょっちゅう他の人の部屋に遊びに行っているらしい。始めは俺の部屋に来るのは一週間に一回のペースだったが、しばらくすると殆ど毎日一緒に過ごすようになっていた。他の魔術師から大分顰蹙を買っていたらしく、一部を除いて迷惑がられていたようだ。魔術師はサーヴァントを使い魔みたいなものだと思っているからしょうがないと言ったら、俺は違うのかと聞かれた。
俺はそんな大層な魔術師ではない。過去の偉人を呼び出して小間使い扱いなど恐れ多すぎる。
そう答えたら笑われた。何なんだまったく。
エルキドゥは自分の事に無頓着だ。着ているのは布一枚と言って差し支えないものだし、模擬戦で汚れていても気にしていない。自分の事は兵器だと思って気にせず使い潰してくれと言っていたが、関係ないだろう。銃でも刀でも日頃のメンテナンスは大事だろうに。
使った事無いけど…。
俺には勿体ないくらいの凄い兵器だから大事にするんだと言ったら、それ以降はブツブツ言うけど拒否はしなくなった。
エルキドゥが初めて模擬戦で負けた。チームを組まれての対戦では負けることもあったが、今回は一対一での決闘方式で初めて負けた。いつもより酷い汚れ方であったが、エルキドゥは気にしていない様子だった。
エルキドゥがまた負けた。精鋭のAチーム相手だと一対一で負けることが多くなってきた。魔術師達はどんどん強くなっていく。エルキドゥは特に気にしていなかったが、俺は何だかモヤモヤした。
俺の日常にエルキドゥがいるのが当たり前になっていた。
重い荷物を運んでいるとやってきて、ニコニコしながら付いてくる。手伝ってくれと言ったら半分持ってくれた。
飯の時間に隣に座り、欲しいおかずと俺の顔を交互に見つめてくる。仕方ないから半分あげた。
部屋に戻るとベッドに腰かけていて、自分の膝を叩いた。無視してベッドに潜ったら、隣に入り込んできた。
何もなくても隣にいる。理由は無いが手を繋いだ。
何の変哲もない日常。エルキドゥと一緒に歩くのが当たり前になった日常。
それは突然、終わりを迎えた。
空から降ってきたおぞましく黒いナニカがエルキドゥの体に絡みついた。
力が抜けた人形のように倒れるエルキドゥを支える。
触れて分かった体の軽さに驚きつつ、エルキドゥを抱きとめる。
エルキドゥの体を黒いシミが覆っていく。
令呪を使って侵食を食い止めようと試みる。
止まらない。
令呪を使って黒いシミを取り除こうと試みる。
消えない。
エルキドゥの体のあちこちが崩れていく。
最後の令呪でエルキドゥの回復を試みる。
治らない。
――――エルキドゥ!!
打つ手を失い、ただ叫ぶ。なんで、何故、どうして、エルキドゥがこんな目に遭わなければならない。
あいつが何をした。俺が何をした。
――――エルキドゥ…!!
ボロボロと崩れていく手を握る。必死になって抱きしめる。他に何もできない。何もしてやれない。
――――泣かないで
エルキドゥの手が頬に触れた。
――――お願いだ、泣かないでほしい。僕は兵器だ。兵器でありたい。……もう友を泣かせる存在になりたくない。大事な人に、消えない瑕を付けたくない
エルキドゥが何を思っていたのか分かった。今になって分かった。
分かっても無理だった。感情を塞き止める事は出来なかった。
――――お前だって、泣いてるだろうが…!!
――――マス…ター……
――――瑕がなんだよ…そんな事だけで、今までのお前を消せっていうのか…!?できるわけないだろうがぁ…!
――――……僕だって……僕だってぇぇぇぇ……!!
――――来てくれたのが他の誰でもないエルキドゥで、心から良かったと思ってる…!!!
――――…う…ん……!ぼ……く…も……しあ…わ……せ……
泣き笑いのような表情で、エルキドゥは腕の中から消えた。
何も残らなかった。
「マスター…これは何だい?」
自室にエルキドゥを呼び出し、てんこ盛りの種火と素材を見せた。
「お前の強化素材だよ」
「うん。そうじゃなくてね?これだけの量、よく分けてもらえたね?」
「所長を脅した」
「うん。……うぅん?」
「正確には、ドクターロマンとダヴィンチちゃんを味方に付けて略奪した」
「えぇぇ……」
困惑しているエルキドゥ。いきなりこんな事されたらこうなるのも分かるが。
「大事なサーヴァントの為だからな。これくらい屁でもない」
「気持ちは嬉しいよ、マスター…。だけど、もう何度も言っているけど僕は兵器なんだよ?だからさ…」
「分かっている。だから、
「………え」
「兵器でも何であってもいいから、誰にも負けないでくれ。俺も……エルキドゥの事だけなら、誰にも負けないようになる」
「……マスター…」
綺麗に透き通った瞳がこちらを見つめる。不意に、何かを悟ったようにやれやれと笑った。
「僕はどこにも行かないよ?」
「分かってるさ。だからって何もやらないのは違うだろ」
「そうだね……ああ。その通りだ」
目の前の素材が一つ残らずエルキドゥの体内に入っていく。薄い金色のオーラを纏ったエルキドゥが、俺の手を優しく握った。
――――ケンも、僕と同じ夢を見たのかな
――――滅茶苦茶に泣いて、苦しんで。それでも、君は逃げずに僕と一緒にいてくれるんだね
――――ケン、一緒に立ち向かおう。過去を消すことはできない。あの時の後悔はずっと染みついたままだ。それでも僕のマスターでいてくれるのなら、僕も約束するよ。二度と僕の友達を泣かせるような未来は来させない。
――――僕は負けない
「ありがとう、マイ・マスター。これからは、ケンって呼んでもいいかな?」
「好きなように呼んでくれ」
「うん、そうするよケン!」
シミュレーター内で対峙するキリシュタリアとエルキドゥ。雰囲気が変わったエルキドゥを見て、キリシュタリアはほう、と呟いた。
「始める前に、君に謝りたい事がある。この間の発言は無かったことにしてほしい。切磋琢磨とか、何とか…あまり気にしていられなくなったからね」
「そうですか。理由をお聞きしても?」
エルキドゥの周囲の空間から黄金の波紋が広がる。それを見たキリシュタリアは笑みを浮かべた。
「負けられない理由ができた。僕が勝てば喜んでくれる人がいる。だから全力で応えたい。
――――これから僕と戦いたい奴は、覚悟しておけ。僕には卑屈で世話焼きで、ずっと一緒にいたいマスターがいる」
その日から、エルキドゥに勝てた魔術師はいなかった。
・防人(さきもり)ケン
結構初期からカルデアにいる。特異点へのレイシフトこそできないが、安定しているカルデアゲートからのレイシフトによる素材集めとエルキドゥを呼んだ功績でカルデアスタッフ兼マスターとしてカルデアに残留。
雑用係と自分を評し、周囲との能力差を自虐するが、それで腐らずやれることを探し出して取り組む鋼の精神の持ち主。
エルキドゥとの関係で悩んでいたが、夢の中で自分の気持ちをさらけ出したので覚悟が決まり、自分の人生をエルキドゥに捧げ、どのような困難も一緒に乗り越えようと腹をくくった。
・エルキドゥ
ダヴィンチちゃんの次に呼ばれたカルデアの古参英霊。召喚に応じた理由はケンが孤独で過労死しそうなところが盟友と似ていたから。
ちょっかいを出して反応を見て楽しんだり、世話を焼かれたりとケンと過ごす日々は案外悪いものではなく、本人も結構惹かれていた。
かけがえのない日々の中でふと過去を思い出してしまい、自身が死んだときの夢を見てしまう。
夢の中ではあったが、自分の気持ちとケンの気持ちを再確認し、自分のために迷わず動いたケンを見て奮起。神罰だろうが何だろうがなぎ倒すと心に決めた。
ギルガメッシュが盟友なのは変わらないが、ケンに関しては盟友の他にも色々と感じている。
もしも特別編が出るなら、どんな話がいいですか?
-
異世界トリップ(クロスオーバー)
-
学園パロディ
-
エルキドゥ・バース
-
エルキドゥ以外の英霊とケンの日常