煌びやかな装飾品で飾り付けられたカルデアの食堂に、赤と白を主役にした衣装を来た人々が集まり今日という日を祝っている。
本日はクリスマス。サンタになったサーヴァントにサンタ衣装を着たサーヴァント。スタッフやマスターも皆混ざってクリスマスパーティーを楽しんでいた。
キッチン担当のサーヴァント達が今日の為に、腕によりをかけて作ったご馳走の前で、サンタ帽にサンタ服を着た緑の麗人が紙皿片手に視線を迷わせていた。
「どれも美味しそうだなぁ。迷うけど……チキンを貰おうかな」
チキンレッグを1つ口に咥え、更に数本を皿に乗せる。行儀が悪いが今日は特別な日。これくらいで目くじらを立てる者はいなかった。
「おいひいおいひい(もぐもぐ)」
チキンを咀嚼しながらも次の獲物を探して回るエルキドゥ。ちょうど焼きたてのピザが運ばれてきたのを見て、テーブルに置かれた瞬間を見計らって手を伸ばす。
その時、隣から伸ばされたもう一本の手に気付いて動きを止めたエルキドゥ。もう一本の手の持ち主もまた、動きを止めてエルキドゥと視線を交わす。
「……あ」
「げっ……」
相手は美の女神イシュタルだった。睨み合って一歩も引かない二人。和やかムードの中で張り詰めた空気が流れだす。異変を察知した参加者たちが、どうなる事かと二人の様子を窺っている。
先に動いたのはエルキドゥだった。
「…………取りなよ。食べたいんだろう?」
「…………えっ?」
「僕は他のテーブルから貰ってくる。取っていいよ」
「……あ、うん。ありがと…う…?」
困惑した様子でお礼を言われ、思わず鳥肌を立てながら距離を取ったエルキドゥ。困惑しているのは周りの参加者たちも同じで、いつも顔を合わせるたびに罵り合い、殺し合いを演じる二人が穏便に事を済ませたのはとても珍しいことだ。
まさかこの会場が特異点に?なんて突拍子もない意見が飛ぶほどには衝撃的だった。
「貴様にしては大人しい反応ではないか、エルキドゥよ」
「…ギル」
「てっきり七面鳥でも投げつけるのかと期待しておったがなぁ?」
「…そんな事はしないさ」
皆が紅白の衣装に身を包む中、空気を読まずに金キラの鎧姿の英霊王ギルガメッシュ。長年の友人の彼から見ても、エルキドゥの反応は珍しかった。
「フン、まあ理由なぞ簡単に想像つくわ。あの雑用係に言い含められたのであろう?」
「……うん」
姿の見えない雑用係に釘を刺されていたエルキドゥ。どこか遠くを見つめるように、ぽつりぽつりと語りだす。
「あれは、このクリスマスパーティの準備をしている時だったよ。ほわんほわんほわんえるきどぅ~…」
「………………え、回想入る流れかコレ…」
~~~~~~~~
話はパーティが始まる前の準備期間中まで遡る。ケンとエルキドゥは食堂の飾りを取りに備品室まで来ていた。
「ケン、これで全部かい?」
「ああ。それだけあれば足りるだろう」
「それにしても、立香の行動力は凄いね。パーティを企画して、所長に許可を取りに行って、サーヴァント達に指示を出してさ」
「誰かがクリスマスにトラブルを起こさないようにする牽制も兼ねてるんだろう。立香ちゃんの企画なら蔑ろにする人はいないだろうからな」
「本当、逞しくなったよね」
話をしながら飾りをダンボールに詰めていく。
「お前も大人しくしてるんだぞ」
「理解しているよ」
「例え相手が神イシュタルでも、絶対に暴れたりするなよ」
「えー…」
思いっきり渋い顔をするエルキドゥに、ケンは念を押す。
「フリじゃないからな。大人しくしてるんだ」
「分かったよ…」
渋々承諾したエルキドゥだったが、ここで彼の中の悪戯心が顔を出した。
「ねえ、もしも僕がトラブルを起こしちゃったら、どうするんだい?」
「ん?そうだな…」
軽い気持ちで聞いたエルキドゥに、ケンが少し悩んだ後に答える。
「――――お前の事、嫌いになるかもなぁ」
エルキドゥの手から飾りが落ちる。スマートフォンで時間を見ていたケンは、それに気付かない。
「あ、もうこんな時間だ。すまん、別の用事があるから、これを食堂に運んでおいてくれ。頼んだぞ?」
備品室から出ていくケン。エルキドゥの頭の中では、さっきの言葉が反復して響いている。
――――”お前の事、嫌いになるかもなぁ“
――――”お前の事、嫌いになるかもなぁ“
――――”お前の事、嫌いになるかもなぁ“
――――”お前の事、嫌いになるかもなぁ“
――――”お前の事、嫌い”
――――”お前が嫌いだ”
――――”お前なんか嫌いだ。契約も切る。二度と近づくな”
~~~~~~~~
「うわああああぁあああぁぁああ!!!!
あああああぁぁあああぁああぁあぁああああ!!!!
やだああぁああああぁああぁああ!!!
嫌いにならないでぇえええぇええええぇえええぇ!!!!」
「落ち着けエルキドゥ!!!妄想で泣くな!!!ええい、現世で人間臭くなったがそれ以上に面倒臭くなったな我が友はァ!!!」
パーティのど真ん中で泣き叫ぶエルキドゥ。参加者たちの視線は近くのギルガメッシュに集中する。
「なんだ雑種共その目は!!これは我が泣かせたのではない!エルキドゥが勝手に泣いたのだ!!
……おいその”いじめっ子がよく使う言い訳しやがって”という視線を送るのは止めろ!!いや我も言っていてそう思ったが!!事実だから仕方なかろうが、たわけ!!」
周囲からの謂れのない冷たい目線に怒る英雄王。
「……近くにいたのでおおよその事情は理解したでち。よちよち、もう泣くのは止めるでちよ。ケンはお前様の事を、例え操られても酷い事は言わないでち」
「我が敬愛なる反逆者の一番槍よ。君の抱く悲しみは偽りである。悲しみに反逆せよ!!」
「ぐすっ……うん……」
近くにいた紅閻魔とスパルタクスが慰めに入り、エルキドゥは泣き止んだ。内心胸を撫で下ろすギルガメッシュ。
「……で、元凶の雑用係はどこにおるのだ」
「そういえば、姿が見えまちぇんね」
「ぬう、よもや祭事に反逆しているのか…?」
「ん……」
不意にエルキドゥの体が熱くなる。
「ケンが呼んでる」
「え?」
「ちょっと行ってくるね」
そう言って食堂から出ていくエルキドゥ。小走りで向かった先には、令呪が一角消えたケンが待っていた。
「ケン」
「急に呼んで悪かったな。それじゃあ、ついてきてくれ」
「うん。でもどこに行くの?」
「お前の故郷だよ」
レイシフトした先は古代バビロニア。ウルクの都の中を二人は手を繋いで歩く。
「ねえケン、どこに行くのかそろそろ教えてくれても良いじゃないか」
「まあ、もう少しで着くから」
「むぅ…」
むくれながら大人しくついていくエルキドゥ。少し歩いた先に、見慣れた建物があった。
「………あれって」
「カルデアの拠点に使ってた建物。中もちょっと変えてあるから、入ってみてくれ」
そう促されて、拠点へ入っていくエルキドゥ。
「――――え?」
「………遅いぞ。いつまで待たせるつもりだ」
「メリークリスマス。こう言えば良いんですよね、エルキドゥ?」
テーブルに着いて頬杖をついている、キャスターのギルガメッシュ。
そして、司祭長のシドゥリもいた。
「何を呆けている。早く席に着け」
「え、あ、うん…」
「こうして三人で話すのは、久しぶりですね…」
椅子に座ったエルキドゥは振り返る。そこにはケンの姿は無かった。
「この席は、あの雑用係がお前のために用意したものだ」
「…そうなの?」
「お前が一番喜ぶ贈り物は、この我と話をする事だとほざきおってな…」
「…良いのかい、ギル。王になった君は、僕と話す事は無かったんじゃないのかい?」
「………今夜はオフだ、構わん」
「ギル!」
「最初は王も駄々をこねていたんですが、彼がエルキドゥと過ごす聖夜の大切な時間を割いてまでお願いしているのですからと、私が進言してやっと…」
「シドゥリ、余計な事を言うな」
「申し訳ありません」
笑みを隠そうともしないシドゥリに溜息を吐くギルガメッシュ。エルキドゥもまた、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、まずは僕がいなくなってからのウルクの話が聞きたいな」
「ああ。長くなるぞ」
「ふふ…」
知識としては知っていても、友人から自分の死後の話を聞くのはこれが初めてだった。
たった一夜の語らいは、エルキドゥに暖かな感情を確かに与えた。
パーティの片づけを終えて、自室に戻ったケン。
「おかえりなさい、ケン」
「戻ってたのか」
サンタコスのエルキドゥがケンを出迎える。
「俺からのクリスマスプレゼント、気に入ったか?」
「うん。本当にありがとう。君からの贈り物は、僕の霊基にしっかりと刻み込まれたよ」
「言い方が大袈裟だな…。まあ、喜んでくれたなら良かったよ」
「うん。それでね、僕からもプレゼントがあるんだ。是非受け取って欲しいな」
「プレゼント?あるのか?」
エルキドゥは部屋の扉にロックをかける。
「鍵までかけるのか?」
「二人きりを邪魔されたくないからね。今、準備するから僕が呼ぶまで後ろを向いててね」
「用意周到だな…」
言われるがまま待機しているケンの後ろで、エルキドゥは静かに服を脱いだ。そしてベッドに仰向けになって寝転がり、名前を呼んだ。
「ケン、良いよ」
「おう……!?」
ベッドには体中にリボンを巻き付けたエルキドゥが、ケンに視線を合わせながら顔を赤くして仰向けに寝ていた。
「はは、流石に恥ずかしいね…。僕にも羞恥というシステムはあったみたいだ」
「お前な…」
「……君にも、僕という存在を心に、魂にまで刻み込んでもらいたかったんだ。こっちに来てくれるかい?僕の愛しい人…」
「……当然だろ」
エルキドゥに覆いかぶさるように、その体を抱きしめる。お互いの体に自分の顔を押し付ける二人。
「お前の体、貰っていいんだな?」
「うん。メリークリスマスだよ、ケン。……僕を、召し上がれ…」
「…メリークリスマス、エルキドゥ」
二人が交わした口付けは、クリスマスケーキよりも甘くて優しい味だった。