今年もあと少しで終わる。年の瀬のカルデアは賑やかに騒いでいる所もあれば、静かに新年を迎えようとしている所もある。
カルデアに響く鐘の音。今年の終わりを予見させる音は、来年への期待と一抹の寂しさを味あわせてくれる。
「とはいえ、山の翁にやらせるとはなぁ…」
鳴り響く晩鐘は誰の名を表してるのか。除夜の鐘の音をマシュに聞かせたいとかで、立香ちゃんが頼んでやってもらっているらしい。
「おかえり、ケン!待ってたよ!」
部屋では炬燵に陣取ったエルキドゥがニコニコ笑っていた。
「ほら、エミヤ特製スペシャル年越しそばだぞ」
「わーい!」
ほかほかと湯気が立つ大きな丼の年越しそば。天ぷらとかき揚げに卵が入った豪華なそばは、ちょっと贅沢な気分にさせてくれる。
「いただきまーす」
「いただきます」
そばを適度に冷ましてから、一気にすする。幸せを噛み締めた表情のエルキドゥは、次に天ぷらに手をつける。つゆを吸いきっておらず、サクサクとした食感を残している天ぷらにかぶりつき、さっきと同じく幸せそうな顔を見せた。
「ふふ、おそばも天ぷらも両方美味しい…」
「はー……暖まるな」
つゆも美味い。エミヤの料理は同じメニューでも食べるたびに変化していて、飽きがこない。そばを堪能していると、エルキドゥが体をこちらに寄せてきた。
「寒いなら、こうすればもっと暖かくなるよ」
「……そうだな」
くっついてそばをすする俺達。この何の変哲もない時間も、年末となると特別なものに思えてくる。
「新年はカルデアの皆で、紅閻魔の所に慰安旅行に行くんだっけ?」
「ああ。借金騒ぎも解決して繁盛してるみたいだからな。全員で羽を伸ばそうって話だよ」
「この時、あんな事が起こるなんて今の僕達には予想できない事だった…」
「不吉なモノローグ付けるの止めてくれる?」
「んふふ」
そばを食べ終わったエルキドゥが、俺の腕に抱き着いて頬擦りしてくる。お返しとばかりに顎を撫でてやれば、気持ちよさそうに声を漏らす。
「ん…♪気持ち良いよ、ケン」
「そうか…」
「こうやって君と触れ合えることは、僕にとって幸せな事だ」
「俺もそうさ」
エルキドゥのは俺の手を取って、その綺麗な指を丁寧に絡ませる。優しく細められた金色の瞳と視線が交わった。
「ケン」
「うん?」
「来年も…ううん。これからずっと、ずーーっと、よろしくね」
「はは、そうだな。これからずっと、よろしくな」
何度年を越しても、俺とエルキドゥの関係は変わらない。
新年を知らせる晩鐘の数は、あと残りわずかだ――――。
良いお年を!