「という事があって、今ガンヴォルトとは協力関係にあるの。別に彼は常に人を殺そうなんて考えは正直ないと思うわ。ただ欠点とするなら、あの力の事を全然教えてくれない事ね。あの力がなんなのか分かればノイズに対抗出来る戦力強化が見込めるんだけど…」
奏は翼と共にガンヴォルトの事を了子に教わった。最後の一言だけは私情が混ざっているのは気にしてはいけない。
それで、ガンヴォルトが別世界の人間であり、
「詳しくはガンヴォルトに聞いた方が良いかもしれないけど、彼自身も余り話してくれるかは分からないけどね」
そう呟いて、了子は紙コップに入ったコーヒーを飲む。
「なんとなくは分かったと思う。でもなんであいつの事をみんな信用しているかがわからねぇ」
「まぁ、その辺は人それぞれよね。弦十郎ちゃんは翼ちゃんを助けてもらった恩義もある。翼ちゃんなんて彼に逆プロポーズする程だからね」
「さ、櫻井女史!あ、あれは違う!それっぽく聞こえただけでそのような事は決してない!」
了子の言葉に顔を真っ赤にさせて慌てる翼。一度咳払いをして先程の事をなかったように話し始める。それでも顔の赤さが引かず了子はそれを見てニヤニヤしていた。
「私はあの人を信じてる。私を救ってくれて、ノイズという脅威に苦しんでいる人々を救ってくれている。我々と同じ志を持っている人を疑いたくはない」
翼の彼に対する信頼はそこから来ている事を知る。その言葉を聞いた了子は青春しているわね、と先程から変わらないニヤけヅラで呟いた。
「だからって私の意思は変わらないよ。例え、それが人を救うためだったとしても、人を殺す奴の事なんか。ましてや家族を見殺しにした奴の事なんか」
「奏ちゃんの家族を見殺しにされたかもしれないという憎しみは簡単に消えるようなものじゃない。それは私たちのような、経験した事のない者からするとなんとも言えない事は理解しているわ。でもね、あの子も頑張って貴方や家族の事を救おうとしていたのは事実よ」
「だからって」
「奏ちゃん」
了子は奏の言葉に被せるように言った。
「憎しみは簡単には消えないかもしれない。でもね、ガンヴォルトの話もしっかりと聞いてあげなさい。例えそれが憎い相手だったとしても。そうでないと貴方はその感情を持ち続ける生き方をしなきゃいけない。それが悪いとは言わないわ。その代わりに貴方の大切な感情すら消えていくかもしれないのよ。それに、話をしても何かしら答えてくれるでしょ?ガンヴォルトだって受け答えの決められた機械じゃないんだから」
「でも!」
奏は再び何か言おうとするが了子が口に指を当て止める。
「大人の忠告はたまには聞いておきなさい」
そして、了子は口から指を外すとコーヒーを口にしようとする。しかし何時の間にか空になっている事に気付いたのかコーヒーの入っていたコップを置く。
「ごめんね翼ちゃん。コーヒー無くなっちゃったからお使い頼んでもいいかしら?もちろん貴方達の分も好きなの買って来ていいから」
そう言って了子は通信端末を翼に渡す。翼はそれを受け取ると部屋から出て行った。
「私は…私はそれでもあいつとは分かり合える気はしない。あんな奴…」
「そんなに背負い込んで悩まなくていいの。貴方にはまだ沢山時間があるんだから。早急に答えなんて出さなくても大丈夫よ。ゆっくり考えて貴方なりの答えが出たら彼に話すのもいいんじゃない?」
「私の答え…」
多分、答えは今だと直ぐに許せないというだろう。例え、考えていてもその気持ちは変わらない。
「多分、私の答えは変わらないはずだ。あんな奴とは一生分かり合うつもりもない。了子さん達があいつを信用してても絶対に私はあいつの事を」
「だから、考えが早急過ぎるのよ奏ちゃんは。さっきも言ったけどゆっくり考えなさい。でも、もしも貴方の考えが変わらないというのであれば…」
了子は奏の頭に手を置いて
「その時は貴方が家族の仇としてガンヴォルトを殺せばいい」
一気に血の気が引いた。その言葉の真意は分からないが、今までに了子からは感じた事のない気配を感じた。しかし、すぐにそれは収まり、いつもの了子の雰囲気に変わる。
「なんて冗談よ。さっきの事は忘れなさい。」
そう言って頭を撫でる。そのタイミングで自動ドアが開き、三人分の飲み物を持った翼が入ってくる。
「櫻井女史。さっき技術班の方から連絡があって研究室の方に来て欲しいそうです」
「そう。分かったわ。翼ちゃん知らせてくれてありがと。じゃあ、私はこれで失礼するわね。あっ、言っておくけどここで話した事はガンヴォルトだけには言わないように。あまり、ガンヴォルトに負担を掛ける訳にもいかないしね」
了子はそう言って翼からコーヒーをもらってから部屋から出て行った。奏は先程撫でられた頭を触りながら先程出て行った扉の方を見続ける。
「奏、私がいない間に櫻井女史と何か話してたの?」
翼が奏に買ってきたお茶のカップを渡しながら尋ねてくる。
「あいつについての事で考えなさいって散々小言言われただけだよ。全く、あいつの事ばっか聞かされて嫌になるよ」
「もう、櫻井女史だって考えなさいって言ってたじゃない」
「私はあんな奴の事なんか一秒たりとも理解するために考えたくなんてないね」
そう言って渡されたカップに入ったお茶を一気に飲み干す。そして、先程の会話について翼と喋っていると二人の通信端末に連絡が入る。弦十郎からだ。
『奏、翼。今からトレーニングルームへ来てくれ。これからは前にも話した通り君ら二人にはコンビを組んでもらいノイズと戦ってもらう。急造に作ったコンビネーションじゃ実戦では使えないからな。俺が稽古をつけてやる』
「分かったよ。でも旦那?シンフォギア装者の稽古なんて旦那に出来るのかい?」
少し冗談に聞こえた言葉に奏も少し笑いながら答える。
『心配無用。お前達の相手なら俺で不足ない』
「言ったな、旦那。なら負けたら何か罰ゲームだかんな!」
「ちょっと奏!叔父様にそんな条件出しちゃ」
翼が慌てるようにそう言っているが奏は制止を聞かず話を続ける。
「なら決まりだ。負けたらどっか美味しい物たらふく食べさせてもらうからな!」
『ははは、それは俺に勝ててから言ってもらいたいな。なら俺が勝ったら地獄のトレーニングコースと行こうか。とにかく、トレーニングルームへ来るんだぞ』
そう言って弦十郎は通信端末を切った。
「やったな翼。今日は美味しい物がたらふく食べれるぞ!」
翼の方に笑みを浮かべて向くが、翼はげんなりした表情を浮かべていた。
「どうしたんだよ翼。少しは喜べよ。割りの良い話だったんだし」
「…奏はまだ何も知らないからね。仕方ないといえば仕方ないかもしれないけど、叔父様がどんな人なのかを…」
翼は何も知らない奏が少し羨ましくも憐れに思ってしまう。そして奏に手を引かれた翼はトレーニングルームへと急ぐのであった。
◇◇◇◇◇◇
結局、奏と翼は弦十郎という何処か人間をやめかけている漢に負けて弦十郎流の地獄のトレーニングを受ける事となった。
「なんなんだよ、あれ。シンフォギア装者二人相手に素手で圧倒するなんて」
「だからやめとこうって言おうとしたのに奏が勝手に約束しちゃうから」
スポーツウェアを着た二人は黙々と腕立て伏せを行っていた。弦十郎はというとジャージ姿で竹刀を持つ時代が少し古めな格好で二人を見ている。
「こら、無駄口叩いてないで歌でも歌え。装者の力は歌によるフォニックゲインが鍵になるんだからな。それにまだ腹筋とスクワット、ランニングも残ってるんだぞ」
弦十郎は軽く竹刀で地面を叩く。
「一昔前の体育教師かよ」
奏は不満そうに呟いた。
「これもノイズに負けないためよ。頑張りましょう」
翼がそう言って腕立て伏せを続ける。流石に歌いながらは恥ずかしいのか二人とも無言で腕立て伏せを続ける。
「そういえばガンヴォルトがいないけど大丈夫なの?」
ここにいないもう一人の戦闘員について翼が尋ねた。自分達だけがトレーニングしているのに姿が見えないのが気になったからだ。
「ああ、ガンヴォルトの事か。ガンヴォルトはお前達が来る前に軽くスパーリングしてたからな」
「叔父様。ガンヴォルトって近接格闘出来るの?ノイズとの戦いは基本的にあの人は銃と雷撃しか使わないからどうか分からないけど」
翼の疑問に奏も少し感じている部分もある。確かにガンヴォルトの基本は
「ガンヴォルトは一応格闘術も扱えるな。慎次とも結構スパーリング程度だがあいつもかなりのレベルの技術を持っているぞ。それに俺や慎次の技も異常な勢いで吸収していくからな」
翼は少し興味があるように関心を向けるが奏は興味がないのか黙って腕立てを行う。正直、奏はガンヴォルトの事なんてどうでもよかった。
「まあ、それはおいおいガンヴォルトから聞いてくれればいいさ。それより二人ともペースが落ちてるぞ、喋らず歌って身体に馴染ませていけよ」
何故か弦十郎自身が歌い始めた。その歌を聴きながら彼女達はトレーニングに励んでいった。