ライブ会場では装者達の戦闘、そして絶え間なく迸る雷撃と銃声が響き続けていた。
「アッシュ!君もやっぱり僕同様に英雄に相応しい人物だよ!君こそが僕の側に立つ英雄だよ!」
その戦闘を攻撃の届かないライブ会場の個室で見るウェルはアッシュボルトを見て楽しそうに笑い声を上げる。そしてアッシュボルトとの出会いを思い出していた。
◇◇◇◇◇◇
一研究者として燻り、誰からも自分の思想を馬鹿にされ続けた。ウェルの思想は間違っている。そんなものにお前の様な者がなれるはずもないと。
だが、七年前にアッシュボルトが自分以外の研究者達を殺して自身も殺されそうになった時、ウェルは死ぬ間際にアッシュボルトへと自身の夢を、英雄になる存在なんだと悲鳴の様に叫びを上げた。
「ほう、英雄になりたいか」
アッシュボルトはその時のウェルに何を思ったのかは分からない。
だが、アッシュボルトはその言葉に銃を下ろしウェルの思想を聞いた。ウェルは生きたいという執念と英雄になるべき人物だと自分の事をアッシュボルトへと告げた。
「そうか。ならばこんな所で聖遺物という物を研究しても意味はない。私と共に来ないか?そうすれば君の語る
銃をしまい、手を差し伸べるアッシュボルト。
それはまさに運命の出会いだと感じた。誰にも馬鹿にされ続けた自身の理想を。目の前の男は馬鹿にもせず、真摯に聞き、それを為せると豪語したのだ。
「本当に…本当に君と共に行けば、僕は本当に英雄になれるのかい?」
不安であったがアッシュボルトへと問うとアッシュボルトは頷く。
「君の思い描く英雄像は私には分からないが必ずなれるだろう。誰しもが思い描く理想の英雄に。だが、その為にはかなりの時間が要するがな」
「関係ない!僕が英雄になれるのなら十年だろうが百年だろうが関係ない!僕自身が生きて歴史に名を刻み、英雄として語り継がれるのなら!」
そしてウェルはアッシュボルトの手を取る。
「いいだろう。ならば私達が君を英雄になれる様に力を貸そう。私の目的の為にも君のその知識を活かしてくれるならば君は必ず英雄となれるだろう」
そう言って口約束ではあるがアッシュボルトは自身が英雄になれる事を約束してくれる。
「協力してくれるならば私の名を教えておこう。私はア…いや一度死んだ名を語るのは止めよう。私はアッシュボルト。タケフツ・アッシュボルト。君を英雄へと変える人物であり、いずれあの世界を変える守護者だ」
一度死んだ、あの世界とは意味が分からなかった。だがウェルはその言葉よりも英雄になれると聞いて舞い上がった。
もう誰にも馬鹿にされない。誰にも理解されない夢物語だと思っていた英雄がこの男なら叶えてくれると。
「よろしく頼むよ!アッシュ!僕はウェルだ!君と共に英雄となる存在だ!」
「私がなるのは英雄などではないのだが…いや、私の目的もいずれ同じとなるのか?」
何か考えるアッシュボルトだが、直ぐに答えが出たのかそう言うとウェルと共に自身が所属していた研究室から抜け出した。
◇◇◇◇◇◇
それがアッシュボルトとの運命の出会いであり、アッシュボルトの言う通りしていれば大体が上手くいっていた。
この国を危機に陥れたフィーネに起動させ、予定とは違うがソロモンの杖も回収出来た。
「まさに世界が僕等という英雄が生まれるのが決定付けられた様に事が進む!こんな嬉しい事、笑いを堪えるのが不可能だよ!」
高笑いを上げるウェルはアッシュボルトを眺めながらそう叫ぶ。
「だからこそ、僕等の
そしてライブ会場で戦う装者へと視線を移す。
「さてと、タイミングはアッシュがしてくれるからいいとして、僕もソロモンの杖をもう少し操作してみたい好奇心もあるし、ちょっと手伝ってあげるよ。F.I.S.の少女達」
そう言うと新たにノイズを召喚させるとウェルは二課所属の装者へと向けてノイズを仕掛ける。
装者達もマリア達と相対しながらもノイズを蹴散らしていくが、幾ら練度が此方よりも高いといっても無敵ではない。幾らでも隙を作る事が出来る。
そう考えていたウェルはほくそ笑むが、あろう事かノイズ達はアッシュボルトと対峙するガンヴォルトが刹那に雷撃を飛ばして全て炭化させてしまった。
「ははは!やはり君が僕の
だがウェルは狼狽えるどころか高笑いを再び上げる。
アッシュボルトも警戒する人物ガンヴォルト。やはり、彼こそが自身の英雄たる為に必要なピースであり、箔をつける最高の
自身の目的に何の障害もなければ意味がないのだから。
『此方ナスターシャです。そちらの様子が全く以て見えなくなったのですが、どうなりました?』
「ああ、ちょうどいいとこさ。現場にはガンヴォルト、そして風鳴翼に沖縄から帰還した装者が揃い踏みだよ」
『っ!?アッシュボルトは何をしているのですか!?目的である装者達もその場に全員揃ったのでしょう!?早く次の指示を寄越すように!?』
『心配ないさ。少し、諸事情で奴と話していただけだ。予定は何も狂っていない』
回線に割り込んできたのは現在ウェルの視線の先で戦闘するアッシュボルト。話とは分からないが、ガンヴォルトに対して何か話したのだろうか。戦闘しながらもこうやって通信する余裕。彼こそがウェルの求めていた人物だ。だからこそガンヴォルトの事など自分は分からなくてもどうでもいい。ウェルにとってアッシュボルトと共に英雄になる事が目的なのだから。
『今は奴の事が少しだけ分かった。フォニックゲインを高める為に一度
「もちろん出来ているよ!試運転もさっきしたけどさっきの奴よりも良い物がソロモンの杖を通して僕に教えてくれたよ!ガンヴォルトにも対処出来るか分からないような奴がね!」
ならばいいと言い、マリア達へと回線を繋げた。
『準備は整った。ここで一旦引く。
『何急に仕切っているの!こっちはこっちで手一杯なのよ!』
マリアが戦闘しながらも応えるが何処か辛そうにしている。多分LiNKERの効力が切れかかっているのだろう。それにプラスしてマリアは切歌や調と違い、最も厄介となる装者、天羽奏と風鳴翼を相手している。
効力が切れるのも時間の問題であろう。
『全く、この程度で根を上げるとはな』
アッシュボルトは溜息を吐いてそう言う。
『Dr.ウェル。ここで離脱する。ノイズを出せ。奴は私がこの場から引き離す』
「待っていました!」
そう言うとウェルはソロモンの杖を操り、新たなノイズをライブ会場へと出現させた。
◇◇◇◇◇◇
装者達はマリア達との戦闘を行い、ガンヴォルトはアッシュボルトと激しい銃撃を繰り広げる中、突如出現する液体のような形が不安定なノイズ。
「また!?」
「翼!そいつを一旦任せるぞ!私がこいつを倒す!」
マリアと戦っていた奏が翼にマリアを少しだけ任せて現れたノイズに向けて槍を振るう。
簡単に真っ二つとなったノイズを見て直ぐに翼の元へと向かおうとする。
だが、
「危ねえぞ!」
奏に向けてクリスが叫ぶと同時にその場から飛んで何かを避ける奏。
奏のいた場所を襲う液体。そこには先程真っ二つにしたはずのノイズが未だ存在し、一体から二体に増えていた。
「なんなんだ!こいつは!?」
奏は襲い掛かったノイズを再び空中から槍を構えて刺し穿つ。
だが、その飛び散ったノイズの液体が一体一体のノイズとなり、増殖する。
「増えるノイズ!?」
「こんなのもいるなんて!?」
翼も響も新種のノイズに驚きを隠せない。
だが、そのノイズに一瞬気を取られた瞬間にマリア、切歌、調が集まり始める。
「全く、こんな物を用意しているのなら最初から出せってのデス」
「切ちゃんの言う通りだね。予定通り進めるなら事前に説明して欲しかった」
「その通りね。全く、こんな所で無駄な消耗もしたくなかったわ」
「逃げる気か!マリア!」
「そうお達しなのよ。残念ながら貴方達との決着はまた今度にさせてもらうわ」
翼はマリアへと叫ぶが、マリアは引き時を理解しているのか何も言わずに立ち去ろうとする。
「させる訳ねぇだろ!」
クリスがマリア達へと向けてミサイル弾を放ちながら叫ぶ。
「いいや、させて貰おうか」
ガンヴォルトと戦闘をしながら、アッシュボルトがクリスの撃ち出したミサイル弾をライフルで撃ち抜く。
「くそっ!」
マリア達へと向けたミサイル弾はマリア達に届くことなく、爆発して煙幕がライブ会場を漂う。
そして晴れた時には既にマリア達の姿は消えており、何処に行ったかも分からない。
「くそっ!それなら貴方だけでも捕らえる!」
ガンヴォルトがアッシュボルトに向けて雷撃を撃ち出しながらそう叫ぶと同時にアッシュボルトはガンヴォルトのように雷撃鱗を展開して雷撃を弾きながらガンヴォルトへと向けて突進する。
ガンヴォルトも雷撃鱗を展開してそれを受ける。
ぶつかり合う雷撃鱗と雷撃鱗。
「残念だが、貴様もここから私と共に退場願おうか」
そう言うと同時にアッシュボルトはガンヴォルトの雷撃鱗を押し込んで行き、空中へと押し出すとそのまま空へ向けて共に飛んでいく。
「ガンヴォルト!」
装者全員はガンヴォルトの名を叫ぶ。
「アッシュボルトはボクとシアンでなんとか捕まえる!皆はとにかくこれ以上被害が出ないようにノイズを!」
押されながらもガンヴォルトは装者達へと叫び、アッシュボルトと共にライブ会場から空へと飛ばされた。
「ガンヴォルト!」
「翼さん!ガンヴォルトさんならあの人を止めてくれます!だから私達はガンヴォルトさんが言う通り、この場のノイズをどうにかしましょう!」
翼がガンヴォルトを追おうとしたが、響がそれを止める。
「あいつならなんとかしてくれるだろ!私等はこの馬鹿の言う通り、被害が周りに出ないようこいつ等を片付けるぞ!」
翼へと向けてクリスも言った。
「だけど!?」
「ガンヴォルトの強さを翼も知ってるだろ?あいつがアッシュボルトの相手をしているんだから、私等も私等でやるべき事をやろう」
奏が翼へと向けてそう言うと翼は落ち着きを取り戻し、液体のようなノイズへと視線を向ける。
「皆の言う通り、アッシュボルトはガンヴォルトに任せるわ。だけど、アッシュボルトは危険な存在だとあの戦いを見て皆も感じていると思う。この場のノイズを素早く片付けて早くガンヴォルトの元に行く!」
「分かってるじゃねぇか」
そして装者達はノイズへと視線を向ける。
液体のようなノイズは身体をうねらせながら中央に纏まり、歪な形を維持しながらも巨大化している。
「しかし、どうするかね?斬っても払っても増殖するように増えるこいつ等を?」
奏が巨大化するノイズを見ながらそう呟く。
「だったらあれをしましょう!斬っても払ってもダメならそれ以上の攻撃でノイズを消し去るだけです!」
「でもあれはまだ未完成だろ?ぶっつけ本番で成功するか分からねぇのにここでやるのかよ?」
クリスが響に向けてそう言うが、翼が言う。
「未完成でもやる価値はある。ガンヴォルトの元へ一刻も早く向かうならばそれしかない」
「だな。アッシュボルトがまだどんな隠し球を持っているか分からない以上、ガンヴォルトを一人で戦わせているのもまずいし、やるしかないだろ」
響の案に奏も翼も賛成する。
「…分かったよ!あいつを助ける為だ!絶対に成功させるぞ!」
クリスはヤケクソ気味にそう叫ぶと四人は円を組むように手を繋ぐ。
「頼むぞ!響!」
「立花、貴方がこの技の鍵になる。負担が大きいかもしれないけどやれるか?」
「大丈夫です!絶対やり遂げて見せます!」
「頼んだからな!」
そして四人は歌を歌う。それと共に溢れ出すフォニックゲインと膨大なエネルギー。それは絶唱にも劣らない、いやそれ以上の四人のエネルギーがこの場を支配する。
「スピリトーゾソング!」
奏の歌う精神を込めた歌。
「スパーブソング!」
翼の歌う、素晴らしく、そして力強い歌。
「コンビネーションアーツ!」
クリスが二人に負けないように、合わせるように歌う。
「セット!ハーモニクス!」
そして響が三人を指揮するかのようにぶつかり合うそれぞれの歌を調律させていく。
そして四人の歌が完全に合わさり、作り上げる
そして完全に一つとなった歌が膨大なエネルギーを宿し、ライブ会場に出現した巨大な液体のようなノイズを飲み込んだ。
飲み込まれたノイズは再び分裂しようとしたが、飲み込んだ光がノイズの行動を制限するかのように離れた所からエネルギーの波に飲まれて消えていく。
そして完全に光が消えると共にノイズは完全にライブ会場から姿を消した。
アッシュボルトの正体をどんどん晒して行きながらも何も言うなと言うスタイルを決め込んでいきます。