あのライブ会場の一件からガンヴォルトは復帰した事は喜ばしいのだが、響はアッシュボルトの事、フィーネと呼ばれる組織に所属する少女達の事を考えていた。
(ガンヴォルトさんがアッシュボルトの事を教えてくれたけど、なんであんな酷い人にあの人達は協力しているんだろう…)
アッシュボルト。ガンヴォルトと同じ
(なんでそんな酷い人に協力しなきゃいけないんだろう…それに…)
そして調と呼ばれた少女に自分達がしでかした事、そして偽善者。
(私達が何をしたっていうんだろう…それに自分達が偽善者…私達は為すべき事をやっていたのになんでそんな事を言われなきゃいけないんだろう…それとも、私達は本当は何か間違った事をやっていて、向こうの人達がやろうとしている事の方が正しいのかな…)
だが、響には分からなかった。誰かを救うためにこの拳を握っているのにそれが本当は間違いなのか。そうなると二課が何かまだ隠しているのか。それとも、アッシュボルトと同じ、能力者であるガンヴォルトが何か重要な事を握っているのか。
「何が何だか分からないよ…」
「立花さん、何か分からない事があるならば先生である私にちゃんと質問してくれればお答えしますよ?」
「へ?」
響の独り言に反応したのは授業を進行していた担任の先生であった。
「立花さんがそんなに思い詰めて考え込むなんてよっぽどの事だと思いますが、何かあれば相談に乗りますよ?」
「い、いえ、私の考えていた事は授業に関係ない事で、気にしないで下さい!」
響は担任に向けてそう言った。
「そうですか。確かに秋にもなって新校舎に移転して環境が変わって悩み事が増える事もあるでしょう」
担任はそう言って分かってもらえたと思ったのだが、それは間違いだった。
「だからといって授業中に別の事を考えて蔑ろにするのは言語道断です!ただでさえ、授業が遅れ気味で進行を早めているのに疎かにしていると授業についていけなくなりますよ!それにもうすぐ秋桜祭が近づいている中、立花さんは!」
急に説教へとシフトされ、響はなんとか説教を回避しようと担任へと言い訳を並べようとするが、全く聞く耳を持たれない。
「でも先生!こんな私でも助けてくれる親友や先輩!それに男性の方々もいるわけで!」
響は失言と思い口を閉じる。ガンヴォルトや弦十郎などの事を言ったのだが、響の知る男性陣は殆ど国の防衛の為に日々働いている人ばかりであり、公には言ってはならない存在だという事を。だが、それはもうこの学院にいる全員はほぼ周知の事実なので殆どはスルーはされているがそれでも非公開人物だという事を。だが、それでもガンヴォルトの事を紹介してくれと言う生徒達は数知れず、先生にはその男性がガンヴォルトと勝手に変換されたらしく、私怨の混じる説教へとシフトされる。
「自分にはあんなかっこいい知り合いがいるからって自慢ですか!?私だって学生時代にあんな人がいれば出来れば甘いひと時を過ごしたかったです!そんな人と知り合いだから自分は勝ち組だと思ってるんですか!?」
「先生!話の趣旨が変わっている気がします!」
響は担任にそう叫ぶが担任は聞く耳を持たずに続けた。
「黙らっしゃい!大体、あんな人と知り合ったのならばまず先生に報告しなさい!彼が実際の所どんな人物か私が見極めますのでどうか連絡先か彼との場のセッティングをお願いします!」
「本当に何言ってるんですか!?」
頭を下げる担任に響はそう叫んだ。そしてその言葉に反応して他の生徒まで反応する。
「先生!それはずるいと思います!」
「黙りなさい!こちとら女子校の先生になって男性との出会いもめっきりなくなったせいで焦っているのよ!そんな中に現れたあんなイケメンを逃すわけにはいかないでしょう!貴方達学生はまだチャンスがあるかもしれませんがこっちは迫り来る結婚適齢期の終わりを怯えながら過ごす不安があるんです!」
「そんな事は知りません!確かにかなりのイケメンですしあわよくば付き合いたいと言うのは分かりますけど、そうやって個人的に連絡先を聞こうとするのはずるいと思います!私達だってあの人の事紹介してもらいたいのに!職権濫用です!」
「出会いを作るのならばなんでも使うのが大人なんです!立花さんが無理なら小日向さんでも構いません!」
「えっ!?」
急に話を振られて驚く未来。
「小日向さんも立花さんが無理なら教えて欲しいです!あんな好みの男性に会えるのなんてもうこの機会を逃せば無いかもしれないの!ですからお願いします!あの人の紹介をして下さい!」
「先生!抜け駆けはいけないと思います!小日向さんも立花さんも先生に教えないでいいよ!出来れば後で私に教えて!」
気が付けば既に授業の雰囲気などではなくなり、生徒も先生もガンヴォルトの事ばかりになってしまう。
「未来…どうしよう…ガンヴォルトさんの事を正直に話した方が良いのかな?」
「…いくら知られているからってガンヴォルトさんの連絡先を伝えるのはどうかと思うけど…」
「だよね…シアンちゃんがこの事を知ると更に嫌な予感しかしないよ…」
友達であり、ガンヴォルトと常に居るシアンの事を考えるとこの状況が更に悪化しそうだと考えて響は溜息を吐く。
更に最近はシアンの他に奏やクリスなどもいて、最初から好意を寄せていた翼の事を考えるとこの状況でガンヴォルトの事を紹介してしまうと大問題になりかねないと考えるだけで胃がキューと痛み始める。
「響、大丈夫?」
未来もそんな響に声をかける。
「大丈夫だよ。でも、流石にこれが毎日続くと考えると後々の事で胃に穴が開きそうだよ…」
未来もそんな響を見て自身もその事を考えて苦笑いしか浮かべられない。
「ガンヴォルトさんも大変だね…」
「うん…知らぬが仏だけど、いっその事誰かともうお付き合いしてる事に…」
「だ、ダメだよ!そんなの!」
響の言葉に未来が言う。物凄い剣幕で詰め寄る未来に驚きつつも未来の言い分に耳を傾ける。
「ガンヴォルトさんにだって理由がある訳だし、勝手に誰かと付き合っているなんて噂を立てるのは良くないよ」
どこか必死な訴えに何処か疑問を持ちながらも、ガンヴォルト自身も現在のテロリストの件、それに元の世界への手がかりとなるアッシュボルトの存在で手一杯だからどうしようもないのが現状と思い、その考えを改める。
「そうだよね…ガンヴォルトさんも今は大変な時期だし」
未来はその言葉に何処か安心したように息を漏らした。
しかし、そんな響や未来の周りでは担任とクラスメイトがガンヴォルトの事について口論しているのを見て苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
その口論は次の授業まで続き、別の教科の先生が来るまで終わる事がなかった。
◇◇◇◇◇◇
「むぅ!」
シアンが急に何かを感じたのか、頬を膨らます。
「どうしたの?シアン?」
家でゆっくりとしながら、先日のビルの倒壊のレポートを纏めていると謎のシアンの行動について聞いた。
「また良からぬ事が起きた気がするの…主にGVの事で!」
「アッシュボルトの事!?」
ボクは素早く立ち上がり、武装を取りに行こうとする。
「違うよ!GV!アッシュボルトじゃないよ!」
そう言われて一旦落ち着くとシアンに問う。
「何を感じたのシアン?」
「何か嫌な感じがしたの。アッシュボルトとかが持つドス黒いとかそんな反応じゃなくてこうなんかもやもやとするような感じで、GVに対する何か嫌な予感が!」
「…」
少しその言葉に呆れつつも確かに狙われている自覚はある。諸外国の可能性もあるし、もしかしたらアッシュボルトの所属するフィーネの可能性も。だが、シアンの感覚だけでは動くには証拠が乏しく、取り敢えず弦十郎達に報告だけしておこうと思う。
だが、シアンは何かその感じた感覚が気になるのかずっと悩んでいる。
「この感覚はリディアンの方向から感じる…となるとおっぱい魔人供の可能性が…いえ、翼の可能性も…いや、もしかしたら未来とかいう響の友達の可能性も…いや、もしかしたら私の知らない女がGVの事を狙って…」
シアンは相変わらずぶつぶつとよく分からない事を言っていたが、アッシュボルトやフィーネでないのなら今は置いておこうと思い、念のためにメールにて弦十郎達に連絡を入れておいた。
弦十郎も頭に入れて注意しておくとすぐに連絡が返ってきたため、再びレポートの作成に勤しもうと思った矢先に今度は通信端末に連絡が入った。
「どうしたの、奏?まだ学校の時間じゃなかった?」
『学校は休憩時間だよ。そんな心配すんなって。学校も復学して授業も別に苦じゃないし、年下のクラスメイト達ともうまくやれてるからさ』
「そこは心配してないよ。奏ならうまくやれてる事ぐらい、いつも話してくれてるから分かるさ」
奏は二年もの間昏睡状態にあった為に、学校を卒業していなかったので二課の計らいと奏の希望により、リディアンの二回生として編入してもらっている。
「クリスはどうだい?クリスはあまり自分の事話したがらないし、うまくやれてる?」
『クリスはなー、私とは結構話してくれるけど、他のクラスメイト達からの誘いとか無視はしないものの、尽く断っているから正直私も心配してるよ。クラスメイト達には恥ずかしがり屋って言っているけどこればっかりはな。クリスも今までの事もあるし、どう接して良いか分からないって感じ』
どうやらクリスの方は心配していたようにあまり学校には慣れていないようであった。奏の言うように今までの生い立ち故の慣れない学校生活、それに友人などの接し方。こればかりは仕方ないと思うが、流石に心配になって来る。
「クリスの事は秋桜祭もあるからそれまでには仲良くなってほしいんだけど…」
『まあそこは任せてくれよ。こっちでなんとかするからさ。学校だったら、翼も響も未来もいるからなんとか出来るし』
「頼んだよ、奏。一生に一度しかない高校の学生生活なんだからクリスにも戦闘じゃない時くらい楽しくして欲しいからね」
『おっ、さすが社会人。言葉の重みが違いますね』
通信機越しでも奏が茶化しながら笑うのが思い浮かぶ。
「茶化さないでくれ。ボクだって心配してるんだから。それに楽しい学園祭なんだし、みんなと楽しんでもらわないと損でしょ?」
『だな。クリスにも楽しんでもらえるよう、こっちでなんとかしてみるさ。あっ、それと連絡した目的伝えるの忘れてた』
奏が思い出したように告げる。
『その秋桜祭で色々手一杯になっててさ、帰りが遅くなりそうだから、何か摘めるものか何か持ってきてくれると助かるなって』
「分かったよ。簡単なものを作っておくよ。そうなるとクラスメイトとかにも分ける分とかも必要?」
『うーん、流石に量がありすぎると思うし』
「いや、それくらいならなんとかするよ。それで話題作りぐらいになるならね」
『助かるんだけど…ガンヴォルトが来るとあんたの話題で持ち切りになると思うんだけど…』
「いや、確かに部外者が入るとその話題に持ちきりになるかもしれないけど、少し変装して目立たなければ良いでしょ?」
『…ガンヴォルト、お前自分の事分かってないだろ?』
前にもこんなやりとりをした覚えがあるのだが、なぜ奏までそのような事を言うのだろうか?
「奏!またGVを誑かしてるの!?」
ようやく考え事を放棄したのか電話中の回線にまで割り込んで来た。
『シアンもいたのか?それより聞いてくれよ、ガンヴォルトの奴、未だに自分のこと分かっていなくてさぁ』
シアンなら反対してくれるだろうと思い、黙って二人の会話を聞く。何やら二人がボクの事について鈍すぎるやらなんやら言われたい放題なのは気がかりであった。
「はぁ…いつもの事だけど、GVは本当に分かってないわね」
『だろ?全くこんなんだから困ったもんだよな?』
なぜ喧嘩腰であったシアンまで奏に同調して、溜息を吐いているかは分からない。
「なんでこんな時だけ二人は息が合うのかボクの方が疑問なんだけど…」
その言葉に二人は更に溜息を吐く。
『この鈍感は…』
「全くね。それよりも奏、学校でなんか嫌な予感がしてたんだけど、GVの事でなんかあった?」
『あー確か響と未来のクラスでなんやらガンヴォルトの話が出たみたいだと。紹介して欲しい生徒が山ほど出て大変だったらしい。他の学年でもすぐに広がってたよ』
「そう言う事ね…あの嫌な感じは響と未来のクラスメイト達の…」
シアンは何か納得しているようだが、何処か怒ったように頬を膨らませていた。
「シアン、何に納得しているかは知らないけど、もう大丈夫でしょ。じゃあ、奏。放課後あたりに持っていくから、何か他に必要なものがあったら連絡を入れて」
そろそろ休憩時間も終わるんじゃないかと思い、奏へとそう告げた。
『悪いな。じゃあ適当に頼んだぜ』
そう言って奏からの通話を終える。
「さてと、確か一クラス結構な人数がいたはずだから、買い出しに行かないとな…」
「GV…まさか本気であの場所に行くんじゃないでしょうね?」
少し怒り気味でシアンがそう言う。
「そうだけど、奏にも頼まれたし…」
シアンはそれを聞いて更にGVが危ない、特に女子校であるあそこに行ったら、と呟いていたが、何故そこまで不安になるのかがよく分からない。
「GV!とにかく奏に渡したらさっさと帰る!これは決定事項よ!」
シアンがそう言ってボクに何度も言い聞かせる。
「…何でそんなに怒ったように…」
「い・い・か・ら!これは決定事項なの!」
シアンは焦りながらもそう言ってボクは同意すると数十人分の食料の買い出しにシアンと出かけるのであった。