「信じられないデス!あんた等!私達が少しアジトを離れた隙に、自分達であいつ等をおびき寄せておいて挙げ句の果てにこんな事起こして!計画が狂ってしまったらどう責任を取るつもりだったデスか!」
切歌は機内の一室でアッシュボルトとウェルに向けてそう叫ぶ。
計画は順調に進んでいる。それなのにアッシュボルトとウェルは計画に支障が出る程の事をしたと憤りを隠せない。
「そうだよ。貴方達のせいでこっちにだって被害が出たかもしれないのに」
切歌の隣にいる調も今回ばかりは切歌に賛同してアッシュボルトとヴェルを責め立てる。
「いいじゃないですか。元よりこっちにも都合というものがあったんですよ。あの場で
「だから!それがなんだって言うんデス!あんた等が好き勝手したせいでこっちだって待機していながらもいつ発見されるかヒヤヒヤさせられていたんデスよ!」
切歌は言い訳がましく言うウェルに怒りをぶつける様に叫ぶ。
この男共は自分達が特別だからって。いやアッシュボルトは確かに特別だろう。
「私達がどんな思いでこんな事をしようとしているのか分かっているデスか!あんた等の様に好き勝手やられてこの計画が破綻すればどうなるか分かっているのデスか!?」
切歌は叫び続ける。マリアが悩み続けて悪になろうとも世界を救おうとしているというのに。
だが、ウェルはそれでも言い訳を続ける。それに頭にきた切歌はウェルに掴み掛かろうとする。
だが、それを阻む様にアッシュボルトが銃を取り出すと切歌の足元に向けて発砲する。
突然の事に切歌は一瞬で思考が停止して、その場から動けなくなり、そのまま力が抜ける様に尻餅をついた。
「切ちゃん!」
調も動けなくなった切歌へと近付き、傷がないかを確かめる。そしてアッシュボルトへと睨みつける。
「黙れ、小娘。今は虫の居所が悪いんだ」
壊れたバイザーから除く、その目に二人は恐怖に支配される。
そしてその銃声を聞きつけたマリアとナスターシャが室内に雪崩れ込む様に入り込み、切歌と調、アッシュボルトの間に割り込んだ。
「何をしたのですか!アッシュボルト!」
「貴方達!勝手な事をしてこの子達に八つ当たり!?どこまで貴方達は腐っているの!」
「黙れ」
この場にいる全員がアッシュボルトから放たれる威圧に耐えきれず、ただ足を震わせる。
「虫の居所が悪いんだ。あの男にここまでされてな。ああ、本当に忌々しい!」
アッシュボルトはそう淡々と、だが今までに見た事のないほどの怒りを見せている。
「貴様如きにここまでされる事も腹ただしい…紛い物如きが…紛い物の分際で邪魔をするか!」
アッシュボルトは怒りに任せて叫ぶ。その怒気、威圧に耐え、全員がこの男の怒りが収まるのを待つ。
「…クソッ、怒りに身を委ね過ぎた…過ぎた事は仕方ない。プランの
そして威圧が収まり、辺りに静寂が訪れた。
「出て行け、私はこの部屋で次のプランを練る」
その言葉にマリアはすぐに切歌と調を起こしてすぐ様部屋の外へと向かった。これ以上、アッシュボルトの近くに二人を居させる事を拒んだからだ。
「分かりました。貴方が何を思い、この様な事を行ったかは、全て計画の内という事なのですね?」
「ああ、全てはDr.ナスターシャ達の計画にも必要な物を手に入れる為だ。だが、これも失敗した以上、次のプランを変える必要がある。Dr.ナスターシャもそれまでにあの小娘共に教育を施す事を進める。これ以上此方の神経を逆撫させる事ばかり叫べば殺してしまうかもしれんからな」
その片側から覗く目にナスターシャは今まで感じた事のない恐怖を抱く。
「…分かりました。ですが、本当に
「はっ。何を今更?救うのだろう?世界を?人類を?その為には必要なのだよ、
アッシュボルトがそう語った。
「ですが、それは本当に可能なのですか?」
「可能だ。あの力はその奇跡すらも起こす。それに分かるだろう?今までの戦闘をモニターで見ていたのなら。
ナスターシャはアッシュボルトの言葉通り、その事は分かっている。初めて現れた時の事を。ガンヴォルトという男の近くで産み出されていたフォニックゲインを。そしてその力は全てあの男に注がれているという事を。
「…」
「なに。何度
それを聞いてナスターシャはアッシュボルトが言う通り、退出する。
そして外では泣きながらマリアに抱きついて悔しそうにしている切歌と調が目に入る。
本当に良かったのだろうか。だが何もない自分達には世界を救うための計画にはあの男が必要だ。だからといって家族をここまで悲しませてまで為すべきなのだろうか?
ナスターシャは自身の感情が揺らぐのを感じる。
「…マム」
マリアもナスターシャへと声を掛けるが、その目には二人を悲しむまでさせて信念を貫き通さないとならないのかと揺らいでいると感じる。
だが、自分達以外気付いていない状況。掲げた信念を今曲げるとなれば、何もする事は出来ない。だからこそ、やらなければならない。決めたのだから。例え誰からも認められない、悪の道であろうとその先の正義のためにこのまま突き進まなければならない事を。
「切歌、調。辛いかもしれません。アッシュボルトが怖いかもしれません。ですが、私達はやらなければならないのです。世界を救うために…あの男達と共に」
塞は既に投げてしまった。もう後戻りは出来ないのだから。
◇◇◇◇◇◇
「アッシュボルトに加えてウェル博士、それにソロモンの杖の他の完全聖遺物まで…厄介な物だな」
装者達を休ませている中ボクは新たな司令室にて弦十郎と慎次、朔夜とあおいでミーティングを行なっていた。
「ええ、それに加えて敵の方にも三名の装者。装者の数がこちらが多いからと言っても敵の全容は掴めていませんし、他にも何か隠しているのかもしれません」
「それに加えて、装者達を完全に無効にさせるあのガスが厄介ですね。ガンヴォルトには聞かないのが救いですけど」
あおいと朔夜がそう言ってなんとか戦況は保てるかもと口を揃えて言った。
「いいや、難しいかもしれない。今回のアッシュボルトの戦闘で相手にはボクの
「今回はアッシュボルトが本物の毒ガスを持っていなかったのが幸いした。次はどうなるか分からん。ガンヴォルトの
ボクの言葉に弦十郎が続き、周囲に重い空気が立ち込める。
「だが、それでもやるしかない。テロリスト、フィーネの目的が何にしろ、ソロモンの杖、そしてネフィリムという謎の完全聖遺物を持ちここまで被害を出しているのなら止めるしかない。それにマリア・カデンツァヴナ・イヴが本当に了子君…フィーネであるとしたら…」
「フィーネは亡くなる前、それに紫電を倒す時にももう争おうとは考えていなかった…。もうこんな事をするはずがない」
「…ですがそれも嘘という事も考えられます」
弦十郎の言葉にボクは否定するが今まで騙されてきていた事から慎次も僅かながら不信感を吐露した。もしマリアがフィーネであり、再び、ボク等へと敵対するというのなら今度は敵が何をしようとしているか分からなくても、止めなければ必ず良からぬ事になりそうであるからだ。
「もしそうだとしたら、今度は何をするつもりなんでしょうか。フィーネの目的は月の破壊、つまり全人類の統一を妨げるバラルの呪詛を無くす事。もうカ・ディンギルが機能しなくなったのに…」
「可能性はあるけど、それだったら少し前にあったフィーネの屋敷を襲撃した件もある。アッシュボルトはあの時もうフィーネを切り捨てて完全聖遺物を奪おうとしていた可能性もある」
「今現在の情報だけではまだ分からないか…出来る限り、こちらで情報を集める。フィーネと名乗る組織が持っている完全聖遺物、ネフィリム。それに回収したアッシュボルトが使ったガスの解析。それにアッシュボルト、奴についてだ。こちらも何度も奴の行動に後手に回されている。だが、幾ら自身の痕跡を消し去ろうとしていても見落とされているものがあるかもしれない。洗いざらい調べるぞ」
あおいと朔夜の言葉に一旦区切りをつけるように弦十郎が言った。
そして、休憩や仮眠という事で、ミーティングを終えたボク達は動き出した。
だが、弦十郎はボクだけを呼び止めて少しだけ付き合えと言われたので弦十郎と共に少し離れた休憩室へと向かう。
弦十郎は気を利かせて自販機から缶コーヒーを渡すと椅子にもたれかかり言う。
「ガンヴォルト…何度かマリア君と対峙して…本当に…本当に彼女が了子君…フィーネなのか。お前の率直な意見を聞きたい」
了子と共にかなり長い時を過ごした弦十郎にとって本当にマリアがフィーネなのか気になっていたようであり、どことなくそうあってほしい、そんな複雑な表情をしている。
「…ボクからは現状は分からないとしか言えない。マリア・カデンツァヴナ・イヴとはそこまで会話をしているわけではないし、彼女が本当にフィーネなのかは判断しようがない」
弦十郎はそれだけ聞くとそうかと少し悲しそうな表情を浮かべる。
「でも、もし彼女が本当にフィーネであるのならばこんな事は二度としない。ボクはそう思っているよ」
最後を看取り、そして紫電を倒す時に助けてもらえたからこそ言える。あの時ボクに対して未来を託した。自分のやり方ではなく、他のやり方で一つになった世界を見せてと。だからこそ、ボクもフィーネが本当にこんな事をするはずがないと何処か信じていた。
「だが…あの時の言葉が嘘で…本当は未だに何か企てようとしているのなら…」
「ないよ、そんな事」
ボクは少し不安そうに言う弦十郎に対してきっぱりと自身の思いを告げた。
「フィーネは…いや了子はさっきも言ったようにもうこんな争いをしようと考えていなかった。さっきも言ったけど、それならなぜ紫電を倒そうとした時、手を貸してまで紫電を共に倒そうとしてくれたのか。最後に言ったんだよ、了子は。ボクが思い描く世界を見せてと。絶対に了子はこんな事をしようとしない」
あの時の言葉、それはとても嘘をついているような感じでもなく、ただ純粋にそう思い、その未来を託したのだ。だからこそ、ボクはしないと宣言する。
「ガンヴォルト…」
「弦十郎もそう思っているんでしょ?だったらそれを信じ続けないと」
ボクの言葉にどことなく落ち着いていき、先程の不安な表情はどこに行ったかと思えるように落ち着きを取り戻していく。
「そうだな。了子君はもうこんな事をするはずがない。すまないな、ガンヴォルト。大人の俺が不安になっていては、他の者にも伝播してしまう」
「大人だからって自分を殺してまで、そうあり続けなくてもいいんじゃない?悩むのだって子供だけの特権ってわけじゃないんだから」
「確かにな。ありがとうガンヴォルト。楽になったよ」
「いつも相談に乗ってもらっていたし、これくらいどうってことないよ。同じ大人じゃないか」
「少し言うようになったな、ガンヴォルト」
そう言って一気にコーヒーを飲み干して、ボクの背中を叩く。
「さて、悩みも打ち明けてスッキリしたところだし、もうひと頑張りするか」
「休んでも良いと思うんだけど。司令として頑張ってるんだから誰も文句は言わないだろうし」
「なにこのぐらいなんて事はないさ。それに、その言葉そのままそっくりお返しするぞ、ガンヴォルト。どうせお前の事だから、このままずっと調べるつもりだろう?お前の方が休んでいろ。デスクワークよりも危険で過酷な現場で神経をすり減らしながら戦うお前の方が疲れているんだからな。それにまだ腕の方は完治していないんだろ?」
弦十郎はアッシュボルトと戦った際に負った腕を見る。シャツへと着替えて、見えにくくなっているかもしれないが、僅かに覗く包帯を見てそう言った。
「大丈夫だよ。ヒーリングボルト」
ボクはそう言葉を発すると同時に腕に僅かな雷撃が迸ると完全に傷は完治して包帯をとり、無事な事を見せる。
「全く、出鱈目だな。お前って奴は…だが無事完治したからといってお前を働かせるわけないだろうが」
ため息を吐いてやれやれという風に弦十郎は言うがボクはそれでも引き下がらなかったが、後に休憩室に入ってきたあおいと朔夜、慎次により止められて半ば強制的に有給まで使わされて休まされる事となった。