『弦十郎、どうやら奴さん達に逃げられた見てぇだな』
「申し訳ありません、斯波田事務次官」
弦十郎は斯波田事務次官へと作戦の失敗を報告していた。
『未知の武装、装者達のシンフォギアを無効化するガス。あんな物が敵の手にあったのならば逃げられてしまっては仕方あるめぇ。全員無事で生きているだけでも儲けもんよ』
斯波田事務次官は蕎麦を啜りながらそう言った。
『今回の件でさらに厄介な事が判明しているじゃねぇか。新たな完全聖遺物、それにウェル博士の裏切り行為。全く、奴さん達の戦力も分からないのに他のもんがどんどんと出てきやがる』
「おっしゃる通りです」
弦十郎は申し訳ないと斯波田事務次官に頭を下げる。
『別に謝れってわけじゃねぇ。不測の事態であるこの件も今回で止められなかったからって誰もお前達を責めはせんよ。それよりも、アッシュボルトとその所属するテロ組織、フィーネを今後どう対応するかだ』
「分かっています。今こちらで動いて動向を探っています。それに新たな完全聖遺物、ガンヴォルトが入手したネフィリムという名から色々と調べてもらっております。それに敵の兵器についても調べも尽きました」
『それで、あのガスの正体は?』
「LiNKERとは全く逆の作用をし、装者の適合率を下げる働きをする事が判明しました。それに、このガスの成分からは装者、天羽奏の適合実験のデータと似ていると判明しました」
弦十郎の言葉に斯波田事務次官は蕎麦を啜り、唸る。
『櫻井了子がかつてアッシュボルトと協力していた際に送られて、後に改良された物がそのガスってわけか…。全く、厄介な事をしてくれたぜ』
「…」
弦十郎はその言葉に何も言い返せない。了子がかつてアッシュボルトに渡していたデータが、脅威となり、その事に気付けていなかった事を後悔しているからだ。
『別にあいつを責めるつもりはねぇさ。だが、もう敵さんに渡っている物をどうこう出来るはずもねぇ。弦十郎、とにかくそいつの無力化の方法、もしくは弱体化させる方法を模索するしかあるめぇよ。幸い、ガンヴォルトには効かないのが救いってところか』
「ええ、ガンヴォルトの力、
『ああ、それだけが一番の問題だ。ガンヴォルト同様の力を持つアッシュボルト。しかもその力も未だ限界すら分からず、シアンの嬢ちゃんによって強化されたガンヴォルトと互角、いや優位に立ち回る奴がいる以上、簡単にいくわけがない』
「その通りです。しかし、ガンヴォルト自身もその事を分かってはいる様で、対策を練ってもらう予定です」
『嬢ちゃん達にとっては危険が伴うからな。
蕎麦を啜りながらカメラの奥を見ようと少し視線をずらしながら斯波田事務次官は言う。
「ガンヴォルトは対アッシュボルトの重要な戦力ですので大事をとって休ませています。それに、今回の戦闘であいつの力で治りはしましたが怪我を負ってしまったので療養を兼ねています。それにそれ同様にシアン君の力も必要であり、今回でかなり消耗している事もあり、ガンヴォルトの
『そうか。あいつの事だから休まずに何かやっていると思ったが、休んでもらっているなら問題ねぇ。ったく、あいつときたら疲れてても何か調べたりしようとしているからもし何かしてるっていうんなら俺が説教して緊急時以外しばらく休みを取らせているところだ』
「あいつも事件解決に尽力を尽くしてくれるのはありがたいですが、言われなくてもしっかりと休みをとってもらいたいというのが本音ですがね」
弦十郎も斯波田事務次官も互いに苦労しているとばかりに苦笑いを浮かべる。
『まあ、ガンヴォルトが休んでいるのならそれでいい。それとこっちも色々調べてある事件とウェル博士について分かった事を伝えておく。7年前、ウェル博士はとある組織に所属していた事が分かった。F.I.S.という組織にかつて所属していて、聖遺物専門の研究者をしていたらしい』
「F.I.S.…米国の聖遺物を研究する機関ですか」
『ああ。そして7年前にF.I.S.内を何者かが襲撃した際の研究員が皆殺しにされたという事件の唯一の生き残り。だが、その事件の詳細を見る限り、何故ウェル博士だけが生き残ったというところに疑問が浮かぶ。研究員達がみんな殺されているはずなのに何故ウェル博士だけが生き残ったのか。その時の記録を見る限り、ウェル博士も研究所にいたのにも関わらず、別の場所で軟禁された状態で発見されたという事だ。研究員を皆殺しにしたのにも関わらず、何故ウェル博士のみ軟禁された状態で発見されたのか?』
「何かしらウェル博士が情報を持っていた、という事ですか?」
斯波田事務次官は蕎麦を啜り、首を振るう。
『当時の事件詳細とウェル博士の聖遺物の知識に関しては他の研究員達とそう変わらなかった。なのに何故生き残ったのか?それでどうしても俺は負に落ちねぇから調べていたら、事件の資料で全ての電子機器を外部からハッキングされて機能しなくなったという事と、ハッキングされた電子機器の写真を見て、確信を得たぜ』
そう言って蕎麦を啜る箸を止めて、斯波田事務次官はパソコンを動かすとモニターに写真とその時の資料を映し出した。
そこに映されたのは英文で書かれた報告書。そして破壊されているが、僅かに電子機器に残る、まるで触れた部分だけが焦げたような跡を残している。
『ガンヴォルト自身にもハッキング能力がある。そしてそれも直で見せてもらった。だからこそ、俺はこの破壊された状態でもなんとなくだが、ある可能性が浮かんだ。ガンヴォルト自身の力でハッキングは可能だが、痕跡はなくハッキング出来る。だが、アッシュボルトはガンヴォルトより強力な雷撃故に電子機器に過剰な雷撃を流してしまい、このような事になった』
「まさか、その事件の首謀者もアッシュボルトという事ですか!?そして、7年も前からアッシュボルトとも繋がっていた!?」
『それ以外考えられねぇ。何故あの時、ウェル博士博士が殺されなかったか。それに電子機器を見る限り、その当時に何かしら意見が一致してウェル博士とアッシュボルトが協力関係になったとも考えられなくもねぇがな。どちらにせよ、7年前からアッシュボルトとウェル博士は協力関係にあり、軟禁から解放された後もなお、F.I.S.の研究機関で聖遺物の研究をしていた。だが、何かしら起こったせいでウェル博士はF.I.S.を脱退している。多分、アッシュボルトに流す情報がなくなったからじゃねえかと俺は考えている。後、それ以外にも調べていたら米国、欧州なんかで、同様に同じように研究者達が皆殺しにされていた事件がいくつか報告されている。アッシュボルトの犯行だろうな』
「貴重な情報ありがとうございます。しかし、アッシュボルトは何故聖遺物研究機関を狙っていたのか…」
『時系列を見る限り、最後の事件がウェル博士が生き残った者だ。もしかしたら、アッシュボルトは何かしらの情報を持った研究者を欲していたか、聖遺物を欲していたかだな。まあ、こればっかりは何を欲していたかなんて事は俺も調べてみたが分からなかった』
「それだけして頂いているだけでも十分です。ありがとうございます」
『気にするな、俺だって国の危機なのに何もせず蕎麦ばっかりすすってるわけじゃねぇ。とにかく、アッシュボルト、そしてフィーネと名乗る組織、多分、ウェル博士が所属していたF.I.S.にいた時の協力者の可能性もある。それに他の所属している者だけでも洗い出せば少しでもガンヴォルトとシアンの嬢ちゃんに装者の嬢ちゃん達にも希望を見出せる。戦場に立つ事が出来ない俺達は他の面でサポートしてなんとか事件を解決させるぞ。こっちも他にも何かないか調べていくが、そっちも頼んだぜ』
「分かりました」
そう言ってモニターから斯波田事務次官が消える。
「…アッシュボルト…それにF.I.S.か…」
先程斯波田事務次官より聞いた新たな情報で更に目的がよく分からなくなってしまう。
アッシュボルトは何故ウェル博士を殺さなかったのか。それに聖遺物を何にしようとしているのか。
「お疲れ様です、司令」
「ああ、慎次。新たな情報が色々と出てきた。とりあえず、纏めて報告書を作るから後で全員にも確認出来るようにしておく」
「斯波田事務次官も色々と調べて頂いてるみたいですね。こちらでも手に入れる事の難しい情報を持ってきて下さるので助かります」
「ああ、あの人には俺も頭が上がらない」
弦十郎は慎次と話しながら、先程の件をパソコンで纏める作業に努めているとガンヴォルトから連絡が入る。
『弦十郎、ちょっと話があるんだけど』
「なんだ?仕事の件以外なら出来る限り対応するが?」
『ボクが連絡したからって仕事に何で直ぐに結びつくのさ?』
「自分の行動を見直す事だな」
弦十郎は少し戯けてそう言うとガンヴォルトは少し納得いかない、と少し困ったふうに声を上げるが、冗談だと言って話を戻す。
「それで、何かあったのか?」
『ダートリーダーの件なんだけど、メンテナンスしていたらあの時の戦闘の影響で消耗したパーツが結構あって治したら家にも無くなったからそれの補充をお願いしたくて連絡したんだ』
「休みって言葉を本当にお前は理解しているのか?」
弦十郎は呆れながらガンヴォルトへと言うが、休みだからってメンテナンスを疎かにするわけにはいかないとガンヴォルトが真面目に返答するので呆れながらもパーツの保充を技術班に頼んでおく事を伝えておくと言う。
「本当にお前って奴は…」
『緊急時使えないなんて事笑えないでしょ?』
「分かっている。だが、メンテナンスしたらしっかりと休めよ。それと休日らしい事でもしたらどうなんだ?」
『…何か含みのある言い方だけど…まあ、聞かなかった事にするよ。一応、未来に誘われて秋桜祭に行くつもりだよ。奏は大丈夫そうだけど、クリスの様子を見に行こうと思ってね。奏から話を聞く限り、クリスがクラスに馴染めているか心配だし』
どうやら予定はあったようで少し安心する。しかし、発言を聞く限り、前者はまぁガンヴォルトにデートにでも誘われたのだと思うが、翼や奏、クリスの気持ちを気付かない鈍感だから仕方ないと考えるがもう少しその関係の勘も働かせて欲しいと思う。そして後者の話を聞いて何処となく父親っぽいと思い、年相応じゃないと考える。
「ガンヴォルト…お前って本当に二十代か?何処となく兄を通り越して父親を思わせるような感じだが…」
『…ボクってそんな風に見えるのか…』
ガンヴォルトは何処かショックを受けた様に声のトーンが落ちる。どうやらそう思われるのが相当なショックであった様だ。
『…ボクも言った時、あの人もこのぐらいショックだったんだろうな…』
通信越しでも遠い目をして哀愁を漂わせている感じがするために、弦十郎もすぐさまフォローを入れる。
「俺が父親っぽいって思っただけで、実際だったらあの子達の歳も考えて兄とかそんな感じだと思うぞ!決してお前が老けて見えるなんて誰も思わん!」
『そ、そうだよね?ボクは父って感じよりも兄に近いよね?』
ガンヴォルトも何処か安心した様に繰り返し、弦十郎はガンヴォルトが安心する様に肯定する。そして、パーツの補充を頼んでガンヴォルトは通信を切った。
「ガンヴォルト君があんなにショックを受けるなんて…意外な一面もありましたね」
盗み聞きしていたのか、それとも諜報にも長けている慎次だからこそ聞こえていたのか、弦十郎に向けてそう言う。
「ああ。まさかあそこまでショックを受けるとは俺も思わなかったよ」
弦十郎と慎次は新たなガンヴォルトの意外な一面を知り、苦笑いを浮かべ、取り掛かっている報告書を急いで作成すべく、作業を再開するのであった。