ボクは秋桜祭へとシアンと共にリディアンに向かっていたのだが、未来から連絡が入り、少し校門から離れた場所で集合となった。
「ガンヴォルトさん!こっちです!」
場所に到着して未来がこちらへと声をかけてくれたのでそちらへと向かう。
「待たせちゃった?」
「いえ、私も今来たばかりですし、大丈夫です!」
「良かった。でも急に待ち合わせ場所を学校外に指定なんてどうしたの?校門とかの前とかでも良かったのに?」
「えっと…」
「本当に鈍感だから未来もGVのこういうところは無視した方が良いわよ」
シアンがボクの通信端末を通して未来へと言う。
「シアン、それってどういう」
「そうだよね…シアンちゃんの言う通り、ガンヴォルトさんのこういうところは自分で気付いてもらわないといけないし…」
「未来まで言うのかい…なんのことか分からないけど、正体についてはバレない様に髪も三つ編みじゃなくて纏めているだけだし、眼鏡もかけて軽く変装してるから凝視されたりしない限り、そんなバレないと思うんだけど…」
「そういうことじゃないんですよ、ガンヴォルトさん…」
「GVは変装とかそういう以前にもっと別の方向の大変な事を気にして欲しいんだけど…」
いつの間にかシアンは未来の端末へと移動しており、ボクに聞かれない様になのか二人で話し合っている。
「GVって本当に何で自分の魅力が分かってないのかしら。勿論、GVはそれさえなければ完璧な人だと思うけど…」
「でもシアンちゃん。ガンヴォルトさんがそれに気付いたらもっと大変だと思うよ?」
「確かに…。ただでさえ最近なんかリディアンでの一件もあったっていうのに…」
「それにガンヴォルトさんは気を利かせて軽く変装とかしてもらっているけど…正直、私から見たら変装してないというか、なんか普段と違ってこう…ドキドキするというか…」
「分かる…それは良く分かるわ。いつもは三つ編みであるのに対してこうなんともいえない、GVの新たな魅力が開花させて…あーもう、本当に困る!」
最後の困るは聞こえたが、それ以外何を話しているのかはさっぱり分からない。まあ、それでもシアンがこうやって近い年代の女の子達と平和な会話をしているだけでボクはとても嬉しく感じる。あの時はどうしてもシアンの様子などは隠れ家で雰囲気でしか分からなかったけど、こうやってみんなと話している姿が見れてとても心地が良くなる。
「何に困るかは分からないけど、秋桜祭も始まっているんだから、早く行かなくても良いの?シアンも秋桜祭楽しみにしていたんだから」
「そうですね…ここで今の話を続けても絶対に気付かないでしょうし…」
「そうね…もうこの話は一旦置いておきましょう…」
シアンも実体化して未来同様にボクへとジトーっとした視線を向けて言う。一体なんの話をしていたんだという事と、何故ボクにそんな目線を向けられるか理解出来ない。
「じゃあ行きましょうか、ガンヴォルトさん、シアンちゃん。秋桜祭を案内しますね」
未来はそう言ってボクへとパンフレットを渡して手を引いてボクを連れて行く。
シアンはその様子を見て未来に何やら言っているが、通信端末を通していないせいで未来には届いていない様だ。
何処となく、未来も楽しそうにボクをリディアンへと招き入れると、校門から学院へと続く通路は屋台で埋め尽くされており、リディアンの生徒達がお客さんを呼び込むために声をあげたり、一生懸命に働いていた。
「やっぱり流石生徒数の多い学校のお祭りだね。去年もすごかったけど今年は立地が変わったし、新校舎になっているのか気合が入っているね」
「すごいよ、GV!こんなの私初めてだよ!」
シアンも先程の態度は何処へ行ったのやら、秋桜祭の雰囲気に興奮して忙しなく視線を屋台へと向けていた。
「ガンヴォルトさんは去年も来てたんですか?」
「まあ、どんなものか実際に見るくらいだったし、翼の方が去年のこの時期は色々とアーティスト活動を専念していた事もあって、外からどんな様子か見物してたぐらいだから、こうして実際に参加するのは初めてだけど」
「だったら折角のお祭りですし楽しみましょう」
「GV!未来!あっちにチョコバナナとかたこ焼き置いてあるよ!それに手作りの縫いぐるみとかも!他にもクレープとか綿アメ、色々あるよ!あっ、あの看板可愛い!どうやって作ったんだろう!」
ボクと未来の会話を遮り、シアンが通信端末越し話しかける。シアンも早く中で見回りたいらしく、早口でボク達を急かしてくる。
「まだ時間はあるんだから、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
「でも!こんなの初めてだし、実際に開催している時の様子なんて今日しか来ないんだったら今日じゃないと見れないじゃない!」
「大丈夫だよ、シアンちゃん。秋桜祭はまだ始まったばかりだから、慌てなくても今からでもちゃんと回れるよ」
まるでシアンを姉の様に嗜める未来。そして、ボク達は人混みをゆっくりと進んでいく。
だが、あまりの人の多さに未来が少し遅れそうになっている為にボクは未来の手を握る。
「ガ、ガンヴォルトさん!?」
「いくら連絡がつくといっても離れ離れになると楽しむ時間が減っちゃうからね」
「そ、そうですね!でも…こういうのはちょっと嬉しい様な恥ずかしい様な…」
未来は顔を赤くしてもじもじとしながら、辺りを少し気にしながら見ている。だが、それよりもボクはシアンが今向けている視線に関して違和感を覚え、シアンの方を見るとシアンが頬を膨らましながら未来とボクの手を羨ましそうに、そしてその行動を見て怒りを見せる。
「ちょっとGV!何ちゃっかりと未来と手を繋いでいるのよ!それに未来も何嬉しそうにしてるのよ!」
怒りのあまり、通信端末を介さずにシアンが怒り始める。ボクは周囲の人に怪しまれない様に未来の手を引きながら、人気のない場所へと急いで向かい、何故シアンが怒ってしまったのか分からないが弁明をする。
「シアン、あんなに人がいるんだから、案内してもらう未来と逸れたら大変だろ?なんでそこまで怒る必要があるの?」
「えっと、シアンちゃん怒っているんですか?」
「ええ!怒りますとも!GVも私がいながら!ホイホイとそうやって女の子に対して優しくして!」
「いや、優しくするのが何処がいけないのさ?」
「それはそれでGVの良いところだけどその使い所と人が違うの!」
「シアンは何が言いたいのかボクは時々分からなくなるよ…」
シアンの怒る理由が時と場合、それと人を選べとは…。優しくするのに時と場合、人を選ぶなどとよく分からない。未来に対しても何か言っている様だが、当の本人は通信端末を介さないとシアンの声を聞く事が出来ない為にオロオロとしている。
「なんか見知った奴が急いで行ったかと思えば、こんな所で何してるんだ?」
「って!お前!あとで一緒に回ろうって言った時、断ったのはこういう事だったのかよ!というか何で手を繋いでるんだよ!?」
そんな時、奏とクリスが秋桜祭で出し物である何処かの民族の衣装に身を包んでおり、手には自分達のクラスの宣伝用の看板を持っていた。
「クリス!奏!ちょうど良いところに来てくれたわ!未来が私がいる前でGVと手なんて繋いでるのよ!」
「ああ!それについては私も言いたい事が出来た!」
シアンとクリスは怒っている様子だが、ボクは何故普段は口喧嘩の絶えないこの二人が団結するかよく分からなかった。
「まあ、良いんじゃねぇか?手を繋ぐぐらい?そんなんで怒っていたらガンヴォルトに関してはキリがないぞ?」
「奏さん」
未来は奏の大人っぽい態度に尊敬の眼差しを浮かべ、シアンとクリスはぐぬぬと何処か納得しながらも悔しそうにしている。
「いや、ボクはこれひとつといって納得は出来ていないんだけど…」
「これ以上ガンヴォルトは何も言わなくて良いんだよ。話がこじれるだけなんだから」
奏がボクへとため息を吐きながらそう言う。納得で出来わけではないがこれ以上、話がこじれるのならボクは奏の言う事に黙って従う。
「それで良いんだよ」
奏はため息を吐きながらもこの場の衝突が収まった事を確認する。ボクとしても奏がこの場を収めてくれたおかげで助かったのだが、未だ納得しきれない部分もあるが、これ以上時間を割くわけにもいかないと思い、何も言わない。
「で、ガンヴォルト。収まったんだったら私とクリスに何か言う事ないのか?」
「…ああ。奏、クリス。とってもその姿似合っているよ。それにリディアンらしく音楽に関係している民族衣装だね。クリスも奏の着ているディアンドル。音楽の都である欧州の服装だし、歌を響かせる君達にぴったりでとても似合ってるよ」
それを聞くと奏は嬉しそうに笑い、クリスは悔しそうな表情から一転して顔を赤くしながらそっぽを向いてしまうが、どことなく嬉しそうであった。
「むむむ!GV!私だって歌以外の力をもっとコントロール出来ればあんな服装やいろいろな服装にだって出来るんだから!私もあんな服装着た時は絶対に褒めてよね!?」
「確かに綺麗だし、ガンヴォルトが言う事は分かるけど…私だって…」
シアンはボクの近くで浮遊して何やら服装のリクエストを聞いたりして褒めてとせがんで来る。未来も未来で何やら独り言を呟いていた。
「分かったよ、シアン。君も服を変化できる様になったら感想言ってあげるから。それで、奏とクリスは看板を持っているって事は出し物の案内係か集客係でしょ?こんなとこにいて良いの?」
「まあ、それは一瞬で疲れたというか何というかな」
奏は頭を掻きながら笑う。
ボクも何となくそれを察する。奏はまだ復帰していなくても人気であったツヴァイウィングの片翼であり、今でもファンの多いアーティストである。翼もいるし、一目見ようと押しかけるファンも多いだろうし、こうやって集客のために歩いていれば注目の的であろう。それにクリスも容姿の整った女の子であり、奏と歩いていると色々と目立つだろう。
「心中お察しするよ。二人とも大変だったね」
「大変なんてもんじゃねぇよ。こいつと一緒にいると先輩同様のアーティストだからって凄い勢いで詰め寄られるんだからな。写真は撮られる事はないからまだ良いけど、あんなに人が集まられると酔いそうだ…」
「大丈夫、クリス。でも衣装もクリスも可愛いからクリス目当てもいたんじゃない?」
「別に知らない奴に迫られた所で疲れるだけだからな…」
「まあ、そうだな。最初は対応できるけど、流石に人が多くなるにつれて回らなくなるし。私としては一人一人ちゃんと案内してやりたかったんだけどな」
「あー、なんか私も少し分かるかも」
シアンも元は
「あいつもそうだが、シアンもアーティストだったってのもあるからそこら辺共感出来るのは分かるが、私はあんなのが私生活まで気を使わないといけないとなると流石にやってられないぜ」
「確かに。そう考えると奏さんや翼さん、シアンちゃんは大変そうだね」
シアンはアーティストと私生活は完全に姿は違ったため、少し状況は違うが、それでも色々あったのか奏と話が盛り上がっている。だが、時間も限られているだろうし、奏とクリスにはまだやるべき事があるだろうと思い、ボクは話を切り上げさせる。
「二人とも、そろそろストップ。奏もクリスもまだ集客係の最中なんだろ?クラスの人達が探し回っているかもしれないから、休むんだったら、一言言ってこないと。シアンも話ばかりしてると回る時間がなくなっちゃうよ」
「そうだった!奏とこんな話をしてる場合じゃなかった!まだ全然秋桜祭回れてない!GV!未来!とにかく片っ端から見て回るわよ!」
そう言うとシアンは我先にとメインストリートへと飛んで行こうとする。
「分かったよ。それじゃあ、また後でな。ガンヴォルト」
「…ほんとに来るんだろうな?」
クリスは最後に不安そうにそう言って来るのでボクはクリスの頭に手を置いて言った。
「大丈夫。電話で言ったでしょ?必ず向かうから」
そう言うと不安そうな表情が一変して恥ずかしいやら嬉しいのやら顔を赤くしながら、シアン同様にメインストリートへと走っていく。
「必ず来いよ!じゃないとあんたに鉛玉ぶち込んでやるからな!」
「あ!おい待てよ!クリス!悪りぃな、ガンヴォルト、未来!じゃあまた後で!」
ボクは二人に頑張っておいでとエールを送り、姿を見送った。
「あのガンヴォルトさん、二人は何であんな事を?」
「まあ、時間が来れば分かるよ。それよりも、ボク等も行こうか。秋桜祭を楽しみに」
「はい!」
そう言うと未来はボクの手を引きながら、奏、クリス、シアンが向かったメインストリートへと戻っていくのであった。