なんとか着せ替え人形になっていたが、秋桜祭の目玉であるコンテストが始まるという事で人が減っていくのを確認してボク達は一旦教室を出て休憩を挟んでいる。
「ごめん、GV…まさかあんなにも人がごった返すなんて思いもしなかった…」
「私もすみません…気付いていたんですが、前みたいにたくさんの衣装をガンヴォルトさんに着させたくて…」
「別に怒ったりはしてないよ。まあ、写真だけは撮られるのは少しだけやめて欲しかったけど…」
ボクはため息を吐きながら先ほど買った飲み物に口をつける。まさかあんなにも何故か人が集まり、未来とシアン以外にもあんなにもリクエストをされるとは思いもしなかった。一応断りはしたのだが、結局は未来とシアンに押される形で着る事になったりと写真を撮られる事となったりで大変であった。
「でも!GVがあんな格好するのなんてこの先あるか分からないじゃない!しかも前は翼と響と未来もこうやっていたみたいだし、私だってGVに色々と着せたかったんだもん!」
「いや、楽しんでくれるのはいいんだけど限度を考えてよ…」
ボクはシアンの言葉にため息を吐く。言う通り、あれから一時間ほど経っており、予定が大分圧迫しているのであった。
「まあ、コンテストにはまだ間に合うからいいけど…」
「コンテストで何かあるんですか?」
未来はコンテストでボクが何を楽しみにしているのか気になり、聞いてくる。
「伝わっていないなら、その時のお楽しみだよ」
ボクも言うと楽しみがなくなると思い、未来にその事を内緒にしておく。
「あ!未来、シアンちゃん、ガンヴォルトさん!」
休憩している際に響の声が聞こえるのでそちらの方を向くと手には抱えて入れるのが不思議なほどの屋台の食べ物を持つ響が来た。
「響、すごい買い込んでるね…」
「だってお祭りですよ!屋台ですよ!食べ物も美味しい物ばかりあるから買わないと損しちゃうじゃないですか!」
そう言って響はたこ焼きを食べる。他にも綿アメや焼きそば、焼きとうもろこしとリディアンのメインストリートのところに置いてあった食品系の屋台の食べ物を交互に食べる。
「響…行儀悪い」
「もう、少しは恥じらいを…」
シアンも未来も響の姿を見て呆れているのかため息を吐く。
「まあ、いいじゃないか。お祭りなんだし、少しくらいは」
「そうだよ!こんなのしばらくないんだし少しくらいは!それよりも何か校内の方が騒がしかったって言ってたけど何かあったの?イベントとかだったら私も急いで参加したいと思ってたんだけど?」
どうやら先ほどの件が色々なところまで広がっていたようでその様な形で響の耳に届いていたらしい。
「多分ガンヴォルトさんに少しコスプレさせていた時だと思う。あの時皆んな騒いでたから」
「何それ!?」
響は未来にその時の事を聞いて詳しくシアンと未来に事情を聞く。未来がその時のスマホの写真を見せて事情を話している。
「えぇ!ガンヴォルトさんの着せ替えまたやったの!?酷いよ未来、シアンちゃん!私もガンヴォルトさんに着てもらいたい物あったのに!」
「ごめんね、響。つい楽しくてシアンちゃんと色々着て貰ってたら楽しくて」
「そうそう。響は一回経験してるんだからいいじゃない。私だって初めてであんな服やこんな服をGVに着せたりしたわ」
「私もその場所にいたかったよー!あの時は私服だったからガンヴォルトさんに非現実的な服装なら着てもらいたかったのあるのに!」
「ごめんね、響。それよりも響はどんな服をガンヴォルトさんに着てもらいたかったの?」
「あっ!私も気になる!」
未来とシアンは響がボクにどんな服装を着せようとしていたのか聞く。
「ガンヴォルトさんっていつも三つ編みじゃん!だったら絶対に中華服のチャンパオって奴が絶対に似合うと思ってたから着せたかったんだよ!」
「!!」
シアンと未来はボクの方を見て確かにと呟く。
「ごめんけど、響。今日は変装も兼ねて三つ編みじゃないよ」
「えっ!?本当だガンヴォルトさんが三つ編みじゃない!?どうしてですか!?なんで今日に限って!」
「だから変装って言ったでしょ?」
「確かに印象は変わりますけど…なんで変えちゃうんですかー」
響は残念がって言うが何故皆んなボクの事を着せ替え人形の如く色々な服を着せたがるのであろうか…。
「着させたいのはなんでか知らないけど、もうそろそろコンテストの方が始まるから席を取りに行こうか」
「えっ?もうそんな時間ですか?私もクラスメイトが出るのでもう少ししたら行こうと考えていたんですけど」
「開始したらすぐに面白いものを見せてくれるって言う事を教えてもらってね。全員楽しめるものになっているから。特に響にはね」
ボクは響にとってはとても楽しめるものだよと含みのある言い方をして響も気になったのか何があるか聞いてくるが、行ってからのお楽しみと言って響達にコンテストである事を黙っておく。
「結局なんなんだろう?未来は分かる?」
「…私もさっきからガンヴォルトさんにはぐらかされてるから分からないよ。シアンちゃんは?」
「わたしは知ってるけど、GVとその人達から口止めされてるから私の口からは言えないわよ」
「みんなの知ってる人だよ」
ボクは飲み物を飲み終えるとゴミ箱に紙コップを捨てると響に持っている物を早めに食べる様に伝えてコンテストの会場となっている講堂へと向かう。
辿り着いて席を探そうとする響と未来に探さなくていいよと伝えて、予め聞いていた講堂のバルコニー席へと向かう。
「なんでガンヴォルトさんこんな席に入れるんですか!?先生とかしか入れないですよここ!?」
「そうですよ!?ここって普段は入れない席なのになんでですか!?」
「ちょっと招待してくれた人達が口添えしてくれたみたいで、特等席で見てほしいという事らしいよ。ボクも普通の席でいいって言ったんだけど、特別だからって」
ボクに引き連れられた三人は用意されていた椅子に座るとコンサートがちょうどよく開始される。
そして司会の女の子が挨拶や進行などの説明をしていると何故か教員が現れて司会の子に耳打ちをする。
「えっ!?ほ、本当なんですか!?」
司会の子は進行も忘れてそう叫ぶ。その瞬間に会場はどよめき、何か起こったのかと騒がしくなる。
「す、すみません!まさかの事態にあんな声を上げてしまいました!でも、安心して下さい!私達は今!物凄い場に立ち会う事になるんですから!」
司会の子はどこか興奮が抑えきれない様にマイクに向けて大きく叫ぶ。その事から何が起こるのか分からないがとんでもない事が始まると期待する観客達。
「今日限りですが!まさか!まさかの事態に私も驚きを隠せません!」
そして司会の子は興奮気味にマイクなどを忘れ、会場に届く声で叫ぶ。
「なんと!今日この日!誰もが待ちに待ったあの人達が登場します!私も今この場で司会を出来ている事を幸運に思います!」
「一体なんであんなに興奮してるんだろう?」
シアンが何故あんな司会の子が興奮するのかよく分からない様で少し困惑している。
「それでは登場して頂きましょう!」
その言葉と共に舞台袖から二人の人物が姿を現した。
「えっ!」
「本当!?」
その人物が姿を現し、講堂は興奮が隠せない程どよめき、それはすぐに歓声へと変わる。
「今後復活の予定のこのお二方!ツヴァイウィングの天羽奏さんと風鳴翼さんです!まさか、こんな奇跡をいち早くこの場で拝めるなんて!」
そう、事前にボクとシアンは聞かされていたので驚く事はなかったが、奏と翼がマイクを持って観客に向けて叫ぶ。
「隠していて悪かったと思ってるけど、それでもどうしてもこの場を使って歌いたかったんだ!」
「奏と同じく、隠していた事はごめんなさい!でも私もこの話はみんなにサプライズとして楽しんでもらいたかったの!」
奏と翼がステージから観客達へと向けてそう言った。
「みんなには私が入院して色々と迷惑を掛けた事は本当にごめんなさい!でも、私はここからまたアーティスト、ツヴァイウィングの天羽奏としてステージに立つ!まだ復帰の目処は立っていないけどな!」
奏の言葉に観客達は歓声を上げる。それもそのはず、奏の事は退院して以降全くと言っていい程、流れておらず、誰もが待ち望んでいた復帰宣言であるからだ。ボクも流石にそこまで聞いてはおらず、少し驚く。
「まず、この場を借りて発表させてもらったのはどうしてもこの事を知ってほしい人がいるからだ!翼も勿論だが、私があんな状況になって、どれほど心配掛けてしまったかは分かってる!それでもその人はどこまでも私を信じて帰ってくるのを待ってくれて、私の事を大切にしてくれた人だから!だから!その感謝を込めてその人に歌を聴かせたくてこの場を借りたんだ!」
会場はその事に更に声が上がるが、それはこの場でまたツヴァイウィングの歌が生で聞けるという喜びである。そしてその人が誰なのかという意見も上がるが、それも多数の声援でかき消される。
「…GV」
シアンは何かを察したのかボクの方を見てくる。
「発表に関しては初耳だったけど、これはね。以前からの奏との約束だからね」
奏と交わした約束。彼女の歌をしっかりと聴かせて欲しい。それを奏はこういった場で果たそうとしてくれたのだ。
「約束は良いとしても、奏のあの言葉の意味を理解してないの!?隣にいる翼も驚いてるのに!GVはこの意味を理解してないの!?」
少し焦るシアンだが、ボクは大切って家族みたいに思われているんだろ?と言うとやっぱりGVはGVね…気付かないで安心したけど…やっぱり奏には一言言っておかないと…とぶつぶつと何か独り言を呟いている。
ボクは疑問符を頭に浮かべる。そしてシアン同様に少し不満そうな顔をしていた未来も、どこか安心した様にフゥと息を吐いていた。
何故ボクの方を見るのだろうか?と思いながらステージの方に目を向けると、奏と翼がこちらを向いており、奏はウィンクして、翼は手を控えめに振る。ボクも振り返すと、二人ともニカっと笑う。
そしてツヴァイウィングの代表曲である『逆光のフリューゲル』。
響の方は大好きなアーティストがこの場で復活する事を知ってからずっと涙を流して拍手していた。
そしてボクが、何故この二人が復活する事を知っているのかは秋桜祭の前に家にいる時に既に聞いていたからであった。
◇◇◇◇◇◇
アッシュボルトに逃げられた後、休みをとっていたボクは家で奏と翼、クリスがいる時にこの話を打ち明けられた。
「なぁ、ガンヴォルト」
「なんだい?」
「秋桜祭のコンテストは来るのか?」
「勿論見に行くつもりだよ。初めて見るし、シアンもどんな感じか楽しみにしてるからね」
「もしかして奏も出るの?でもコンテストは奏とかが出るとダメなんでしょう?アーティストが出たら絶対に公平じゃなくなるから」
シアンの言葉の通り、アーティストである奏と翼はコンテストには参加出来ないと聞いている。
「確かにシアンの言う通りだけど、あんたは平気なのかよ?まだ装者としても復帰して間もないし、おっさんの隣にいるあの男もまだ復帰のタイミング見計ってるんだろ?」
クリスがシアンの言葉に答えて、奏の事を心配していう。
「クリス、心配してありがとな。普段もそういう感じていてくれれば良いのに」
「なっ!ウルセェ!ただ思った事を言っただけだろ!」
顔を赤くしてクリスはそっぽを向いてしまう。
「まあクリスの言葉にも一理あるけど、レッスンも最近出来る様になったし、緒川さんにも話して復帰の目処を立ててもらってるところ。それで話を戻すけど、私もコンテストのゲストとして歌おうと思ってな」
「それは良いと思うけど、どうして急にそう決めたんだい?」
「…ガンヴォルトとの約束だからな」
奏は少しの沈黙の後、小さな声で呟く様に言った。それで、ボクは二年前に奏に言った言葉を思い出す。
「それでか。確かに約束したね。それだったら是非奏の歌を聴かせてもらいたいな」
そう言うと奏はボクがしっかりと覚えていた事を嬉しそうにして頷く。
「とは言っても、あたし一人じゃまだ心細いとこもあるし、翼と一緒にな。翼も卒業したら、海外に行くし、そうなるとツヴァイウィングでの活動が制限されて一緒に歌う機会がなくなるから翼と一緒に沢山の歌をまた歌いたいからな」
「奏…」
その言葉に翼は奏の方へとキラキラとした目を向けて涙ぐんでいる。
確かに、翼も卒業後は海外へと歌を届けに行ってしまう。そうなるとツヴァイウィングとしての活動があまり出来なくなるのも確かである。
「でも、コンテストのゲストとして出るのは良いと思うけど、慎次は許可してくれた?そうじゃないと色々と大変じゃないのかい?」
「その辺りはもう緒川さんに許可もらってるから大丈夫だよ!だから絶対ガンヴォルトは聞きに来てくれよな!特別な席を用意してもらったから!勿論、私と翼の歌だけじゃなく、クリスのもさ。あんたが説得させたんだから、絶対に来てくれよ!」
「分かってるよ。ボクも奏と翼の歌にクリスの歌を戦場じゃなくてちゃんとした場所で聞きたかったからね」
そう言うと三人とも嬉しそうにする。
「…GV…」
そんな中シアンだけは何処か寂しそうに、そして三人にずるいと言う風に視線を向けている。だが、すぐにハッとしてこれならと呟いていた。
「どうしたの、シアン?」
「なんでもなーい。私もコンテスト楽しみにしてるし、GVも楽しみにしていてね」
何か思い付いたとばかりの顔をしてそそくさとボクの部屋へと向かったシアンに疑問符を浮かべた。